フォントをダウンロード中
ページの左右でマウスを左クリックします。
または、 キーボードの左右の矢印キーを入力します。
ページ上で指先を左右になぞると、 前/次ページへ移動します。
メニューはページをタッチすると現れます。
× ヘルプを閉じる
 マリテの首都であるアスター。その中心地は通商が盛んなマリテ最大の市場であり、世界中から多くの人、モノ、金が集まる。それに伴って商業のみならず金融業も盛んなのがこの街の特徴だ。 アスターは海に造られた海上都市である。 まず東西の港を結ぶ大きな水路がその中心を走り、そこから街中に無数の水路が通る。 東の港は主に商業関連の船が泊まり、酒場と街の役場もこの近くだ。俺たちは商船に乗せてもらって来たため、街にはこちらの港から入った。 しかし、この港は現在海竜種の襲撃からの復興作業中である。今東の港の役割を代わりに受け持っているのは、西の港だ。こちらは普段は金融関連の船や客船用。 港が東西にあるのはこういった場合にも備えてあるのだろう。 東西の港の役割に合わせて街も東西に分けることができる。 屋台や店が建ち並ぶ市場で、人とモノが溢れかえるのが東側。主に居住区であり、都市らしい石や、レンガ造りの建物を見ることができるとが西側。こちらは人も減り、東側に比べると静かな印象を受ける。 人混みに慣れていない俺たち(というか俺)に対するベネディクトの気遣いにより、今日観光するのは西側だ。 ベネディクトありがとう。本当にお前いい奴だよ……。  「ごめん、待たせた!!」 一緒に街を回る約束をしたランがもうすでに待ち合わせ場所にいるのを見て、慌てて駆け寄る。彼はそんな俺たちに気付き 「僕が早く来すぎただけだよ。気にしないで」 と笑った。 よかった……。 ほっと息をついたが、そんな気分もあぁーっ、というメイの声に掻き消された。 「すごい!! 肩のところにいるの、竜!?」 見ると、ランの肩に先程はいなかった小さな、手のひらに乗りそうなサイズの竜がでんと鎮座している。 え、なにこの竜。 主に後ろの二本の脚で身体を支えており、前脚は翼となっている。 これが大きかったら普通にめっちゃ恐いがちんまりとしたこのサイズはなんだかとても愛らしい。 「うわっ、気付かなかった。さっきはいなかったよな?」 「うん、部屋にいたからね」 彼が手を寄せると、その竜はひょい、とその手のひらに乗り 「紹介するよ。僕の相棒、ルリだ」 その言葉に竜――ルリは挨拶をする様に翼をはばたかせ、ぴぃと鳴いてみせた。 くりくりと大きな眼を瞬かせる。 ズッキュゥゥゥン 「か、かわいい……!!」 思わず声を漏らした俺の肩越しにルリを見たベネディクトが冷静に呟いた。 「なるほど、変化種か」 「変化種?」 ベネディクトに聞くと、そう、変化種。と説明してくれる。 「変化種っていうのは竜の一種で、大体三段階の姿を持つ。まず一つ目は今のルリのような第一段階。次にもう少し大きくなった第二段階。最後に一番大きな姿、つまり成体の姿である第三段階だな。 自在に姿を変えることができるようになるのは成体からだ。珍しい種族で、手に入れることは難しかったはずだぞ」 「へぇ〜」 「ほぉ〜」 流石は王子、知識がある。 彼の話にランがうんうん、と頷いたかと思うと 「この子は旅に出た頃に出会ってね。親御さんに頼まれて一緒に旅してるんだ」 とまたしれっと爆弾を投下した。 お前今日一日でどんだけ爆弾投下したら気が済むんだ。趣味は言葉による爆撃ですかコラ。 ベネディクトも目を丸くしている。メイが思わずどういう事だと詰め寄ると、ランは何でもないことのように話し始めた。  曰く、旅に出て少しした頃、道に迷って辿り着いた先で怪我をした親竜を助けたら仲良くなり、元の道に戻してもらうばかりか、世界を見せてやってほしいと子供まで託されたらしいのだ。 「竜と仲良くなって一緒に旅するとか……」 「一体どこの冒険物語だよ……」 まるで本の中のようなランとルリの出会いに若干慄いていると、レヴィさんがあぁ、と得てしたように頷く。 「竜は高等な生物で、魔力も上等。それを常に周りに漂わせているのでその周辺は魔力が安定して、医療魔術のような高度な魔術を行いやすくなると言います。お医者様からすると最高の相棒ですね」 その言葉にランがよくご存知で、と笑った。 へぇ、初めて知った。覚えとこう。 そうしていると、急にパンパンという音が響く。 「はいはい、竜に興味があるのは分かりますけど、どうせこれから暫く一緒にいるんだ。今は早く店とか行かないと混みますよォ」 これまで沈黙を貫いてきたワーナーさんの声に俺たちは慌てて街の西側に続く道に足を向けた。  街の西側は東側とは打って変わって、歴史の長いマリテの首都、古都アスターの面を見る事ができた。 並ぶ本屋や雑貨屋、魔術や霊術を使うのに用いる道具などを売る道具屋などの店のどれもがそれぞれ歴史を持っていて、見ていてとても楽しかった。 メイに雑貨屋で見つけた瓶に入った飴玉を買ってやると気に入ったようで、機嫌が鰻上りだ。 ランも道具屋で干し薬草をまとめ買いしていた。ついでに珍しい薬草も見つけたらしく、薬に詳しいらしい店主と意気投合していた。正直何の話をしているのかは医療に疎い俺には分からなかったけれど、レヴィさんがかなり関心を示していたのでベネディクト曰く、なかなかに高レベルな事を話しているのだろうとのこと。 彼も医療はかじっただけらしいので、わからないと言い切っていた。潔い。 けど何の話をしているのかすら分からなかった俺に比べて彼は薬草の話というところまで分かったのだからやはりそれなりの教育を受けているのだろう。 そうやっているうちに昼時になり、ワーナーさんがメイに言ったカフェに行こうと石畳の道を歩く。 前の方でキャッキャと楽しげにしているメイとランを眺めながらレヴィさんと話していた。 「海上都市なのに、石畳とか見るとここは陸なんじゃないかって錯覚しそうですね」 「ええ。初めてこの街に来る人はみんな陸と勘違いするんですよ」 笑って続けるレヴィさん。 「ここアスターは、マリテの始まりの地でもあるんです。 約千年前、この周辺の群島に住んでいた人々の人口が増え、住む所を求めて造ったのがこの街の元となりました。 やがて群島の更に周辺の人々も合わせて一致団結し、王を立て、一つの国が誕生しました。それが成長して今のマリテになったんです」 千年かぁ、と声が出る。 「となると、千年も波に耐えてるなんて、この街を造った技術は、かなり高いんですね」 「まあ補修は何度もしていますが、大きな補修は何十年かに一度するくらいですからね。偉大なる先人たちに感謝、です」 そうですね、と二人で笑っていると、ふと気になる事が目に入る。 「そういえばワーナーさんってずっとベネディクトにくっついていますよね」 見えない紐で繋がっているみたいです、と言うとレヴィさんは苦笑した。 「彼は王子の事が自分以上に大事で、大好きですから…………。王子もかなり懐いていらっしゃるので、王子のお兄様やお姉様方が彼に妬けるほどなんですよ」 「あはは、王子様やお姫様に嫉妬されるなんて、ワーナーさんってイケメンな上に罪作りな人ですね」 「全くです」 笑いながら眺めたワーナーさんは、やっぱりベネディクトに寄り添っていた。  「ほら、ここですよォ」 細い路地に隠れ家のようにひっそりと構えられた店のドアをワーナーさんが開く。 カランカラン、という軽やかな音と共に、優しいハーブの匂いがふわりと香った。 「いい匂い……!!」 「ここのハーブティーは旨いですからね」 漢方……? いや違うな、こんないい匂いのはずがない。 前の旅で非常にお世話になった薬を思いだす。 ハーブティーが好きらしいワーナーさんが目を細めてメイと話をしていると、先に奥に進んでいたベネディクトがああっと声を上げ、ずかずかと大股で店の奥に座っている青年の前まで歩いていく。 そんな大声を出しては他の客の迷惑になるかと一瞬ハラハラしたが、彼と俺たち以外に客はいないようだった。 「お前どこほっつき歩いてたんだよ、ハルイチ!!」 あれ? その名前、どこかで。 首をかしげていると、その青年が顔を上げ、返す。 「昨日はやることがあるから帰らないと行っただろう。……おや、和ノ国の者がいるな?」 心地よい低い声が静かに響き、黒曜石のような目がこちらを射抜く。 その只者ではない雰囲気に俺は思わず姿勢を正した。 ……俺ってそんなに出身国分かりやすいですかね? 小声でレヴィさんに聞くと黙って首を横に振られる。 ならなんで彼は俺の出身が分かったのだろうか。 「帰らないって朝帰りどころか昼の今もこうしてこんなとこにいるだろ、それなら明日もいつ帰るか分からないとか言えよ、ったく……。確かにこいつはアカリっていう刀使いの和ノ国出身の旅人。で、この嬢ちゃんがその妹のメイ、魔術師だ」 疑問でいっぱいな俺をよそにベネディクトが彼に俺たちを紹介し、取り敢えずぺこりと頭を下げる。すると彼はくつくつと笑うと口を開いた。 「そんなに和ノ国の霊力を纏っていたらすぐに分かるわ。 我はミザクラハルイチという。先日和ノ国から出てきたところだ」 ぴぇ。 間抜けな声が出そうになる。 ミザクラハルイチ。和ノ国の国家元首である将軍の次男。俺とは住んでる世界が違い過ぎる人。てかお目にかかることすらまずないような人。 そんな人とまさか旅先でお会いしました、なんて普通あるか、いやない。 しかも霊力で和ノ国の人間だって知られてる。 「あの……帰っていいすか……?」 そろりと手を上げて申し出るも、ベネディクトに何言ってるんだ、という目で見られて「あ、やっぱ大丈夫ですすみません」と言い直す。 やめて、ホントに心底分からないって目で見ないで。王子のお前からしたら普通のことでも一般庶民の俺にとっては畏れ多過ぎて倒れそうなんです。 俺が泣きそうになっている間にも話は進んでいく。 「やること、つったって何やってたんだ?」 ベネディクトの問に簡単な事だとそのお人は笑う。  「家出宣言だ」 「「「「「…………は?」」」」」 何言ってんのこの人。 全員の声と心が重なった。 「いやお前……え? ワ、ワンモア」 震える声で聞き返すベネディクト。 うん、俺だって今のは聞き間違いだと信じたい。 だが現実は非常に残酷であった。 「家出宣言だ。まあ、正確には旅立ち宣言だがな」 ろくな説明もせずに飛び出して来たからな。しれっと話す。 レヴィさんがあのう、と聞いた。 「その二つの言葉には大きな違いがあると思うのですがそれは」 「正直、帰る気はないからな。 実質家出名目旅立ちだ」 「…………よし、このバカ和ノ国まで届けるぞ」 「送料あっち持ちでいいですよね?」 「待て待て待て」 ワーナーさんに抱え上げられたハルイチ様は手足をジタバタとさせる。 急に幼くなったようだ。 「ベネットお前好きに生きさせろと言ったら嬉しそうだっただろう!!」 「それとこれとは話が別だ!! 帰る気はないってどういう事だお前!!」 「そのままの意味だ!! 家を出て一般人になるんだ我は!!」 「やろうとしてる事が一般人のそれじゃねーよゆくゆくは中央神殿に突っ込もうぜとか言ってる奴が一般人でたまるか!!」 「うるさいうるさい一般人になるったらなるんだなってやる!!」 ギャーギャーと騒がしく言い合う二人にどうしようかと困ってしまう。やっぱり止めた方がいいよな、うん、と一歩踏み出した時、ポン、と肩に手が置かれた。一人ゴーイングマイウェイでケーキを食べていたランだ。 穏やかに微笑む彼に微笑み返すと、彼はその肩に乗っているルリに何やら話す。するとルリは瞬きのうちに五十センチ程の大きさ(おそらく第二段階)になると、口を開き、今なお言い合いをしていた二人の顔に水のブレスをお見舞いした。 あ〜、掃除しないとな〜。 俺は他人事のように思って現実逃避をするしかなかった。
1
15
シリーズ一覧
感想を送る
作品を紹介
ブックマーク
しおりを挟む
作品情報
使い方
登録が完了しました!
確認事項
戻る
実行