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【とある中堅ギルドマスターの暴走】   ◇◆◇  とある中堅攻略ギルドの一つを束ねるネコミミ少女が、十三層の氷の城の中を仲間と共に駆け抜けていく。  彼女は三大ギルドがボス部屋を見つけたという情報をゲットしてから、すぐに行動を開始した。  ちょうどリアルの仕事が定時で終わったタイミングだった。ゲーム内にいたギルドメンバーからの報告を受け、同僚からの飲みの誘いも断って家に直行した。焦る姿を不審がる家族の問いかけを適当にあしらって、着替えもせずに部屋に籠もり、T.S.O.にログインする。  すでにゲーム内に集まっていたメンバーの他に、事前に声をかけていた複数の仲間たちとも合流しつつ、闇王の墓所十三層へと向かった。  ボスキャラ発見の報に騒然としているキャンプ地を抜け、目立たないようにボス部屋への道へと向かう。  途中、奥から戻ってきた三大ギルドのプレイヤーたちの一団に遭遇、身を隠してやり過ごす。  ボス部屋を見つけた三大ギルドのプレイヤーたちは一旦撤退し、その後、強行偵察部隊を組織してボス戦の情報収集にあたるとの告知があった。だが、ネコミミ少女ギルドマスターたちは、そんな彼らの言葉を信用していなかった、いや、できなかったのだ。  ずっと抱いていた疑念──最初にクリアしたプレイヤーだけが助かり、それ以外の全員はミッション失敗、死亡したときと同じペナルティを科され、リアルの情報流出という憂き目に遭うのではないか。その疑念がここ最近ずっと頭の中を支配していた。もとは出所不明の情報だったが、今となってはどうでもいい、そういう可能性があるというだけで充分だ。  とりあえずT.S.O.に実装されているボス戦の中で、一番多いタイプのボス戦構成である二十四人を揃えるつもりだった。だが、急なことなので連絡がつかないプレイヤーもいて、結局集まれたのは二十二名。こればかりはしかたない。間に合わなかったヤツはアンラッキーだったというだけだと、彼女は割り切る。  目的地への道はわかりやすかった。キャンプ地でマップ情報をシェアしてもらえたこともあるが、ところどころのポイントとなる場所には経路確保のため、三大ギルドに所属するパーティたちが待機していたので目印にもなった。  ボス部屋が見つかったいうことを聞いて興味津々という態の、ミーハー感丸出しのおのぼりさん風を装って、待機しているプレイヤーたちに声をかけつつ奥へと進んでいく。  ネコミミ少女の仲間たちの中には、この場に及んで腰が引けているプレイヤーもいた。だが、ボス部屋に近づくにつれて覚悟を決めたようだ。ネコミミ少女の「何もしないでゲームオーバーを迎えるよりは、自分の手でクリアできる可能性にかけるべき」という主張を否定しきれなかったのだ。  そして、ついにボス部屋の扉が彼女ら一行の視界に入る。  部屋の前の広間には扉の程近くにパーティが一つ。三大攻略ギルドの一員だろうか。おそらく場所の確保、モンスターの襲撃への備えと、他のパーティが抜け駆けしないための見張り役といったところだろう。他に少し遠巻きにするようにボス部屋の扉を眺めている数人のパーティが三組、こちらは単純に興味本位だけでここに来ているミーハーな団体か。 「みんな、ここは私に任せて」  ネコミミ少女が後ろに続く仲間たちにそっと声をかけて、扉へと足を向けた。 「ねぇー ちょっと聞きたいんだけどぉ、そこがボス部屋ってことでいいのかなー?」    ◇◆◇  双子と年少組が疲れ切っておとなしくなってからしばらく経った頃。 「ねぇー ちょっと聞きたいんだけどぉ、そこがボス部屋ってことでいいのかなー?」  不意に現れた二十人くらいのパーティ、その先頭にいるネコミミ少女が声をかけてくる。パステル調の色彩で統一した装備で、可愛さを前面に押し出した雰囲気を強調している。職業はぱっと見じゃわからないけど杖っぽいモノを持ってるから魔法使い系だろうと想像できた。  三大ギルドがボス部屋を見つけたと僕たちが知ってから、結構時間が経った。他のプレイヤーにも、だいぶ知れ渡っているはずだ。  周りにいる他のパーティたちと同じだ。おそらく物見遊山的なノリでやってきたのだろう。 「そうですよ、もう少ししたら三大ギルド共同の偵察部隊が戻ってくるので、そこから本格的に攻略開始ですねー」  僕が代表して答えると、ネコミミ少女が身体ごと向き直ってくる。 「そうなんだ。ちなみにボス部屋の扉って、もう開けた人いるの?」  その問いかけに僕はロザリーさん、サファイアさんと顔を見合わせる。  そう言えば、そのあたりは聞いていなかった。 「そのあたりもひっくるめて偵察部隊に任せるんだろう?」 「そうですね、そもそも扉の仕様もわかりませんし、触っただけでバトルフィールドへ転移してしまう可能性もありますし」  言われてみればその通りだ。何も考えずに扉の側に陣取っていたが、少し距離を取っておいた方が良いかもしれない。 「ふーん、ってことはまだ誰も開けようとしてないってことなんだね!」  突然だった。近くまで来ていたネコミミ少女が僕に身体ごとぶつかってきたのだ。 「うわあっ!?」  予想外のことに不様によろける僕。サファイアさんとロザリーさんが支えてくれなかったら、そのまま吹っ飛んでいたかも。  そんな僕を無視して、ネコミミ少女は背後の仲間たちに声をかける。 「いくよっ、みんなっ!!」 「おーーーっ!!」 「ちょっとアンタたち、待ちなさい! 何が起こるかわからな……」  ロザリーさんが静止の声を上げるが、誰も聞こうとはしない。  ネコミミ少女を先頭に扉の前へとたどり着くと、躊躇なく大きな扉を押し開けようと数人が扉へと体当たりをする。  最初は扉はビクともせず、カギがかかっていて開けるための条件もあるのではないかと思えた。だが、そんなことはお構いなしと、ネコミミ少女たちが次から次へとがむしゃらに扉にぶつかっていくうちに、ついに重い音を立てて開き始めたのだ。 「今よっ!!」  人が数人並んで入れるくらいの幅まで開いたところで、ネコミミ少女がボス部屋の中へと飛び込む、つづけて総勢二十二人が室内へと駆け込んでいった。ギルティが冷静に人数を数えていてくれたのだ。  僕は慌てて扉の近くへと駆け寄った。  一度動き始めた扉はそのままゆっくりと室内へと開き、薄暗かった部屋の中に一つ、また一つと大きな青い炎が灯り始めた。  部屋に入る手前でとどまる僕たちの視線の先で、ネコミミ少女の一行が戸惑いを隠せない様子でとどまっている。  中はとてつもなく広い円形のホールになっていた。十三層入口のキャンプ地に集まっているプレイヤー全員が入って戦闘を行っても、余裕があるくらいの広さがある。磨かれた黒曜石の床の上に設置された大きな灯火台で青い炎が激しく燃えあがった。だが、壁から天井はドーム状になっており、上の方は光が届かなくて視認できない。  一方で、こちら側から順番に灯火台に順番に青い炎が灯っていくうちに、巨大な石像のようなモノの姿が闇の中から浮き上がってきた。 「なに、アレ、ちょーキモいンですけどっ!?」  ジャスティスが悲鳴めいた声を上げる。  普段からはしゃいだり叫んだり賑やかなのが当たり前なのだが、この時ばかりは、滅多に聞くことがない珍しく心底怯えたような叫び声だった。  まあ、その気持ちもわからなくはない。青い炎に照らされて不気味に浮き上がる石像は、下半身が無数の巨大な触手に覆われ、腰から上は毛むくじゃら。さらには、上半身から突き出る太い六本の腕。それぞれの腕には刀や斧、槍などの禍々しいデザインの武器が握られている。そして、頭の部分には、黒山羊を模した悪魔のような顔が三つ。 「あれが《闇王|やみおう》ってわけかい」  いつもは大胆不敵を地で行くロザリー姐さんも、今回ばかりは緊張の色を隠せずに、音を立てて唾を飲み込んでいた。 【見捨てることなんてできない】  姿を現した闇王の迫力に、ボス部屋へと飛び込んだプレイヤーたちの勢いが一気に霧散する。 「ちょ、ちょっと、さすがにこれはやべーってばよ!」  狼風の衣装をまとった青年が狼狽しきった声を上げる。 「こんなん、オレたちだけでどうこうできるレベルじゃねぇーっつの!」  その声をきっかけに、プレイヤーたちは我先にと部屋の中からこちらの方へと逃げ出してくる。  当然のように僕らは道を空けた。  だが、彼らは部屋から駆け出してくることができなかった。 「とりあえず一度部屋の外に……!!」  真っ先にたどり着いた青年の身体が、なにかにぶつかった様に部屋の中へと弾き戻されたのだ。 「なぁっ!?」  あきらかに動揺する部屋の中のプレイヤーたち。  それは僕らも同様だった。  よく見ると開け放たれた入口全体にうっすらと青い光を放つ半透明の壁が見えていた。 「おい、冗談じゃねーよ、開けろよ、おい!!」  透明な壁を殴りつけつつ、こちらに声をかけてくるが、そう言われても僕たちには為す術がない。  そんな状況の中、ついに部屋の中の巨像、闇王が動き出す。 「ちょっと、後、うしろっ!!」  ジャスティスが部屋の奥を指さして声を上げる。 「うわあああっ!」 「ちょ、ちょっとアンタたち、なんとかしてっ!?」  パニック状態に陥りながらも、ネコミミ少女の叫びをきっかけに武器を構えて、戦闘体勢を取るプレイヤーたち。  インテリ風の眼鏡をかけた神官が防御の奇跡を唱え始め、隣で魔法使いの少年が攻撃魔法の詠唱を始める。それに気づいた他の後衛職たちも、それぞれ攻撃準備に入った。  ただ遠距離攻撃や支援ではなく、近接攻撃を担当する前衛職の面々は、武器を構えたもののどうしたらよいか判断できずに立ちすくむばかりだ。  そんな中、詠唱を終えた魔法と、狩人や盗賊が放った矢がそれぞれ光の尾を引いて闇王へと放たれる。  一拍おいて轟音が響き渡った。さすがはこの階層までやってくるプレイヤーたちというべきか。相応の攻撃能力を持っている。 「でも、このままじゃ……!!」  僕の隣でギルティが焦りの声を上げる。  矢はともかく、魔法や奇跡は連発できない。詠唱などの準備動作で無防備になったところへ、闇王の手の一つから円刃が投げつけられる。 「よけろぉっ!!」 「うああああああっ!?」  狼風の青年の声に、後衛のプレイヤーたちはなんとか回避するが、体勢を崩してしまい、魔法の詠唱どころか、次の攻撃に備えるのが精一杯という状態に追い込まれてしまった。  魔法などでの攻撃ができたのは最初だけ、その後は敵の攻撃から必死に逃げ惑う烏合の衆と化してしまったのだ。 「みんな、これ見て!!」  そんな中、ミライが声を上げた。  視線を向けると、扉を塞ぐ半透明の壁、そこに手を出し入れしている。 「そうか! 一方通行ってことか!!」  僕は思わず声を上げてしまっていた。  ボス戦から逃げることはできないが、後から助けに入ることはできる。 「でも……」  僕たちが助けに入ったくらいで事態を好転させることができるとは到底思えない。  そもそも、そんな無謀な状況に仲間たちを巻き込むこともできない。  僕は無意識のうちに唇を噛みしめていた。  一方通行だと僕が言った声が聞こえたのか、中にいるネコミミ少女が懇願するような表情を浮かべてこちらに走ってきた。 「お願い……助け」  その姿にエルフの少女の姿が一瞬オーバーラップする。 「あぶない!」 「うしろっ!!」  ミライとイズミが同時に声を上げた。  音を立てて伸びきった太い触手が斜め上から振り下ろされ、ネコミミ少女の身体を簡単に吹き飛ばす。  ボールが弾む様に床に打ちつけられて動かなくなる少女。  次の瞬間、身体が赤く光って動かなくなる。瀕死の状態だ。規定時間以内に蘇生させないと死亡してしまう。  ──そして、今はキャラクターが死亡した瞬間、あの忌まわしい情報流出というペナルティが発生してしまう。  僕は身体ごと振り返って仲間のみんなに頭を下げた。 「ゴメン! どうしても見捨てられない。だから危険だとわかってるし、申し訳ないと思うけど、でも、手伝って欲しい!」  僕は必死に言葉を紡いだ。 「僕たちだけであのボスを倒せるとは思っていない、今、必要なのはとにかく時間稼ぎなんだ。中にいる人たちとどうにか連携して、戦線を立て直して、偵察部隊が戻ってくるまで耐えきれば……」  それでもリスクが高いことはわかっている。いくら精鋭で編成された偵察部隊だとはいえ、戻ってきて戦闘に加わってくれたとしても闇王を倒せるとは限らない。この部屋の中に入ったら最後、おそらく戦闘に勝利するまで外に出ることはできないのだ。と、いうことは、たかだか僕の感情ひとつで、仲間たちをとてつもなく分の悪い賭けへの参加を強制するということになってしまう。  頭では理解している。でも、このまま中のプレイヤーたちを見捨てるというのだけは、絶対にイヤだった。完全に個人的な感情であり、みんなを巻き込むなんて言語道断だ。でも、どうしても僕は割り切ることができなかった。 「ちょっとは冷静になりな! どうせ、あんたはそんなこったろうと思ってたよ」  ロザリーさんの拳が頭に落ちる。 「え!?」  突然のツッコミに僕は思わず固まってしまった。 「……本当なら絶対に止めるべきなんでしょうけど、私一人では無理なようです」  サファイアさんが盛大にため息をつく。  クルーガーさんが微笑みながら武器を構えなおし、その後では年少組が気合いを入れた表情で僕に視線を集中させている。  叱られると思っていた。場合によっては無理矢理この場から引き離されるかも、とも。  だが、仲間たちは僕以上に僕のことをわかってくれていたのかもしれない。  サファイアさんが表情を引き締める。 「とにかく、瀕死状態のあの子の蘇生が最優先です。その後は戦線の再構築ですね」 「今のところ敵の攻撃は数パターンだけですね、触手の攻撃、手にした八つの武器による攻撃。そのうち特に危険なのは後方まで飛んでくる円刃一つ。残りの武器は触手と同じ攻撃範囲だとみて大丈夫だと思います」  そうまとめてくれたのはクルーガーさんだった。 「複数の攻撃を同時に受けなければ、わたしとロザリーさんなら攻撃を凌ぐことはできるかと」 「防御に専念すれば私もなんとかできると思います」  クルーガーさんの言葉に続きながら、サファイアさんが両手杖から片手用の《戦棍|メイス》と《大盾|おおたて》へ装備を変更していた。 「蘇生と回復役のくーちゃんさんと、指示を出すアリオットさんの護衛は私に任せてください」  頭を押さえて呆然とする僕をよそに、てきぱきと戦闘前の打ち合わせが進んでいく。 「ちょっと、しっかりするっ!!」  今度はくーちゃんが僕の背中に活をいれてきた。 「あ、う……うん、そうだよね!」  僕は頭を切り換える。今は、いろいろ考えている時間はない。 「ロザリーさんとサファイアさん、それにイズミは中にいる神官系の人を見つけて、そこを中心にフォローして戦線を立て直して! あとはクルーガーさんの言ったとおりに防御に専念して!」  全員から了解の声があがる。  ロザリーさんが周りで事態の急変について行けていない他のプレイヤーたちに声をかける。 「私たちは今から中に援護に入る! もし、協力してくれるって人がいたらパーティ同盟組むから申請よこしな!」  サファイアさんが言葉を続ける。 「あと、どなたかこちらへ向かっている三大ギルドの偵察部隊に連絡を! 今、この場に関係者がいないようでしたら、少し戻った先にある拠点にサウザンアイズのパーティが待機しているはずです、そこへ現状を報せて急ぐように伝えてもらってください!」  結果、二組計十二人のプレイヤーが同行を申し出てくれた。パーティ同盟を組んでコミュニケーション周りの機能を共有化する。そして、残りの二組のうち一組が情報を伝えるためにこの場を離れ、もう一組が不測の事態に備えて僕たちの代わりにこの広間に待機してくれることになった。  同行を決断してくれたプレイヤーたちに短く礼を述べた後、簡単に状況をシェアする。  パーティリーダーの一人、黒い鎧に身を包んだ壮年の戦士が頷いた。 「とりあえず、了解だ。俺たちも防御に徹して敵の攻撃を分散させればいいんだな」 「頼みます……それでは皆さんお願いします!!」  僕のかけ声に応答が重なり、全員が一斉に部屋へと雪崩れ込んでいく。
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