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 コルンが敵チームのマナを仕留め、会場は熱狂する。  シンのチームにも、いい流れが来ていた。  まずは先手を取れた。ここからは追い詰めるのみ! 「サキ、一気にカタをつけに行くぞ。変身できるか?」 「おっと、もう行っちゃうのね。いいと思うわ。少々、変身の時間をくれる?」 「ああ、任せてくれ。しばらく俺とコルンで受け持つ。コルン、攻めより防御重視でサキの変身まで時間稼ぎだ」 「オッケー。連携で敵を回避していこう」  サキが後ろに下がり、シンとコルンのペアが前線組となった。  だが一つ、シンの頭には不可解な事があった。  仲間を1人失って圧倒的不利な状況。  なのになぜだ?メダロン、そしてチャンはなぜあんなに余裕がある?  今は考えても仕方ないか……?  この違和感はなんだ……? 「甘いぞ小僧。ワシの刃圏内は世界一危険じゃ。そしてお前さんの油断は死を呼ぶ……【螺旋剣】……!」  真正面からチャンが斬りかかって来た。まずは一旦この攻撃を裁かなければ。  シュンッ! 「フン。ちょこまかと避けおって」  チャンは痺れを切らしたように何かの構えをした。  ジャキン!  チャンの体全身から剣が出現する。  そのまま高速で自転し、突撃して攻撃するつもりのようだ。 「これぞ【螺旋剣】の真髄じゃ!」 「甘いなチャン!自転状態じゃ敵の位置把握はできないぜ!」  コルンは変身状態、シンはスピードに特化したトレース型、この2人なら避けられない訳がなかった。 「誰が自転だけと言ったんじゃ?回るのはワシだけじゃない」  自転だけじゃない……? 他の回転……まさか……! 「とっととくたばりな……【暗黒星雲】発動……」  その声の主は、いつの間にか頭上に移動していたメダロンだった。  自転しているチャンの周囲に黒い雲が現れる。  やがて放たれた星雲が動き出し、回転していく。  闇が立ち込めて、一気に視界が悪くなった。  シンは、すぐさまその特技の危険性を見抜いた。 「まずい!コルン、雲の中に入るな!」 「これは……中に入ったものを公転させて、毒雲でダメージを与えて、中心には刃を身につけたチャンがいる……! そういうことか!」 「まるで一つの危険な台風のようだな」  シンは比喩のつもりでそう言ったのだが、皮肉にもそれは現実となった。 「待って……?この星雲、拡大してない? それに回転速度も上がってる」  コルンの声が聞こえた時には、もう目前まで迫っていた。 「sari、緊急離脱だ!」 『了解』  バシュ!  シンは急いで後退する。  どんどん拡大し、俺たちの方に向かってくるのならば危機的状態だ。  いずれ、戦闘エリアの端まで追い詰められるだろう。上に逃げようにも、そこにはメダロンが待ち構えている。 「厳しいな……【竜巻斬撃】発動!」  本日二度目のこの特技。  こちらも風を起こし、少しでも対抗しようという考えだ。 「【火炎砲】!発動!」  コルンは火を放って攻撃する。それはシンの起こした竜巻と重なり合い、燃え盛る炎の風見鶏が完成した。  ゴォォォォォ……!  凄まじい音と共に、徐々に近づいてくる黒い台風。  だが、自転しているチャン自身も、このままではシン達の放った火炎竜巻が燃え移ってダメージを負う。  どちらが先に逃げるか、チキンレースの始まりだ。  ◆ 「勢いが強すぎる……!」  3分経ち、状況はシンチームの不利だった。メダロンは更に公転速度を上昇させ、シン達を潰しにかかってくる。 「うっ……変身状態でもここまで不利を貰うなんて……」  コルンの声は弱々しくなっていた。  もう後退はできない。  ボォォォ!  燃え盛る竜巻は遂に黒い台風と衝突し、もう誰にも手がつけられない。  あの特技を使ってもその直後にメダロンに潰されてしまう! 「ここまでかっ……!」  シンは静かに目を瞑った。 「いいえ、まだよ」  俺はこの声を知っている。  モーター音が少し聞こえ、肌でなにかが動く風を感じた。 「変身特技、発動! 【因果応報】! これがあなた達の……報いよ!」  顔に感じる熱が一瞬なくなったかと思うと、それはメダロン達の方に押し返されていた。  中心、つまり台風の目の位置にいたチャンは当然ながら大ダメージを負っていた。 「ムゥ……変身特技……か……後は任せたぞ……メダロン……」  バリンッ!!!  チャンはその場で力尽きた。復活型と言えども、あそこまで大きなダメージを受ければAIの破壊に繋がってしまう。 「ふぅ……残るは後1人ね」  ギリギリでまたもやピンチを救ってくれたサキが言った。  滲む汗と変身後の煌びやかなピンク色のボディがなんとも眩しかった。 「待たせたなメダロン。後はお前を倒してフィニッシュだ」 「雑魚にしては本当に良くやりおる……まさか、これを使う日が来るとは……」  これ?使う?  全く意味がわからない。この状況を打破できる特技なんて…… 「一ついいことを教えてやろう……ここまで戦った褒美だ。お前も気づいているだろうが、我々と貴様らの特技は全く違う。お互い見たことのない特技の方が多い……」 「確かにそうだね」  コルンが同意する。 「だが、それは当然なのだ……我々は、正規ルートで改造手術を受け、アーティーになった人種ではない……」 「正規ルートじゃない?じゃあ、どうやってアーティー改造手術を受けたわけ?」  今度はサキが反応した。 「お前らガキは知らない世界だ……社会の影、裏、底辺、吹き溜まり。そんな所で生きてきた者はそうなる……闇医者ってやつさ……そうすれば必然的に、一般に流通しているアーティーとは全く違う特技や戦闘タイプが生まれやすい……我々からしても貴様らの特技は珍しいのだよ……」 「だから見たことのない特技ばかり持っているのか。だが、それがどうした? まだ勝ち筋があるとでも言うのか?」  シンは勝ちを確信してやまない。 「フフ……それは貴様らの想像にお任せしよう……しかし一つ言っておくなら……あまりに残虐で人道的でない特技は、開発も所持も法律で禁止されている……だが我々にはそんな法はない……」 「なんだと……?」 「そして、その能力の発動条件は……自分が指定した2人のアーティーのAIが破壊されること……コピーAIだろうが何だろうが満たされる……」  シンは背中に寒気を感じた。  これほどまでにメダロンが余裕だった理由。  あそこまで強いマナとチャンを従える訳。 「もう既に終わってるんだよ、お前の勝ちは……」  なんだ?! なにが起こると言うんだ?! 「私を改造した闇医者は言っていた……闇の改造でアーティーとなった者のAIは、普通には変身状態にはならないと……他の闇アーティーの亡骸……それを踏み台にして初めて変身状態に入る……」  ドクン……ドクン……  シンは、自分で自分の心臓の音が聞こえるほど、かつてない恐怖に襲われていた。 「2人の仲間を犠牲に特殊変身だと……? じゃあ、チャンとマナが脱落したのは……」 「そう……今、この時、この瞬間のためぇ! これこそ我が完全体! はぁぁぁぁ!」  周りの空気がビリビリと震えだした。  観客は皆、息を呑んで見守る。  力を溜めているメダロンに攻撃を仕掛けようにも、そのオーラで近づくことはできない。  バチバチッ……!  変身まで数秒とかからなかった。今までの何百倍も恐ろしさを感じるようなアーティーが、そこにいた。  全身のパーツが黒色で、周りには紫の靄がかすみ立っている。  特に防御力が数段アップしていそうだ。  ボワーン……  聞いたことのない音がする。  少し顔を上げると、視界に入ったのは、さっきまで見ていたメダロンではなく、コルンとサキだった。  だが、いつもの2人ではない。  目を見てみる。  いつもは黒目であるはずの部分が、真紅に染まっている。  ザッ!!!  突如として、サキが攻撃を仕掛けてきた。  シンは全く理解できず、上手く避けられなかった。 「何?! どうしたんだサキ?!」 「対象 確認 抹殺 します」  いつもの口調と異なっている。まるで、AIが喋ってるみたいだ。  続けて、ホーミング弾が飛んできた。  シンの悪い予感は当たった。  コルンからの攻撃だったのだ。 「コルンまで?!どうしたんだよお前ら!」 「対象 に 銃撃 開始 します」 「フハハハハ……どうだ?仲間に裏切られる気分は……」  これがメダロンの切り札……!  どうりであそこまで余裕綽々なわけだ……! 「てめえ……2人に何をした……!」 「言っただろう……私とお前は同じトレース型でありながら、全くの対軸を生きているのだ……」 「人道的に許されない事ができる、か。やっと分かったぜ」 「そう……これが私の変身特技、【洗脳】……2人の自兵を失う代わりに、王は敵兵2人を捕虜とするのだ……」 「くっ……なんてぶち壊れた特技だっ!」  サキとコルンからの攻撃は止まない。今こうして、メダロンと会話しているうちにも、シンは追い込まれているのだ。 「行け……サキ、コルンよ……シンのAIを破壊しろ……!」 「「了解」」  2人の勢いはさらに増してくる。  それに加え、メダロンも腕を剣に変形させて加担してきた。  やられるのも時間の問題か……ならば! 「特技発動! 【瞬間移動】!」  シンがひたすら隠し続けた三つ目の特技だ。だがこんな状況では、もはや隠す意味など皆無に等しい。  メダロン達とは反対方向に移動し、攻撃を避ける。 「小賢しい……さっさとリタイアすればいいものを……」  今のメダロンは明らかに苛立って見える。  シンは、なにかの違和感を感じた。 「早く終わらせろ……時間の浪費は嫌いだ……とことん使えん奴らめ……」  サキとコルンからの襲撃は相変わらず絶えないが、シンも何とかして逃げ回る。  それを見かねたメダロンが、少し動きだした。 「やはり王とは1人……独裁で十分ということか……クク……はぁぁぁ……」 「なんだ? なぜまた力を溜めだして……?」  シンにはその行動が理解できなかった。  変身状態であるこの後に及んで、力を溜めても何にもならない筈だ。 「更に2人の兵の屍を超え……真の王が君臨する……!」  一体何を言ってるんだ? 「らぁぁぁぁぁぁ!!」  バリンッッ!! 「サキ……?コルン……?」  目の前には、倒れた仲間が2人。 「どうだ……洗脳したアーティーをさらに踏みつけて我が変身は完全体へと昇華する……! 」  ドクン…… 「お前……何をして……」  コルンの表情は、誰にも見えない。観客にも、会場に映し出したモニターも捉えない。そして、まさに今、対峙しているメダロンにも。 「クク……さっきまでの威勢はどうした」  挑発的な言葉にも全く反応しない。  ドックン…… 「ぜっ…に……ゆ……さ…い……」  シンの声は震えていた。 「なんだ……諦めか……? 骨にあるやつだと思ったが、やはりお前もつまらん奴だったのか……」  メダロンは、トドメを刺そうと右手を差し出し、シンに向けた。  完全変身体となったその能力は、変身状態のアーティーの3倍の強さを誇る。  特技無制限使用、全ステータス3倍などの恩恵を受け、真の王として君臨する。  非人道的かつ冷酷な、闇のアーティー。そして、その中でも圧倒的強さのメダロン。彼にしか辿り着けない領域。そう、思われていた。その時までは。 「死ねぇ! 【王政咆哮】!!」  ギュイイイイイイン!!  メダロンの発した渾身のレーザーの光は戦闘  エリアだけではなく、会場全体を包んだ。  誰もが、メダロンの勝ちを悟った。  光が弱まってくる。  だが、そこには1人の人の影が見えた。  ドクドクドクドク…………  やがてスッキリと晴れ、そこに立っている青年の姿に、観客は歓喜した。  彼は決して負けない。  駒を踏みつけて立ち上がるメダロンとは、正反対。  仲間の脱落を、勇気に変える青年。 「なぜだ……! 完全変身状態の私の特技を受けて……なぜ尚立てる……!」 「お前だけは……絶対に許さない……人を駒のように扱い……不要となれば捨てる……お前だけは!!」  トレース型アーティー、シン。そしtd相棒のsariだ。  シンの姿には、どこまでも勝利を求める、アーティーとしての本能のようなものが感じられた。 「おおっと?! まさかの展開です! シンさんが、シンさんが! 変身状態になっています!」  久しぶりに聞く司会者カムイの実況を背に受け、シンは話し始める。 「メダロン。お前は言った。新たな兵2人でさえ犠牲にして、真の王が君臨すると」  その声は冷静だったが、確かに静かな怒りのようなものが含まれていた。 「だがな、そうじゃないんだ。俺も完全変身状態については聞いたことがあった。変身の上の領域。お前ら闇のアーティーとは違い、普通のアーティーのその状態の発動条件は未だ不明。でも、今、分かったよ。本当に大切なものが何なのかな!」 「おのれ……仲間だの友情だの、綺麗事には反吐が出る……一騎打ちだ……私は…絶対に負けない……」 「では最後の戦いと行こうか。ところで、一つ忘れてないか?」 「なに……?」 「トレース型のお前ならわかる筈だ。俺が今まで出した特技、数えてみな」 「……お前まさか!」 「そう。あと一つ残ってるんだよ。そして、この完全変身状態。この状態の時、俺はセットしている特技全てがグレードアップされる」 「ふざけるな……!そんな戯言……!」 「その目で確かめろ!特技発動!これで終わりだ……!【ルーレット】!!」  シンの発動した【ルーレット】は、全ストックの中からランダムに特技が発動する。そう、“通常なら”  しかし、完全変身によってグレードアップした【ルーレット】は、全戦闘タイプの変身特技の中からランダムに発動する。  それが自分自身のストックにあるかどうかは関係なく、だ。 『特技【ルーレット】 発動 します』  ドドドドドドドド……  場の雰囲気に似合わず、ドラムロールが流れる。  デデン!  そして、出た特技。 『パワー型 変身 特技 【終点】を発動 します』  シュゥゥゥー……  シンの右拳に、赤い力が宿った。  やがてそれは膨大なエネルギーを持つようになり、シンはゆっくりと前に突き出す。  ゴォォォォォ……!!  前方広範囲に、圧倒的で爆発的で膨大なエネルギーが射出された。  特別訓練での好敵手、バーブが使っていた変身特技だ。  メダロンはその攻撃範囲から避けられるはずもなく、徐々に視界がぼやけていった。  パーツも、だんだん剥がれ落ちていく。 「ぐぅ……こんな……事が……!」  メダロンの声は耳をつんざく音にかき消され、どんどん遠くなっていく。  バリンッ!!!  AIの破壊音の後。少しの間静寂が流れた。  そして司会者ニックが喋りだす。 「チームメダロン、メダロンさん脱落! よって、第八回アーティカルグランプリ優勝は、チームシンです!」  うぉぉぉぉぉおお!! 「終わった……のか……遂に……」  目の前に倒れたメダロンに目を落とす。 「私が……負けるだと……そんな……」  生まれて初めて敗北を知ったようだった。 「メダロン。お前は悪くない。悪いのは環境さ。必ず、闇のアーティーなんて存在しないような世界を作る。約束だ」 「シン……お前……何者なんだ……」 「俺か?俺はただのアーティー。それ以上でも以下でもないさ」 「フ……ただのアーティーか……私も……そでありたかった……」  メダロンは担架型ドローンで運ばれていった。  シンも、その安心感からか、膝から崩れ落ちた。  それからは、係員の誘導に従い、先程までいた待機室に戻った。  そこには、コピーAIから元のAIに取り替え、今まさにパーツ修理しているサキとコルンがいた。 「ありがとう。シン。やってくれると思って信じてたよ。ずっとね」  コルンの優しい声。 「シン……あなたと仲間で良かった……」  サキの目には涙が滲んでいた。 「良くやったの。シン。お前は、ワシの自慢の息子じゃ。血は繋がっていなくとも、一番近い存在として、おめでとうじゃ」  菊間博士もずっと見守ってくれていたようだ。 「コルン、サキ、博士、俺1人じゃここまで来れなかったよ。本当に感謝してる。二人が脱落してから、sariの動きが変化し始めたんだ。完全変身状態のトリガーは、仲間だったんだよ」  4人でしばらくの間抱き合い、その途中で係員が入ってきて気まずくなった所で、一旦談笑をやめた。  再び誘導に従い、ついさっきまで戦っていたステージに登る。  大歓声の中、シンはマイク越しにこう話した。 「優勝できたのは、俺の力じゃない。ここにいる、2人の仲間やたった1人の家族の支えのおかげです。応援ありがとうございました!」  パチパチパチパチ……  観客からの拍手はずっと続いた。  こうして、第八回アーティカルグランプリは、幕を閉じたのであった。
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