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「雨の日は決して憂鬱なだけじゃない」
 飴と雨と占いと。
 少し不思議な甘酸っぱいボーイミーツガール。
 爽やかな読後感を約束する短編です。
Suiu_a
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アマガサ×ドロップ
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 プロローグ
 
 やはり人間は原油を掘り尽くしてしまった。しかし、いつかこの日が来ることはとっくの昔に分かっていたはずだ。
 二〇世紀末ごろから一部の知識人たちが警鐘を鳴らし始め、技術先進国と呼ばれた国々は「脱・化石燃料」なるスローガンを掲げ、技術開発を行っていた………はずだった。
 だが、その間にも「産油国」と呼ばれていた国が毎日のように原油を掘り続けて世界に売り、巨額な「オイルマネー」なる金を稼ぎ続けていたのだ。何故そんなことができたのか…。
 それは石油が動力源として欠かせなかったからだ。陸上交通手段は「脱・化石燃料」が微々たるものではあったが日進月歩進んでいたのだが…。そもそも世界は気付くのが遅すぎたのだ。二一世紀も半分過ぎた現在も海上交通や航空輸送には大量の石油を使用していたことに。
 当然、加工貿易をお家芸とし、自国の資源に乏しい日本という国にとっても衝撃的な話題ではあった。石油の輸出相手国である中東諸国からの輸入を強制的に打ち切られ、各産業が大打撃を受ける、と誰もがそう思っていた。



 しかし、「石油は掘り尽くされた。」と先を急ぐように産油国が発表し、世界が「第四次オイルショック」とも呼べるパニックに陥った二〇六五年、日本・中国・アメリカが世界に驚くべき三国共同発表をした。
「二〇二五年から極秘研究として三国政府の主導の下、共同でせきたんえきの研究を再開させており、石炭から石油の主成分である炭化水素を精製し、既に日本では自国の消費石油分をまかなっており、中国では沿岸部の火力発電所では既に使用されている。アメリカ本土やでも早急に実現するだろう。」
 これに驚いたのが国際連合だった。安全保障理事会は石炭の安定供給の実現を条件に技術情報の公開を日中米に求めた。そんな世界各国の反応に先だって、日本政府は経済産業省外局資源エネルギー庁資源・燃料部に新たに「資源安全供給対策室」を設置した。そこには官民合同で様々な人材が集められた。
 そして、資源安全供給対策室に所属する者たちはこう呼ばれるようになる。
 
 
「オイル・シークレットサービス」
 
 
 
 二〇六五年 四月
 
 初登庁の日
 
 日本の国家を支えているであろう官庁が建ち並ぶ霞ヶ関のビル群の一つに「経済産業省」があった。その建物は二・三年前に本館・別館共に改装され、他の官庁の建物と比べて新しげなビルが二棟ならんでいる。歴史ある東京メトロの千代田線の出口の目と鼻の先だった。
 そんな霞ヶ関駅の出口は朝の通勤ラッシュらしくかなり混雑していた。すると、一人の似合わないスーツ姿の男が一人出てきた。その男はビジネスマンらしからず、登山用リュックサックを背負っていた。細身の見た目の割に足取りはしっかりとしている。
「別館で良かったんだよな。」
 その男は少し緊張した面持ちで別館入口から経済産業省 別館に入って行った。
 建物内に入ると左奥に受付があった。新しい建物になってから受付には一昔前のATMのような箱状のAIブースが置かれていた。経済産業省全館改装時に設置された。タッチパネルを操作してこの箱に向かって話せば、受付業務をしてくれる。



「今日、資源エネルギー庁の資源・燃料部の部長の花隈様と今日お会いする予定になっている山崎航平です。」
 登山用リュックを背負ったこの男もパネルを操作し、話しかけた。
「了解しました。確認を取らせて頂きますので申請番号をお持ちの場合はご入力し、身分証を画面右のマークにタッチしてください。」
 機械音声の言う通りに山崎という男は運転免許証をタッチし、慣れない手つきでタッチパネルを操作する。
「あなたがもしかして山崎君?
 申請番号を入力しようと、腕時計型端末のメモ欄を確認していると背後から女性に話しかけられた。
「はい、山崎という者ですが…。」
 山崎は何故目の前のスーツを着こなし、いかにも「ビジネスウーマン」と呼べそうな女性が自分の苗字を知っているのか分からず、思わず身構えた。
「一応、もう一度確認するわね。」
「明日から、資源安全供給対策室の室長として勤務する山崎航平君。出向組がなかなか珍しい経済産業省という機関であるのをよそに、弱冠27歳で資源エネルギー庁資源・燃料部の一室長に大抜擢される。20代で室長になるのは異例中の異例よ。そんな部下
の顔と名前程忘れにくい事は無いわよ。」
 正直褒められているのか、皮肉を言われているのかわからなかったが、自分の上司にあたる方だと把握した山崎は相槌を打つしかなかった。
「あ…そうなんですね。」
「まあ、これからよろしくね。私がはなくまよ。」
 そう言って花隈は握手の手を差し出した。
「初めまして。もう既にご存じの様でしたが、一応。 山崎航平です。これから宜しくお願い致します。」
 そう言って、山崎は花隈の手を握ろうとした。
 
「セクハラ…。」
 
 非常に小さな声で花隈はそう言った。山崎は花隈の言葉に条件反射のごとく手を引っ込め、目の前の自分より背丈の低い女性を見下すかの如くの眼力で見つめた。
 すると花隈は高らかな声で笑いながら言った。
「ハハハ…!! 冗談よ。冗談。だって、部下が上司にセクハラって…。何よそれ…。それに私はもうアラフィフよ。セクハラされるような歳でもないわよ。」



 虚を突かれた形になった山崎は何もすることができなかった。一瞬、花隈の場違いな高らかな声に驚いた周りの官僚たちの視線を感じたが、すぐに無くなった。
「しかしね、これから注意しなさいよ。」
「何にですか?
 山崎は聞き返す。
「これから、あなたの周りのほとんどが年上になる。皆、出世したいがためにがむしゃらになってる。そんな猛獣が大量に入った檻の中にあなたは放り出されるの。それに、君の場合はかなりのイレギュラー要素がある。そうなると、周りはみな敵よ。君の立場を脅おびやかす存在も現れるでしょうね。その中でこれから君は生きていくの。覚悟は出来てる?
 その時、山崎は花隈にもそんな経験があったのかもしれないと思った。
「フッ…。」
 山崎の口角がほんの少し上がった。
「出世競争で……
 はありませんから。」
 そう言うと山崎はタッチパネルに申請番号を入力し、確認をタップした。
「認証しております。しばらくお待ちください。」
 機械の作動音と官僚たちの足音だけが朝の経済産業省 別館のロビーに響いていた。
「一時通行用ICカードをお取りください。このカードは入館ゲートで必要です。ご利用ありがとうございました。」
 AIブースからICカードを手に取った山崎は花隈に声を掛けた。
「手続きが終わりましたので、一緒に行きませんか。まだ、この建物内の仕組みが良く分かっていないもので…。できれば、ご教授願えないかと…。」
「ああ、ごめんね。分かった。一緒に行きましょう。君の部署の場所とかデスクとか色々紹介させないといけないしね。」
 どこか魂の抜けていた顔をしていた花隈は自分を覚醒させるかのように答えたのだった。
 
 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
『産業と科学の近未来的融合』
 といういかにも大袈裟なスローガンのもと、文部科学省と共に始まった改装計画は数年前に竣工し、他の官庁よりも外観は非常にきれいな建物である経済産業省 本館・別館だが、内部に関しては着工前のフロアごとに存在する部局構成とほぼ同じだった。



 だが、異なる点もある。
 大きな違いとして、サイバー犯罪への最新の対応策として壁に「不明電波ジャミングシステム」がインストールされたマイクロチップを数多く埋め込み、それぞれの部署ごとに壁が設けられ、1部屋に1部署があてられた。それにより、部長級の官僚たちにも(局長級以上よりは手狭ではあるが)個室が与えられた。
 そんな部長級官僚の一人である花隈は経済産業省 別館四階でエレベーターを降りた。ほぼ満員のエレベーターからは何人が吐き出された。
「よし。ついて来なさい。歩きながら少し案内するから。」
 奥に乗り込んでしまったせいでエレベーターの脱出に手間取り、やっとの思いで4階フロアに吐き出された山崎に言い放った。
「…了解しました。」
 そう言って、山崎はエレベーター脱出の際に少し緩んだネクタイを締め、花隈の後を追った。
 一直線の長い廊下を少し歩くと、不透明なすりガラス製の自動ドアがあった。自動ドアの上の欄間の部分が電光掲示板になっており、矢印と「資源エネルギー庁区画」とだけ表示されていた。
「この自動ドアより手前が中小企業庁の事業環境部が入ってる。この奥が資源エネルギ
ー庁の資源・燃料部よ。」
 そう言うと、花隈は手のひらを上にして、山崎の前に差し出した。山崎は不思議そうにその手を見つめる。
「ICカードを貸してくれるかしら。一時入場には認証が必要なのよ。私たちエネ庁の官僚は皆専用のデータが登録されたICカードを持ってるから、自動で開いてくれるんだけどね。後であなたにも渡されると思うわ………。というか、どうしたの?
 やっと花隈は山崎が差し出した自分の手を見つめていることに気付いた。
「いや、目の前の光景にデジャブを感じてしまい、今、先程のご忠告を思い出した所でありまして。」
「あのことはもう忘れなさい! もう!………さっさとカードをよこしなさい!
 この山崎という男は意外と根に持つタイプなのかもしれないと思い、何故か悔しがる花隈だった。
「中小企業庁はね、人の出入りが多いのよ。人の出入りと言っても一般人の出入りのことよ。しかしね、エネ庁はあっちより圧倒的に極秘情報が多いのよ。もちろんどこの省庁にも極秘情報は存在する。でも、ここは情報だけじゃない。鉱物サンプルなんかも管理している区画があるのよ。」
 自動ドア横に設置されたタッチパネルを操作し、山崎から受け取ったICカードをパ


ネルにタッチしつつ花隈の言葉は続く。
「だから、セキュリティも自然と厳しくなるのよ。まあ、これからもっと厳しくする必要があるかもしれないわね。」
 山崎は決して見逃してはいなかった。この時、花隈が何かを含んだような笑みをほんの少しだけ漏らしていたことを。
「確かにかなり厳しいですね。ほとんど全てを機械が管理していることを除けば、僕の元所属先と遜色ないぐらいです。」
「そうかしら? そう言っていただけるのは有難いけど、明日からは君もここの所属よ。」
 そう言って、花隈は振り返り、エレベーターを同時に降りた人がそれぞれ部署に入って、廊下に誰もいないことを確認し、身長が高い山崎の右後ろにある監視カメラの死角となる、タッチパネル側から山崎の左手を取り、指を開いて、一時通行用ICカードをその手の平に置き、指を戻して、カードを握らせた。そして、山崎に一歩近づき、花隈は山崎の左肩に右手を置いた。山崎は警戒の色を見せたが、花隈はヒールのまま背伸びをして左の横顔に顔を近づけた。山崎は左肩に体重を掛けられ、動きが鈍っていた。
 その到達点は耳元だった。
「どうもありがと。…………新室長君」
 そう言うと花隈は開いた自動ドアをくぐっていった。山崎は本当に懲りない人だと思いながら、自称アラフィフの見た目二十代程にしか見えない花隈の後を追った。
 
 開いた自動扉をくぐると同じような廊下が続いていた。すると、すぐ左側のスライドドアから何やら足元の覚束ない男が出てきた。
「おい!早いとこ、紙の方を部長に出してこい!
「はい! というよりこの時間、部長いらっしゃるんですかぁ?
 出てきた男性が部屋の中に向かって叫び返した。
「つべこべ言わず、さっさと出して来なさい!
 今度は部屋から女性の罵声が聞こえてきた。
「分かりましたよ!出して来ます!
 部屋の中に向かって言い放った男はスライドドアを強引に閉め、廊下に向き直り、目を瞑って両手で頬をぺちぺち叩いた。目の前にその「部長」がいることも知らずに。
「お疲れ様。服部君。その様子だと、完成したのかしら?
「え………? うわぁ!部長!こんばんは!お疲れ様です!………じゃなかった。おはようございます。」
 服部と呼ばれた男は驚いたように左手に紙の束を持ち、花隈に向き直って丁寧にお辞


儀をした。
「出来たのなら、頂けるかしら。今日中にチェックするから。」
 時間の感覚すら無くしてしまっている目の前の男を見て、花隈はため息をつきつつも、厳しげな口調で言った。
「ああ、それから…。」
「はい! なんでしょうか?
 男は条件反射のように即座に答えた。
「今日は帰って、明日朝から出直すように皆に伝えなさい。」
「いいんですか!?
 口調は疑問形だが、男の顔には笑みが広がっていく。
「あら。そんな仕事がしたいの? なら、まだ少し早いけど、早速それぞれ部署に戻って早速始めて頂戴。やることは山のように有るわよ。」
 花隈は畳み掛けるように話していった。すると、男は「すみません。発言を撤回します。」と言いながら、部屋に戻って行った。
「山崎君。私について来なさい。」
 そう言って、花隈はショルダーバッグを左肩に掛け、渡された書類を右手に抱えて、スタスタとまた歩きはじめた。
 山崎は噂に聞く「タコ部屋」はあの部屋だということを自然と把握した上で、花隈という上司となる人間の性格を垣間見たように感じたのだった。
 
 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
「ここが私の部屋。入って。」
 花隈はドア横の小さな箱型の機械に右の人差し指をのせた。
 最近の局長クラス以上の官僚の個室は官僚の不在時には指紋認証システムで管理されるようになっており、改装されたことで部長級にも個室が与えられている経済産業省においては、部長個室も不在時は指紋認証システムで管理されている。
 とはいえ、部長室と言っても簡素なもので、正面にブラインドが下ろされた窓があり、6畳間程の部屋に机と事務イスが窓に背を向けるように置かれて、大きな面積を占めていた。部長級以下の机は「ディスプレイ手動引き出し式事務机」が採用されており、机自体にコンピューターとタッチパネルを内蔵している。局長級以上にもなると「全自動立ち上げ式」の机に進化する。今も昔も高級官僚と一般官僚の差は非常に大きなものなのだ。
 山崎は、花隈は部長と呼ばれるほどだから、さぞかし広めの個室があるのかと勝手に


想像していた。しかし、実際に入ってみると、机の正面に人が5人入ったら窮屈になりそうな程の大きさしかない室内を、驚きを感じながらキョロキョロと見回していた。
「見苦しいものを見せたわね。」
 机の脇にバックを置き、イスに腰掛けながら花隈は突然話し始めた。
「何がです?
 山崎は目の前に座り、上司の言っていることが理解できなかった。
「タコ部屋のことよ。さっきのあれ。法案に関わる官庁の長年続く悪しき慣習よ。あんなことをしてたらそりゃあ、仕事効率も落ちるわよ。」
「すみません。何が悪いのか自分にはさっぱり…。」
 山崎の元所属先では二十四時間勤務の夜番がある部署もあり、珍しくはない事だった。というよりも、夜番が必ず必要な機関なのだ。
「はぁ~。本当にどうなっているのかしらねぇ。あそこは。ブラックボックスで何も分からないから何も口出し出来ない。分かってもネット上の情報と正式な国の法案だけ。労働環境なんて分かったものじゃない。」
 花隈の話に山崎は何か腹の中で煮え沸つ物を感じた。
「あの、お言葉ですが、同じような慣習が残っている機関で部長級の職に就いていらっしゃる方にそのような事を皮肉のように言われる筋合いはないかと思いますが。」
 珍しく怒りを我慢できなかった山崎は本音を口にしてしまった。
「あら。部下になって早々上司の私に文句かしら。。山崎君。」
 心なしか、椅子に座っている花隈の眼光に刃物のような鋭さを感じた山崎は自分の発言に対する焦りがこみ上げてきた。だが、時はもうすでに遅し。言わぬが花とはこのことである。
「まあいいわよ。わたしはこのくらいで怒ったりはしない人間のつもりだから。この部屋に私以外の人間がいなくてよかったわね。もしかしたら、罵声が飛んできてたかもよ~。」
 ジョークとして言ったはずの自分の言葉が意外にも山崎には効き目を見せた事に喜んだのか、花隈は少し機嫌が良さそうに机上の取っ手から超薄型ディスプレイを引き上げた。それを見て、山崎は胸をなで下ろすかの如く、溜息が漏れた。
「まあ、あなたも明日から正式にになるんだから、せいぜい頑張って働きなさい。」
 満面の笑みを見せ、抑揚をつけて話をする、新しく上司になる花隈という人を見ながら、働き始める前から少し不安になる山崎だった。
 
 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 
『新部署「資源安全供給対策室」
 一、業務内容
 日本国内に存在しうる石油または石油原料に関する犯罪行為や違法行為の阻止を基本的な目的とする。
 二、構成人員
 原則、行政機関もしくは国家公務員試験合格者から約二十人、一般からの引き抜き約二十人の計四十人前後で構成するものとする。よって、室長任命者ならびに一部の行政機関出身者には特別司法警察職員の権限を与える事とする。尚、一般からの引き抜きについては協力者として資源安全供給対策室室長と資源エネルギー庁資源・燃料部部長の一括管理の下に構成するものとする。
 三、各種権限
 ・犯罪捜査を行う権限
 ・逮捕や捜索差押、送検等を行う権限(特別司法警察職員任命者のみ)
 ・拳銃等武器携帯権限(特別司法警察職員任命者のみ) etc…』
「ふう~。」
 山崎は溜息をつきつつ、ディスプレイから目を離した。机の左端にはプラスチックケ
ースに入った厚さ五センチ程の紙の書類の束が置かれてあった。だが、これでも三分の一程度なのだ。彼が座っているイスの足元には大量のコピー用紙に印刷された残りの書類の束が順序良く積み上げられていた。
 未処理の書類は机上の少ない方であることが唯一の救いであることに山崎は安堵しつつ、事務イスの背もたれにもたれかかった。
 時刻は午後二十二時。無機質だがやけに広い資源エネルギー庁の資源・燃料部の入る、経済産業省別館四階の外れにある部屋の室内には、ディスプレイ手動引き出し式事務机が整列して五十台ほど並んでいた。一列につき五台で二列が向き合い、五つの島を形成している。
 その中の一番端の島の後ろに窓がある角地の席を陣取り、山崎は自分の机の手元灯とディスプレイの明かりを頼りにしつつ、朝直接花隈からもらったばかりの電子書類・紙面書類の両方の読み合わせとサインを行っていた。それに最近の官公庁ではセキュリティの向上と物理的安全管理措置の観点から、公文書は電子媒体と紙面媒体の両方を作成するのが常になっているせいで作業量がさらに増加する。(基本的には公開される事を想定しているのが電子媒体で保管目的で作られるのが紙面媒体と言われているが、現実的には明確な違いはないので全く同じ内容で作成される。)
 普通ならもっと前から計画的にしておくべき作業である。だが、一ヶ月ほど前に出向


を言い渡され(まあ、山崎自身から志願した所もあるが…。)、前の所属先での業務に追われて直接経産省に出向く暇さえなかったのだ。そして、山崎は初登庁日(着任一日前)にこの書類の山と出会ったわけである。
「多い!多すぎる…!
 思わず声が漏れてしまった。かれこれこの作業を十二時間は続けている。これほど長いデスクワークは受験の時以来しなかったので、伸びをすると体のあちこちがきしむような感じがした。
「拳銃等武器携帯権限かぁ…。」
 思い出したように山崎はポツリとつぶやいた。「各種権限」の欄に書かれてあったワンフレーズに思い当たるものを感じた山崎はイスを立った。そして、窓から外を見つめた。
も装備していいのかな…。」
 山崎は懐かしむような、哀愁を引くような面持ちのまましばらく窓に向かって突っ立っていた。
 そんなことを考えていると、もう十五分が過ぎていた。
「おっと。 時間は無駄にはできないな。」
 そう言ってイスに座り、残りの書類を片付けるべくとりかかろうとした時だった。
「何やってんの? もう十時よ!
 部屋の明かりを急につけて入ってきた花隈が部屋に響き渡るほどの罵声を轟かせた。
 突然、部屋全体の明かりがついたせいで山崎の目が一瞬眩む。
「いや、今日頂いたものを明日までに処理したいと思いまして…。」
 山崎はあんたが今朝急に出してきたんだろうとも思ったが、敢えてそこは深くは触れなかった。
「朝、あなたに言ったはずよね。あなたは明日からになるの。だから私の言う事には必ず従ってもらうわ。だから………」
 花隈は歩いて出せる最大のスピードで山崎の机に向かうと、力ずくでディスプレイを机に戻した。
「今日は帰りなさい。」
 最後には花隈の口調は悟りかけるようなものになっていた。山崎は花隈の思いもよらぬ気迫に気圧されしばらく何も言えなかった。
「お言葉ですが…」
 山崎は気迫に負けない位の眼力では花隈を睨み上げた。
「最低限の知識の習得は最低限のマナーですから。今帰ってダラダラしたりはできません。」



「こいつに睨まれるとと逆らえない。」前の所属先で周囲にそのように思われていた山崎は『男版メドゥーサ』なるあだ名を賜っていた程だ。だが、前は上司に対して睨んだりはしていなかった。そんなことをするものなら猛烈に叱られ、同じ地位の人間に迷惑をかけるのは目に見えていたからだ。だが、国家の行政機関に急な出向である。山崎は国家公務員試験をそもそも受けていない人間だ。そんな人間が急に一室長に二十代で就任するという異例の大抜擢を受けるのだ。周りの官僚からは良いようにはとられないのは目に見えていた。だから、山崎は出世や昇進はもう叶わないと割り切り、少し自由にやろうと考えていたのだ。そんなこんなで今日から上司に対しても『男版メドゥーサ』の本領を発揮し、花隈がその対象になったのだ。
「チッ………。」
 花隈は悔しそうに山崎から目をそらしながら、山崎の隣の事務机に自分のショルダーバックを置き、中から自分の携帯端末をおもむろに取り出して、素早く操作した。
「確かに今朝は私も説明不足だったわね。少しだけ手伝ってあげる。」
「プッ………フフッ………。」
 いちいち偉そうにしながらも、部下思いな対応をする花隈が可愛らしく見えた山崎は思わず吹き出してしまった。
「ねえ! 今私をこけにしたでしょう。それも笑いながら!
 花隈に指摘され、山崎は机の上の紙の書類を再び真顔で見つめ始めた。
「いや、気のせいじゃないですか?
「何勝手に誤魔化してんのよ。正直に答えなさい! 正直に!
 霞が関の経済産業省・別館にある、明日から『資源安全供給対策室』のオフィスとなる部屋では部長級官僚と新進気鋭の新室長でこんな低レベルな泥仕合が繰り広げられていたのだった。
 
 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 山崎の自宅マンションは小金井にあった。
 自宅マンションとは言っても、七階建て学生集合アパートの一階の管理人世帯居住室の事である。学生アパートではあるが、二年ほど前までは独身者用の警察官舎だったらしく、地下には完全防音の射撃練習場跡までついていたりする。だが、一階より上の階をリフォームして民間に払い下げられた建物なので、内外装は新築同様の見た目をしている。
 この建物を買い取った大手不動産管理会社の会長が苦学生だったらしく、上京して家賃が高くて困った経験から、経済的に不利な学生に対して出来る限り安く提供したいと


いうことで数多くの教育機関や専門学校と提携を結び、家賃が都内にしてはかなり安めに設定されているのだが、山崎は管理人として報酬を貰っている。
 出向が決まって、プライベートの拠点となる家を探し始めた際、不動産会社の営業員に経産省への出向の話をすると、目を輝かせて管理人の話を山崎に出してきた。担当者曰く、「国家公務員の方なら公務員としての収入が安定されているので、安心して任せられる。」らしい。山崎自身も収入が少し増えるのは純粋に嬉しかったので引き受けることにしたが、その際、地下に射撃練習場跡の広い空間があるという改装直後の学生アパートに丁度いい魅力を感じ、即決した。
 
 山崎は東京都内で簡単に見つかるとは想像すらしていなかった。
 二十世紀の日本の高度経済成長以来、長きにわたって続いていた首都圏や都市部への人口流入が深刻化し、遂に東京都の人口が二〇三二年には一千万人の大台を突破したという。その対策として東京都は都内の古くなったニュータウンを整備しなおし、高尾やあきる野などの自然が残った地域まで開発の手を広げ、交通の便を拡張させた。だが、そんな努力は一言も物を言わず、公開開始から半年も持たずに土地やら物件やらが飛ぶように買われたという。
 だが、もたらしたものも多かった。例に挙げるとするならば、中央線の便数強化であ
る。そのせいか、新宿発高尾行の終電は午前一時を回ってもまだ存在するようになった。
 だが、そんな恩恵を受けずに山崎は難なく自宅に帰り着いたのだった。タクシーという今も昔もほぼ最強であろう交通機関で…。
 
「ただいまぁ…。」
 誰もいない真っ暗の室内に乾いた声が響いた。時刻は日を跨いで午前二時になっていた。
 山崎は暗記すること自体は体質的に得意ではあったが、理解するとなっては話が違う。どうしても時間が必要になってくる。そんな訳もあってか、全部処理し終えた時には日をまたいでいた。花隈の助力もあって内容を大体頭に入れることができた山崎は急かされるように花隈に強引にタクシーに乗せられた。そしてご親切にも電子マネーが普及しつつあるこの時代に、現金でタクシー代として1万円を強引に持たされた。そんな山崎に呆れつつも、出世ルート真っ只中のバリバリ官僚の太っ腹さに感心しながらタクシーに揺られて帰ってきたのだった。
「流石にオールでデスクワークはきついなぁ。」
 そんなことをつぶやきながら自室のベッドにスーツのまま仰向けに倒れこんだ。



 一人暮らしにしては広めの3LDKという間取りを持て余していた山崎は迷った挙句にリビング横の六畳の和室にベッドや机や本棚を集約して、本の少ない書斎で寝泊りをするような形にしていた。
「なんか、前より狭い感じ………。」
 以前は一部屋に二人が寝泊まりできる寮の部屋に一人で生活していた山崎にとっても、六畳は狭過ぎたのだろう。ベッドに寝転がっていた山崎は狭さを紛らわすように寝返りを打った。すると、洋服ダンスのようなサイズの棚の一角にあるダイヤルロック付きの木製の扉が目に入った。その中には山崎にとって数少ない心許せるモノでもあり、因縁でもあるが丁重に仕舞ってある。
「久しぶりに撃ってみますか………。」
 そう言って山崎はベッドから起き上がり、棚の木製の扉のダイヤルロックを素早い慣れた手つきで解除して、ゆっくり扉を開けた。それはまるで金庫の分厚い鋼鉄の扉を開けているかのようなしっかりとした手つきだった。
 
 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
「パンドラの箱」という言葉がある。
「パンドーラー」という神々によって作られ人類の災いとして地上に送り込まれた、ギリシア神話に登場する人類最初の女性が同時に持って来た「かめ」がラテン語として訳される際に「箱」になり、「禍いをもたらすために触れてはいけないもの」という意味の慣用句になったという。
 山崎はそんなコラムを興味本位でギリシャ神話を勉強した際に読んだことがあった。
「まさしく、『パンドラの箱』かもしれないな。」
 開いた木製の扉の中を見つめながら山崎はそう言った。そこには漆黒のがあった。
「でも、開けても箱の底には『希望』すら残らない、悲しき箱だけど…。」
 すると、の中心が光った。
『システム、スタート。』
 からは機械的な音声が聞こえてくる。
『自律回路状況、良好です。顔認証システムスタートまで、3、2、1………』
 山崎は顎を引いて、目を見開いた。次に起こることは予想できている。
「うわっ!
 閃々とした光が室内を襲った。撮影機器のフラッシュでもなく、レーザー光のような輝きだった。
『認証しました。お久しぶりです。エアーズ・フロンティアへ。何のご用件でしょうか


。』
 開けようとする度、毎度のように失明しかねないような眩い光にさらされ、ダサい名前だと思うのは何度目なのか、自覚すらできない程と向きあってきた山崎は慣れた口調で返答する。
「開けて。中の整理をする。」
『了解しました。』
 その刹那、の真ん中が縦に割れた。そして、次々と平行線を描くように割れ目ができていき、すだれ状になる。それと同時に左右へ、すだれの棒が一本ずつ両端から全く同じペースで順序良く収納されていく。それは一瞬見とれてしまいそうな程のあまりにも規則的な動きであり、機械的な音を立てている上に黒色をしているせいかやけに不自然に不気味なように見える。
 山崎は開いたの中身を上から下まで舐めるように目を通し、全部そろっていることを指さしで確認する。
「小ケースは青が十に、緑と赤が五。中ケースが三。特大ケースが一。で、その他、手入れ用ケースが三つ…合ってるな。」
 縦長のの内部は見た目で数が分かるように区分けが丁寧になされており、ケースはシルバーメタリックのアタッシュケースを採用していた。
「流石に室内であれを使うのはよそう。まだ、射撃場も完璧に整備出来た訳ではないし、今日は模造でいいか。」
 そう言って山崎は同サイズ三つの中で一番左に置いてあった中ケースを右手に、同サイズ同色十の中で一番下の青ケースを左手に取った。
「エフさん。閉めといて。」
 「エフさん」とは山崎がずっと呼び続ける「エアーズ・フロンティア」の呼び名である。「エアーズ・フロンティア」はこのの名前ではない。普段はこのに搭載されてあるAIの識別名なのである。
 このAIと山崎はこれまた長い付き合いで、物心つく前からの知り合いなのである。山崎が生まれた時、彼には祖父母という存在はもうこの世界にはいなかった。だが、その代わり「エアーズ・フロンティア」がいたのである。両親に叱られたときによく、このを開けては泣きついたり、愚痴をこぼしたりしていた。そして、大体帰ってくる返事が
『大丈夫。何とかなりますよ。』
 だった。
 AIらしくないような包容力を感じていたのか、なぜか山崎はこの言葉が好きだった。



『了解しました。その後二分以内にスリープ状態に移行します。』
 その言葉を聞いて山崎は部屋を出て行った。
 このマンションの一階フロアの一番奥にある「電気系統室」というネームプレートを貼ってある開き戸は白く綺麗に塗られている居住室の扉とは違う様相で、見た目からして金属がむき出しになっており、鍵には指紋認証という独特の奇妙さを持っていた。
 だが、実際の電気系統室は管理人居住室の向かいの、唯一の緑色をしている扉の向こうにある。
 なら、この偽電気系統室は一体何なのか。開けると電気もない階段があり、階段を下りた先にはまた扉がある。それは当たり前なのかもしれない。日本という国に住まう人々が普段は見ない本物をこの中でぶっ放していた訳だ。
「住宅地の中にこんな施設作るんだなあ。」
 そこはマンションの地下の射撃場だった。
 防音設備を完璧に備え、明るくLED電灯が光る室内に発射レーンが五レーンある。警察学校とほぼ同じ設備をそろえていたらしく、官舎だった頃は既視感を感じる警官も多かったかもしれない。だが、学生マンションに変貌を遂げた後も山崎の手によって、まだ維持されている。一階の入り口のネームプレートや指紋認証ロックは入居者が引っ越してくる前に、学生たちが入らないよう山崎が自費をはたいて取り付けたのだ。
 五レーンのうち、一番右のレーンの台の上にある防音用イヤーマフの脇に山崎は中と小の二つのアタッシュケースを置いた。
 中の方を開けると、無駄に黒光りする拳銃が一丁。「スミス&ウェッソンM559」。百年近くも前に製造されたとんでもなく古いダブルカラムモデルの拳銃だ。
 二十一世紀も半ばが過ぎたこの時代、目標を自動追尾する銃弾「スマートブレット」が世界の軍隊で採用されつつあるとともに、直線に進む弾は時代遅れになりつつある。
 だが、この山崎と言う男の持つ武器は全て古い武器だ。
「古いモノは特に管理はちゃんとしろってね。まあ…」
 そう言って山崎は小さいケースの方を開けて、十個程並んであるマガジンのうちの一つを取った。
「犯罪だけどさ。」
 この平和国家日本で拳銃を持っている時点で犯罪なのだが、そんなことを意に返さず拳銃を所持しているのだ。警察が知ったら飛んで来るかもしれない。
 山崎は机の上にあった防音用イヤーマフを頭からかぶって耳に当て、拳銃にマガジンを差し込む。
「さあ~。始めますか!
 山崎の興奮したような掛け声とともに、地下室に数発の銃声が響いた。



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