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 ドラド3世の使者である騎士トライアル・オンジは目の前の光景に肝を潰していた。  アタラカ山脈と魔の荒野側にある山に架かる長さ三十メートル、幅十メートル、高さ十メートルほどある石の橋。  橋というのは、いまの見た目がそう見えるというだけで、橋の下に木の門が装着されれば、そのまま城門である。  しかも橋の上に漆喰瓦葺きの建物が建っていて、将来的には城門が付くであろう場所にアタラカ森関と書かれた看板まで付いていた。 「なんだこれは…」  トライアルが呟くのも無理はない。  チュウカナ大陸の南端で魔の荒野の果てにあるアキといえば、魑魅魍魎が跋扈する辺境というのがマッサチン国での常識だ。  しかも、マッサチン国王からコジ・ソウキとの交流を十年間は絶つように厳命されていたので、情報が全く入っていなかった。  このような巨大な人工物がそびえ立っているとは思っていなかったのだ。  しかし、ここで逃げ帰るわけにはいかない。  大陸全土を襲う飢饉の中、ソウキ領から鉱山都市ソロモンに食糧が輸出されているという情報がドラド辺境伯爵にもたらされた。  最悪、武力行使をちらつかせてでもソウキ領から食糧を提供するよう命令しろ。それがトライアルに課せられた使命だからである。  なので、アタラカ森砦を見たときトライアルの顔は青くなった。  エルフである菜緒虎が対応に出てきたときは白くなった。  しかし、菜緒虎たちがソウキ騎士伯領の人間と知って顔色をよくする。  そして、菜緒虎を先頭にソウキ領に向かうトライアルの顔は…興奮して赤かった。  道中、眼下に広がる、刈り取られたあと乾燥のために枯れた田んぼに干された稲。  来春の収穫が期待できるほどすくすくと育っている麦畑。  収穫間際のたわわに実る大豆畑などを見たのが原因である。  そんな百面相をみていた菜緒虎は、ここ数年のマッサチン国での凶作と飢饉が予想以上に深刻であることを理解する。 「マッサチン国、ドラド辺境伯が家臣トライアルである。コジ・ソウキ騎士伯にお目通り願いたい」  白鷺城の巨大な城門の前で馬から降り兜を脱ぎトライアルが叫ぶ。 ぎぎぎぎぃ  木の大門が内側から開かれる。押し開いているのはストーンゴーレム。  トライアルは谷間にあった砦やこの城が短期間で出来上がった理由を察する。 「ようこそ使者殿。ソウキ騎士伯領にて筆頭家臣を務めますアルテミスと申します」  小ざっぱりしたローブに白い仮面を装着したアルテミスが小さく頭を下げる。 「顔に酷い火傷がありまして、仮面を付けておりますがご容赦を」 「かまわん」  トライアルが偉そうに許可する。  トライアルは部下3人とともに白鷺城の大天守2階にある大部屋に通される。 「ようこそ使者殿。ソウキ騎士伯領の領主リュウイチ・ソウキです」  一段高い所に設えられた椅子に座ていたリュウイチは、アルテミスが自分の右に立ったの見て声を掛ける。 「ドラド辺境伯爵が家臣トライアルである。コジ・ソウキ騎士伯は?」  精一杯の笑顔でトライアルは尋ねる。 「父は七年前に病死しました」  いきなりリュウイチが爆弾を落とす。 「ご連絡は差し上げたはずなのですが、返事を頂いたことは一度もなく…」  アルテミスがしおらしく付け加える。  そう言われると、トライアルはこれ以上は交渉することが出来ない。  一度、ドラド辺境伯の元に戻り、リュウイチと交渉していいのかとお伺いを立てる必要がある。 なぜなら、リュウイチと交渉するということはリュウイチをソウキ領の後継と認めることになるからだ。 「トライアル殿の事情は解ります。我々の要求としては、リュウイチさまをコジさまの後継として認める。この一点です」  アルテミスはそういうとパンパンと手を叩く。  静々と、菜緒虎がお盆に乗った革袋、続くゴーレム4体が俵を担いで現れる。 「金貨100枚と麦の種子2俵に種芋2俵であります。リュウイチさまが爵位を得られた場合は同じ量をドラド辺境伯に」  そこでアルテミスは一拍ほど間を置く。 「返事はそう長くは待ちませんよ?」 そういってアルテミスは被っていた白い仮面を外しトライアルたちにその素顔を晒した。
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