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「かけなさい」 自らをロビンと名乗った魔女は言った。木の香りがする椅子に腰掛け、二人を見つめた。 ニコラとアシャは顔を見合せ、用意された椅子に座った。テーブルに置かれた紅茶からはほかほかと湯気が立っている。部屋に飾られたハーブと混じって心地よい香りがに広がった。 ニコラとアシャは大きな街に来ていた。アシャの正体を知るべく、魔女へ便りを出したのだ。 「それで…」 ニコラが口を開くと、ロビンはこく、と頷き、口火を切った。 「調べておいたよ。見た限りだと、そこの彼は炎の巨人スルトの一族の末裔、と言ったところだ。君の名前はなんと言ったかな」 アシャはおずおずと答えた。 「…アシャ・ムスペル」 「スルトが率いる国の住民達の名前だ。君の生まれはムスペルヘイム。灼熱の国と言われている。どうやって地球に来たかは分からないけどね。手を」 ロビンは手を差し出した。アシャは促されるまま、ロビンの手に自らの手を重ねた。 「下がっていなさい」 重なった手から熱波が起こる。ニコラは急いで椅子から立ち上がり、部屋の隅へ移動した。目線は手から放されていない。 「───…!」 ロビンが呪文を唱えると、ゴオッ、と音を立て火柱が飛び出した。 「…ッ!」 ニコラとアシャはあまりの眩しさに目を瞑った。火柱はすぐに収まり、不思議と部屋に炎の被害はなかった。 「…今のは?」 「見なさい」 ニコラが訊ねると、ロビンはアシャの手を取って見せた。アシャの手の甲には赤々とした紋様が浮かび上がっていた。それは手の甲だけでなく、体中に刻まれているのだろう。服の上からも淡く光って見える。 「これこそが彼を炎の巨人たらしめる所以さ。力を使えば特徴が現れる。どうやら君は私以上に炎の扱いに長けているらしい。」 呆気に取られているアシャに、ロビンは続けた。 「…もっとも、君はまだ幼い。炎の巨人の年齢で言うと三歳にも満たないだろう。力を制御するのは少し難しいと思うから─…少し待っていなさい」 ロビンは席を立ち、部屋を出た。 「すごいな、炎を扱えるなんて」 紋様がすっかり消えたアシャの手を取って、ニコラは目を輝かせた。 「…危ないです」 「今まで手から炎出たことなんかなかったろ、大丈夫」 アシャは照れくさそうに顔を俯かせた。 「…ロビンさんの魔法で、体が熱くなって」 「うん?」 「心臓がドクドクして、血が手のひらに集まるようなかんじがして」 「ふうん…?」 「血が燃えているのさ」 パタン、と扉を閉め、ロビンが戻った。大体の会話は聞こえていたようだ。 「ムスペルの民は業火の巨人。血が燃えた熱を体から炎として発するんだ。これは血が燃えるのを抑えるまじないをかけてある」 しゃら、と冷気を纏った首飾りを差し出した。淡い水色が氷のようにきらきらと反射している。 「ヨトゥンヘイムの霜を織り交ぜてある。暴発することはなくなるだろう。一応希少なものだから、手放さないように」 ロビンはアシャの首に首飾りをかけた。熱を吸い取るような冷たさで、首飾りは首元できらめいた。 「ところで、この街には?」 少し冷めた紅茶に口をつけ、ロビンは訊ねた。 「三日前に、あなたを訪ねて。俺は人間だけど、アシャは何者だろうって」 ロビンに倣って、ニコラとアシャも紅茶を一口飲んだ。控えめな甘さと鼻に抜ける香りはおそらく一級品だろう。 「彼のことを人間ではないと思った理由は?」 「俺の入ってたカプセルに、”異種の召使”ってあったから。俺ん家の召使いだったらしい」 「異種の召使…なるほど。アレは何百年も前の事だ、今となっては人間もそれ以外も隔たりはないが…当時のムスペルの民は人間の支配にあったのかもしれないな」 「…ッ」 ニコラとアシャが僅かに顔を歪めたことに気付き、ロビンは慌てて話題を変えた。 「この街には腕のいい弁当屋がいる。しばらくここに滞在するなら知っておいた方がいいだろう。腹は減っていないか?」 ニコラとアシャは途端に目の色を変え、話題に食いついた。 「ご飯があるんですか…!!」 「飯が食える…!?」 態度が急変した二人にロビンは驚き、声を上げて笑った。 「あっはっは、どうやら厳しい旅をしてきたみたいだ。どれ、半刻も待てば美味い弁当が届く」 ロビンはどこからか羽根ペンと紙を取り出し、さらさらと手紙を書いた。窓際に止まった烏の足に紙をくくりつけ、 「フランクの弁当屋まで、頼むぞ」 と呟くと、烏は空高く羽ばたいた。 「彼の腕は私が補償しよう。元気溌剌とした奴でな……」
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