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 俺はリビングから出ると、階段を登り妹の部屋の前に来ていた。 「光。大丈夫か?」 「⋯⋯」  ドアの向こう側へと問いかけるが返事はない。 「光。部屋に入ってもいいか?」 「⋯⋯」  今度は部屋へ入ると伝えたが、またしても返事はなかった。  光は嫌なことは嫌ってしっかりと言うやつだ。  俺の要望に光が返事をしなかったということは嫌じゃないということ。  そう判断し、俺はドアノブに手をかけ、ドアを開ける。  光の部屋は俺の部屋の隣で構造も同じ。  部屋は六畳程で、部屋の左端に机、右端にはベットがある。  そして光は地面に座りベットに寄りかかり、顔を隠し、俯いていた。 「光」 「大丈夫。いきなりだったからちょっと、ね」  俺が「大丈夫か」と言う前に先に光が口を開いた。  俺が何を言うかわかっていたのか、俺が言うよりも先に答えた。  さすがに何年も兄妹やっていない。  だが、何年やってる兄妹生活の中でもあまり聞いたことがないほど光の声は弱々しく、ちっとも大丈夫ではないのがすぐにわかった。  俺は光の見え透いた嘘に軽く、心の中で笑った。 「嘘つけ!!」  俺は暗い顔をしている光を元気づけるため、光の髪をワシャワシャする。  光の髪は黒髪でサラサラ。  クセもない、ストレートな髪質をしている。  そして、ワシャワシャするほどにシャンプーのいい香りが俺の鼻を掠めていった。 「ちょっ、ちょっと、何すんのよ」  光は髪をワシャワシャする俺の手を退けるため、俯いていた顔をあげ必死に抵抗する。  そして、遮るものがなくなった光の目は赤く腫れていた。 「それがちょっとな訳あるか。だったら、なんで泣いてるんだよ」 「これは、違っ」  光は泣いていた。  目を赤く腫らすほどに。  それを隠すため俯いていたのだろう。 「これは、涙が勝手に」 「⋯⋯光は母さんの再婚、反対か?」  俺の問いに光は上げていた顔を少し下げた。  未だ暗い顔は健在だった。  だが、明らかに暗さは軽減されていた。 「そういう、訳じゃない、けど。でも、なんか受け入れられなくて。だって知らない男の人がお父さん、パパになるんだよ?」 「ああ」 「あの女の子も家族になるんだよ? 由樹の妹になるんだよ?」  俺たち兄妹は親がシングルマザーということもあり、かなり距離が近い。  母さんにあまり負担をかけないように何かと協力していたからだ。  だから、俺は妹のことを光と呼ぶし、光は俺のことを由樹と呼ぶ。  俺は光に由樹と呼ばれることに違和感はなく、逆に心地良い気さえする。  光の言うこともわかる。けど、それも含めて俺は⋯⋯ 「ああ」 「怖く、ないの?」  一切揺るがない黒色の瞳。  光の目は俺をしっかりと捉えていた。 「別に」 「どうして?」  困惑の表情を浮かべる光だが、目はまっすぐ俺を見ていた。 「俺は母さんの幸せを優先したい。俺たちを女手一つで育ててくれたのは誰だ?」  俺も光の目に答えるように光をまっすぐに見つめる。 「⋯⋯お母さん」 「だろ? 母さんは今まで一人頑張ってきた。だから、俺は母さんには幸せになってもらいたい」 「由樹⋯⋯」  光を見るともう涙は流れていなかった。  先程まで暗い表情をしていた光はどこへやら、今はもう明るい柔らかい表情に変わっていた。 「うん。⋯⋯そうだよね。私もお母さんには幸せになってもらいたい」 「よく言った。それでこそ俺の妹だ」 「ちょ、ちょっと、やめてよ由樹」  またしても俺は光の髪をワシャワシャした。  今度は元気づけるためではなく、ただのスキンシップ。  光は口ではそう言いながらもどこか嬉しそうだった。 「⋯⋯光。母さんのところに行こう」 「⋯⋯うん」  光の返事は力強いものだった。  そうして俺たちは部屋から出て一階へと向う。  当然、一階に行くには階段を降りるわけで、またしても俺は光と降りることになった。  ギシッ、ギシッと降りるたびに軋む階段。  その軋みは光の緊張を表しているようだった。 「母さん」 「光はどうだった?」  リビングに入ると母さんが光の心配をしてきた。  それに答える代わりに俺は、横へと避け背後に隠れていた光を表に出した。 「光」 「⋯⋯お母さん。⋯⋯私も、お母さんに幸せになってもらいたい。だから、再婚しなよ」 「光⋯⋯」 「光ちゃん」  光の意志を知り、母さんは目から涙を零していた。 「本当に、いいのね?」  母さんからの最終確認。  ここで光が嫌と言えば再婚は無しになる。  だが、もう光の心は決まっていた。 「うん」 「⋯⋯わかった。私、裕二さんと再婚します」 「佳子さん⋯⋯」  佳子とは俺の母さんの名前だ。  裕二さんが母さんの名を呼んだ時、これから家族になるんだなと、どこか感慨深い思いがしていた。 「それじゃあ改めて、君たちのお義父さんになる佐々木裕二です。そして由樹君、光ちゃんのに妹になる佐々木紗英です」  やはりここでも俺と光の妹になる紗英は喋ることなく軽くお辞儀をしただけだった。 「紗英しっかり挨拶しなさい」 「⋯⋯は、はじめ⋯⋯⋯⋯まして」  裕二さんに促され、恥ずかしながらも挨拶をする紗英ちゃん。  俺はその姿を妙に可愛いと感じていた。 「これから僕達は家族になります。すぐにはお義父さんと呼べないかもしれないけど、いつか呼んでくれると嬉しいな」 「私のこともお母さんって呼んでくれていいからね紗英ちゃん」  母さんの問いかけにコクリと頷いた紗英だった。  紗英ちゃんはまた無口に戻り、俺たちはまだ家族ではないんだと理解させられた。 「それじゃあ今日はこのくらいで」 「裕二さんたちは明後日にこっちに引っ越して来るからね」 「それじゃあ、紗英ちゃんの部屋は俺の左の部屋が空いてるからそこかな」 「そうね。紗英ちゃんの部屋は階段を登って一番左の部屋ね」  入江家の二階には三個部屋がありその内二つは俺と光の部屋だ。  階段を登って一番右側が光の部屋。  その左隣が俺の部屋。  そして俺の左隣の部屋は空き部屋になっている。  簡単にいうと、三つある部屋の真ん中が俺の部屋、そして俺の部屋の右が光、左が物置だ。  その物置が今度から紗英の部屋のようだ。  あの物置に人が住めるようにするには片付けが必要だな。  物置の片付けの必要性について考えていると裕二さんたちが席を立った。 そしてそのまま玄関へ。 「それじゃあ、また」 「はい。裕二さん。また」  そして裕二さんと紗英は自分の家へと帰っていった。  ばたんと玄関のドアが閉まり、裕二さんたちが帰ったのを確認して母さんは俺たちの方へと向いてきた。 「由樹、光、ありがとね」 「ううん」 「べ、別に」  こうして母さんは後日、色々と手続きを踏み、俺たちは家族となった。  そして翌日、裕二さんと紗英ちゃんが家に来る日を迎えた。
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