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 青い光を放つ魔法弾が複数飛んでくる。足に溜めた魔力でスピードを高め、それらを全て避けた。着地したところにナイフが飛んでくる。ギリギリで右に体を傾けた。しかし、直後に背中に鋭い痛みが刺さった。少し左に視線を落とすと、青く光る紐が伸びていた。一方は背後に、もう一方は蒼祁の右指先へと繋がっている。あたしはその紐を右手で掴み、蒼祁の方へ引いた。背中から鋭い異物の感触が抜けた。 「遅い」  蒼祁が一気に距離を詰めてくる。あたしは紐を握ったまま右腕を水平に、右へと振った。紐に繋がれたナイフは蒼祁の首元をかすめるが、同時に左腕を蹴られた。何とか銃は手離さなかったが、間近で魔法弾を放たれた。体が後ろへ吹っ飛び、地面を転がる。 「魔法はちゃんと使うようになったか。まさか、それが出来たからって俺に勝てると思ったか?」  起き上がり、体についた土を払い落とした。蒼祁はこっちに歩いてきている。が、突然横に少し跳んだ。さっきまで蒼祁がいた場所には、手裏剣が刺さっていた。さらにいくつも飛んでくるが、蒼祁は全て避ける。 「六支柱と組んだのか。無駄なことを」  蒼祁が駆けてきた。再び足に魔力を溜めて逃げる。手裏剣もビュンビュン飛んでくるが、蒼祁は軽々しく避けた。蒼祁の目が一瞬青く光る。次の瞬間には、辺りの地面から青い紐がたくさん生えてきて、それらは落ちている手裏剣に絡まった。  そして一斉に、その手裏剣があたしに飛んできた。 「くっそ……!」  避けるために飛ぼうとしたが、突然あたしの周りに結界が張られ、手裏剣を全て弾いてくれた。一瞬蒼祁のものかと思ったが違う。六支柱の一人だろう。味方につけてやるなんて言われて半信半疑だったけど、どうやらホントらしい。 「ッ―――――――!」  結界が解かれたと同時に、蒼祁が目の前に飛んできた。反射的に、蒼祁の顔に銃口を向けてしまった。  ――――――――――パンッ 「あ………ッ……」  目の前で、蒼祁が硬直した。そして、ゆっくりと倒れていく。予想外のことで、あたしは混乱した。  蒼祁が、今のを避けられなかった? そんな………そんなわけない―――水平に上げていた左腕が震えている。銃口からは、かすかに硝煙が上っている。  ――――――――呼吸が、出来ない。  ウソだ………ウソだウソだ……蒼祁が死ぬなんて……だって蒼祁は………とんでもなく強くて……だから……だからッ………!  だから本気で殺そうとしたのに―――――! 「一瞬遅れたぞ?」  背後から声がした。振り向こうとしたが、後ろから左腕を掴まれ静止させられた。顔だけ向けると、蒼祁のなに食わぬ顔があった。その顔を見て、驚きよりも安堵を感じた。 「蒼祁……⁈」 「本当はあんまり使いたくなかったんだけどな」  直後、周囲に結界が張られた。飛んできたたくさんの手裏剣は、それに弾かれ地面に落ちる。  あたしごと………手裏剣の餌食にするつもりだったの……? ついさっきまで味方でいてくれたくせに……。 「見付けた」  左腕を掴む手が離れたと同時に、風が吹いた。背後には既に蒼祁がいなかった。辺りを見回してもどこにもいない。  唯一、目の前に《蒼祁の体|・ ・ ・ ・》が転がっているだけだった。  あたしはそれに近付き、髪で隠れている顔を覗きこんだ。たしかに蒼祁の顔だったが、鼻根の辺りに空いた小さな穴からは、血も何も流れてなかった。 「人形………?」  ちょうどその時、六支柱の男の子が屋根の向こうから飛んできた。傷だらけの体を思いっきり地面に打ち付け、ぐったりと横たわったまま動かない。続けて女の子も落ちてくる。女の子は、心臓付近に大きな穴を空けていた。地に落ちると、大量の血を流し始める。途端に鉄のにおいが漂ってきた。 「よし。コノハを取りに行くか」  蒼祁が男の子の傍に着地した。その顔や白いコートには、真っ赤な血がこびりついている。スタスタと歩いてくる蒼祁に、あたしは銃口を向けた。 「何してんだ。コノハを取り返さなくていいのか?」 「うるさい……! 蒼祁が生きてたらコノハは殺されるんだよ!」 「だからその前に取り返すぞ」 「そんなのムリだよ! あっちがコノハを持っている限り、すぐに折られるに決まってる!」 「じゃあなんでさっき躊躇った?」  蒼祁は止まることなく歩いてきた。わざと自分の額に銃口を当て、鋭くあたしを睨んでくる。 「お前が撃つのを躊躇ったから、俺は分身を作って容易に避けられた。なんで躊躇った?」 「そっ……それはっ……!」 「俺を殺すつもりは無いんだろ?」  ぐいっと蒼祁の顔が近付いた。青い瞳に、あたしの顔が映っている。その顔は、困惑と恐怖で凍り付いていた。ガタガタと左腕が震える。 「そんなことないッ―――――」 「殺すならもっと本気で殺せよ。《あいつら|・ ・ ・ ・》を殺したみたいに」 「ちっ……ちがっ……! あの時は本気でなんかっ……!」 「本気で殺したじゃんか。生き残る為に」  なんで………⁈ なんでこんなことに……! コノハッ………! コノハどこッ……⁈ コノハァッ!  ねぇ、蘭李。どうして、ワタシを殺したの?  友達なのに。 「あぁああああああぁああああああぁああああああぁああああああぁああああああッ!」  手から銃が滑り落ちた。あたしはその場にしゃがみこみ、頭を抱えてうずくまる。  脳裏に《あの子|・ ・ ・》がこびりついて離れない。血を流すあの子が、あの時の姿のままこっちを見ている。他の《みんな|・ ・ ・》もあたしを見ている。なんで殺したんだと怒っている。もっと生きたかったと泣いている。  そんなの当たり前だ。だってあたしがみんなの未来を奪ったんだから。笑って語っていた未来を、一発で奪ったんだから。  ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……! 「誰もお前を恨んでねえよ」  え…………?  顔を上げると、蒼祁がいた。しゃがんで、あたしの顔を覗いている。いつもみたいな仏頂面で、だけど少し辛そうな表情を見せた。 「あの状況に陥ったら、誰だって同じことをする。それにお前が殺さなかったら、多分もっと多くの奴が死んでた。お前もそう思うだろ?」  《あの時|・ ・ ・》の蒼祁と朱兎も思い出した。二人ともかつてないほど大怪我をしていて、今度こそ死んでしまうのかと思った。  分かってる。みんな夢を諦めきれないでいた。  《だから|・ ・ ・》、《あたしの行為は正しかった|・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・》。きっと世界は、そう見なすんだろうなって思う。  でも………でもだからって……。 「銃を握ると思い出す………あの時のこと……みんながこっちに来る………怖くて、怖くて、死にたくなくて、だから、だから、あたしは、銃で……ッ……でもそうすると……みんなが怒って……泣いてて………!」 「そんなのお前のただの妄想だ。なあ、お前さ」  もし、《今の友達|・ ・ ・ ・》が銃でしか助けられなかったら、どうするんだ?  ――――――――――え? 「コノハもいなくて、魔法もろくに効かない。そんな敵に友達が捕まって、銃しか持ってなかったら。まさか見捨てるのか?」 「そっそんなわけっ……!」 「なら尚更、お前はこれから銃を使っていくべきだろ?」  蒼祁が立ち上がった。空を仰ぎ、満月をじっと眺めている。あたしはぎゅっと拳を握った。  ―――――ずっと、目を背けてた。  コノハが使えない時。あたしだけだったら、別に死んだってなんだっていいと思ってた。けどもし、ハク達に何かがあったら。ハク達を助けるために、銃でないと勝てない相手と対峙したら。  考えたくなかった。だから自分に言い聞かせていた。ハク達が負けるなんてあり得ない。ハク達は強いのだから。 「どうせ今まで逃げてきたんだろ?」  そうだよ。逃げてきたの。二度と銃を使いたくなかったから。分かってるよ、そんなこと……。 「その時になって後悔するのはお前だぞ」 「うん………」 「今のうちに慣らしておくべきじゃないのか?」 「うん………」  蒼祁がこちらを向いた。満月をバックに光る青い瞳は、なんだかものすごく神秘的に思えた。  蒼祁は、先のことを見据えている。頭がいいから、この先どんなことになるかなんて分かっているんだろう。  ………いや、あたしだって分かっているよ。今のうちに銃を使えるようにしておかなきゃいけないのは。 ハク達は優しいから、あたしのこと助けてくれる。でももしそんな時、ハク達に何かがあったら。コノハだけで太刀打ち出来るとは限らない。むしろ、銃の方が勝率がいいとさえ思っている。  分かってる………分かってたよ全部………逃げてきたんだ………こわかったから……思い出したくなかったから……。  ――――――間違って、ハク達を殺してしまうかもしれないから。 「何より今、お前の友達を助ける為に必要なんだぞ」  今……? 友達を助けるために……? 「………雷さんのこと?」 「ああ。助けてやれよ。お前の銃で」  簡単に言ってくれるよ。たとえパニックにならなかったとしても、あたしの技術が通じるかなんて分からないのに……。  するとあたしの心の声が聞こえたのか、蒼祁は小馬鹿にするように鼻で笑った。 「なにもお前一人でやれなんて言ってないだろ? 俺も手伝ってやるよ」 「………なんでそんなに気前いいの?」 「俺はいつも気前良いだろ。それに、光軍の奴らにいちいちちょっかい出されるのも面倒だしな」  ――――――この際、永遠に大人しくさせてやる。  蒼祁は妖しげな笑みを浮かべた。
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