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 ふたりが家に来ることが分かっていたら、私はどこかに出かける。でも大抵いきなり来るものだから、私はぎこちなく挨拶をして、ふたりが部屋に入るとすぐに家から飛び出す。そしてあてもなくさまよう。  家に帰る頃には空は真っ暗。親は遅くまで働いているので、私がいなくても誰も困らない。 「ただいまー」とお姉ちゃんのだらけた声。 「お邪魔します」と男の人の律義な声。  杉野さんが来た。リビングでテレビを見ていた私はびくりとし、振り向く。二階へ向かう途中のふたりと目が合う。私が会釈をすると、お姉ちゃんは杉野さんの手を引いて階段を上ろうとした。  なのに、杉野さんは私を見て会釈をしてくれた。とんとん、と階段を上るふたつの足音。ドアが閉まる頃には、私はテレビを消していた。  財布と携帯だけを持って、私は家を出た。今日は普段に比べると寒い日だったらしく、道行く人はみんな厚着をしていた。私は、しばらく店を転々として暖をとった。でも、時間が経ったとしても、人に紛れたとしても、いまの気持ちが良いものになるはずがなかった。 (いま、ふたりは何をしているのだろう。でもすることってひとつだよね)  想像してしまう多感な年頃の自分が憎い。そういうことを考える自分が醜く感じられる。私は自己嫌悪に陥り、家の近くにある公園にたどり着いた。  ベンチに座り、ぼんやりとする。ふたりが帰るまで、きっと後二時間近くある。  私はお姉ちゃんと年が離れている。お姉ちゃんは大学生で私はまだ高校に入ったばかり。杉野さんとお姉ちゃんは大学の研究室繋がりで知り合ったらしい。付き合って一年ちょっとだと思う。 「……コート、着てくれば良かった」  着の身着のままで家を出た。寒い。つらい。  時間つぶしに携帯を触るが、こういうときに限って誰からも返事が来ない。すると、思ってしまう。ひとりで気を遣って、悩んで、バカみたい。あの家はお姉ちゃんだけの家じゃない。私の家でもあるんだから、堂々といればいいじゃん。分かってる。でも、どうしてもいたくない。心がもやもやする。いっそうのこと、杉野さんが悪い人だったらいいのに。  どうしてか分からないけど、私は真剣にそう思った。 「ねぇ」  どこかで聞いたことのあるような、そうじゃない声。私は顔を上げると、見つめてしまった。「なんで、ここに?」って思った。  目の前には、コートを着た杉野さん。私は辺りを見た。お姉ちゃんも一緒だと思った。でも、いたのは杉野さんだけ。  杉野さんは私の格好を見て「風邪を引いてしまうよ」と困った顔をしていた。 「いえ……もう家に帰るので」 「いつもこうして外にいるの?」 「いつもってわけじゃないですけど……」  上手い言い訳なんて急に出てくるはずがない。  私は視線を地面に向けると、手にしていた携帯を伏せた。杉野さんはしばらく私を見つめ、携帯に触れていた私の手を握った。私は目を見開く。  杉野さんは「ここは寒いから」と私を立たせると引っ張った。心がざわついた。  私たちは喫茶店に入った。そこそこ人がいて、ちょっと心が落ち着いた。席に着くと、杉野さんに好きなものを注文しても良いと言われた。 「じゃあ、オレンジジュースを」 「それでは体が余計に冷えてしまうから……温かいものがいいよ」 「ではそれで……お願いします」  注文をしてから、しばらく気まずかった。悪いことをしている気分だった。でも、何が悪いのかは具体的に分からない。私はお姉ちゃんのことを口にしようかと思った。「姉がいつもお世話になっております」というのを、こういうときに言うんだっけ。よく分からないけど。 「きみのことは……たまに話は聞いているよ」 「……どういった感じのことですか?」  すると、杉野さんはメニューを手にすると「ケーキは嫌い?」と言った。 「追加で頼もうか。ちょうどお腹が減る時間帯だし。俺も食べるよ」 「お姉ちゃんと何か食べなかったのですか?」 「用事があるからと言って俺が先に帰ったよ。だからいまの俺はきみと同じくらい空腹。さて、どれにしようかな……」  注文を終えると、杉野さんは私に向き直った。 「改めて、俺は杉野。よろしく」  杉野さんは握手を求める手を差し出す。私はぎこちなく触れる。杉野さんは私の手を握った。がっしりとして、たくましい。どきっとした。  杉野さんは名字しか言わなかったけど、私は名前も知っている。ジュン、って言う。漢字は分からない。部屋から聞こえてきたお姉ちゃんの声が「ジュン」と何度も言っていたのを、私はよく覚えている。  視線を伏せたまま、私は注文をしたものが来るのを待った。ドキドキしている私とは違い、杉野さんはゆったりとした態度で私を見ていた。私から見れば、お姉ちゃんと杉野さんも大人だ。私だけ子供。  会話……合うのかな。ていうか、何を話せばいいのかな。やっぱりお姉ちゃんのこと? それとも当たり障りのないこと? 考えれば考えるほど、頭のなかがぐるぐるしてきた。冷や汗でも出ているような気がした。なおさら、顔を上げることができなかった。  杉野さんは困ったように言った。 「そう気をつかわないで。……といえども、年上相手だと無意識にも気をつかってしまうだろうね。その気持ち、分からないこともない。俺も研究室ではよく先輩に気をつかっているから」 「えっと、電気系の研究をされているんですよね」 「小さい頃から興味があってね」 「……大変じゃないですか? 難しそうだし」 「俺にとって好きなこと。つらいこともあるけど、それも込みで好きだから」  言い終えると、杉野さんは微笑んだ。にっこりとした分かりやすいものじゃない。閉じた目は変わらず、口元が微かに動いた程度。でもそれで十分だった。来たときと帰るときの会釈、それとたまに見かける廊下を歩く姿。私は杉野さんのそれらしか知らない。だから十分だった。  少しして、注文をしたものが来た。紅茶なんてコンビニに売っているペットボトルか紙パックのものしか飲まない。喫茶店で、ましてや男の人と向かい合ってお茶をするなんて生まれて初めてだ。 「……あっ、おいしいです!」  ほのかな甘みと温かさが体に広がる。私は言うと、またひとくち飲んだ。体は思っていたよりも冷えていた。だから、つい進んでしまう。ケーキも食べやすい味でおいしかった。ぺろっと食べてしまった。 「俺の分も食べても構わないよ」  どうぞ、と差し出されるケーキ。急に恥ずかしくなる。でも、食べてしまったケーキのおいしさを思い出すと、私は杉野さんのご厚意に甘えた。 「良い食べっぷり。見ていて清々しさすら感じてしまうな」 「杉野さんは良いんですか? ……お腹、すいていたって」 「俺は家に帰ってから適当に食べるから」 「ご実家……ですか?」  杉野さんはコーヒーを飲んだ。「一人暮らし」と言った。 「大学に進学してから、こちらに引っ越したんだ。実家は違う県」 「え、じゃあ……」  どうしていつもうちの家に来るの?  一人暮らしだったら、やっぱりそこで会うものなんじゃないの?  私の頭のなかは急にそういうことでいっぱいになった。本人を目の前にしてそういうことを考えるなんていけない。分かっていても、想像が止まらなかった。 「人を部屋に上げるのがあまり好きではなくてね」 「あ、な、なるほど……そ、そっか……」 「どうしたの?」 「な、なんでもないです……。一人暮らし、楽しそうですね。うらやましいです」  あはは、と私は笑いながら言う。でも想像はまだ続いていた。コートを脱いだ杉野さんは思っていたよりも薄着をしていた。それに背が高いから細身だと思ったら、肩幅はがっちりしているし、腕もしっかりしている。なによりもさっき触れた手。それがすべてを示している。カップに口をつけたまま、私は完全に固まってしまった。 「大丈夫?」  すっと杉野さんの手が伸び、私は大きく仰け反った。想像で熱くなった体が、紅茶によって余計にぽかぽかしている。じわりとした汗を背に感じたくらいだ。 「わ、私……帰らなきゃ! そろそろ時間なので!」 「もうそんな時間だったんだね。気づかなくて、ごめん」  私が立ち上がりかけると、杉野さんは胸ポケットから手帳を取り出した。ペンを走らせる。そして千切ると「よければ」と私に渡した。書かれていたのは連絡先であった。  * * *   それから数週間後の話。あれからも私はたまに家で杉野さんと会った。もちろんお姉ちゃんが傍に居る。私は会釈をすると、すぐにどこかへ出かける。あのときのように杉野さんとお茶をすることは、それから一度もなかった。杉野さんとはたまに当たり障りのないメールをする程度であった。  いつもと同じ朝。制服を着てリビングに行くと、お姉ちゃんが出かける準備をしていた。お化粧をしてる顔はきらきらとしていて、買ったばかりのコートがよく似合っていた。それに比べて、私は膝丈スカートに何もかもが学校指定。どちらかといえば地味。  私がお姉ちゃんを見ていると、お姉ちゃんは私を見た。しかしそれは一瞬のこと。お姉ちゃんはお母さんに「いってきます」を言うと出ていった。今日は杉野さんが来そうな気配がした。  学校からの帰り道、私は電車の揺れを感じながら、うつらうつらとした。  いまからかなり前の話だが、私はふたりのやりとりを聞いてしまったことがある。付き合っているんだし、それなりの年齢だし、それなりの場所だし……仕方ないといえばそうだが、いざ聞いてしまうと本当にびっくりした。  たまたま部屋でうたた寝をして、トイレに行こうと思ってドアを開けたら聞こえたお姉ちゃんの声。かすかに杉野さんの声もした気がする。気づけば私はお姉ちゃんの部屋のドアの前にしゃがみ込んで、ふたりのやりとりを聞いていた。盗み聞きなんて最低だし、ましてやそんなやりとり。でも多感な年頃の私を刺激するには十分過ぎた。  ふたりが何をしているのか、具体的には分からなかった。でもベッドの上で抱き合っていたり、キスしていることくらいは分かった。そうやって、ドアの向こうで起こっていることを私は勝手に想像した。息を殺して聞いていた。ベッドが軋む音がし、そのうちにお姉ちゃんの声ばかりになり、やがて音が途絶える。何が起こっているかなんてまったく分かんない。だから余計に聞き入った。すると、しばらくして足音がした。こちらに向かって来る。  私は慌てて自分の部屋に飛び込み、ドアを閉めた。それと入れ替わりにドアが開き、階段を下りる音がした。ドキドキした。ヒヤっとした。もちろん、悪いことをしたという意識はあった。でもそれ以上に、私は夢中になっていた。  寝過ごした私は終点にいた。日が沈みかけているなかで、ぼんやりと携帯を見ると、お姉ちゃんが杉野さんと家を訪れる時間が近かった。  今日もどこかうろつかなきゃならないなぁ。でもいつもは一度家に帰って着替えているのだけど、今日は制服。あまり遅くまでうろうろすることができない。だからといって堂々と家に帰る気もなかったし、お姉ちゃんに「今日は杉野さんが来るの?」と携帯から聞くのも違うように思えた。 「あれ?」  呼ばれて私は振り向く。言葉を失った。 「あぁ、やはりそうだったか。偶然だ」  杉野さんがいた。目に入ったのは、杉野さんが持つスーパーの袋。食材がぎっしりと入っていた。 「……ひょっとして、杉野さんのお家はこの近くですか?」 「ここからすぐのところ。ちょうど買い物をしてきた帰りで、こうして定期的に必要なものをまとめ買いしていてね」  もしかしてお姉ちゃんと食事でもするのかな。しかし近くにお姉ちゃんがいる気配はなかった。  コップに入ったジュース。杉野さんは帰りにコンビニでオレンジジュースを買ってくれた。私はそれを前にして、隠れて視線を動かす。気がせわしなくなるのは仕方のないこと。なんせ、ここは杉野さんの部屋。  キッチンからやって来た杉野さんの手には、パウンドケーキがのった皿。コンビニで一緒に買ってくれたものだ。しかし私の気は落ち着かない。部屋ってプライベートな空間だし、それなりに親しくないとダメな気がした。なのに私なんかが来てもいいのかな。  杉野さんは向かいに座った。杉野さんの前にも私と同じようにケーキがある。とりあえず私はケーキを食べ始めた。ケーキの味もジュースの味も分からないくらいに、心はもやもやでいっぱいだった。 「……あの、杉野さんはひとりっ子ですか?」  杉野さんはフォークを手にしたまま私を見た。 「どちらに見えると思う?」 「ひとりっ子かなと思います。とてもしっかりしていらっしゃるので」 「いや、俺には姉がいるよ。きみと同じで年の離れた姉だ」  私の頭に美人な杉野さんに似た女性が浮かんだ。 「立派なお姉さんなんでしょうね」 「よくそう言われるけど『面倒くさい』が口癖の姉。昔から代わりに俺が用事をこなしてきたから」 「面倒見がいいのですね」 「単なる世話焼きかな? 俺の近くにはそういう人がやって来ることが多いから。ルーズな人を見ると、居ても立ってもいられなくて。……しかしそれが必ずしも相手の為になるのかとなると、たまに分からなくなってしまうんだよ」  杉野さんは賢い人。お姉ちゃんがそう自慢していた。だから言うことも難しいのかな。私なんかじゃ、やっぱりちゃんとした話し相手になれないかも……。 「……それにしても、きみは本当に自分の話をしないね。メールでも俺のことについて聞いてばかり」 「ご、ごめんなさい」 「どうして謝る必要があるのかな。聞きたいことはすべて聞けばいい」  腕を組んだその姿が威圧的に思えて、私は一度向けた視線をすぐに落とした。  くすりと杉野さんは笑った。 「冗談だ。可愛い子を見ていると、ついいじめてしまいたくなる」  私はぽかんとした表情で杉野さんを見てしまった。いま、私のことを可愛いって……。夢を見ているかのような、ふわふわとした気持ちだった。あの杉野さんの口から私のことを誉める言葉が出てくるなんて。嬉しくなった。でもお姉ちゃん相手だと、もっと愛のこもった言葉を囁いているのだなと思うと、今度は複雑な気持ちになった。 「きっと、きみは俺に似ている」 「でも私、杉野さんみたいに賢くないですよ。成績は悪いですし。子供だし」 「違う。感覚がおそらく似ているのかもしれない。同じように姉を持つ身としては、通じるところがあるように思えるからね。きみも姉には苦労させられているように感じるから」  私は言葉に詰まった。図星だ。でもここで「そうです」と頷いてはいけないと思った。だからといって、私は首を横に振ることもできない。苦労というか迷惑というか、いずれにしても私はお姉ちゃんときっと仲良くない。年が離れているのが理由かもしれないけど、お姉ちゃんとあまり会話はないのは事実だ。  チャイムが鳴った。立ち上がった杉野さんは、一度私を見た。何かを思い出したように「しばらくここで静かにしていて」と言った。私は来た人が誰か分かったような気がした。勘かもしれない。居ても立っても居られなくなり立ち上がろうとすると、杉野さんは私の頭に軽く手を添えた。 「大丈夫」  そう言うと、杉野さんは玄関に向かった。  * * *   玄関でお姉ちゃんが騒ぐ声を、私は椅子に座ってじっと聞いていた。玄関から私のいる場所は見えない。でも靴を置きっぱなしだから、もしかして私のことに気づくかも。そうして不安に襲われていたが、会話を聞いている限りは私のことは出てこなかった。杉野さんがどうにかしてくれたのかもしれない。  お姉ちゃんは私と喧嘩したとき以上の言葉を、杉野さんに沢山ぶつけていた。杉野さんはそれをただひたすら聞いていたようで、杉野さんの荒げた声はまったく聞こえてこなかった。私は椅子に縛り付けられたように、ふたりの別れ話を聞いていた。やがて、ばちんと痛い音がした。ドアが強く閉められた。お姉ちゃんはきっと泣きながらこの部屋を去った。  杉野さんは赤くなった頬をさすりながら戻ってきた。私はビニール袋に氷を入れて渡した。 「……痛くないですか?」  氷袋を受け取る杉野さんは落ち着いた表情をしていた。 「前々から別れ話は出ていたから。だけど、そうすぐに済む話ではないことくらい分かっていたよ」 「でも家に来ていたときはそんな風に見えなかったです……」 「話し合いをしていたけど、彼女が声を荒げるのはいつもきみが家を出てからだった。知らなくて当然じゃないかな」 「…………ふたりは仲が良かったと思っていたのですが、その……」  でも私の口から「お姉ちゃんのこと、嫌いになっちゃったのですか?」は出てこなかった。 「好きなものが嫌いになる。反対に、あるときいきなり好きになる。こればかりは感覚だからね。なぜそうなるのかについては俺にも説明できないよ」  私は黙り込んだ。心のどこかで、ほっとしていた。でもそんなことを思うなんて悪いことだ。そんなことを思っていることが知られたら、杉野さんに嫌われてしまう。すると、私から言葉は消えていった。 「何か言いたいことがあれば、言ってくれても構わないよ。そう難しい顔で黙っていられると、こちらとしても気になってしまうし。やはりお姉さんと別れた俺を恨む気持ちがあるだろうね。それは承知の上。きみにも申し訳ないことをしたと思っている」 「い、いえ! そんな!」  深く頭を下げる杉野さんを見て、口が勝手に動いた。 「恨んでいないの? 俺はきみのお姉さんと一方的な理由で別れた」 「でもそういうことって、本人間の問題って言いますし……。私は妹だけど、お姉ちゃんと私は別というか……なんというか……」  言葉が出てこない。いや、言葉は有ったと思う。でも言えない。言ったら、ずるい人だと思われてしまう。私は自分が嫌になった。私はずっと杉野さんのことが好きで、でも杉野さんはお姉ちゃんのもの。お姉ちゃんはいつも幸せそうだった。だからどうしようもなかった。それなのにあのとき、どうして杉野さんは私に声をかけたのだろう。なんで連絡先をくれたのだろうか。私の思いは重くなり、つらくなる一方だ。涙すら出そうになる。 「私……」  帰らなきゃ。帰った方がいい。でも体が動かない。心はここに居たがっている。  杉野さんは何も言わなかった。ただ微笑みを浮かべていた。どうしてそんな表情をするのか分からない。でも会釈をしたとき、喫茶店のとき……どれとも違う。いままで見たこともない……私が知らなかったもの。  視線も心も惹きつけられてしまう。 「私なんて……子供だし……。だ、だから……」  言い訳がましく言葉が出る。  杉野さんは私の手を取った。握手をしたときとは明らかに違う熱い感情。それが私のなかにあった。だから私は手をふりほどこうとはしなかった。いや、ふりほどけなかった。このままこうしていたい。このまま触れていたい。そう思っているのを見抜かれてしまったのか。杉野さんは口の端を軽く上げた。きっとそれは大人の笑い方だった。
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