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 フロアに電話の音が鳴り響き、社員たちが頭を下げながら対応する。 「かしこまりました。では後日回収にまいりますので、ご都合のつく日を……」 「動かなくなってしまった、と。どのような状況だったか……」 「お客様のご住所とお電話番号を……」 「回収の際にいくつかプランがございまして……」  電話を終えて受話器を置けば、またけたたましい音を出してユーザからの電話がかかってくる。  電話対応をしていない社員もパソコンとにらめっこをしながら、送られてきたメールや問い合わせに対応していた。  それを見ていた部長もまた、役職などお構いなしに対応に加わっていた。  株式会社テクノが全家事代行ロボット『《Workeroid|ワーカロイド》 《Home|ホーム》』を開発してから数か月。ようやく量産、販売にありつけたと思えば、連日不具合報告の嵐だ。  今回のは初期型の機体であり、販売するときにはお客様に対して、次のことをご理解いただきたい、と伝えている。  まだ完全とは言えないため、故障や不具合が発生することがある。そのときは電話、またはホームページから送っていただきたい、ということ。  また、家事をしているときに、例えば料理中に食器を割ってしまったなどの被害があった場合、当社では責任を負いかねるということ。  つまり今売られている機体はいわゆる実地テスト用で、ユーザはテスターになるということを理解したうえで、買うときにサインしていただくようになっている。  受話器を持ち続けた一週間を終え、部長から社員に話があった。 「みんな、電話対応ありがとう、そしてお疲れ様。発売して一週間が経った今、あらかたの実地テストを経験しているころだ」  横に置かれたワーカロイドホームの頭を撫でる。  銅鐸のような形の体に手と足、顔が付いた、準人型のロボットだ。大きな体の中には家事で必要な道具を収納してあり、そのときに応じて自分で取り出せるようになっている。 「テスターということをあらかじめ決めていたおかげか、怒って連絡してくるクレーマーはさすがに少なかった。いたとしても、買うときの契約上問題に発展する事例は一件もなかった」  わっ、と自然に拍手が沸き上がる。技術革新に失敗はつきものだが、それが顧客の問題ではなく、機体の問題だけで済んでいるのは、素直に喜ぶべきだろう。  部長の話は続く。 「売り上げ台数はかなりの数に上ったことはたしかだ。しかしそれに伴って回収や修理の量も多くなっている。売り上げは回収代や修理代に消え、利益はそれほど増えていない」  申し訳ないと、部長が頭を深々と下げると、社員は揃って顔を上げてくださいと困惑する。  体を戻した部長は、二人の社員を呼び出し、前に立たせた。 「この二人がいてくれたからこそ、この会社も再び勢いを取り戻した。ありがとう」  照れくさそうに頭を掻く二人の社員。この二人はどこにでもいる、同じ情報系の大学出身の先輩と後輩だ。  新卒で入ってきた二人は、後輩が入社してから一年経ったころに同じプロジェクトを任され、その中でワーカロイドホームを開発した。 「二人の功績はこの会社の誰もが認めている。胸を張りなさい。そしてこれからも、思う存分その腕を振るってくれ」  再び拍手でフロアが盛り上がる。その流れに乗じてか、今夜の飲み会は部長の奢りになった。  その飲み会が終わったあと、二人は部長に残るよう言われていた。 「どうしました?」 「どんな用件ですか?」  一口だけ残ったビールを流し込み、部長は神妙な面持ちで体を乗り出した。 「二人に異動の知らせが来てる。研究所だ。ロボットの開発をしてほしいそうだ。詳細はまたあとで話す。お疲れ」  そう一方的に言うと、部長は会計を手早く済ませてそそくさと店を出ていってしまった。 「お前、どうするよ」 「先輩はどうするんですか」 「俺は……」  たった二人の二次会は、しんみりとした雰囲気の中で行われた。  後日、部長から再度呼び出された二人は色々説明を聞いたあと、結局異動の契約書にサインをし、翌日から新しい場所で生活することになった。    *   *   *  世界ではロボットブームが再来していた。  以前と違うのは、搭載されている人工知能、AIが、以前よりも改良されているということ。  AIは、自分で学習したものからその場の状況を判断したり、予測をしたりして結果を出力する。学習した内容が多ければ多いほど対処できる問題も多くなるが、学ばせる量にも当然限度がある。  つまり逆を言えば、AIの経験に類似しない状況は判断のしようがなく失敗しまうということだ。  その問題をどうにか解決しようと考えるプロジェクトがすでに密かに動き始め、それとは別に、この世界を大きく変える計画もまた、世間の目の届かない水面下で進められていた。  契約書にサインした二人は、それに巻き込まれることを知る由もない。
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