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 色んな声が飛び交う中、ボールは女子生徒の背中に直撃した。その直後にホイッスルが鳴り響く。ボールをぶつけられた女子はコートから出ていき、審判の先生はコート内にいる生徒の人数を数え始めた。 「勝者は一組です!」  その途端、一組の歓喜の声が上がった。相手の三組の子達は、悔しそうな残念そうな表情を浮かべる。どうやら、最後の女子が当たったのが敗因だったらしい。意外と接戦だったんだね。  今日は待ちに待った、風靡学院の球技大会の日だ。いや、実際そんなに待ちに待ってないけど。でもこう言ってないと「もっとやる気出さなきゃ! 楽しめないよ⁈」って健治にぎゃんぎゃん言われそうだから。ワータノシミダナー。  本来ならサッカーのはずだったんだけど、今日はあいにくの大雨だった。そこで変更して、体育館でドッジボール大会になったのだ。  正直嬉しい。だってサッカーなんて全然やったことないし出来ないもん。そもそも女子にもサッカーやらせるってどうなのって感じ。女子サッカーってたしかにあるけどさ……あたしは出来ないんです! 「紫苑は上手いなー」  隣に座っているハクが呟いた。あたしは「そうだねー」なんて言いながら、ちらりと目をやる。紫苑はクラスメイトと、笑いながらコートを後にしている。  紫苑は魔力者である以前に、普通に運動神経がいい。そのくせ割と頭もいいからちょっと殺意沸くよね。この前のテストだって「簡単だった」とか言ってたし……文武両刀とか恵まれすぎでしょ!  あたし達は立ち上がり、人の波に乗りながら階段を降りた。ここの体育館は、両サイドに……ギャラリーっていうの? そういう観戦出来る場所があって、試合してないクラスはそこにいることになってる。 「あたしら、二組と戦うんだよね?」 「そうそう。雷と海斗だよ」  そう。あたし達四組は、雷さんと海斗のいる二組と戦うことになっている。だからって「大切な友達に本気でボールぶつけるなんて出来ない~!」とかそういうためらいは無い。むしろあたし達の場合、友達しか狙わないことになると思う。「あいつを潰せ!」くらいの勢いだ。 「おー! 白夜に蘭李ー! よろしくねー!」  同じくコートにやって来た雷さんが手を振った。あたし達も手を振り返す。その雷さんの後ろを、海斗が素早く通り過ぎた。 「蘭李! 絶対勝つのじゃぞ!」 「応援してるね!」 「魔法使えないのは不便だなぁ……」  先祖三人が周りでふよふよと浮游してきた。  さっきドッジボールのルール説明したんだけど、結局ちゃんと理解したのかな? さっきまでは頭の上にクエスチョンマークが浮かんでたけど………まあいっか。  二組と四組の生徒が集合すると、ホイッスルが鳴らされた。コートの中央ラインに各クラスの代表の男子が来る。 「では………始めます!」  審判がボールを真上に投げた。代表の二人は狙いを定め、ボールへと手を伸ばす。先に触れたのは、クラスメイトの男子『峰岸』だった。峰岸は空中でボールをキャッチすると、着地と同時に二組の男子へと投げた。しかし難なくキャッチされ、こっちの女子へと投げてくる。一人に当たり、転がったボールをハクが取った。ハクは紫色の目を光らせる。その視線の先には雷がいた。 「オラアッ!」  勢いよく投げられたボールは、雷へと一直線に飛んでいった。雷はキャッチし損ね、ボールが宙を舞う。しかし、二組の男子にキャッチされてしまった。 「ハク惜しい!」 「チッ!」 「今当たったではないか! 何故あやつは出ていかんのじゃ!」 「そーだよお! 反則だよ!」  蜜柑と睡蓮がぎゃんぎゃん騒ぎ出す。やっぱりルール分かってなかったか……秋桜が説明してくれることを祈ろう。  ボールはコート内をびゅんびゅん飛び交った。当てたり当てられたり、でも二組も四組も約同数がコートに残っていた。あたしとハク、雷と海斗も残っている。 「おぬしの説明は分かりにくい!」 「アンタが理解しようとしてないからだろ!」 「お兄ちゃんお姉ちゃんけんかしないでよー!」  幽霊達がうるさい。せめてやるならコートから出てやってほしい。中央ラインのところでやられるとボールが見にくいんだよ! だからって声もかけづらいし……。 「いっつ!」  不意に、蜜柑の奥からボールが飛んできて、左肩に当たってしまった。ボールが前へと飛んでいく。あたしはすぐさま駆け出した。  まだボールは落ちてない……! キャッチ出来ればセーフ……間に合え……! 「―――――――ッ……!」  しかし、ボールは目の前で海斗にキャッチされた。流れるように海斗は振りかぶり、あたしを見下ろした。その目は深海のように青暗く、獲物を捉えたように鋭かった。あたしは瞬時に感じた。  ―――――――――殺される。 「ッ!」  やってしまった。そう思った時には既に遅かった。  あたしは魔力を使って、海斗の攻撃を避けてしまった。  コートのギリギリ端に着地する。ボールはあたしがさっきまでいた所を思いっきりバウンドし、二組の外野を越えて体育館の奥へと飛んでいった。静寂が漂う。みんな唖然としていた。ハクや雷は、焦ったような顔をしている。海斗は、あたしを睨んでいた。  ――――――やばい。どうしよう。明らかに不自然だ。コートの端から端を一瞬で移動出来るわけない。  魔力者は、非魔力者に魔法を見せないのが原則だ。魔法を知られてはいけない、というのが決まりになっている、らしい。だから基本的に、学校で魔法は使わないでいた。  のに………! 「海原! あいつはアウトになったからもう狙わなくてよかったんだぞ!」  静寂は、案外簡単に破かれた。二組の男子が海斗に笑いながら声をかける。それを機に、再び体育館は騒がしくなった。 「蘭李! 何やってんだよ!」 「ごっごめん……つい……」  ハクが駆けてくる。あたしはちらりと海斗を見た。海斗はクラスメイトと喋っている。そこに雷が駆け付け、何かを話した。  ………もしかして海斗、なんか怒ってる? この前のことで? ホントに殺されるかと思ったし……。  思わず、魔法を使ってしまうほどに―――それほどまでに、海斗から殺意を感じた。 「では、再開します」  あたしが外野に出て、再び試合は開始される。現状は人数的に、二組の方が優勢かもしれない。  早く誰かにボールを当てて内野に戻らないと……。 「白夜ーッ!」  突然、背後から叫び声が飛んできた。ビックリして振り向くと、大勢の人の中、体育館の入り口辺りで楽しそうに手を振っている青年がいた。紫がかった黒髪、顔の左半分は前髪で隠れているが、テレビに出ていてもおかしくないような整った顔立ちだった。どこかの学校の制服に身を包み、高身長がさらにイケメンさを引き立てている。  今日の球技大会は保護者も観戦しに来ることが出来る。だから生徒以外の人がいても不思議ではないんだけど……。 「頑張れーッ! オレが応援してるからねーッ!」  ――――――誰?  そりゃハクの知り合いを全員知ってるわけでもないし、だからあたしが知らなくてもおかしくないけどさ……。  内野にいるハクを見ると、心底嫌そうな顔をして目を逸らしていた。  あ………もしかしてあの人が、言っていた「嫌な奴」? 「げっ……なんでいるの……⁈」 「えっ? 雷さんあの人知ってるの?」  すぐ傍にいた雷まで嫌そうな顔をする。雷はこそっとあたしに話した。 「あの人、闇軍のトップの息子だよ。名前はたしか……そう、《影縫|かげぬい》《直人|なおと》」  ――――――………。 「ええええええええええッ⁈」  やっややや闇軍のトップ⁈ の息子⁈ ウソでしょ⁈ なんでこんなところにいるの⁈ 雷さんもいるのに⁈ 「白夜? おーい白夜ー! 聞こえてないのか……? 白夜ぁああああーッ! 頑張れぇえええええーッ!」 「うっせぇええええ! 聞こえてるわボケナス! 少し黙ってろ!」  ものすごい険相で怒鳴るハク。しかし影縫さんはよほど嬉しかったのか、満面の笑みでハクに手を振った。ハクは顔を青ざめながらボールを避ける。  な……なんかハクも色々大変そうだね……後で聞いてみよう。 「相変わらず白夜は可愛いな……照れちゃって……」  背後から影縫さんの声が聞こえる。いやあれは照れるというか、恥ずかしがってるというか、怒ってるような気がするんだけど……この人気付いてないの? とんだポジティブ思考――――――。 「そう思わないか? 華城蘭李」  ―――――――――――は?  唖然として振り向いた。影縫さんは不敵な笑みで、暗い紫色の瞳であたしを見据えている。急に緊張してきた。  なんでこいつ、あたしのこと………知ってるんだ? 「なんで知ってる……って顔だな」 「ッ………」 「知ってるに決まってるさ。あの戦争の時からな」  体育館は騒がしい。だけどこいつの言葉は、ハッキリと聞き取れた。頬を一滴の汗が伝う。  たしかに、戦争の後にあたしのことを調べていたって不思議じゃない。実際雷のお父さんだってそうだったんだし。  だけど………なんで今、このタイミングで……? 「安心しろよ。オレはアンタを殺そうとか捕まえようとか、そんなことは思っちゃいないさ」 「ならなんで……」 「アンタを勧誘しに来たんだ」  勧誘………? って、なんの………? 「華城蘭李。闇軍に入らないか?」  ――――――――――………え? 「今無所属なんだろ?」 「まあ……そうですけど……」 「なら闇軍に入れ。白夜もいるし。いいだろ?」 「えっ……いや、あの………な、なんで急に……?」 「戦力になるからだ」  影縫さんは鋭い視線を向けてきた。全てを見透かされているようで、少し後ずさってしまった。  戦力になるから……? わけがわかんない………あたしがいたっていなくたって、そこまで変わんないはずじゃん……。 「アンタ、『シルマ学園』にいたんだろ?」  こいつッ――――――――――! 「ガッ――――――――!」  刹那、ボールが背後から後頭部に直撃した。衝撃で頭が揺れ、思わずその場にしゃがみこんで頭を押さえる。  うぉおおお……! めっちゃ痛い………! 不意を突かれたとはいえ、まさかボールがこんなにも痛いなんて……! 「らっ、蘭李大丈夫?」  雷さんの優しい声がする。なんだか涙が出てくるよ………何やってるんだろうあたし……今は試合に集中しないと………。  むくりと顔を上げて立ち上がる。まだクラクラとするが仕方ない。あたしは振り向きざまに、影縫さんを睨んだ。 「………後で続きを話しましょう」 「だな」  影縫さんはニヤリと笑った。
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