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物心ついた頃から絵を描くのが大好きだった。動物、昆虫、電車や車、好きなヒーロー等、子どもらしく無邪気に好きなのものを描いていた。 ある日、保育園の行事で動物園に行き、2頭のツキノワグマを見た。その2頭は双子のように仲良くじゃれあっていた。 その時、何を想ってその光景を見ていたかまでは、はっきりと覚えていないけど、恐らくとても満たされた気持ちになっていたのだろう。保育園に戻り『動物園の思い出を描こう』と先生に言われて、迷わずあのツキノワグマ達を描いた。 別に、頑張る理由なんてないのに一生懸命に描いた。普段は使わない絵の具を使って着色だってした。出来上がった作品は、何とも言えない子どもの落書きだった。だが、当時の自分からするとよく出来たと手ごたえを感じる自慢の作品だった。その絵を満足そうに眺めていると先生に『上手だね』と褒めてもらえた。 それが嬉しくて益々絵を描くのが好きになり、どんどん描いていった。 その熱意はとどまる事を知らず、母親の誕生日に絵を描いてプレゼントした。無論、母親は大喜び。また自分の絵を褒めてもらえて、嬉しくてたまらなかった。 それで、もっと絵を描くことが好きになり、たくさんの絵を描いた。そして、絵を描いていく内に、世の中にはキラキラした素敵なものがたくさんある事に気付いていった。 そして、出会ったんだ。公園で。夕陽に照らされた最高の『 』に。 ──と、感銘を受けたせいなんだろうか。こんなに、虚しくて満たされない気持ちになり、苦しくても、絵を描くことから離れられないのは……。いや、離さないのは……。 ピピッ!ピピッ!とスマホのアラームが鳴る。まだ目が覚めきっていないぼんやりとした頭でスマホを探しアラームを停止させる。 「まだ……8時じゃん」 しばらくぼーっとしてから、ようやく思考がクリアになっていく。どうやら先程まで自分が見ていたダイジェスト映画は夢だったらしい。 幼い頃の絵を描くのが好きだった自分。夢で幼い日の自分を見てしまう事は昔からよくある事で大したことじゃない。ただ、公園の出来事まで見るのは決まった時だけ……またか。 「……あの頃は、楽しかったな」 つい溜め息を漏らしながら、枯れた発言をしてしまう。 ダメだ。そういう事を考えると負の連鎖始まってしまう。ここは、気持ちを切り替えていこう。ポジティブに!イッツ前向きマジック!……口に出してなくて良かった。 ところで、どうしてこんなにも朝早くにアラームが鳴ったのだろうか。今日は日曜だ。別に、朝早くに起きて出かける予定もないし、なんならアラームを設定した覚えもない。 ──ぐぅ。 腹の虫が盛大に鳴いた。 ここで、考えこんでいたってどうしようもないし、下へ降りよう。 自室を後にし、洗面所へと向かう。そして、洗面所で朝のブラッシングを終え、気持ち良くリビングに入ろうとした時、インターホンが鳴った。 リビングから玄関までは目と鼻の先なので、僕が出ることにした。 「はい。どちら様で──っ!?」 予想外の来訪者に驚き、言葉を失う。 扉を開けた先には一人の少女がいた。背は自分の胸元ぐらい。少し丸みを帯びた輪郭、あどけなさのある顔に、とろんとした瞳。髪型は毛先が肩にかかりそうなぐらいの長さのボブヘアーで、横の髪をヘアピンでとめ左耳を出し、前髪は目にかからないよう眉の少し下で合わせて整えている。そして、陽に照らされた黒髪は白く輝いていた。 何だろう、この胸の高揚感は。この子の髪がきちんと手入れされていて綺麗だからだろうか。それとも、この子の髪が僕の好みにベストマッチするせいだろうか……どっちも髪じゃないか。 いや、今はそんな事を考えている場合じゃなくて、何でこんな小さな子が我が家を訪ねて来たんだ!? 例え、コミュ力の権化の母さんだって、ここまで小さなお友達は作らないはず。 なら、小さな子どもが我が家のインターホンを鳴らす可能性があるとすれば……この辺りに住む友達の家と間違えたぐらいしか思いつかない。 ここは住宅地で家がたくさんある。もし初めて行くのであれば隣の家と間違えても不思議じゃない。 つまり、ただ家を間違えただけ。そうに違いない。 「あ、あの、ここ黒川さんのお家ですよね?」 「……はい、そうです」 僕の推理は儚く散る。この少女はまごうことなき我が家の来訪者だった。 「し、しし……ん……黒川さんの、息子さんですよねっ?」 「えっ、えーと……そうだけど」 浅草名物堅焼き煎餅のようにカチカチの表情でたどたどしく尋ねてくる少女。 声が小さくてはっきりとは聞き取れなかったけど、黒川さんの息子さんって僕の事だよね。うちはひとりっ子だし、あの両親に限って隠し子がいるとは思えない。 だから、そうだと答えたけど。どうして僕を知ってるんだろ……もしかしなくても前にどこかで会ってるのかな。 もし、そうだとしても。どうして僕か確認したんだろ?僕じゃないといけない理由があったり? と、ゆっくり思考したいところだが。その思考は一瞬で粉々に吹き飛ばされる事になる。何故なら──。 「あ、その……私を貴方の妹にしてくださいっ!!!」 「え……えぇっ!?」 頰を紅潮させた少女がモジモジしながら驚きの告白をしてきた。それを聞いて、開いた口が塞がらない。 嘘……だろ!?エイプリルフールはもう2週間も前に終わっている。もう嘘の免罪符はない。なら、これは嘘じゃないって?そんなあり得ない。 前世でどんな徳を積んだら、年端もいかない少女に『妹にしてください』って言われるんだ。 「………」 「あ、あのぅ?」 「はっ」 しばらくの放心の後、自分の頰をつねる。しっかり痛みを感じる。つまり、これは夢でも、妄想でもない。一瞬、ドッキリを疑ったけど、こんな心臓に悪いドッキリを仕掛ける非常識な知人はいない。仮にいたとしても外部の人間ではない。 しかし、今はそんな事より、これはまごう事なき現実という事の方が重要だ。そして、そんな可愛いらしい仕草で、そんな事を言われたら僕は……。 「取り敢えず、中で話そうか」 家族会議を開くしかないじゃないか。
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