Before
 わたしに関わらないでください―――導かれるままにゲームをプレイすることになった『渚』。ゲームのクリア条件として、彼の守らなければならないキャラ―――『次代勇者』の少女と、彼は何とか出会うことができた。しかし、彼は困惑した。何故ならその少女は、自らの死を望む、死にたがりの勇者だったのだ―――。
かいり
(ID r9hykKTBRCOCE)
5.とある妖精の過去
死にたがりの勇者と守り人
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 なんで、今俺は、こんな話をしてるんだ?そう心の中で呟きながらはるは、パソコンの画面と向かい合っている。
 数十分前に、自分と同じ内田工業高校に通うなかたにから『失恋した』と連絡が入り、向こうの話を聞くつもりが、いつの間にか自分の話をするはめになっていた。高二にもなると、お互い他人の扱いが定着化し、この類のことは自分には関わりのないことになるだろうと思っていたのだが。まぁ、こいつの場合、だいぶ変わっているし天然なところがあるから、仕方ないのか。本気で悩んでるっぽいしな。そう思いつつも、どうにも心の動揺が隠し切れず、落ち着こうとホットコーヒーの入ったマグカップに口を付ける。別にこの動揺が、誰かに見られているわけでもないのだが。
『その人のこと、今でも好きなの?
「あっつ」
 美和の直球な質問に、危うくコーヒーを溢しそうになった。もう一度、送られてきた文字をじっくりと見る。見間違いなどではなかった。
「なんでこういうこと聞いてくるかなぁ」
 溜め息交じりの声が、部屋に響く。虚しさが体中から染み出てくるような感覚に陥った。
 ゆっくりと立ち上がり、貧血でふらふらと歩くように進む。部屋のカーテンを開けて


外を見ると、今の自分の心を表さんばかりの重苦しい雲が空を覆っていた。
 
 
 中谷美和は、画面に現れた映真の言葉を目にし、頭を机に打ち付けた。
『好きだけど、本人に伝える気はないな』
 美和自身、このような言葉が返ってくることは予想済みだった。けれど、いざ受けてみると予想を遥かに上回る激痛が心を走るものだ。
 映真の過去のことが知りたいとはいえ、あんなうそつくんじゃなかった。『失恋した』なんて。相手は、きっと私のことを思って、いろいろと自分自身のことを話してくれてるんだ、きっと。それなのに、私は…。これじゃあ、失恋を予言したみたいなものじゃないか。本当に自分はバカだなぁ。もう二度とあんないい人には出会えないだろうに。
 後悔の念に駆られ、目から大量の涙が溢れてきた。つらいなぁ、さすがに、これは。言葉として耳で聞くよりも、もしかしたら、活字で目を通して知った方がつらいかもしれない。耳から受け取った言葉は、時間が経つとその時の相手の顔の表情などとともに、頭の中で再生される。記憶の中の音と映像は変わらない。そのものとして受け止めることになる。だが、活字だけとなると、どうしても自分の中の勝手な想像が想像を呼ん
でしまう。果てしなくネガティブな気持ちに陥ってしまうことになる。
「あーぁ、学校始まったら、どう接したらいいんだろう。あー、いっそのこと、ガン無視するとか?本人何も分かってないのに、それしたらびっくりするかぁ。友達として接するにも私の気持ちがどこまで持つか…。はぁ。どうしよう…。」
 今の自分の置かれている状況に耐え切れず、とにかく思ったことをひたすら言葉として外に出していく。涙交じりの自分の情けない声に、一層虚しさを覚える。
「とにかく、すぐ学校ってわけでもないから、一旦置いとこ。うん、そうしよ。もう考えない、考えない。何も知らない。」
 そんなことは無理だ、自分の気持ちへの無駄な抵抗だと分かっていながらも、無理にでも考えることをやめようとした。
 もはや自分でも何を返しているのかよく分からず、ただ茫然としながらキーボードを打っていく。自分から話を始めておいて、無責任にも程がある、とひしひしと感じながらも、なんだかんだ返信をし、映真との会話を終わらせた。
「もういい、どうだっていいや」
 ベッドに体を投げ出した。枕を抱きしめて、脚をバタつかせる。さっきまでどんよりと曇っていた空からは、いつの間にか大粒の滴が落ち始めていた。ただひたすら単調な雨の音が美和の世界を覆った。



 
 
 気が付けば、十分ほど寝ていたらしい。流した涙は乾いて、頬に跡となって残っていた。目が痛い。目だけじゃない、心も。映真は、後で後悔するから絶対本人に伝えたほうがいい、と自分に言っていた。
「それが出来たら苦労しないんだけど。」
 伝えるにも、大規模なリスクを伴うことになる。ましてや、好きな人がいると分かっている相手に伝えるなんて…、自爆しに行っているようなものだ。
 特に意味もなく、部屋の隅を見つめる。自分だって恋愛に関して後悔したことがなかったわけじゃない。それでも、高校に入って映真に出会えて、あの時別れたのは意味のあることだったんだ、と思えるようになった。そのはずだった。
 あと三日で夏休みが終わり、学校が始まる。どう接したらいいのかなぁ。あとそんなに経たないうちにこの世界は終わるかもしれないのに。少し震えている自分の手を呆然と眺めた。
 
 
 これは俺が中学二年の冬のある日のこと。
 俺が通っていた牧内中学校は、市内の公立高校の中でも部活に力を入れている学校だった。小学校の頃から体力がある方で、また一緒につるんでいたやまもとそうに誘われたこともあり、入学してすぐに陸上部に入部した。
 この日も、放課後いつも通り学校のグランドで練習をしていた。冬は、日が暮れるのが早いので六時には練習が終わり、解散した。この日は、壮弥はたまたま家で用事があり、早めに帰っていた。
 自転車小屋に向かう。自分の荷物をまとめるのが遅かったのか、そこには誰もいなかった。練習着は着替えたが、冷たい風で身震いがした。自転車のかごに荷物を置いた。今日もだいぶ練習したな、疲れた、早く帰って寝よ、と心の中で呟く。その時、後ろで靴の音が聞こえた。振り返ると、そこには一人の女子が立っていた。ハーフツインテールをしていて、比較的大きめの様子を窺うような目を自分に向けてきた。誰だっけ、この人。
「あ、あの、私、隣のクラスのかたぎりあいです。」
 相手が口を開いた。片桐愛理。思い出した。小学校を卒業してから、広島からここに来たやつだ。一年の時、かなり噂されていたので、特にその類の話に興味のない自分の耳にも入ってきていた。
「はぁ、どうかした?



 どのように接したらいいのか分からず、少し変な声になった。愛理の緊張がヒシヒシを伝わってきて、自分まで緊張してきた。
「あの、話したいことがあるんじゃけど、ですけど、今いいですか。」
「はぁ、うん、大丈夫なんで、どうぞ。」
 広島弁が出てしまったことに慌てて、標準語に直していた。別に特に気にはならないけど。話ってなんだろう、何もしてないと思うけど。めんどくさいことにはできる限り関わりたくない。いろいろ考えている自分を心配そうに見てくる愛理。軽く深呼吸をしたかと思うと、耳を疑うような言葉が発せられた。
「突然で申し訳ないんですが…、鷲見くん、好きです。付き合って下さい。」
「え…」
 あまりに突然で、言葉が口から出たのか出なかったのか分からなかった。驚きのあまり思考が混乱している自分に向かって、愛理は早口で捲し立てる。
「突然ですみません、ほんとに。じゃけど、伝えんと後悔すると思うたけぇ。返事、すぐじゃなくてええんで。さよなら。」
 そう言って、自転車に乗って帰っていった。
「ちょっ。」
 ちょっと待って、という言葉も追いつかず、自転車小屋に一人佇んだ。とりあえず一
旦落ち着こう、遅いから家に帰ってから考えよう。そう、全くといっていいほど落ち着いていないが、自分に落ち着くよう言い聞かせた。乾ききっていたはずの汗が、再びシャツに滲んでいた。
 
 
 机を叩く音が聞こえた。
「ん。」
 顔を上げると、微妙な表情をした美和の顔が視界に入ってきた。授業中だった。また、いつの間にか寝てしまっていたらしい。また、夢であの時のことを思い出してしまった。何回も見た夢。もはや、夢というよりも回想なんだが。俺が起きたのを確認すると、美和はすぐに前を向いた。夏休みを明けてから、美和の様子が前と比べて何かが少し違う。前から、隣の席であることもあり授業中、俺がたまに寝ていたら起こしてくれていた。迷惑かけてるからかなぁ。後で謝っとくかぁ。
 先生が授業で話している。けど、その声は起きていても今は少しも聞こえなかった。自分の頭の中は、再び過去の記憶へと入っていく。
 
 



 愛理に告白された次の日、昼休みに隣のクラスまで愛理に会いに行った。愛理は、少し驚いた様子で廊下に出てきた。
「片桐さん、まだ俺、片桐さんのこと何も知らないから、とりあえず、ラインでも交換しとく?
「あ、うん。そうじゃね。うん。そうしよう。ありがとう。」
 自分の言葉にぱぁ、っと愛理の顔が明るくなった。その表情を見て、少し自分の顔が熱くなったのを感じた。
「あ、俺、部活中以外だったら暇だから、大体すぐ返せると思う。」
「うん、分かった。ありがとう。」
「じゃあ。」
 昨日の夜、どうしようかとだいぶ悩んだが、今日こうして良かった、と安心した。
「どうした、鷲見。珍しいな、お前が女子と話してるの。」
 突然、壮弥から話しかけられ、少し驚いた。こいつには、話しといた方がいいな。
「あぁ、実は、……」
 昨日あった出来事を話していく。何も言わずに壮弥は、自分の話を聞いていた。
「そっかぁ、良かったな、鷲見。」
「え、いや、まだどうなるか分かんないし。」
「片桐、いいじゃん。結構かわいいし。性格もそんなに悪くないし。」
「お前、喋ったことあるのか?
「ないけど。他のやつと話してるとことかなら、よく見るけど。見てたら、人って大体分かるっしょ。」
「そんなもんか。」
「まぁ、付き合うんなら、大事にしろよ。」
「あぁ、うん。」
 そう言って、壮弥はどこかに行ってしまった。あいつ、そんなこと言うやつだったのか。少し意外だった。まぁ、今まで自分がこの類の話を聞く気がなかっただけかもしれないが。
「大事にするかぁ」
 自分には、今までこんな経験がなかった。今まで、誰かに告白されることもなかったし、好きな人ができたことがなかったため、もちろん自分から告白したこともない。自分の何がいいんだ?けど、こんな自分のことを好きになってくれた愛理のことは、悲しませたくない。これからどうするか考えないと。チャイムが鳴り、授業に向かった。
 
 



 授業聞き流してるよね、この人。隣の席の映真をちらっと見る。さっきも寝てたし。中学校の時の彼女さんのことをまた考えていたんだろうか。夏休みのあの日以降こんなことばかり考えてしまう。どんなに考えたって、想像したって何にもならないこと分かっているのに。
「中谷さん。」
 声の方を見る。映真だった。人のことをいろいろと考えているうちに、自分も先生の話を聞き流し、いつの間にか授業が終わっていた。
「なんか、俺悪いことしたかなぁ?
 やっぱり私の態度が前とは違うことに気付かれてしまったらしい。別にこの人は何も悪くない。
「えっ、そんなことないよ、全然。気にしないで。疲れてだけかなぁ、ははは。」
 言えば言うほど、嘘に聞こえてくる。
「あ、ならいいけど。もしなんかしてたら、申し訳ないから。」
「いやいや」
 軽く笑ってごまかした。申し訳ないのは、こっちなんですが。時間がない。もうそんなにない。私は、映真の幸せを願うって決めたんだ。笑顔で楽しく接しないと。これ以上、映真に心配かけたくないよ。
 
 
 ラインを交換してから、愛理とはほぼ毎日のように話した。愛理と話しているととても元気が出てくるし、温かい気持ちになれた。そして、決断をした。いろいろ悩みに悩んだ末出した答えは、中学校卒業まで付き合うことだった。愛理が悲しむんじゃないんか、と少し不安もあったが、「分かった。」と言ってくれた。付き合いだして、できるだけ愛理が楽しめるようにいろいろ一緒に出掛けた。楽しそうにしていて、安心していたが、三年になって受験が近づいていた頃、愛理が泣いているのを見た。声をかけようとしたが、その前に他の女子が声をかけた。
「どうしたの?大丈夫?
「う、うん。いや、ちょっとね、卒業が段々と近づいてきてて、もうすぐ鷲見くんとお別れなんだ、って思うと悲しいんよ。今の楽しいことが高校に行ったらなくなるんや思うたら、ちょっと…」
 二人の会話を隠れて聞いてしまうことになってしまった。やっぱり思ってたんだ、そんな風に。自分も愛理と別れるのは辛かった。けれど、高校はきっと違う学校になるだろうし、それに高校に行ったらきっと、自分よりももっといい人に愛理なら出会えるはずだ。それがきっと愛理の幸せにつながるだろうから、自分との関係は中学校まででい


いんだ。そう思って、決めたことだった。けど結局、愛理を悲しませてるのか、自分は。
 その後、愛理にそのことを何も聞けないまま、受験だ、大会だ、などとしているうちに時間が過ぎていき、卒業を迎えてしまった。
 
 
 去年の四月ここで愛理と会ったなぁ。そうふと思い、帰り道で少し足を止める。会ったというよりかは、俺が一方的に見かけたというのが正しいのだが。何となく近くの病院が目に留まる。
「ん?
 知っている人が病院から出てきたような気がした。美和?そんなわけないか、気のせいかな、と思い直し家への道を進めた。
 
 
 今日は、休日で駅に少し用事があった。用事を済まして、家に帰ろうと自転車にまたがったその時、ある人の姿が視界に入ってきた。向こうもこっちに気付いた。愛理だ。そのままここを立ち去るか、声をかけるか迷った。
「鷲見くーん、久しぶりー。」
 愛理が手を振りながら、駆け寄ってきた。手を振り返す。
「鷲見くん、どうしても話したいことがあるんじゃけど、ええ?
「うん、いいけど。」
 息を少し切らしながら話してくる。ただ、前よりも一層明るくなった愛理を見て少し安心した。近くのベンチに座った。
「あのね、付き合い始めるって決まって、けど中学校卒業までっていう期限付きはその時はすごく悲しかったんよ。」
「ごめん。」
「ん、けど、今ではそれで結果的に良かったって思うとるんよ。」
「えっ?
「あの、受験が近づいとる時に、卒業が近こうて別れるの辛いってよく一人で泣きよったんやけど、ある日高校の話しとって、鷲見くんがホワイトハッカーになりたいけぇ、内田工業に行きたい、って言ったの聞いて、その後いろいろ考えたんじゃけど、別れるのでええ思えたんよ。」
 一生懸命俺に伝えようとしていることが伝わってくる。
「うちのお父さんは広島におるときは、会社でそういうホワイトハッカーみたいな仕事


しよったんやけど…、なんて言ったらいいか、その、ハッカーとホワイトハッカーって違うって言われるけどそれはどの立場から見るかで変わってくるわけで。自分は会社のためにホワイトハッカーとして働いているって言っても、向こうからすれば自分はハッカーなわけで。そういうことを考えるようになって、お父さんはそれをやめたんよ。すごく苦しんじょって、そんな風になった鷲見くんは見たくなかった。けど、夢を諦めて、とは言えんかったけぇ。生きていく方向が違うんだって分かった。だから、今は後悔なんかしてないんよ。むしろ、感謝してる。壮弥くんと出会えた。今は、壮弥くんと付き合ってて、高校卒業して一緒の進路に進もうって約束しとって。」
「あぁ、そうなんだね。」
 一つひとつしっかりとした言葉で話してくる愛理に圧倒された。うまく全ての状況は飲み込めれてはいなかったが。
「私、すごく幸せなんよ、鷲見くんのおかげで。あの判断はやっぱり間違ってなかったんだよ。だから、後悔とかしないで。鷲見くんももう私のこと忘れて、次に進んで欲しい。」
「う、うん。」
 愛理は腕時計を見る。
「あ、もう行かんといけんけ、じゃあ、鷲見くん、元気でね。」
 そう言うと、急いで離れていこうとする。
「あ、ありがとう。じゃあ。」
 少し離れた愛理に向かって聞こえる声で言った。手を振り返してくれた。
 一人でベンチの前に立つ。そんなことがあいつにあったんだな。けど、愛理が幸せで良かった。ふられちゃったけどな。後悔していたことが、ある意味無駄なことで良かった。
「うん、帰ろう。」
 自転車をこいで進んでいく。少し目が熱くなるのを感じた。
 
 
 文化祭の係会が終わり、教室に戻った。自分の意思で文化祭実行委員になったのだが、まさかじゃんけんに負けて、放課後一人で係会に出る羽目になるとは…。今日は、一番早く授業が終わる曜日だったのに。もちろん、誰も教室には残っていない。軽く溜め息をつきながら、荷物をしようと机の中を見る。
「あれ?なんだこれ。」
 そこには、真っ白な封筒が入っていた。中には、手紙が入っていた。深く考えることなく広げて目を通していく。



『映真へ
 これを読んでいる時には、私はもうそこにはいないと思います。私は、今現在とても重い病気にかかっています。高一の秋に発覚し、その時はお医者さんから余命一年と言われていました。当時はまだ治療方法は見つかっておらず、残りの人生をどう生きていこうと模索しながらの毎日で、時には怖さから人に当たっていたかもしれないな、と今では少し思って反省しています。
 つい最近、治療法が幸いにも見つかりました。神様が生きるチャンスを私に与えてくれたんだな、きっと。その治療は日本ではなくドイツでしか受けられないので、今は多分そこにいます。ただ、この手術は世界的にもほとんど例がなく、術後どうなるか分からないし、成功率も非常に低いです(ある意味では、医療界の実験台のようなものになってしまう)。うまくいけば、何か月もかからずにそちらに戻れるけど、次にいつ会えるか、そもそも会えるか分からないので、映真に伝えそびれたことを今、伝えます。
 私は、内田工業に入学した日、教室で映真に出会った時からずっと今まで、好きでした。「あ、この人は今まで出会った人とは違う」そう感じるものが映真にはあった。どんな時もなんだかんだで周りの様子を見てくれているし、すぐに気が付いていろいろと今までしてくれた。本当にありがとう。なので、この前失恋したというのは嘘です。結果的には本当になっちゃたけど。映真に好きな人がいたということが分かった時は、す
ごくショックで顔も見たくない、と思ってた。夏休みが明けてから、私が少し冷たいような態度をとってしまっても、何も気づかずにいつもと変わらず優しく接してくれたのは、ほんとはうれしかったよ。困らせてしまったと思う。ごめん。そして、ありがとう。
 今までにいろいろ辛いこととか悩ましいこともたくさんあったけど、映真に出会えて私は本当に幸せ者です。余命宣告をされてからずっと孤独だった私の心を救ってくれたのは、他でもない映真です。本当にありがとう。
 今度会ったら、ちゃんと言葉で直接伝えます。また、会えた時はよろしくお願いします。さよなら。
 中谷 美和』
 涙が目から零れ落ちてきた。手紙に落ちる。ボールペンで書いた字が滲んで、浮かび上がってくる。声なのか音なのか分からない音が体中から出ていく。教室に自分の声だけが静かに響いていく。気付いてやれなかった。なんで、気付いてやれなかったんだ。ましてや、あんな発言までして。俺は、本当に馬鹿だ。生まれて初めてこんなに取り返しのつかない後悔をした。美和との思い出が頭の中を駆け巡る。あの時の笑顔も少し怒ったような顔も、全てその裏には悲しみや不安が隠れてたんだ。
 震えた手で手紙を強く握りしめた。封筒の中に、他のものが入っていたことに気付く


。小さめの紙にオレンジ色のペンで書かれていた。
『PS.ドイツにせっかく行くから、ついでにスペイン産のオレンジを映真に送るね。食べてね。』
 少し口元が緩んだ気がした。美和らしいな、こういうところは。窓から夕焼けのオレンジ色の光が差し込む。この光に包み込まれたような少し温かな気持ちになった。ありがとう。また、逢えたらいいね。
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