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 ちょっと馬鹿な話をしよう。  余田桃華は今から佐屋拓真を、次に広瀬純を振る予定だ。  理由は簡単、弟分としては見られるけど彼氏として見られないから、そして純は言わずもがなだ。  放課後、誰もいない四階食堂前に拓真を呼び出し、桃華はこう切り出した。 「あのね、拓ちゃん。こないだはごめんね」 「えっ?」 「純にボロクソに言われたときのことだよ」 「ああー……あれは女子なら誰でも泣くから、大丈夫だよ、桃ちゃん」  まあ、そうかもしれない。純は全女子の敵だ、本来は。  桃華は拓真の手を取る。怪訝な顔をした拓真は、大人しく両手を差し出した。  左手がちょっとゴツゴツしてて、そう言えば拓真はギターをやっていたな、と桃華は思い出した。指先にちょこちょこ傷があるのはそのせいだろうか。桃華も大してギターには詳しくない、というか壊さないよう触ったことすらないので、よく分からない。その拓真の両手を、桃華は握ってみた。  大きすぎて桃華の両手からははみ出るが、けっこう華奢だ。あとハンドクリームを塗っている。桃華の手よりもすべすべかもしれない。  ——おっと、話が脱線するところだった。 「拓ちゃん、私、拓ちゃんのこと弟分だと思っててさ」 「弟分」 「そう。小学校のころから後ろくっついてきて、一緒に遊んで、桃ちゃん桃ちゃん言ってくれてさ」 「そだね。うん、そうだった」 「私が女子にはぶられてたころも遊んでくれた、大切な友達だと思ってるよ」  大切な友達。それは間違いない、拓真は桃華にとって大切な友達だ。  だからこそ、答えははっきりしておかなければならない。 「ごめんね、拓ちゃん。大切な友達だから、告白は受け入れられません。あと、純のほうも断るつもり。あっちは受け入れる理由がないからね」  桃華はそこもはっきりと告げておいた。別に桃華は純のことが好きなわけではない。何度謝られても、あの塩対応が変わらないかぎり、それはないだろう。  桃華はそっと、拓真の両手を離した。 「なーんだ、そんなことだったんだ」 「へ?」 「いいよいいよ、桃ちゃんから大切な友達だなんて言われるの、俺くらいだもんね! そのへん、広瀬先輩には勝ってる? 勝ってるよね!」  拓真はあっけらかんとしていた。心配した桃華が損したと思うくらい、明るい。 「っていうか、弟ならもう家族じゃない? 今までどおりで全然俺的には大丈夫だよ、桃ちゃん!」 「あーそうかも、って調子に乗るな!」 「痛え!」  桃華のチョップは拓真の頭上から額に当たる。頭の天頂に当てるつもりが、ちょっと距離が遠すぎた、身長差を考慮していなかった攻撃は意外と痛かったらしい。 「私はね、意を決して言ったの! 意を、決して、言ったの! まったくもう!」 「桃ちゃん、重ねて俺の心の傷をえぐらないで」 「あ、ごめん」  心の傷までできていたのか。桃華は謝る。 「うーん、でも桃ちゃん以外、今のとこ彼女にしたい女子いないしなぁ」 「拓ちゃんモテるでしょ」 「さー、どうかなー」 「案外近くにいるかもよ?」 「いても桃ちゃんほどじゃないよ」 「またまたぁ」  他愛ない会話。拓真の笑顔。桃華は、少し安心して——次に行くことを決めた。 「じゃあ、またね、拓ちゃん。今日は純をとっちめてやるから!」 「頑張って、桃ちゃん」 「頑張る!」  桃華は拓真を置き去りに、飛ぶように階段を降りていく。  男の子はそう簡単に泣かない。そんなことも桃華は忘れていた。   「純! 物申ーす!」 「時代劇かよ」  冷静なツッコミだった。  人けもまばらな純のクラスに乗り込んだ桃華は、荷物を整えた純に手を引っ張られてズルズルと実習棟のほうへと連れ込まれた。  純はもう桃華の用件が分かっているようで、先に話題を切り出す。 「こないだの答えだろ。三学期まで待つっつってるのに、相変わらずせっかちだな」 「善は急げよ! 大体、こんなもやもや抱えて三学期まで待てるわけないでしょ!」 「はいはい、それで?」 「告白はお断りします!」 「だろうな」 「あれ?」 「桃華、お前、彼氏作るのまだ早すぎ。そこんとこ、俺も分かってなかった」  ——あれれ? 何だか、話が違う方向に進みつつあるぞ?  桃華は戸惑う。一方、純は、ため息を吐いていた。 「俺がお前のこと好きなのは分かってるよな?」 「先輩に聞いたら、男子が女子を泣かせるのはそういうのの失敗例だって」 「荒井先輩とは後で話をするとして、俺はちゃんと告白したぞ」 「したね」 「条件が一つだけ、三学期までに答えを出してくれ、ってだけだったよな?」 「うん」 「そこで何でお前から結婚を前提になんていう条件出してくるんだよ」 「だって拓ちゃんもいたし、あ、さっき振ってきたけど」 「もったいねぇ……もうちょっと悩んでから振ってやれよ」 「悩んだよ! ちゃんと考えた結果だよ!」 「お前の悩むは十分くらいだろ」 「先輩との協議の結果ですぅー!」 「荒井先輩も共犯だな。後で拓真慰めてやれよ」 「じゃあ、サーティワンのアイス買ったげるね」 「そうじゃねぇよ」  何だか話が噛み合わない、桃華がそう思いはじめたころ、純はさらなる口撃を繰り出してきた。 「お前が誰を振ろうが振るまいがお前の自由だけどよ、何で拓真を振る方向に行くんだよ」 「だって拓ちゃんは弟分だし」 「分ってだけだろ、優良物件だぞ」 「あー、人をそんな風に言ったらいけないんだー」 「お前、今更だろ……そういうところが全然成長してないんだよ」 「どういう意味よ!」 「じゃあお前、告白した後OK出したらどうなるか分かってんのか?」  ——どうなるか。誘拐でもされるのだろうか。  しかし、今そんなジョークを言ったら本気で純が呆れかえることは目に見えていたので、桃華は黙る。 「ほらな。お子様にはお子様のお付き合いの仕方で十分なんだよ。拓真がちょうどよかったのに」 「私はともかく拓ちゃんのことお子様呼ばわりすんな!」  桃華は純の左向こう脛を蹴る。上履きで、もう少しでもっと上のところを蹴るところだった。 「うおぉ……!?」  純が向こう脛を抱えて、膝から崩れ落ちる。KO、やったね。  そして桃華は自分の鞄の取っ手を握り、ダッシュで階段のほうへ走って逃げた。  走りながら、桃華は叫ぶ。 「バーカバーカ! 純のアーホ!」  かくして、桃華は純と拓真の告白を無事お断りすることができた。  そのつもりだった。
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