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 勢いよく足を落とすと、雷は小さな呻き声を上げた。足に力が入れられ、彼女の腕を圧迫する。逃げようにも、彼女にその体力は残っていなかった。 「お前じゃ私に勝てない。一体何度言わせるんだ?」  朝陽は冷酷な視線を落とした。その父親の冷たい眼差しに負けじと、雷は彼を睨み上げる。しかし、状況が変わるわけではない。彼女自身も痛感していた。  ――――――やはり自分じゃ、父親に勝てないと。 「雷様!」 「いいメル……うちがやらなきゃ……」  離れて観戦していたメルも堪らず声を上げるが、決して助けに入らせてはくれなかった。朝陽がまたも足に力を入れる。 「雷。敵わないと分かったなら、早く降参するべきじゃないのか? 無駄な足掻きなど、時間と労力が勿体無い」 「無駄じゃない……!」 「目を背け続けるのもいい加減にしろ」  朝陽は足を離した。次の瞬間、その場に膝をついて雷の胸を掴み上げた。 「お前も自覚しているだろう。私にも、六支柱にも勝てないということくらい」 「……ッ………」 「現実を受け入れないのはただの馬鹿だ。違うと反発し続けたところで、何かが変わるわけではない」 「その通りだな」  メルの背後から声が木霊する。全員そちらに振り向くと、襖を開けて蒼祁と蘭李が現れる。その姿に、雷は特に驚いた。  同時に、朝陽の背後の襖から、卯申と共にいた六支柱の一人『|未丑《みうし》』が静かにやって来た。朝陽は雷を離し立ち上がる。未丑が朝陽に耳打ちをすると、彼はおもむろにコノハを見せつけた。 「どうやら貴様は魔具を見捨てたらしいな」 「ちがう……コノハも返してもらう!」 「それは不可能だ」 「不可能じゃねぇよ。俺がいる」  蒼祁が朝陽を睨んだ。朝陽も彼を睨み返しながら、コノハの柄を掴んだ。少しだけ鞘から出し、それを未丑に向ける。未丑は太刀を取り出し、大きく振りかぶった。蘭李は慌てて銃を構えた。発砲と同時に太刀が振り下ろされる。 「………⁈」  ゆっくり倒れていく未丑。彼の周りには結界が張ってあったが、顔の辺りには小さな穴が空いていた。未丑の顔は驚愕で満ちており、彼の握る太刀はギリギリでコノハには届かなかった。未丑が畳に倒れたのを眺めながら、朝陽はギッと蒼祁を鋭く睨む。 「貴様……ッ!」 「結界は壊せないと思っただろ? 残念だったな」  蒼祁が勝ち誇ったように笑った。蘭李は朝陽へと駆けていく。朝陽はコノハを鞘に戻し、着物の袖から銃を取り出した。それを、目の前に来た蘭李に向け発砲する。しかし弾は虚空を貫いた。 「なッ……⁈」  彼の後頭部に当てられた硬い感触。朝陽にはとても信じ難かった。彼は静かに両手を上げ、コノハと銃を落とす。  そう。彼の後頭部に銃口を突きつけていたのは、蘭李だった。  嘲笑を浮かべる蒼祁は、得意そうに言葉を発した。 「お前が蘭李に渡した銃は信用ならねぇからな。俺の持っていた無属性弾を入れたんだよ」 「チッ……」 「その反応を見ると、やっぱり無属性弾ってのはハッタリだったんだな。変えといて正解だな」  蘭李は小刻みに震えているが、先程よりは落ち着いていた。雷とメルも彼女に驚いている。朝陽は再び蒼祁を睨んだ。 「………とんだ隠し玉だな」 「図らずもな」 「貴様の思惑ではないのか?」 「まさか。そいつが勝手にこんなことにしたんだよ」  朝陽の足元の畳から、青い紐のようなものが生え、それはコノハと銃に巻き付いた。そのまま蒼祁の所へと伸びていき、彼はそれらを握る。紐は畳の下へと消えていった。朝陽は小さく舌打ちをする。 「……相当注意深く隠していたようだな」 「だそうだ蘭李。良かったな」 「………結局バレたけどね。誰かのせいで」  蘭李は銃を構えたまま、深呼吸をした。汗も少しだけかいている。蒼祁とメルの元へ歩んだ雷は、不安な視線を彼女に送っていた。 「あたしだってホントは使いたくなかった。でも、使わなきゃいけないんだって。これで雷さんとか、みんなを助けられるなら、使わなきゃいけないって思って……」 「思ったんじゃなくて言われたんだろ。俺に」  鋭い黄色の視線が蒼祁を貫く。彼は薄く笑い、ひらりと右手を上げた。 「まあこの話はどうでもいい。天神朝陽。残念だったな、俺を殺せなくて。蘭李を使って殺すつもりだったんだろうが……調査不足だな」 「………たしかに、そう認めざるを得ないな」 「一つ訊く。何故、このタイミングだった?」  朝陽は嘲笑の表情を浮かべた。しかし答えることはしなかった。蒼祁は息を吐き、腰に手を当てる。 「まあいい………さて。お前が永遠に、俺達に手を出せないようにしてやる」  蒼祁はコートのポケットから、何かを取り出した。それは淡い青の光を放つ石だった。 「これが何だか知ってるか?」 「…………知らないな」 「魔導石だ」  そう言われても、ピンとこない朝陽。彼だけでなく、雷やメルも知らない様子だった。唯一、蘭李だけは辛そうな表情を見せた。 「魔導石……?」  雷が蒼祁を窺う。彼は雷とメルに『魔導石』を見せた。 「どんな属性魔法も特殊魔法も使える、全能性を持つ石だ」 「何だと……?」 「まあ普通、知ってるはずがないんだがな。これは『あの学園』に在籍してないと分からない」 「学園………?」  蘭李の震えが、少し大きくなった。朝陽は背後に視線を移し、しかしすぐに蒼祁の方へと戻した。蒼祁の持つ魔導石が、青く輝き出す。すると彼の髪の色が、石と同じ青色に変化した。 「そこまで詳しく教えてやるつもりはない。ハッキリ言って、これが認知されたら世界が滅茶苦茶になりかねないしな。だが、今回だけは使わせてもらう」 「………何をする気だ」 「お前に束縛魔法をかける」  蒼祁がスタスタと歩き出す。朝陽の前に立つと、強張った顔の彼に右の手のひらを突き出した。 「束縛魔法は知ってるよな?」 「相手を肉体的にも精神的にも束縛することが出来る、かなり強力な異形魔法か」 「そう。特殊魔法の魔力者程、使い手のいない異形魔法。だが魔導石があれば、そんなものは楽勝だ」 「そんな馬鹿な話があるか」 「あるんだよそれが。俺も初めは驚いたが、事実なんだから仕方ねぇ」  蒼祁と朝陽は睨み合う。互いが互いを探っていた。  しばらくの沈黙の後、朝陽が深い溜め息を吐いた。 「降参だ。にわかに信じがたいが、本当なら面倒なことこの上ない」 「賢明だな」 「今後一切、貴様らに手を出すのは止めよう」 「タダでは信じねぇぞ」 「なら、四神に誓ってやろうか?」  蒼祁は目を細めた。 『四神』とは、四方を司る神のことである。絶対的な中立である彼らの前で嘘を吐くことは許されず、その掟を破った者には天罰が下る。魔力者ならば、誰もが知っている存在だ。 「………フッ。まあいい。信じてやろう」  蒼祁が手を下ろした。髪の色も、もとの黒色に戻っていく。魔導石をコートのポケットにしまい、腕を組んだ。 「どうせ手を出したところで、お前らに俺を殺すことなんて出来ないしな」 「…………いずれ必ず、貴様らを殺す」 「無理だ。蘭李と朱兎を殺せても、俺を殺すことは出来ない」  蒼祁は蘭李に、戻って来るように言う。彼女は銃口を朝陽に向けながら、雷達のもとへ歩く蒼祁の後を追った。  そして部屋を後にする彼ら。姿が見えなくなったところで、雷に似た顔立ちの女子が突然、朝陽の背後からにゅっと顔を出した。 「いいの? 帰しちゃって」 「ならお前は奴らを殺せるか?」 「無理」 「なら訊くな」 「だって……あんまり潔いから」  突然、朝陽が太刀を抜いて畳に突き刺した。キリキリと柄を握りしめ、蘭李達の出ていった先を鋭く睨み付ける。 「必ず殺してやる……! 神空蒼祁……!」  彼の言葉には、明確な殺意がこもっていた。
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