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【最終章突入】  ──八月。    夏の陽光が容赦なく降り注ぐ季節、日本本土よりも南の海上にあるオノゴロ海上都市は、建設時に最新のさまざまな防暑技術が取り入れられているのだが、それでも身体に堪える日々に入っていた。  そんな中、T.S.O.のダンジョン攻略はついに最終局面を迎えようとしていた。  三大ギルドの一つ、サウザンアイズをメインとする一団が、最終層である十三層へと到達したのだ。  僕たちもその情報を得てから、三月ウサギのメンバーたちと共に半日遅れで足を踏み入れることができた。  最終階層は、リアルで猛暑にうだる僕たちを嘲笑うかのような、氷の神殿、いや、氷の城と表現すべき巨大な建造物だった。  磨かれた鏡のような氷の壁、さまざまな光を放つ氷柱が彩る神秘的な雰囲気が攻略へと意気込む僕たちを迎え入れる。 「わかっちゃいたけど、これは難儀だわ」  先頭を進むロザリーさんがため息をつく。  壁や天井全体が鏡になっていて光が乱反射し、大きな部屋同士を繋いでいる通路も、三人並ぶのがやっとくらいの狭さで、かつ、複雑に入り組んでいて、探索しづらいことこの上ない。オマケにモンスターたちもそういう特性を最大限に利用して不意打ちをかけてくることが多く、精神的な消耗が激しく、周りの光景を楽しむ余裕すら持てない。  それは僕たち以外の攻略チームも似たようなもので、攻略はある意味想定通りというか、遅々として進まなかった。 「うーん、魔力の残りが少ないよ、アリオットとサファイアさんはどう?」  くーちゃんの問いかけに、サファイアさんが応える。 「私はまだ余裕があるけど、回復アイテムの在庫が心許ないわ」 「僕の方もそろそろ限界が見えてきたし、一旦、入口まで戻ろうか」  探索では回復役の状態が最優先だ。他のメンバーたちもそれはわかっている。  今まで作った地図で最短ルートを確認してから、隊列を組み替えて撤退していく。  十三層の入口には既に攻略を始めている三大ギルドのメンバーたちの他に、情報を聞きつけてやってきた大小さまざまの攻略パーティが集まり、今までと同じような大規模なキャンプが形成されていた。  戻ってきた僕たちが一角にスペースを確保すると、三月ウサギのフェンランさんがこちらを見つけて声をかけてきた。 「ちょうど良かった、今から他のギルドとの情報交換に行くんだが、一緒にどうだ?」  ちょっと疲れはあるが、せっかくの機会だ。僕は一言礼を述べてから彼のあとにつく。  キャンプの中央部には、すでにサウザンアイズと梁山泊のメンバー、その他の攻略ギルドなどから数十人が集まってきていた。全員程度の差こそあれ面識があるプレイヤーたちだ。 「おう、ウサギとWoZの《坊|ぼん》じゃないか。無事に戻れたようだね」  巨大なオノを担いだ恰幅の良いおばさん戦士がニヤリと笑う。  梁山泊のギルドマスター、アンネローゼ様だ。アンネローゼ《様》、《様》ね、ここ重要。  フェンランさんが苦笑する。 「やっぱりアンネローゼ様もいらっしゃってましたか」 「当たり前さね、十二層の攻略はサウザンの若造たちに後れを取ったけど、勝負はここからだよ」  攻略ギルドの中でも荒っぽい気性のプレイヤーが多い梁山泊、それをまとめているアンネローゼ様は、その泰然とした風格と迫力からも、ほとんどの攻略ギルドのメンバーから敬意を持たれている。  ただ、絡まれると面倒なことも多いので、僕はフェンランさんの背中に隠れるようにしてこっそりと腰を下ろした。  青いマントと白地に金の意匠が施された立派な鎧を纏った聖騎士が声を上げる。サウザンアイズのギルドマスター、シグムンド卿だ。ちなみにシグムンド卿も《卿》が大事。T.S.O.内で最大の攻略ギルドのリーダーとして、周囲から尊敬の念を持ってそう呼ばれている。まあ、時たま見せる大仰でわざとらしい振る舞いに対する多少の皮肉もこめられているのだが、本人が気に入っているようなので定着していた。 「闇王の墓所も、ついに最終階だ。逸る気持ちを抑えるのが難しいだろう。だが、だからこそ、慎重に、かつ着実に進めていこう」  最初に入口を見つけたギルド、今回はサウザンアイズが攻略の中心となる。攻略が厳しくなってきた八層くらいから定着していた暗黙の了解だ。  僕はフェンランさんたちと同様、自分たちが収集してきた十三層の情報を求められるまま、シグムンド卿へ転送する。  しばらくすると、サウザンアイズのメンバーの手によってまとめられ、再構築された情報が返送されてきた。  僕は食い入るように送られてきたデータに見入る。周りのプレイヤーたちも同様だ。さっきまで雑談で賑わっていたのに、一瞬で場が静まりかえる。 「……ん?」  僕は小さく首を捻った。まだ階層の全容も掴めない一部分の探索結果の集合体。ただ、なんとなく違和感というか、法則性めいたなにかがあるような気がしたのだ。  ぴーのがまだゲーム内にいることを確認して、チャットで声をかける。 「ぴーのにちょっと頼みたいことがあるんだけど」  そう前置きしてから十三層の攻略データと自分が気になっている点をいくつか送信する。  するとぴーのから了解の返事が届いた。 [いいよ、ちょっと分析してみる]  短く礼を伝えてから、今度はゲーム外のウィンドウを立ち上げて、メッセンジャーを開く。 「リーフもオンラインだな」  リーフの状態表示がネットに接続中であることを示す緑になっている。思い切って呼び出してみると、すぐに反応があった。 [どうしたの?] 「それがさ……」  ぴーのに対して説明した内容を繰り返す。すると、リーフの方は少し考え込んだみたいだったが、結局は受け入れてくれた。データを送ってから一息つく。 「なにか気づいたことでもあったのか?」  そのやり取りを聞いていたのだろう、フェンランさんがこちらを見ていた。 「ええ、まだマップの断片ではあるんですけど、なんというか建物の法則性みたいなものがあるんじゃないかと思って。ただ、確証は思いつかなかったから、そう言うことが得意な仲間に調べてもらおうかなと」 「ふむ……確かにこの階層は氷の城というべき人工物的な側面があるしな。確か十二層も神殿がモチーフで最終的には複数の螺旋構造の組合せになっていたことが判明したし……」  フェンランさんは短く呟いてから考え込む。  僕も再度、データに視線を向ける。情報ウィンドウに表示された地図を指でなぞりながら考え込むうちに、それほど時間をおかず、ほぼ同時にぴーのとリーフから返事があった。  二人ともそれぞれが使用している《人工知能|AI》のアルゴリズムを用いて解析したというデータが添付されていた。その二つのマップデータを並べてみる。 「……やっぱり!」  僕は思わず声を上げてしまい、周囲の視線が集まってしまう。 「なんだい、《坊|ぼん》。なんぞわかったことでもあったのかい」  アンネローゼ様がニヤリと笑みを浮かべながら話しかけてくる。  一瞬、僕は躊躇った。  だが、シグムンド卿にも促され、立ち上がって一息ついてから、フェンランさんに説明したことをさらにもう一度繰り返した。 「そして、これが仲間からもらった分析結果です」  併せて送られてきた二つのマップ予測データを提示する。  すると、それを見た何人かのプレイヤーたちも外部とのデータのやり取りを始め、ほどなく、いくつかのマップ予測データが追加されていく。  アンネローゼ様がヤレヤレといった風でため息をついた。 「若いもんは面白いこと考えるもんだね」 「ああ、まったく。面白いとしか言いようがないな」  シグムンド卿も重々しく頷いた。寄せられたマップ予測データのほとんどが、多少の誤差はあれ、ゴールとおぼしきボス部屋の位置と、そこに至る経路をほぼ同じように想定していたのだ。 「まあ、ゴールまでの距離は長いが、効率という側面では大きいな、これは」  フェンランさんが笑う。それを口切りに他の面々からも賞賛の声が寄せられ、僕は思わず赤面してしまう。  そんな僕をひとしきりからかったあと、シグムンド卿、アンネローゼ様、それにフェンランさんを中心として、十三層攻略プランの再検討が始まった。 【夏期休暇前夜】  T.S.O.の攻略進捗とは関係なく、時間は刻一刻と過ぎていく。  宇宙学園は最初の長期休暇を目前に控え、学生たちのテンションはいつになく高まっていた。  休暇前最後の授業が終わり、明日からは夏休みに入る。  寮の内部を行き交う学生たちの顔にも、厳しい授業から解放された喜びが浮かんでいた。  もっとも、休み明けすぐに本格的な宇宙実習が控えており、今までよりさらにハードな日々が待ち構えているわけだが、夏休みを前にネガティブに思い悩んでも損でしかない。 「実家に戻るよ、とは言っても、休みは全部T.S.O.で潰れるけどねー」  夕食に向かう道すがら、休みの予定を問われた僕は苦笑しつつ答える。  陵慈、ガウ、ベンジャミン、そこへ神藤も合流して寮の食堂へとやって来ていた。 「あ、ワタルたちだ、やっほー」  先に常盤さんと食事を始めていた花月が、こちらに気づいて大きく手を振ってきた。無視するワケにもいかず同席することにする。  まあ、常盤さんに気がありそうな神藤も一緒だし、彼にとってはこの上ないラッキーだろう。  カウンターで思い思いの食事をゲットし、窓際にある十二人用の大テーブルの一つを七人で占拠する。  既に半分以上の学生が、夕食前に寮を出て帰省しはじめている。いつもは混雑して、騒々しいくらいのこの時間の食堂なのだが、今日は比較的余裕がある。大テーブルを使用しても咎める人もいないだろう。  窓の向こうでは、三本の軌道エレベータが地上からライトアップされて夜空に白く煌めいていた。  常盤さんが一旦箸を休めてお茶を一口飲んでから、外に視線を向けた。 「夏期休暇が終われば、すぐに宇宙実習なのよね」  休暇は明日、八月十日から十五日までの六日間で、休み明け十六日の夕方に宇宙実習の壮行式が予定されている。その翌日には軌道エレベータの1号昇降機【ミサキ-《1|ワン》】に搭乗し、静止軌道上の宇宙ステーション【カグヤ】へ向けて出発することになる。  なお、今回の宇宙実習に関わる諸準備は、教官陣を中心とした正規スタッフが全て取り仕切っている。夏期休暇終了後の初日、壮行式の前に学生へと引継ぎが行われる予定だ。そのため、正規スタッフの面々は学生の夏休み中も多忙なスケジュールをこなすことになる。地上スタッフはミサキ-1発進後に休暇を取ることができるが、教官やミサキ-1に同乗する一部スタッフはまさに休みなしの状態が続いていく。そういった面で自分たちだけ夏休みを楽しむことに対して、少し引け目を感じたりもして。 「そう言えば壮行会の申請はもう済ませたの?」  思い出したように常盤さんが確認してくる。 「あ、うん、済ませてきたよ」  僕がそう答えると、続けて陵慈以外の全員がそれぞれの表情で続いた。  壮行会には事前に申請することで学生一人につき五名まで外部の人間を招待できることになっていた。大抵は家族や親しい友人を呼ぶことになるだろうが、中には全く無関係な人間──報道関係者や宇宙マニアといった人たちから報酬をもらって招待枠を消化しようと画策している学生がいるとも聞いていたりする。たくましいなとは思うが、僕は真似をするつもりはない。  そんなことを考えている僕の横で、ベンジャミンが陽気に口を開く。 「サスガに国に戻るのは忙しスギルので、ワタシはオノゴロに残りマスよ。でも、家族はもうハワイまで来ていて、明後日にはカンサイに到着予定で、キョートやオオサカ観光を楽しんでからオノゴロに来るそうデス。ガウも残るんデスよね?」 「うん、僕のところは家族、といっても両親だけだけど、壮行会の前日に羽田に到着予定。なので僕も居残り組だね」  ガウの国の家族は弟や妹たちだけで7人の大所帯とのことだ。経済的にも余裕があるといえず、そもそも全員呼ぶにも招待枠が足りないということもあり、こういう形を取ったそうだ。  神藤がぎこちない口調で常盤さんに声をかける。 「常盤さんも……えっと、家族を呼ぶんですか? もしかして、友達とかも……」 「残念だけど、うちの両親は仕事の関係でこれないの。その代わり兄が来るってうるさくて。特別に誘うような地元の友だちがいるわけでもないし、ムリに招待枠を使わなくても良いと思うんだけどね」 「そっか、お兄さんだけなんですね、ははは……」  というか、神藤は何が言いたいんだ。いくつか想像はできるけど、真意が図りづらい。  話の流れで常盤さんが僕に話を振ってきた。神藤が向けてくる視線が痛いが、あえて気づかない振りをした。  花月が口を挟んでくる。 「おじさんとおばさん、それに翔くんでしょ?」 「うん、あと、今回リーフも呼ぼうかなって思ってる」  さっき食堂に来る前に、僕は両親と弟、あと事情が許せばリーフを呼ぶつもりで四人分の申請を出しておいた。リーフには既に話していて、南のおじいちゃんたちにも了解は取っているが、最終的な決断は夏休み中に相談させて欲しいと返事が来ていた。 「あー……リーフくん呼ぶんだ」  花月にしては珍しく複雑な表情を見せた。おそらくは、リーフだけ呼んでおいて青葉を無視するのはいかがなものか、といったあたりか。  青葉については正直僕も悩んだ。この前から引きずっている気まずさもあるが、青葉自身、普段からバイトで忙しそうにしているので声をかけるのもはばかれたのだ。結局、それも話題を切り出せない自分自身に対する言い訳かもしれないが。  そんな僕の様子から、なんとなく察したのか常盤さんはこれ以上、話を広げようとはしなかった。食事を再開しつつ、神藤に対して保安警備専攻の確認事項について問いかける。  嬉しさのあまり姿勢を正して応える神藤。たぶん、T.S.O.の獣人みたいな尻尾があったら全力で降りまくってるんだろう。  あれ? そういえば神藤はT.S.O.とか、VRMMORPGをやってたりするんだろうか。  神藤と親しくなったのはつい最近のことだ。そもそも隣室という関係だったのだが、僕がベンジャミンやガウと早めに《つるむ》ようになったこと、あと、それ以上に神藤自身が陵慈の出自に遠慮があって声をかけづらかったということらしい。  もっとも、ベンジャミン経由で僕とも共通の話題があることが判明してからは、アッサリと気安い中になってしまったのだが。 「……ん?」  不意に小さなアラーム音が聞こえたかと思うと、いきなり陵慈が席から立ち上がりながら携帯端末を確認する。 「部屋に戻る」  短く言い残すと食べかけの食事をテーブルの上に残したまま、スタスタと窓側の端にあるテラスへと繋がる扉へ近づき、ためらいなく外へ出ていってしまう。 「部屋って、そっち方向違う……」  と、声をかけたが聞こえているのかいないのかわからない。  その時だった。  威勢の良い足音と共に、食堂の入口から桂教官が早足で乗り込んできたのだ。 「東! いい加減に観念しろ!!」  大きくはないが良く通る迫力のある声に、食堂内の喧噪がピタリと止む。 「まさか、コレを察知したのか……?」  凍り付いた雰囲気の中、僕は勇気を振り絞って口を開いた。 「たった今、そこから外へ出て行きました」 「くっ、裏をかかれたか」  本気で悔しがる桂教官、後から追いすがってきた男子寮の寮監が「居住階への進入はダメですよ、二回目以降は問題にすると教頭も……それに共用部とはいえ監視カメラデータへのアクセスも今回限りですからね!」と念を押してくると、「わかってるわよ!」と短く吐き捨ててから僕へと視線を向けてきた。 「明日、東を朝食に連れ出す前に連絡しなさい、良いわね」 「は、はい」  その迫力に思わず姿勢を正してしまう僕。  実は夕食の前、寮の売店から大量のレトルト食品や缶詰など一週間分を優に超える食糧を部屋に運ぶのを陵慈に手伝わされたのだが、教官の有無を言わさぬ雰囲気に呑まれてしまい、言い出すことができなかった。  ○ 「ぴーのさぁ、諦めて教官のところに出頭しちゃってよ。まさか、本気で夏休み中部屋に籠もるつもりなの?」  T.S.O.内のギルドハウス大広間。ソファーにだらしない格好でもたれかかっている少年盗賊に声をかける。  一応ログインはしているようだが、別画面を出して違う作業をしているのだろうか、こちらの言葉に反応がない。  こういう態度は今さらなのでもう慣れてしまっている。まあ、リアルの同じ部屋でプレイしているのだから、直接声をかければ良いことだったりするのだが、なんとなく、それも気が引けるのだった。  今、ギルドハウスには、僕とぴーのの他にはくーちゃんとザフィーア、それに双子とジャスティス、イズミという学生組だけが集まっていた。  もともと今晩については攻略の予定が無い。明日、僕とくーちゃんが実家へ帰省するので、その移動時間中、朝から夕方まではインできないということと、その後、夏休み期間のスケジュールを年長組と打ち合わせるだけで、早めに落ちるつもりだったのだ。  後では双子たちとくーちゃんが話に花を咲かせていた。どうやらお土産の催促らしい。 「くーちゃん、ちゃんと《オノごろん》買ってくれた?」 「大丈夫だよー! ちゃんと《オノごろん》と《ヤタくろう》、《イナバうさぁ》三体のプレミアムセットを三人分ゲットしたから」 「くーちゃんさん、ナイスです」 「……あの、もしかして、ぼくも同じモノってことですか?」  はしゃぐ双子をよそに悲しげに呟く弟。そんなギルティをイズミが慰める。 「良いじゃないですか、あのマスコットたち男子の間でも評判良いですよ」  オノごろん、ヤタくろう、イナバうさぁは、オノゴロ海上都市の観光PRのために作られたキャラクターで、有名なキャラクターデザイナーが手がけたということと、グッズはここでしか入手できないということから、本土で結構な値のプレミアがついているらしい。  学業とT.S.O.攻略の忙しさにかまけて、お土産の選定を花月に任せていたのだが、それが《徒|あだ》になってしまったかもしれない。すまない、弟よ。  あれ? そう言えばアオやリーフへのお土産はどうなってるんだろう。  ギルティの嘆きを横目に、ザフィーアがこちらに声をかけてくる。 「男の子向けだったらヤタガラスとかカグヤとかの宇宙ステーション関連グッズの方がいいんじゃない? 制式銃とかも良いと思うわ。まだ、お店も開いてると思うけど。なんなら、予備に買っておいた未開封の銃もあるけど……」  さすがは保安警備専攻、発想が男らしい。てか、予備の銃ってどういうこと? いや、もちろんレプリカかモデルガンの話だろうけど。  などと、余計なツッコミは口には出さず、丁重に遠慮させていただく。  まあ、今回買っていかなくても、ギルティ、弟の翔は夏休み明けには宇宙実習の壮行会へ招待するのだから、その時に好きなのを買っていけばいいだけだし。同じ理由で両親からも必要無いと念を押されてたりもする。  それにしても、こんなユルい雰囲気は久しぶりだなぁと、僕もノンビリとだらけていたのだが、そこへサファイアさんが慌てて駆け込んできた。 「大変です! ついにボス部屋がみつかったそうです!!」  その声がギルドハウス内の緩んだ空気をアッサリと吹き飛ばしてしまった。 【僕たちの立場、僕たちにできること】 「思ったより早かったな……」  僕たちは予定を変更して、闇王の墓所の十三層へと向かった。  ロザリーさんとクルーガーさんのログインを待ってから、念のため持てるだけの装備と道具をかき集めてダンジョンに入る。十三層の入口にあるキャンプまでは、今までの階層と同様に《転移門|ワープゲート》でショートカットできるようになっている。さらに、そこから先はサファイアさんが三大ギルドから提供してもらったという情報のおかげで、二時間弱で目的の場所、ボス部屋の前へとたどり着くことができた。  全体の地図で見ると、すり鉢状の構造の一番底になるエリア、そこに一際大きく、派手な意匠が施された氷の扉があった。  先に到着していたサウザンアイズ、三月ウサギ、梁山泊の首脳たちが僕たちに気づいて合図を送ってくる。  彼ら全員の意見は一致していた。  複数のマップ分析結果からも、この扉の先がゴール、おそらく闇王と呼ばれるボスがいるとみて間違いないだろう、と。  僕は夏休み中に本格的に攻略に挑むつもりで予定を組んでいた。  そのためにも八月に入ってからは、学園生活の方にウェイトを置いていたのだ。他のWoZのメンバーたちも、社会人、学生という立場の違いはあるが、焦って進むよりは、夏休みに入ってから攻略に集中した方が効率が良いだろうとの認識を一致させていた。  だが、さすがは攻略系三大ギルドの面々は格が違ったといわざるをえない。僕たちとは違い、逆に攻略の速度を上げて、当初の十三層の分析データを元に見積もっていたスケジュールを大幅に短縮してしまったわけだ。 「俺たちは一度、ギルドハウスに帰還するよ」  三月ウサギのフェンランさんが声をかけてきた。すでに三大ギルド同士で打ち合わせを済ませてしまった、と詫びるフェンランさんに僕は慌てて手を振る。あの事件以来、なにかと僕たちを立ててくれるようになったのだが、正直恐れ多いというのが本音だったりする。  それはともかくとして、フェンランさんが言うには、ボス部屋への攻略を行うために三大ギルド合同で強行偵察部隊を編成することになったそうだ。  今までの闇王の墓所の攻略の過程でボス攻略という要素は一度もなかった。もちろん、T.S.O.全体で見た場合、さまざまなバリエーションでのボス戦が実装されている。そういったことからも、まずはこの最終ボス、闇王との戦いがどのような形なのか見極める必要があるのだ。  闇王に関する情報については完全な白紙状態。かつ、戦闘による死亡のリスクがある。さらには、一度突入したら最後、形勢が不利になっても逃げられない仕様になっているという可能性もある。そういった点を踏まえると、高い戦闘能力を持つだけでは不足だ。最悪の事態を想定した上で、覚悟を決めたプレイヤーだけで部隊を編成する必要がある。  そして、それらの結果の全責任を三大ギルドが負うことにした、と。  本来であれば、十三層入口のキャンプ地に戻って、最低限その場に集まっているプレイヤーたちから了承を得るべきなのかもしれない。だが、この状況で全会一致は到底無理であろう。一方で、最後の目的地が目の前にあるのに時間を浪費するわけにもいかない。  そういったさまざまな状況を勘案した上で、独断専行といった非難も受けることも覚悟の上で臨むことにしたんだ、と、フェンランさんは静かに言い切ったのだった。  その話を聞いて、僕たちは今さら意見を述べる気持ちにはならなかった。  ただ、仲間たちと視線を交わしてから、僕は正面からフェンランさんへと向き直って、一言だけ申し出る。 「僕たちにも協力させてください。偵察部隊の露払いでもなんでもします」 「それはいいね」  答えたのはフェンランさんではなく、梁山泊のアンネローゼ様だった。  フェンランさんを押しのけて見下ろすように僕の前に立つ。 「《坊|ぼん》たちには、偵察部隊が来るまでの間、ここの確保を頼むよ。今回、ここまでたどり着いた功労者の一人だからね。特等席で見物する資格はあるはずさね」  いいんですか? と問うフェンランさんに「ここに置いておく予定だった梁山泊の部隊を偵察部隊の護衛部隊に加わらせる」とあっさり頷く。 「一応ここは最重要ポイントだしね、ある程度強いヤツらを置いておく必要があるし、《梁山泊|うち》の二軍よりは頼りになるだろうさ。それに……」  そこまで言うと、サファイアさんに視線を向けてニヤリと笑った。 「アンタがいるし、《坊|ぼん》たちも暴走して抜け駆けするようなことしないだろうからね」 「無用の心配ですわ」  サファイアさんは苦笑しつつ、アンネローゼ様に一礼してみせる。  その様子を一瞥したフェンランさんが、物言いたそうにロザリーさんを見やる。 「わかってるよ」と髪の毛をかき回しながら、姐さん戦士は早く行けと言わんばかりに手を振ってみせる。  その後、簡単に打ち合わせを済ませると、フェンランさんとアンネローゼ様に率いられた一団は、先行するサウザンアイズを追いかけるように撤収していった。  そんな彼らの後ろ姿が見えなくなってから一拍おいて。 「それじゃあ……」と双子の片割れ、ミライがポンと手を打つ。 「偵察部隊が戻ってくるまで、ただ待っているのも退屈ですし」 「ちょっとくらい覗いてもいいよね!」  ミライの言葉を受けて、ジャスティスが元気よく扉を指さした。 「そうだなー……なんて言うと思ったか!?」  僕を筆頭に、その場にいた全員が問答無用で却下する。だが、それで収まる双子ではない。特に強行しようとする双子妹をギルティとイズミ二人がかりで必死に抑え込もうとする一幕が繰り広げられ、ボス部屋前の緊張感はアッサリと霧消してしまったのだった。
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