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 ラウラが去った後、真湖は顔を真っ赤にしてカリンを叱った。 「何てこと言うの、カリンさん!」  自分でさえ勝てない相手なのに、とまでは言わないとしても、真湖は本気でカリンを心配しているようだった。  だが、カリンは努めて感情を露わにせず、真湖を説得する。 「大丈夫、今の私が生徒会長に勝てないのは分かっているわ」 「なら何で」  カリンは真湖の目を見て、頷く。 「先輩に勝ってもらうために、私が善戦する。それが最速の生徒会長攻略法、だと思うわ。本人だって、秘密のトリックがあること、何となく言っていたじゃない? その秘密を暴くのよ」  きょとん、とした真湖を尻目に、いつの間にか現れていたリーザへ、カリンは指示を飛ばす。 「リーザ」 「はい」 「ラウラ・ルアルディとペルニカを調べて」 「かしこまりました。本国にも問い合わせます」 「カ、カリンさん……?」  スタスタとリーザは《格納庫|ハンガー》から出ていった。カリンは真湖に向けてニコッと笑い、そして烈火のごとく怒った。 「私、すっごく腹が立っているの! 分かる!? 分かるわよね、先輩!」 「う、うん、うん」 「最弱王女、じゃないわよ! まずはクラス内模擬戦で誰が一番か、思い知らせてやる!」  ——そう、あの女は言ってはいけないことを言って去っていった。確かにその噂は三年の生徒会長の耳にも届いていたのだろう。だが、それを本人に直接言うのは、それすなわち宣戦布告、戦争開始も同様だ。カリンはあの場でキャットファイトをしなかった自分を褒めたい気分だった。  見えない闘気に燃えるカリンを見て、真湖は一言。 「やる気が出たのはいいことだけれど……大丈夫かしら」  真湖は小さく、カリンに気づかれないようにため息を吐いた。 「ここにいたのかい、山神さん、カリンさん」  《工廠|アーセナル》の葵主任が、珍しく《工廠|アーセナル》を出て真湖とカリンを探していた。 「あら、葵さん」  真湖は手を振る。疲れ切った様子の葵は、汚れた作業着にもはや発光しない蛍光ベストを着て、てくてくと歩いてくる。  何だか、この人、いつも人生に疲れていそうだなぁ、とカリンは思った。  そんなことなど露知らず、葵は手短に用件を語る。 「マーガレットだけど、えらいことになったよ。一度君たちの目で確かめてもらえるかな」  三人が《工廠|アーセナル》に着くと、跪いたマーガレットがコクピットを開けて待っていた。  葵はその隣にある台に向かい、コンソールを操作して、台一面に広がるディスプレイにマーガレットの三面図と『System』画面を大きく出す。そして、どこからか取り出した指示棒を『System』画面の一番上、《トレースアクティビティシステム|TAS》に差した。 「まず《トレースアクティビティシステム|TAS》。これは一回使ったから分かると思うが、戦闘中のAIの学習によりほんの一瞬だけ相手の動作を先読みするシステムで」 「でも使ったら酔いました」 「二重に相手が見えるわけだからねぇ。常用はやめておいたほうが無難だね。で、次」  次の段を葵が指示棒で指し示す。『Auto Sighting System and Sensors』。 「自動照準機とセンサー、短剣を投げるとき、無意識に使っているシステム群だ」 「自動照準機?」 「飛び道具を使うGA乗りが乗せがちなんだが、相手までの距離、効果角度、それらをAIがひたすら経験して学習し、例えば君が《Ball》を押すだけで思いどおりの箇所に短剣を投げられるようになる……という優れもの、じゃなくて、実際は動き回る相手には効果が薄いんだよね。データ初期化しちゃったから、センサー以外は外してもいいと思うんだ」  葵は他人事のように言う。データ初期化しちゃった、じゃないだろう、とカリンは葵を殴りたくなったが、何やら色々分かっている真湖が言葉をかけてくれた。 「当たるまで、私がフォローするから大丈夫よ」  ——これは心強い。どこぞの大人も見習うべきだ。  カリンに睨まれた葵は、気付かずさらに別の段、『Computer』を指し示す。 「もう一つ、これは戦姫学園内のGAの中でも、マーガレットにしか搭載されていない《頭脳|コンピュータ》だ。厳密には日本でも採用の動きが昔あったんだが……予算の関係で搭載を見送られた」  指示棒の先には、『《Neuro-computer|擬似生体コンピュータ》』と記されていた。  葵の講義は続く。 「《Neuro-computer|擬似生体コンピュータ》。おっと、勘違いしないでくれよ。あくまで擬似だ、今軍で使われているような虫型生体コンピュータとは世代どころかコンセプトも違う。処理能力、速度はもちろん、学習能力は桁違いだ。ただ、僕がマーガレットをフルメンテナンスするまで、機能が相当封印されていたみたいなんだよね。カリンさんには使いこなせないと思われていたのかな?」 「葵さん?」 「ちょっ、怖いよ!?」  葵はカリンの視線より、真湖の視線のほうが相当怖いらしい。前に何かあったのだろうか、と勘ぐりたくなる気持ちをカリンは抑えて、説明に耳を傾ける。 「学習能力、処理能力が向上するということは、搭乗者に余計な情報を与えず、戦闘に集中させる効果がある。余計な情報というのは、例えば、計器類のアラートを、戦闘継続に問題がないかぎりシャットアウトするとかね」 「それ、機体に相当負担がかかるんじゃないですか」 「かかるよ。でも、戦闘にはいらない情報だし、何より搭乗者の五感や経験頼りの操縦をするにはもってこいなんだ。だから性能面では高く評価されていて、カスタムGAには搭載するかって話も出ていた。そうならなかったのは、単純に当時はまだ《Neuro-computer|擬似生体コンピュータ》が一般的じゃなかったことと、値段の問題があったこと」  そこでカリンは手を挙げる。根本的に、一つ疑問があった。 「葵主任、生体コンピュータって何ですか?」 「ああ、大昔問題になった、人間の脳をそのままコンピュータの演算素子にしたって事件、知ってる?」 「何その怖い事件」 「一応、脳本人の許可は取ったみたいだけど、製作者は死体損壊で懲役食らってね。そういう、生体に由来する組織を演算素子に活用するコンピュータのことを生体コンピュータって言うんだ。今の生体コンピュータは虫を使ってるから、大丈夫だよ」 「大丈夫じゃないんですけど!?」 「それで、擬似、というのは?」 「簡単に言うと、人間の《細胞神経|ニューロン》を模した、と言う意味だね。人間と同じ情報処理を得意とする種類のやつで、学習能力がかなり高い。値段もお高い。ただし電力消費は極端に少ないし、ニューロチップなんかはディープラーニング分野では欠かせない代物だ。で、マーガレットにはその極小ニューロチップが数百億個入った《Neuro-computer|擬似生体コンピュータ》が実は搭載されている」  これは人間の《細胞神経|ニューロン》をはるかに超える数だよ、と葵は興奮気味に語るが、カリンも真湖も首を傾げるだけだった。何だかすごいことは伝わったので、葵に続きを促す。 「つまりだ、今のマーガレットは、一を聞いて十を知るような知恵を持っている。君たちが模擬戦をすればするほどに、マーガレットは強くなっていく」  ただし、と葵は忠告してきた。 「絶対に壊さないでくれよ。万一これを直すとなれば、《工廠|アーセナル》の予算が吹っ飛んでしまう。というか、学園側も知らずに君にマーガレット搭乗許可を与えている可能性だってある。いいかい、壊さないでくれよ!?」 「先輩との模擬戦じゃ壊さないと思いますけど」 「それ以外だと……ラウラとの模擬戦だったら壊される可能性も」 「何で一年生が生徒会長と模擬戦するんだい!?」  葵の疑問はもっともだった。  ラウラがどこまで本気で挑んでくるかは分からないが、見せしめとして派手に壊される可能性だってある。先ほどの模擬戦は相手が真湖だったからほぼ無傷で勝敗が決しただけで、本来ラウラ・ルアルディの異名は——。 「『黒豹』ラウラ・ルアルディかぁ。彼女の戦い方は整備士の中でも有名だよ、機体のこと何も考えずただ相手を圧倒する戦い方だ。僕らとしては、後のことを考えて戦ってほしいんだよね、模擬戦なんだから」  葵の主張はもっともだ、だがそれは不可能だろう。  カリンとしては、ラウラとの戦いを出来るだけ泥臭く、長期戦に持ち込むつもりだ。そしてそれができるようになるためには、技量を今よりもはるかに上げなければならないことも分かっている。  夏休み前までに、生徒会長ラウラに挑む。  到底一年生が掲げる目標ではないが、やるべきことがあるのはいいことだ。  そして、地獄の特訓が幕を開ける。
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