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「794年に都を平安京に移した天皇は⁈」 「徳川家康!」 「違う! 桓武天皇!」  そう叫びながら、槍耶が《杖|じょう》を蘭李に突き出した。しかし、足に魔力を溜めた蘭李は軽々しく避け、槍耶の背後につく。槍耶に銃口を向けるも、土の壁が現れ悔しそうな顔をした。振り向いた槍耶から逃げるように、蘭李がトレーニングルームの中を走り回る。 「701年に大宝律令を制定した天皇は⁈」 「北条時政!」 「違う! 文武天皇! せめて天皇ってつく人物を言え!」  二人はそんな問答を繰り返しながら戦っている。メルは審判として近くでそれを観戦し、俺と健治さんは壁にもたれながら、朱兎はしゃがみこんで観戦していた。  蒼祁が提案したもの。それがこの戦いだった。ルールは簡単。槍耶は歴史の問題を出しながら、蘭李はその問題に答えながら戦う。ただそれだけだ。ただし蘭李の武器は銃のみで、かつ槍耶の足にしか当ててはいけないことになっている。もし仮に別の部位に当てたら、蒼祁に「貸し」を作るペナルティーを課せられている。それを数えるのが、メルの役目だった。  何故足だけにしか当てちゃいけないのかは分からないけど、あの人のことだ。きっと何か理由があるのだろう。  パン、と発砲音が響いた。もちろんエアガンだが、弾は足には当たらなかったらしい。 「蘭李様、これで貸し五です」 「いやだああああ! あいつに貸し五個も作りたくないいいいいい!」  蘭李が叫びながら槍耶から逃げ惑う。その間に問題を出されたが、やっぱり答えは間違っていた。  蘭李より、問題を出しながら戦う槍耶の方が凄いなあ。俺ならそんなにポンポン浮かんでこないよ。 「紫苑は勉強しなくていいのかい?」  隣にいる健治さんが呟いた。しかし、目は蘭李達の方へ向けられている。俺もそっちに視線を戻して口を開いた。 「一応ちゃんと勉強してたから……」 「計画的だね。良いことだ」 「蘭李ー! がんばれー!」  朱兎の応援と同時に、再び発砲音。しかし今度は槍耶が撃ち、弾は蘭李の胸に当たったらしい。蘭李は逃げるように跳び、槍耶からの問題に答える。  銃を使い始めてから、槍耶は着実に命中率を上げている。槍耶だけじゃない。雷も、少しずつだけど弓の扱いが上手くなっている。白夜も海斗も、皆強くなっている。  この間の戦いから、気持ちの持ち構えも変わっていた。皆強くなろうとしている。今を変えようとしている。出鼻は挫かれたけど……。  なんか………凄いよな。あいつら。 「どうしたんだい? 悩みでもあるのかな?」  ハッと我に返ると、健治さんが俺の顔を覗き込んでいた。栗色の瞳は、俺を探るような視線を向けてきている。慌てて顔を逸らした。 「なっ、何でもない」 「………そっか」  完全に怪しまれている。だけど俺は何も言えなかった。誤魔化そうにも、何も思い浮かばない。  落ち着け俺……! 何を焦っているんだ……! 深呼吸、深呼吸………。 「それにしても、蘭李には驚いたなぁ」  健治さんが再び蘭李達に目を向けた。蘭李は相変わらず、問題に即答して間違えている。あいつ、考えてないようにも見えるんだが……。 「大会の時、もし銃を使っていれば賞金が……」 「はは……健治さんは本当にお金好きですね」 「お金は大事だよ。それさえあれば、何でも出来る。だから本来なら、安定した職に就くべきなんだけどね」  安定した職か………そういえば、健治さんって仕事してない……んだよな? 悪魔退治はしてるけど………何処かから報酬でも貰ってるんだろうか? 「君達はちゃんとした職に就くんだよ?」 「あ、はい……」 「何か将来の夢とかあるのかい?」  将来の夢………は、ハッキリ言って、無い。普通に生きるのかも、魔力者として生きるのかも考えてない。槍耶みたいに物凄く頭が良いわけじゃないし、海斗みたいに物凄く強いわけでもない。  そんな中途半端の俺は、何の仕事が出来るんだろうか? 「………まあ、まだまだ先のことだもんね」  沈黙していたからか、健治さんは薄く笑いながら「しょうがないね」などと呟いた。  ――――――そう。まだ先のこと。まだ分からなくても、良いはず――――………。 「ところで朱兎。君はどうやって蘭李と知り合ったんだい?」 「え?」  朱兎は真っ赤な目をまばたきさせた。突然で驚いているのか、唖然と健治さんを見上げている。健治さんは薄く笑った。 「紫苑だって気になるだろう?」 「まあ……たしかに気になりますね」  一番魔力者と縁の無さそうな蘭李が、最強と言っても過言ないような双子と知り合いなんだもんな。でもたしか前に訊いたけど、教えてくれなかったような……。 「あー休憩ー」 「疲れた………」  その時ちょうど、蘭李と槍耶が俺達の元に歩いてきた。汗をだらだらとかいている。蘭李は足元に座り込んだ。メルが飲み物を取りにトレーニングルームから出ていき、健治さんが二人にタオルを渡す。 「蘭李、案外大丈夫そうだったね」 「……とにかく、歴史の問題のことだけを考えるようにした。途中少しヤバかったけど」 「その割に一問も合ってなかったぞ……」 「だって勉強してないもん!」 「威張るな!」  えっへんと何故か偉そうにふんぞり返る蘭李に、疲れていてもツッコミを忘れない槍耶。ちょうどそこに、メルがタンブラーを二つ持って戻った来た。二人はそれを受け取り、勢いよく水を飲む。ある程度飲んだところで、健治さんが二人を見た。 「蘭李。君はどうやって蒼祁や朱兎と知り合ったんだい?」 「え?」  朱兎と同じような反応をする蘭李。そりゃそうだろう。蘭李は朱兎を見て、それから健治さんを見る。戸惑いながら、ゆっくりと口を開いた。 「………それは、蒼祁に訊いて」 「何故?」 「ちょっとシビアな話があるし……あたしから話すのは簡単だけど……二人がねぇ……」  再び蘭李が朱兎を見る。朱兎は笑っているように見えるが、何となくぎこちないように見えた。  シビアな話……この双子にも色々合ったのか……ま、そりゃあるか。あんなに強いんだもんな。 「そっか。分かった。今度蒼祁に訊いてみよう」 「まあ話さないと思うけどね」 「あの人、自分のこと話すの嫌いそうだよな」 「あー合ってる」  そう言いながら二人はタンブラーを床に置き、特訓を再開するため歩いていった。メルもついていき、健治さんは笑いながら手を振って見送る。俺は二人の背中を眺めていて、ふと思った。  皆、何かを背負って生きてるのか。過去の辛い何かを背負って………でも、それでも歩みは止めない。  それに比べて、俺は………。  ――――――あぁ、嫌だな。
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