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「ハク~~~~~! よかったよぉおおお~~~~!」 「死んじゃうかと思ったよーっ!」  両サイドから抱きついて泣きじゃくるのは、蘭李と雷だった。二人とも、病室に入ってきてからずっとこんな調子だ。いくら「離れろ」と言っても聞きやしない。もう私も諦め、されるがままになっていた。  海斗はともかく、眺めている紫苑と槍耶も、苦笑いをするだけで二人を止めようとしない。まあ二人がこいつらを止められるわけもないか。  しかしついに痺れを切らしたのか、健治が雷の肩を叩いた。 「二人とも、そろそろ離れて? 早く本題に入ろう?」 「友達との感動の再会を邪魔しようっていうの? 健治」 「ハクは生死をさ迷って帰還したんだよ? 嬉しくないの? 健治」  冷たい視線×二を浴びせられる健治。その視線に負けたのか、健治は萎縮し、笑いながら一歩下がった。大人が情けねぇなあ……。  溜め息を吐き、私は蘭李の腕を指先でつついた。 「私も本題聞きたいから離れて」 「ハクが言うなら」  やけにアッサリ離れる二人。あれっ、意外と軽かった。なんかちょっと悲しい……。  六支柱との戦いの後、私はどうやら二日間眠っていたらしい。坂から落ちた後の記憶が全くないから、あんまり実感はないんだけど。  それで、今朝起きた私と初めて会ったのは、秋桜だった。そこから蘭李に伝わり、蘭李から皆に伝わり、放課後に皆が来てくれたというわけだ。ついでに言うと、蘭李から貰った学校のプリントの中には、見たくもない数式の書いてあるのもがあった。燃やしてもいいだろうか。 「で? 本題って何?」  私が尋ねると、皆蘭李の方を向いた。蘭李は緊張したような面持ちで、スクールバッグの中を漁った。そして、取り出したのは一丁の銃だった。 「みんなにちゃんと言っとこうと思って……。あのね、この前蒼祁が言ってたように、あたし……銃が使えるんだ」  驚きはしなかった。いやそりゃ驚くけど、この前言ってたし、慣れない武器で戦った時様子がおかしかったし、薄々そんな感じはしていた。  それよりも、なんで黙ってたのかっていう方が気になる。蘭李っていつも海斗に「弱い」って言われてるじゃん? だから、他の武器が使えたら積極的に使っていきそうだと思って……。  蘭李はチラリと横目をやった。その先には、仏頂面の蒼祁。 「蒼祁に教えてもらったの。昔、とある短期の学校に行ってた時に」 「短期の学校?」 「うん。夏の間だけ」  へえ……それは意外。そこでってことは、魔法学校みたいなもんなのかな。 「蒼祁が言うにはね、あたし射撃の才能だけはあるんだって。たしかに、銃を使うとみんなと渡り合えた。それが楽しくて、たくさん練習したし……。だけどある日、事件が起きちゃって………」  蘭李の顔が曇った。蒼祁はともかくとして、朱兎もピタリとニコニコ顔を止めた。それだけで、深刻なものなんだと分かった。私達もつられて真剣になる。 「複雑だから簡単に言うと、みんながみんなでなくなっちゃったの」 「………操られたとか?」 「うん……まあそんな感じかな。とにかく、みんながおかしくなっちゃって、あたしや蒼祁達は大丈夫だったんだけど……」  皆話に注目していた。蘭李が少しの間を置くと、辺りに沈黙が流れる。深呼吸をして、蘭李は口を開いた。 「みんなが、あたしに襲いかかってきたの。あたしは正気のままだったから……」 「ゾンビみたいなものを想像しとけばいい」  蒼祁の補足説明が入った。  ゾンビか………なるほど。何となくイメージがついた。有名なゲームの印象が強いけど……。 「その時コノハが近くにいなくてさ、蒼祁と朱兎もいなかったし………だからあたし、死にたくなくて、銃でみんなを……殺したの……」  語尾は震えていた。今にも泣きそうな蘭李だが、必死に堪えて言葉を綴る。 「みんなも魔力者だから罪にはならないって蒼祁は言った。でも、罪悪感しか残らなかった。自分が生き残るためにだけに殺した。絶対みんなはあたしのこと恨んでるって。そう思わずにはいられなかった。だからもう二度と、銃を使いたくなかった……」 「そんなこと魔力者にはよくあることだって何回も言ったんだがな」  沈黙が降りる。声はかけづらかった。  たしかにそうだ。魔力者なら、殺人をしていても不思議じゃない。私は無いけれど、モノノケとか幽霊なら沢山消してきた。  だけど蘭李は、家系が家系なだけに、余計ショックが大きかったんだと思う。しかも知り合いを殺したんだ。私だってしばらく立ち直れないと思う。 「何度も後悔した。あたしが死ねばよかったって。でも死ねない。死ぬのはこわい。みんな責めてくる。なんで殺したって―――でも……でもさあ! あたしだって死にたくなかったんだ! だから殺したの!」  蘭李の叫び声に、一瞬空気がはりつめた。蘭李は眼に涙を溜め、その場にしゃがみこんだ。 「最低な人間だよ………分かってる……」  蘭李の背負うコノハが、ぶるぶると震えている。何かを訴えているのだろうか。しかし蘭李は出そうとしなかった。 「ごめん………みんな………助けたかった……でも方法が思いつかなかった………みんな恨んでるよね……死にたくなかったよね……ごめん………本当にごめんなさい………」  小さな声で泣きながら謝る蘭李。そんな姿を見ていて、何だかこっちまで胸が苦しくなってきた。  蘭李はその「事件」からずっと、こんなことを思いながら生きてきたのか。普通の家庭だから、特に何の問題もなく生きてきたと勝手に思い込んでいた。そこに関しては、物凄く謝りたい。 「………ねえ、蘭李」  雷が蘭李の頭をちょんちょんと指先でつついた。蘭李は立ち上がり、涙を拭って雷を見る。 「恨んでるって、みんなに直接言われたの?」 「え………? いや……言われてはないけど………」 「じゃあきっと、みんな恨んでなんかないよ」 「え―――――?」  唖然とする蘭李。充血した目も、かなり動揺している。雷はニッと笑った。 「だって、操られたようなことになったんでしょ? てことは、悪いやつは操ったやつじゃん。それに操られたままなんて、そっちの方がよっぽど辛いよ」 「たしかに……それは言える」  私も雷に賛同した。蘭李がこっちを向く。 「操った犯人を倒してくれるならそれが一番だけど、それが出来なかったら、むしろ殺してほしいと思うかな」 「なんで――――――⁈」 「だって、その状態で友達殺したくないし。だったら正常なままの方に生きててほしいでしょ」  蘭李は、あっけらかんとしてしまった。きっとこいつは、考えたこともなかったんだろう。《操られた方の気持ち|・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・》なんて。  ――――――実は私も、一度だけあったりする。《操られたことが|・ ・ ・ ・ ・ ・ ・》。  ……………この話はやめよう。 「紫苑達もそう思うでしょ?」  雷は男子達を見た。海斗は何の反応もしなかったが、槍耶はコクりと小さく頷く。 「俺、六支柱との戦いで洗脳されたんだ。その時海斗と戦ったんだけど………終わった後に思ったよ。海斗を殺さなくて本当に良かったって」  チラリと横目で海斗を見ながら、槍耶は語った。それから蘭李に向き直る。 「操られて友達を殺してしまう方が、よっぽど悲しいよ。だから、そうさせなかった蘭李の行動を恨んでる奴はいないと思う……かな」  再び涙を流し、ポタポタと床に滴を落とし始める蘭李。いくら堪えても拭っても、涙はとめどなく溢れ続けた。 「みんな………怒ってないかな……?」 「怒ってないよー」 「恨んでないかな………?」 「そんなわけないよ」 「うっ…………うわああああああああああああん!」  蘭李はわんわんと泣き始めた。小さい子供のように、大きな泣き声を上げて泣き続ける。朱兎がてくてくと歩き、心配そうに蘭李の頭を撫でた。  ずっと不安だったんだろうな。家族に言えるはずもないし。それなら、私達に言ってくれても良かったけど……。  ――――――ああ、言えなかったのかな。《仕方無く|・ ・ ・ ・》魔力者を殺したとしても、結局「殺人」を犯したことに変わりないから。 「………ごめん」  やっと泣き止み、蘭李はティッシュで鼻をかんだ。涙も拭い、黄色の眼差しを向けてくる。 「それでね、あたし………これからはちゃんと銃を使うね。今まで目を背け続けてきたけど……これでみんなを助けられるなら、助けたい」  蘭李の持っている銃に視線を落とす。黒い拳銃は、蘭李の左手にピッタリと収まっていた。 「だから……その……今まで隠しててごめんなさい」  ペコリと頭を下げる蘭李。なんだか珍しい光景で、思わずクスリと笑ってしまった。 「お前が謝るなんてなあ」 「あ、あたしだって謝る時は謝るもん……!」 「謝るならメイド服着て謝ってほしいなー!」 「それだけは絶対やだ!」  そうして話は終わった。双子と健治は先に帰宅し、残った私達は、天神家での話を雷からざっと聞いた。 「お父さんはああ言ったけど、鵜呑みには出来ないよね……」 「そうだな。やっぱりもっと俺達も、強くならないと」 「強さだけじゃ足りないと思う」  雷の言葉に、私達は注目した。 「うちらは無計画すぎたんだ。もっと準備して戦わないと」 「たしかに……魔法道具は何かしら持っておくべきだな」 「だから言っただろ」  海斗がフンと鼻を鳴らす。眼鏡越しに青い瞳を光らせた。海斗……そんなこと言ってたっけか? 「前「治療薬くらいは持っておいた方がいい」って忠告したのに、お前ら「いらないよそんなの! 攻撃こそ最大の防御だから!」とか言って全く話聞かなかっただろ」 「えっ、えー? そんなことあったっけー?」 「言った。初めて会った頃くらいに」 「結構昔だな……」  海斗、まさかちょっと根に持ってる? いつも以上に不機嫌そうな顔してるし。 「でっ、でもまあ!」と、雷が苦し紛れの笑みを浮かべた。 「海斗の言ってたことは正しいってことで! これからは持とう!」 「だな。あとは購入の不安だけど……」 「夏さんのお店なら、何とかなるんじゃない?携帯用品ならそんなに危ない頼み事はしないと思う」 「そうだといいなあ」 「よーし! 早速行こう! 善は急げ!」 「えっ今からかよ⁈」 「雷さーん!」  病室から飛び出していく雷に、急いでついていく槍耶と蘭李。紫苑と海斗も、呆れ半分で出ていく。幽霊達も行ってしまったが、秋桜だけはここに留まっていた。 「秋桜は行かねぇの?」 「俺はお前についてるよ」 「………秋桜って、いつも私にばっかついてるよね」  私が言うと、秋桜はそっぽを向いた。  思い返すとそうだった。秋桜は、いつも私の傍にばかりいる。蜜柑や睡蓮が傍にいたことがあったかは覚えてないが、秋桜は必ずと言っていいほどいる。三人でそういう担当にしているのだろうか。しかし、何もない時でもよくいるし………。 「……………やっぱりお前、似てるよ」 「え?」 「何でもない」  似てる? 誰に? あ、まさか秋桜の時代の冷幻家に?そういえば、どんな人だか聞いてないな。 「ねえ、秋桜の時の冷幻家ってさ……」 「帰る」 「えっ」  秋桜はふよふよと、病室から出ていってしまった。  なんだよ。結局お前も行くんじゃんか。そして誰に似てるんだよ……気になるな……今度また聞いてみよう。  私はベッドに沈みこんだ。毛布をかけ、目を閉じる。ゆっくりと、落ちていくように闇の中へと意識が溶けていった。  昔の…………私は………―――――――――。  そこで、意識は途切れてしまった。  その時見た夢は、暖かな日差しが差す中、ただただ縁側に座っているだけの夢だった。 八話 完
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