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中学三年の5月の事だった。 霧島壮太はいつものように学校へ向かっていた。自転車に乗り、いつもの道を走る。風を切って走る感覚は気持ちよかった。もちろん、信号を無視したり、そんなことはしていなかった。 信号が青になり、彼は自転車をこぎ始めた。 次の瞬間、何かを考える暇もなく、目の前が真っ暗になった。ゆっくりとスピードをあげる感覚だけが嫌に残っていた。 ―――――――――――――――――――――――――― 目を覚ますと、そこには見知らぬ天井があった。 「ここはどこだろう?」 一人でそう呟いてふと右側を見た。自分に繋がれた医療器具を見て、更に状況が分からなくなった。 「壮ちゃん・・・・・・?」 左側から女性の声がした。今までに沢山聞いてきた、安心感のある声だ。 「壮ちゃん! 目が覚めたのね! ・・・・・・お母さんのことわかる?」 焦ったように喋りかける母に、僕は静かに首を縦に振る。そうすると安心したように母は泣き始めて、急いで携帯を取り出し、電話し始めた。おそらく父だろう。 そして母は涙を流しながら僕にこう言った。 「生きててくれてありがとう・・・・・・。ありが・・・・・・とう」 その時、僕は何となく察した。多分、事故にあったのだ。詳しい事は分からないが、大怪我だった事には違いない。 「とりあえず、ここの医者に色々説明してもらうことになってるから・・・・・・。呼んでくるね」 ―――――――――――――――――――――――――― それから十分くらい経った頃に、少し背の高めの医者が現れた。彼は見た目に反した優しい声で僕に話しかけた。 「体は大丈夫ですか? あまり傷は酷くなかったから動けたらいいんですけど・・・・・・」 その問いかけに答えるよう、寝ていた僕は体を起こした。 「大丈夫です。少しフラフラしますが」 「三日も寝込んでましたからね。他にどこか異変はありませんか? 頭が痛いとか」 「特にないです。多分、少ししたら元気になります」 「それなら安心です。ですが一週間は入院してもらいます。少し心配なことがあるので」 その医者は僕にそう言った。 寝すぎていたせいか、少しフラフラして頭が痛かったがそこまで問題ではなかった。 そして僕は彼に一番気になっていた事を質問した。 「・・・・・・僕って何があったんですか?」 医者は真剣な顔をして僕に応えた。 「・・・・・・霧島くんが横断歩道を渡ろうとした瞬間、徹夜の運転で疲れていたトラックが急発進して、事故が起こりました。はね飛ばされた霧島くんは頭を強打して気絶。そのまま救急車で運ばれて、治療され三日寝て今に至ります」 そして少し間を空けて言った。 「治療中、脳に異常が見つかりました。それがどうなっているかは分かりません。何か記憶が欠けてたり・・・・・・なんてことありませんか?」 考えてみたが、記憶が欠けてることは何も無かった。一週間前の出来事も三年前の思い出もしっかり覚えていた。 「多分大丈夫そうです」 「そうですか。それならまた何かあったら教えてください」 そう言って医者は部屋から出た。 ―――――――――――――――――――――――――― それから三十分が経った頃、僕はお見舞いの品があることに気づいた。 「これって・・・・・・」 大好きなアーティストのメモ帳だった。 『Mrs.adults』 一世を風靡した超大物アーティストである。 「誰が置いていったんだろう? ありがたいけど・・・・・・」 僕はそのメモ帳に何となく好きな曲の歌詞を書いた。 そうして暇になった僕は少し寝ることにした。 異変が起きたのに気づいたのは目が覚めてからだった。 「ここはどこだろう?」 見慣れない場所だった。少し薬臭い部屋だった。 「おぉ、起きたか。無事でよかった」 左側から男の声が聞こえた。それは父のものだった。 「母さんから事情は聞いてる。もう事故のこととか聞いたんだろ?」 僕は唖然としていた。僕は事故にあっていたのだ。知らない。そんなことは何も聞いてない。なぜなら僕は今起きたのだ。 「事・・・・・・故? 何の話・・・・・・?」 「聞いてないのか? 医者はしっかり説明したと言ってたぞ」 「医者って・・・・・・ここ病院なの?」 「何言ってんだ? 寝ぼけてるのか?」 分からなかった。父が何を言ってるのか。 そして僕は手元にあったメモ帳に目をやった。そこには好きな曲の歌詞が書いてあった。 「僕の字だ・・・・・・」 そこで僕は理解した。 僕は少しの時間しか記憶ができない。 後になって色々調べた結果、覚えていられる時間は三時間前後だった。 何も覚えていられない僕は、起きた全てのことをメモ帳に書くようにした。 ―――――――――――――――――――――――――― 退院後の生活は酷いものだった。 まず僕に襲い掛かってきたのはいじめだった。記憶できないことをいいことに皆、僕に嫌味を言うようになった。水をかけられたり、暴力をされたりもしていた。次第に関わることが無意味だと思ったクラスメートは、僕を無視するようになった。 そして僕は学校を休むようになった。 「早く高校に行きたい。早く静かに暮らしたい」 そんなことを思うようになった。 将来の夢は医者になることだった。中学三年の時点で軽く高校三年生までの内容は終わっており、親からも先生からも確実に行けるだろうと言われていた。 だが無理になった。仮に行けてもそれ以降、何も覚えられないのだから。 そして、少し遠目の高校を受験し、そこに行くことになった。 「これからは誰とも関わりたくないなぁ。もう・・・・・・静かに暮らそう・・・・・・」 そうして霧島壮太の高校生活が幕を開ける。
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