Before
 わたしに関わらないでください―――導かれるままにゲームをプレイすることになった『渚』。ゲームのクリア条件として、彼の守らなければならないキャラ―――『次代勇者』の少女と、彼は何とか出会うことができた。しかし、彼は困惑した。何故ならその少女は、自らの死を望む、死にたがりの勇者だったのだ―――。
かいり
(ID r9hykKTBRCOCE)
5.とある妖精の過去
死にたがりの勇者と守り人
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 帝国side
 
 太平洋東部、赤道付近、空母せん りゅ艦上戦闘機部隊。甲板には発進を待つ戦闘機。
 カタパルトは蒸気を噴き出しながら大質量の機体を空中へ送り出す。
 発艦が終わり、上空で合流して編隊を組んだ三十機の壱式艦上戦闘機は戦場へ向かって飛び去った。
 
「赤城隊長、あと三十分で作戦空域に到達します」
「そうか、この辺りから敵ようげき機の行動範囲内だ。いつでも戦闘できるようにしておけよ」
 敵のようげき機は航続距離がおよそ三四〇km、無線での連絡から会敵までに進む距離を入れるとぎりぎり到達範囲だが、戦闘で消耗する燃料を考慮する帰還不能になる。
 しかし、増槽の装着で六四〇km前後まで延びるため、ここまで飛んでも余裕をもって戦闘を行える。
 すでに敵のしょ うか網の中ではあるが、帰投時の燃料を考えなくて良いこの範囲では敵機の行動に縛りが無くなり、より脅威が大きくなる。
 隊長は気を引き締めるためにも隊員達に声をかけた。



 
「「「はい」」」
「一時二十分の方向、距離不明、敵哨戒機らしき機影を確認。こちらに気付いているかも不明です」
「そのまま観察を続けろ。様子を見てどうするか決める。機種の判別はつくか?
「オウルもしくはスーパーオウルと思われます」
「夜間戦闘機か、なんでレーダーをつけてないんだ?
 隊長機の逆探には反応がない。
「不明ですが不具合かと、ろかしたオウルには電探に致命的な欠陥があると聞いています」
「そうだったな、なら機種はオウルか? スーパーオウルは電探を改修して、高速飛行中十度以上の迎角をとると昇降舵が利かなくなる不具合の修正をした機体だろ?
「電探の不具合は完全解決してないそうなのでなんとも」
「青木隊員機がレーダー波を受信しました。発覚する可能性があります」
「参ったな。ここじゃ雲の中に入れない。絶対に曇って欲しくもないが」
 
 隊長の言うとおり、作戦空域付近はほとんど雲の無い快晴。
 この付近はすぐに天候が崩れるのだが晴れていることも多々ある。
 そして、一度天候が崩れれば大嵐になる。突然雲が現れたとしたら作戦空域からの離脱を余儀なくされる。
 隊員達の乗る機体では積乱雲内の乱気流に耐えられない。
 しかし、この壱式艦戦といい、零式陸攻といい、百式戦闘機といい、潤沢な資源を確保したことといい、定方様は一体何者なんだ?
 隊長は操縦桿を握ったままそんなことを考える。
 定方哲二は兵器の設計、戦略、戦術、新技術といったあらゆる分野での指導を行う謎の人物だ。
 この戦争の開戦五年前に総司令に着任したと思えば最初の三年で帝国の工業力を十年分以上押し上げ、加工精度を飛躍的に向上させた。
 また、地質学にも詳しく、採掘可能な油田を十箇所以上発見している。
 外交の腕も良く、技術提供、人材派遣などの援助と引き換えに東南地域方面の資源国を味方につけた。
 満を持して開戦したこの戦争では敵の離島基地への奇襲から始まり、瞬く間に海上を封鎖、無制限潜水艦作戦で大陸への海上路をことごとく破壊し、開戦直後から空中給油技術を用い、重爆で本土への空襲を行い工業力を削ぎ落としている。



 我々の国と違い、自国で鉱山資源を産出出来るため、効果は緩やかだが年々純度の低い鉱石や質の悪い原油の精製を行うようになり、戦力の補充が利かなくなってきている。
 当然そういった施設は最優先で破壊されるため生産は消耗した兵器の補充でいっぱいいっぱいのはずだ。
 我々は前線まで最新機体を運用しているのに対して、敵は更新が遅れている。
 
「考え事をしてると敵機を見逃しますよ、隊長」
「ああ、すまない」
「俺は定方様が何者でも高性能な機体を提供していただけるだけで満足です。最近は新しいエンジンの話もあるし」
ふんしき発動機のことか?定方様がおっしゃるには音より速く飛べるようになるらしいな」
「隊長、鈴木隊員、無線を私用で使わないで下さい。ただでさえ見つかりそうなんですから」
「俺達以外にも電波を出しているやつなんてたくさん居ますから、大丈夫ですよきっと」
「敵機が近くにいるんですから止めてください。あ、電波が連続して入ってますねこりゃばれてますわ。おい鈴木隊員!
「な、なんで俺だけ」
「隊長は隊長ですから」
「気を落とすな鈴木、後でおごってやる」
「絶対ですよ。殺されたら承知しませんからね」
「青木、こっちもレーダーつけてくれ」
 二十秒ほどで高感度レーダーが付近の空域を写し出す。
「はい。今のところ機影はさっきの哨戒機一機だけですね。基地方向へ全速飛行してます。敵の戦闘機が迎撃に来ることが予想されますが迂回しますか?
「いや、いい。どうせこの後相手をするんだ。ならここで落とした方が楽だろう?洋上なら対空砲もないしな」
 
 敵のようげき機ピジョンは最高速度七百km/hで維持旋回率が自機よりも高い高性能機だが、反面航続距離が極端に短くようげき任務にしか使えない。
 開戦一年目にして本土に爆撃隊が到達し、度肝を抜かれた合衆国が守らなければならない施設を防御するために作った戦闘機だ。



 まあ、高性能というのは向こうの基準でこちらが乗っている壱式艦上戦闘機は最高速度七百五十km/hと開きがある。
 一般的に航空戦では速度差が三十km/hあると追い付けないと言われているので結構致命的な差だ。
 機体重量はおよそ六千七百kgと、かなり重いが、水冷二十気筒三千五百馬力級エンジンを排気式過給機によって高高度でも性能を引き出せるようにしている。
 ここまで重たい機体を運用できるようになったのも定方様がカタパルトを開発したからだ。
 おっと、話が逸れた。
 ともかく、哨戒機が基地に通信を送り、スクランブル発進したピジョンがここまで来る間にやっておくことがある。
 
「増速して高度をとるぞ。一万mまで上昇する。私に続け」
 
 敵機は高度八千mを超えると大きく運動性を損なう。
 吸入出来る酸素の量が充分でないため、エンジンの性能が発揮できないからだ。
 爆撃隊との合流高度でもあるため一石二鳥だ。
 補給路の寸断と爆撃によって希少金属が手に入らない敵はタービンを作れず、機械式の過給機を使うしかない。
 それも最近は合金の質が悪く、しょっちゅう故障して稼働率が大幅に低下したため整備が簡単な単段式しか装備されていない機体が多い。
 そのため、高度をとってしまえば敵機はヘロヘロになり簡単に撃墜できるという寸法だ。
 
「「「了解!」」」
「青木隊員は引き続きレーダーで監視してくれ」
「はい」
 
 上昇を開始してから二十分、高度は四千五百m上昇して一万五百m。
 そろそろ敵ようげき隊が到着する時間だ。
 
「敵ようげき隊らしき機影を捉えました。相対速度はおよそ千km/hあと二分足らずで会敵します。向こうはほぼ全速飛行ですね」
 戦闘に備えて、各機増槽を投棄している。



「各機戦闘用意、射官はちゃんと動くか?
「はい」
 
 これも定方が実用化した技術だ。半導体の小型化によってコンピュータがかなり小さくなったため可能になった、見越し射撃を支援する装置だ。
 
「十二時下方に敵機見ゆ、二十八機全機ピジョンと思われます! 上昇が間に合わなかったようです」
「油断するな。ようげき機は上昇力が高い」
「このまま一撃離脱ですか?
「ああ、深入りはするなよ」
「はい」
「全機降下開始!
 
 隊長の言葉を皮切りに、急角度で敵戦へ突っ込む。
 みるみるうちに速度が上がり、速度計は八百八十km/hを指している。
 すれ違い様に口径二十二mm四門の機関砲を発射した。一門当たり毎分三千八百発の
発射速度を誇る速射機関砲が火を吹く。
 
「敵四機が主翼を損傷、五機が燃料漏れをおこしてます。残り十九機は損傷軽微です」
「自軍の被害は?
「田島、尾翼を損傷しました。継戦困難です」
「船越を護衛につけて待避しろ」
「船越了解!
「田島了解! 申し訳ありません」
「いい、無事に帰れ」
 
 敵は反転、上昇してこちらのケツを狙っている。
 どうにかこちらを射線に捉えた数機が機銃を撃ってきた。
 
「あと二~三回攻撃したら一度高度をとる」
 
 急降下で失うエネルギーを考えるとこの回数が反復攻撃の限界だ。
 相手に後ろをとられたので回避行動をしつつ高度をあげて敵機との距離を詰める。



 
「お、高度を下げないのか。死守命令でも出てるのかね? そうでもなきゃ何を企んでいるのやら」
 
 本来、この状況であれば高度を落として戦える場所まで引きずり込むか諦めて逃げるべきなのだが、相手にはその気配がない。
 逃げられるだけなら問題ないが、下で戦うと流石に損害が無視できないものになりそうなので無理に追撃はしないつもりだった。
 しかし、そのどちらもとらないのであれば敵機はただの的だ。
 良くて時間稼ぎ位にしかならない。
 
「敵さんも必死ですね。まあこことられると空中給油無しで本土に届くようになるから当たり前ですけど」
 
 程よく高度が上がったので再突入、敵機の脇腹に向けて機関砲を発射する。
 もちろん相手も回避行動をとるが速度差が大きすぎるので間に合わない。ぜい じゃな胴体部への被弾で敵は四機まで数を減らした。
 
「キレイに入ったな。もう一度入れたら高度をとる。各機しっかり距離を保て! 突入するぞ」
「「「はい!」」」
 
 現状では、旭日の航空優勢は圧倒的だ。
 
 
 
 これ以降一部でヤードポンド法の表記が出ます。
 結構表記揺れしてますし、変換がガバガバなのであまり気にしないでください。
 気になるようでしたら修正します。
 RF-6fという機体が出てきますが、実際に存在したヘルキャットとは無関係です。
 
 
 



 合衆国side
 
「敵艦載機隊が迫ってます。ルーが三十機。基地北東方面五十マイル高度二万フィート付近を二百mph程度で航行していました。現在上昇中です」
「可能なら監視を続行しろ。すぐにようげき隊を上げる。Aアルファ隊、Bブラボー隊スクランブル!!地上部隊は念のため高射砲を構えろ」
「「「イエッサー!」」」
「敵はルーのみか?
「そうです。爆撃機や攻撃機は確認できませんでした」
「別動隊の警戒に当たれ。二機索敵機を送る。絶対に死なずに情報を持ち帰れ!いいな」
「勿論です!
「ダグラス、ナタリー、RF-6fでヤツらの爆撃隊を探してくれ」
 
 彼らは怪我で戦闘機パイロットからは引退しているが、二人とも熟練のパイロットだ。
 哨戒任務にも慣れている。
 幾つもの死線を乗り越えた本物のベテランを索敵に送り出す。
 
「「了解!」」
「司令官! スパロー十二機が過給機の整備中で動かせません。ピジョンももうありません」
「クソッタレ! 残ってる機体は?
「すぐにでも飛べるのは練習機が五機、機種転換待ちのf4bが三機だけです」
 
 これでは最新機種であるスパローを優先的に支給されたベテランが出られない。
 しかし、いくらベテランとはいえ、練習機や機種転換待ちの旧式機では話にならない。
 以前に使っていたピジョンも残っているが、燃料は全てスパローに移してある。
 燃料の積み直しは意外と時間がかかるので過給機の組み上がりを待つしかない。
 機体の供給が間に合っていない前線では整備中の予備機が無いことが多々ある。
 ここも供給が足りていないのだ。
 
「そんな機体じゃ話にならん! Bブラボー隊のピジョンに乗れるものはAアルファ隊に合流、乗れない


ものは組み立てが終わるまで待機しろ! 整備隊! 大至急過給器を組み上げてくれ」
「了解」
 
 
 滑走路
 ピジョンの二千馬力エンジンgx280が次々と始動する。
 プロペラが空気を押し出し推進力を生む。
 高馬力のエンジンは小型軽量の機体を強力に引っ張り、地面から離れていく。
 小型ゆえに航続距離は短いが、その代わり高い旋回性能と高速性を両立している。
 壱式艦戦と比べてしまうと見劣りするが、間違いなく強力な機体だ
 
「旭日の猿どもめ!絶対に許さない」
「落ち着け、感情に飲まれるな。俺達はスパローが来るまで足止めするのが目的だ」
「しかし」
「しかしもなにもない。悔しいがこの機体はルーと比べると劣っている。自覚して生き残ることだけを考えろ。時間を稼ぐんだ」
「基地より、大体の方角は北東、詳しくは偵察に聞いてくれ。敵はルー三十機、高
度は二万フィート程度だったそうだが爆撃隊と合流するのであれば会敵する頃には三万六千以上を飛んでるはずだ。君たちの幸運を祈る」
 
 無線から司令官の声が聞こえる。
 最低限ではあるが、敵の情報が入ってきた。
 こちらがまともに動けない高度に敵がいる可能性は想定内だ。
 
「こちらが高高度を飛べないのを分かっているだろうからそうだよな。スパロー、出来るだけ早く来てくれ。お前らだけが頼りだ」
 
 Aアルファ隊の隊長が独り言を漏らす。
 隊長の言うとおり、ピジョンは二万七千フィート以上では真っ直ぐ飛ぶのが精一杯とまではいかないが、速度が足りず、旋回時の失速が激しくなる。
 油断すればすぐにスピンだ。
 加速し続ければ高馬力のエンジンで何とか三一三mphは出るがヤツらの戦闘機は平気で四百mphは出す。
 どうあがいても勝てない。



 しかし、スパローは違う。
 最新式のgx300 水冷十四気筒エンジンを搭載し、二段三速スーパーチャージャーによってピジョンとは比べ物にならないほど高高度性能が高い。
 合金の悪質化によって信頼性が低かった二段過給機は構造の単純化で整備性が大幅に向上したため、簡単な整備さえ行えば飛べるようになった。
 短時間であればルーとさえ互角以上に渡り合える。
 敵との予想遭遇点、高度三万六千フィート目標上昇高度だ。
 辺りを見渡すと仰角六十°距離一・五マイルほどの位置に既に敵機がいた。
 予想高度よりも少し上に居たため発見が遅れた。
 
「敵だ! クソ! 予想より上に居やがる。ウィングマンと散開しろ! 固まってるとまとめて落とされるぞ」
「「はい」」
 
 隊長の指示でそれぞれがウィングマンと共に散開する。
 これで狙いが分散して流れ弾が当たる確率は小さくなる。
 敵は直ぐに急降下を始め、こちらに狙いをつけた。
 
「回避しながら撃ち返せ! 狙いは適当でもいい! 弾幕を張って自機を守れ」
 
 敵は圧倒的な速度をもってヘッドオンで襲いかかってきた。
 ルーは正面の耐弾性能が非常に高く、角度や被弾箇所によっては三十mmでも有効な損傷を与えられないことがある。
 機体の優位性を生かして真っ向から制圧する。
 単純ゆえに効果の高い戦術だ。
 こちらが向こうに有効打を与えるには大きく迎角をとって主翼か胴体部の弱点を狙うしかない。
 もう敵の射程内で降下や旋回による回避は的を大きくするだけの自殺行為なので機首を引き起こして投射面積を減らし、進路を揺さぶりながら機銃を発射する。
 大きく迎角をとったせいで失速ぎみになるまで速度を落としている機体も多い。
 隊長の機体も気流が剥離、再付着を繰り返すことで生じる振動が感じられる、危険な状態だ。
 交差が終わった、友軍機が数機主翼をやられて墜落している、燃料が吹いている機体もある。



 ここは洋上、海岸からの距離はかなりあるが、敵が攻めてきていると言うことは恐らくは帝国の潜水艦が潜んでいる。
 運が良ければ命だけは助かるかもしれない。
 一度自機の下を通過してから敵機は速度にまかせて再上昇している。
 狙うなら今だ、ローヨーヨーで加速反転してヤツらのケツに照準を合わせる。
 
「落とすなら今だ! ケツを狙え。一機でもいい落とすんだ」
 
 敵側は損傷した二機が離脱し、残りはみるみるうちに上昇していく。
 ここで落とせなければもう一度急降下をもらう。
 何としてでも損害を与えて阻止しなければならない、全力で機関砲を放つ。
 しかし、こちらと違って余裕のある向こうは悠々と射線から逃れる。
 やがて、上昇が限界に達し敵機を照準に収められなくなる。
 敵との距離が詰まる、ヤツらは速度を高度に変換して上からこちらの脇腹を狙っている。
 もう機関砲は届かない。
 急旋回による回避もできない。
 万事休すだ。
 後は頼んだぞ
 脆弱な胴体部に被弾したピジョンは次々に墜落していく。
 隊長機も例外ではない、運良く操縦席は無事だが、敵の二十二mmでエンジンも油圧も燃料も全部ダメになった。
 ふと、エンジン音が聞こえる。
 ルーの二十気筒エンジンの音ではない。
 ピジョンの酸欠で苦しそうな音でもない。
 力強く、それでいて軽快な猛々しいエンジン音。
 熟練パイロット達が駆るインターセプタースパローは今到着した。
 
 
 
 帝国side
 レーダーを監視している青木隊員から無線が入った。
 
「レーダーに十二機の新手、高度はこちらとほぼ同じです。降下一旦待ってください」



「敵の増援か。敵の機種は分かるか?
「不明ですが、噂の新型機だと思われます。六百八十km/hで接近していますからピジョンではないのは確かですね。ピジョンはこの高度だと直線で五分以上加速し続けた上でかろうじて五百km/hが出る程度ですから」
 
 残った四機は高度を落とし、戦域から離脱している。
 追撃をするべきなのだろうが、もし新型機が噂通りの性能を持っているのであればこちら全員でかからなければ危険だ。
 
「離脱した敵機は無視しろ。それと、自軍の被害は?
「全機損害なしです」
「よし、全機速度が落ちすぎない程度に上昇する。敵新型機を迎え討つぞ」
 
 隊長機を先頭にまとまって少しずつ高度を上げ始めた。
 
 
 
 合衆国side
 Aアルファ! 間に合わなかったか!
 撃墜されたピジョンの残骸が豆粒のように見える。
 敵戦闘機隊もはっきりと視認できた。
 機種は報告にあった通りルー
 撃墜されたのか報告より二機少ない二十八機しかいないが、それでも数は倍以上だ。
 敵を上回る運動性があるとはいえ、普通に考えれば自殺行為に近い。
 しかし、スパローに乗るのはいずれも五機以上の撃墜記録があるエースのみだ、勝ち目はある。
 
「こちらAアルファ隊ニック。一旦戦闘空域より離脱しました。燃料は僅かですが残ってます。そちらが戦闘に入ったら上から奇襲することもできますがどうしますか?
「おお! 生き残りがいたか。是非頼みたい。そちらの残存機は?
「四機です」
「ずいぶん減ってしまったな。準備ができたら無線をいれてくれ。指示を出す」
「了解しました!
 



 さて、敵の機体はすでに見えている。
 高度三万六千フィートの高高度を飛行する敵機を正面から迎え撃てるのは我々だけだ。
 全長およそ七m、翼幅およそ九・三mの小柄な機体に二段三速スーパーチャージャー付き二千馬力級十四気筒エンジンを積んだスパローは航続距離を犠牲にルーのような大型機には絶対に不可能な機動を可能とした。
 機首には十二・七mm機関銃が四門、主翼内部には二十mm機関銃が片側二門、計八門の重装備だ。
 二十mmの弾薬ベルトには三発毎には帝国の物と比べても強力な炸裂弾が装填されている。
 装甲さえ貫ければどんな大型機でもひとたまりもない。
 
「敵は微上昇しながらこちらへ向かっている。こちらも高度を上げるぞついてこい」
「「「イエッサー!」」」
 
 追い込まれた状況にも関わらず、パイロット達の士気は高い。
 彼らがスパローに乗るのは二回目、試験飛行のとき以来だ。
 新しい機体を駆って出撃するのはパイロットにとって最も楽しい瞬間のひとつだろう。厳しい戦局でこそ士気は重要だ。
 それがあれば持っている実力以上の力を引き出せる。
 
「俺が突出してヤツらを引き付ける。他は自分のウィングマンと浮いた敵を叩き落とせ!
「な、危険ですよ」
「心配はいらねぇ、俺は自分に自信が有るからな。この機体なら負けない」
 そう言って副隊長オスカーは返事も聞かずに編隊から外れた。
「放っておけ、いつものことだ。止めたって行くよ。援護には俺が入る。直進すれば後三十秒で機関砲の射程内だ。各機ウィングマンと散開!
 
 隊長は副隊長の援護に向かう、これで全員が二機一組になった。
 敵機との高度差はほとんどなかったが、こちらの方が僅かに上昇力が高いので五十mほど上にいる。
 これで多少は有利に立ち回れるはずだ。
 



「困ったな。敵さんの方が上昇力が良いみたいだ」
「そうみたいですね。どうしますか? 多分降下すれば逃げ切れますけど」
「この後の基地爆撃を考えるとやっちゃった方がいいんだよな」
「ですよね」
「よし、隊長機から各機、小隊戦闘だ。高度差は大きくないし、性能差も数でカバーできる範囲だと思う。耐弾性能はピジョンと大差ないらしいから一発でもまともに当たれば戦闘不能にできるはずだ。出来れば1機に対して四機以上で各個撃破しろ。健闘を祈る!
 
 こうして歴史に残る空戦が始まった。
 
 
 
 帝国side
 
「敵戦闘機が一機編隊から外れてこちらへ向かってきてますね」
「そうだな。あいつはバカなのか?
 
 敵はこちらより優速で高度も高くとっているが、それでもたった一機で突撃してくるのは理解に苦しむ。
 多対一戦闘は絶対に避けるべきことだ。
 多くの場合乱戦状態に陥り死角から撃墜されるのがオチだからだ。
 
「一斉射撃! 落としてしまえ」
 
 次の瞬間信じられない光景が広がる。
 二十八機の壱式艦戦から放たれた二十二mmと十二・七mmの弾丸は真っ直ぐ飛んでいる様に見えるスパローの右側を通りすぎただけだった。
 
「横滑りしているのか? いや、射管が検知するはずだ。どうやったんだ?
 
 敵機は高度を下げて加速しながらこちらのど真ん中を突っ切る。
 無理に射撃はせずこちらを引っ掻き回すのが目的だったようだ。
 現に何機かが追いかけようとして接触しかけた。



 
「正気じゃないな」
「隊長、岡崎と岡村が通過した敵機を追尾しに行きました。止めますか?
「微妙だなー。あいつらは新人だけど成績はいいからな。ほっといたら死角からやられそうだし、いいんじゃないか?ただ深追いはしないで欲しいな」
「そうですか」
「それよりも引っ掻き回されたな。何人かが相棒を見失ってる。各機、相棒を見失ったやつは下手に射撃せず、後ろを警戒しながら合流してから戦闘しろ」
「俺はちゃんと隊長の後ろにいますよ」
「分かってるよ、後ろは任せた。青木、お前のペアは俺のペアと一緒に敵機を挟み撃ちにしてくれ」
「了解です」
 
 自機より飛行性能の高い敵機との戦闘は久し振りだ、気合いをいれていこう。
 
 
 
 合衆国side
 オスカーが敵機の中を通って引っ掻き回した後、フランク隊長が合流した。
 
「オスカー、援護する」
「またかフランク、別に俺の援護なんかしなくてもいいんだぜ?
「何度目か分からないが言わせてもらうけど、いくらお前だって後ろに目玉は付いてないだろう? お前が心配なんだよ」
「目玉は付いてなくても後ろは見えてるんで間に合ってるな。後方三百三十ヤード、下方百フィート敵機二機だ。おそらくこちらの旋回を待ってる」
 
 この距離は敵機の機関銃の射程内ではあるが、二十二mm機関銃は初速が遅めで、ましてや下から撃つとなると軌道が弓なりになるためほとんど当たらない。
 十二・七mmはそこそこの命中率があるが、フランク隊長とオスカー副隊長は絶えず機体を揺らして狙いをずらしている。
 何時までも持つわけではないが、二人の乗るスパローは少しずつ上昇しているのでその射程からも外れようとしている。
 航続距離に難のあるこちらはどこかでヤツらより先に引き返さなければならないし、


ここから当てるには充分に投射面積が大きくなる旋回を狙うのが一番簡単なので旋回を待っているというわけだ。
 直進し続ければ帰ってこられなくなるスパローには結構きつい。
 
「完全に死角のはずなのになんで見えるんだか……。どうするんだ?
「出来れば釣り上げる。ダメなら強引に旋回戦に持ち込んで隊長の射程に放り込む」
「俺が必要ないってのはどこ行ったんだ」
「おっと釣れた釣れた。もうちょっと我慢してたらこっちも大変だったのになぁ? せっかちだなっと」
 
 二人を追って緩やかに上昇していた敵機は痺れを切らして一気にこちらと同じ高度まで上昇して射撃してきた。
 後は簡単だ、操縦桿を引いて左上に方向転換。
 敵機も慌てて同じ軌道をとろうとするが、速度を失ったため上昇に付いていけずオーバーシュート、切り返して斜め上から機関砲をぶちかまし、主翼を撃ち抜いた。
 根本から主翼を折られた敵機は完全にコントロールを失い、墜落した。
 
「グッドキルだオスカー。相変わらずいい射撃センスだな」
「どーも、まぁまだこれからさ。少なくとも後3機はやっておきたいねぇ」
 
 舵を切って落とした機体の寮機を追撃する。
 こちらも先程の旋回で大きくエネルギーを失った上、隊長の援護も有り、簡単に撃墜できた。
 正面からは固いが、飛行機である以上軽くするために脆い部分はある。
 ルーの防弾性能は側面や上部からでは発揮できないのだ。
 
「さて、次だ」
 
 二人のベテランパイロットは主戦場に戻って行った。
 
 
 
 合衆国side
 



 Aアルファ隊奇襲部隊
 
Aアルファ隊ニックよりBブラボー隊隊長機へ、現在高度三万九千四百フィートを飛行中。奇襲可能です」
 
 ニックたちの乗るピジョンはほぼ実用上昇限度である一万二千mの上空を飛行している。
 速度は三百四十km/h、真っ直ぐ飛んでいる事すら難しい。
 機関のレバーは完全に奥まで倒されており、燃料はみるみるうちに減っている。
 
「隊長機より、ちょっと待ってくれ今敵本隊が見えてない。戻ったら指示を出す」
「了解。後五分もすると帰還できるか怪しくなるので早めにお願いします」
 
 運命の瞬間は刻々と迫っている。
 
 
 
 主戦場
 両軍の戦闘機が入り乱れて乱戦の様相を呈している。
 ある機体は敵機を追いかけ旋回し、ある機体は射撃中の敵機へ急降下を仕掛けている。
 共に実力は拮抗しておりお互いジリジリと数が減っている。
 高度の優位を生かしやすいのは壱式艦戦の方と言えよう。
 スパローとは五千kg以上の重量差があるため、急降下時の加速は壱式艦上戦闘機の方が格段にいいからだ。
 しかし、それ以外の多くの部分でスパローが優れている。
 旋回性能、加速性能、最高速度、上昇力など基本性能は自軍基地の防御が主任務で航続距離を考えなくてよいようげき機だからこそ小型の機体に大出力エンジンを積むという方法で極限まで引き上げてある。
 大口径の機関砲で攻撃力も充分だ。
 数の優位で押し潰される機体もいるが、壱式艦戦は木の葉のように逃げるスパローに対してうまく射線を合わせられない。
 一方でスパローもまた、数で劣るため回避機動が大きく制限されている。
 パイロットは皆ベテラン、機体性能も上回っているが、それでも二倍以上の数の差は


埋め難い。
 損失機数こそ帝国側の方が多いが、僅かに合衆国の方が劣勢だ。
 このまま続けばスパローは戦術を維持できなくなるので厳しい状況だ。
 戦闘は続く。
 
 
 
 帝国side
 
「鈴木、後ろはどうだ?
「遥か後方に敵二機っす。特に問題にはなりません」
「よし、なら十一時の敵機を誘導する。青木、頼んだぞ」
「了解、中山、後ろはどうだ?
「問題なし」
「仕掛けます」
 
 青木隊員が降下しながら新型機を追う。
 それに気がついた新型機は青木隊員機に向かって舵を切りブレイク。
 オーバーシュートした青木隊員機に対して適当に射撃しけん制しながら回避行動をとる。
 敵機が自分の内側に居ることを察しての行動だろう。実際に居たし、しっかり狙って攻撃を開始していれば撃墜できたはずだ。
 逃げているだけではジリ貧だが、高度の回復が簡単な敵は何度も降下射撃が出来る。
 練度の高いパイロットが囮になることで反復攻撃をされ、既に何機かの味方が撃墜さている。
 
「鈴木、後ろはどうだ?
「大丈夫です。やっちゃってください」
「よし来た」
 
 敵機の方向に鋭く曲がりながら急降下を行う。
 重量が大きく、空気抵抗によるエネルギー損失の割合が少ない壱式艦戦はグイグイと加速し、誘導された新型機の正面に迫る。
 射撃!



 真正面から機関砲を撃たれた新型機はしかし、敵パイロットの巧みな操縦により致命打を免れた。
 
「鈴木!
「はいよー!
 
 取り逃した新型機を後ろにいた鈴木が追撃する。
 運悪く風防を貫通した22粍弾がパイロットに直撃し、真っ赤に染まった敵パイロットだったモノは空中に放り出された。
 
「あちゃー、やっちゃいましたね」
 
 空中戦でパイロットが撃たれて死ぬのは珍しくないが、風防が汚れるほど近くで死ぬのは珍しい。
 
「まあ、仕方ないだろう」
「戦いづらいですよ」
「まあ、頑張れ」
 
 四機の壱式艦戦は高度を回復し終えた班と入れ替わりで主戦場から離脱した。
 
 
 
 合衆国side
 二機のスパローが主戦場に戻ってきた。
 後ろを飛ぶ隊長機は無線で指示を出す。
 標的は今まさに自軍機を追い詰めているルー
 ピジョンが急降下を始める、スパローと比べても軽量なピジョンは翼の強度が機体の重さに対して非常に大きく、急降下制限は時速千kmにも達する。
 四機のピジョンはほとんど垂直に降下しながらそれぞれの目標機に向かってダイブし、機関砲を放つ。
 敵機がピジョンの急降下に気付き慌てて回避行動をとろうとする。
 遅い
 遷音速時特有の振動を感じながらニックは一機を撃墜、そのまま離脱した。



 充分に距離を取り、エアブレーキを展開して減速し、ゆっくりと機首を上げる。
 すでに燃料は限界、ゴーアラウンドすら怪しいので滑走路への侵入も失敗できない。
 途中で会敵すれば間違いなく墜落だ。
 しかし、彼には安心感だけがあった。
 
Aアルファ隊ニック他三機、基地へ。燃料切れのため帰投する」
「基地から、Aアルファ隊ニック、生きていたか。あいにく帰る場所はもうすぐ無くなりそうだ。ついさっきナタリーが爆撃隊を発見した。ダグラスは敵揚陸艦隊に触接している。今は機密書類を焼いているところだ。オマエの分の白旗も用意してやる。幸い帝国軍の捕虜の待遇はかなり良いらしい」
「そう……ですか」
「……ようやく息子の元に戻れる」
 
 司令官は無線を切った後そう呟いた。
 
 
 
 帝国side
 隊長ペアと青木ペアは主戦場から若干距離を置き、緩く旋回しながら高度を回復している。
 その時、まさに敵機を誘導している機体に向かって何かがダイブしているのが見えた。
 
「木崎、川島、ピジョンと思われる機体がダイブしている。回避しろ! 早く!
 
 急降下しているピジョンは凄まじい速度だ。ひょっとすると壱式艦戦でも出せない速度で降下している。
 間に合わない!
 隊長の警告空しく四機が撃墜された。
 戦術的観点から見ても性能で劣るこちらがさらに性能の低い敵機に落とされるのは痛いのだが、それよりも共に戦う仲間を一度に四人も落とされ、怒りをおぼえた。
 怒りをおぼえたの撃墜された事自体に対してではない。
 軽い気持ちでピジョンを無視する指示を出した自分に対してだ。
 



「隊長、怒るのは分かりますけどあの時追撃してたら、きっともっと被害が出てましたよ?
 
 無線から怒りを堪える声が漏れた聞こえたのか、鈴木がそう言う。
 
「いや、一組だけでも追わせておけば防げた。だが、すまない。俺は常に冷静じゃなきゃいけないのに」
「後から言っても仕方無いですよ。それに、隊長も人間ですからね。むしろ人間らしくない上官なんて嫌です」
「隊長から各機、小隊を再編成する。生存者の機体番号順に番号を言う。聞き逃さぬように」
 
 無線で生存者の番号を伝える、反応があったのは新型との会敵から八機減って二十機になっている。
 ペアを組んでいる鈴木と青木のペアは一緒にいて無事だが、あの乱戦の中で二機、急降下による奇襲で4機、敵機を追って主戦闘空域から外れた岡崎と岡村も反応がなかった。
 
「以上が生存者だ。奴らの上をとるから一度離脱して一番若い番号を基準に小隊を組みなおせ。鈴木、青木行くぞ」
「鈴木了解」
「青木了解!中山行くぞ」
「中山了解」
 
 四機の壱式艦戦は再び主戦場へと戻った。
 
 
 
 合衆国side
 
「面白そうな匂いがするねぇ。あそこの集団だ」
 
 ピジョンに指示を出したフランクとオスカーは再び主戦場に戻ろうとしたが、途中でオスカーが帝国軍隊長機の集団に興味を示した。



 
「面白いかどうかは置いておいて、放置したら危険ではあるな」
「つまらない言い方だ。もっと楽しめばいいのに」
「戦争が楽しいのはお前みたいな人種だけだよ。戦ってて何が楽しいんだか」
「そうかい……俺としては隊長機の後ろにいる奴が気になるんだけど、どうだ?
 
 オスカーの言葉遣いには多分にナンパを意識したニュアンスが含まれている。
 
「生憎、俺には家に待ってる人がいるんでな」
 
 フランクもそれに乗って返答する。
 
「なんだ、そんな事か。ソイツは掃除の時にお前をのけ者にしないか?いつも寝坊するお前にビンタをくれないか?お前の趣味を否定してないか?アレを落とせば全部思い通りだぞ」
 
「ああ、確かに掃除の時に俺をのけ者にするし、寝坊すると容赦ないし俺の趣味に理解
を示さない。けどたった一人の愛する妻だよ」
 
「よく言った。これでアンタが戦う理由は充分だ」
「ああそうさ。けど最初からそのつもりだ」
「そうかい、じゃあ、一発ヤろうか」
 
 オスカーは下品に笑った。
 
 
 
 帝国side
 
「隊長、追われてます。どうします?
「さっき通りすぎたやつか?
「恐らくそうです。潰せるならやっちゃった方が良いですよね?
「そうなんだがこれ以上向こうで小隊を維持できない状態が続くと、被害が増えそうなんだよな。どうしたことか……隊長から各機、もう少し耐えてくれ。後ろに着かれた」



「「「了解」」」
 
 二機の新型機に後ろをとられた隊長らは降下増速して引き離しにかかった。
 
 
 
 合衆国side
 
「降下したな。気付かれたみたいだ」
「ピジョンと違って急降下制限は五百五十mph程度だからそれをされるとすぐには追い付けねぇ。歯がゆいな、機種転換直後だから余計に」
「どうするんだ? 向こうを援護するのか?
「いや、あれを仕留めるのが先だ。敵の連携は崩れて来ているから主戦場の連中はまだ持つだろう」
「どうやって追い込むんだ? 追い付けなきゃ話になら無いぞ」
「普通に追いかければいい。こちら圧倒的に重量が軽いから低空での運動性が高いし、相手はこちらより高度の回復が遅いから下手に高度を下げられない。下げても二万九千
五百フィート程度までだ。追っていけばどこかで必ず止まるしエネルギー損失が大きくなりすぎる六百二十mphを越えるようなダイブを続ければ戻ってこられなくなる。どちらかというと二機に押さえられてるうちにもうひとつのペアが昇るみたいに上をとられて交互に一撃離脱される方がキツい。だから高度を下げられるのはこっちに有利だ」
「そうだな。釣りの可能性は?
「もしループして後ろをとられるようなら降下したまま離脱したら良い。その後ゆっくり上昇に転じれば向こうは付いてこられない」
「OK行こうか」
 
 2機のスパローはルークを追いかけて急降下を始める。
 
「ループ、釣りか」
 
 予定通りループには付き合わずそのまま降下して離脱、充分距離を離したところで上昇、高度を回復して行く。
 ループでエネルギーを失った敵はこちらよりかなり劣速になっている。



 
「じゃあ、上から突つくから浮いたやつから食ってくれ」
「俺はおまえじゃないから期待はするな。仕事はちゃんとするが」
「あれ、一機居ないな。どこだ?
「お前でも見逃す事があるんだな」
「あぁ、太陽の方だ。ちょっと不味いな」
「おいおいマジかよ」
 
 真上から迫るルーク、どこから居なかったのかは分からないがループの途中で上昇したまま上に抜けたようだ。
 
「幸いにも速度は早くない。普通に撒けそうだ」
 
 上昇限界点まで登って機首をUターンさせる機動で向かってくる敵機だが、こちらより持っているエネルギーが低いせいで充分な高度を稼げず、速度も中途半端だ。
 これなら避けるのも容易い。
 しかしその時、真上の敵機はあり得ない加速を始める。
 明らかにプロペラの推進とはかけ離れた……ロケットのような急激な加速。
 それは反射だった。
 パイロットとして少なくない戦場を切り抜け、数多の敵を屠ってきたベテランパイロットとしての勘によるものだ、急旋回する。
 直後、激しい振動で主翼が震えるルーが通りすぎた。
 あの速度ではほんの少し操縦棹を触っただけで機体が弾け飛ぶ。
 間違いなく機体の限界を超えた急降下だ。そんなことを躊躇なく出来る奴がいる。
 そう考えると笑いがこみ上げる。
 
「これは良いッ! 向こうにも狂っている奴がいる!!
「盛り上がってるところ悪いんだがラジエーターを損傷した。冷却液漏れが発生している。全力運転は後5分程度しか持たない」
 
 エンジンステータスを表示する装置の冷却水の異常を示すランプが点滅している。
 水冷エンジンにとって冷却水は血液だ。
 熱を運んで外に捨てる、これが出来ないとあっという間に焼け付きをおこす。
 



「問題ない。後五分と言わず四分半で片付けてやる」
「三十秒はキツい、もう少し余裕を持って欲しいんだが」
「無理、耐えて」
「無茶いってくれる」
 
 フランクは吐き捨てるようにそう言った。
 
 
 
 帝国side
 
「おい鈴木!なにやってんだ」
「勘づかれてるっぽいんで奇襲かけます。体勢が崩れたらやってください」
 
 そう言ってループの途中でそのまま上昇を始めた。
 だが、このままでは速度が足りず、敵に追い付けない。
 
「おい、アレ使うのか?
「それ以外考えられないでしょう。はぁ」
 
 アレというのは離艦補助に使われる固体ロケット式の推進装置だ。
 普通はカタパルトの故障が発生した時やそもそもカタパルトが装備されていない母艦からの発進に使うのだが、この装置は凄まじい推力を持つので緊急退避や今の鈴木のように加速補助にも使える。
 使えるのだが、この装置の推力はなんと約六tにも達し、急降下中であればレシプロ機である壱式艦戦ですら音速に迫る事が出来るというとんでもない仕様になっている。
 短時間で燃え尽きてしまううえ、一度使えば母艦に戻るまで二度と使えないし、なにより加速が激しすぎて機体が弾け飛ぶ可能性がある。
 はっきり言って自殺行為だ。
 まあ、やってしまったものは仕方がないので鈴木の言うとおりに追撃に入る。
 鈴木の急降下を回避する際無理な機動をした敵機はエネルギーを失ってこちらより少ない高度しか持っていない。
 多少こちらの方が有利だ。
 



「青木頼んだ!
「え?丸投げですか。中山!
「はいはい」
 
 二機の壱式艦戦が敵機の頭上に躍り出る。
 狙いは先程鈴木の奇襲で銃弾を受けた方の新型。
 青木が追い、中山が予想進路に置き弾してちまちまと損傷を増やしている。
 ほとんど動けないような布陣になっているにも拘らず敵機の被害は少ない。
 さっきの釣りに反応しなかったことからもかなりのベテランであることが伺える。
 隊長は相手にされていない方の敵機を妨害するのが役目だ。
 
「あーったく、ハズレだハズレ!俺には荷が重い」
 
 隊長が相手にしているのは敵ナンバーワンパイロットなので無理もない。
 なにせ完全な不意打ちだった鈴木の一撃にすら気づいたのだ。
 見えている攻撃など当たるはずもない。
 
「鈴木!早く戻ってくれ。持たない」
「はいはい今戻りますよ」
 
 そうは言ったものの鈴木は減速して再上昇する過程で大きくエネルギーを失っている。
 離艦用のロケットは一本しかないので戻るまでに後一分以上掛かるはずだ。
 現在、敵の新型機は予測不能な機動で飛行しており機関砲が当たる気配はない。
 長年使い込んだ機動はどれも通用しない。
 
「踏ん張りどころだ」
 
 隊長は気合いを入れ直した。
 
 
 
 合衆国side
 



「ちっ、邪魔だな。」
「そんなこと言ってないで助けてくれ。突っ込んで引っ掻き回すんじゃなかったのか?
「敵隊長機が教科書通りの綺麗な戦法で阻止してやがるんだよ。当ては付けやすいが隙がない」
 
 オスカーは敵隊長機を翻弄する見事な飛行をしているが、とても苛立っていた。
 鈴木の奇襲でエネルギーを失ってしまい選択肢が狭まったのも原因ではあるが、それ以上に隙の少ない機動をする敵とオスカー本人の破天荒なスタイルが合わないのだ。
 中級者以下であれば教科書通りに動くやつは、撃墜しやすいのだが堅実なベテランはそうもいかない。
 経験によって奇策にも対応出来る。
 一対一では機体性能とパイロットの腕が物を言うが、機体性能はともかくパイロットの相性で負けているオスカーは見た目以上に苦戦しているのだ。
 
「悪い、フランク。こいつを食ってから行く」
「おい、間に合う、のか?
 
 隊長からの無線は途切れ途切れ、幾度も攻撃を受けて余裕がない。
 
「損害度外視なら一分半で食ってみせる」
「動けな、くなるなよ」
 
 返答は無かった。
 深呼吸、気持ちを整える
 操縦桿を引く、機首が上がる
 猛烈なG
 後方に敵機、自機を追って上昇して来た
 堅実なハズの敵が追って来たのには少々驚いたが、好都合だ
 ラダーで進路を微調整する
 エンジンの出力を絞る
 敵機が近付く
 三百m
 弾がかする



 まだ我慢、エネルギーを温存する
 二百m
 ロールしながら狙いをずらす
 真後ろの防弾板から金属音が響く
 百m
 二十二mmがキャノピーを削り取る
 エンジンを全開に戻す
 零m
 機関砲が止む
 敵がこちらを追い抜く
 
「ショット!!
 
 機関砲が火を噴く!
 敵機の主翼から燃料が噴いた
 まだだ
 敵がブレイクする
 今度は俺が前だ
 後ろから弾が飛ぶ
 避ける、避ける!
 右主翼端が吹っ飛んだ
 操縦桿の手応えはある
 油圧は生きている
 まだ戦える
 ブレイク!
 撃つ、撃つ!
 火花が散る
 敵機は発火した
 油断はしない
 さらに撃ち込む
 胴体下部から何かが飛び散る
 敵機は次第に速度を失った
 
「ざまぁみやがれ」



 
 墜ちる敵機を見送り、オスカーは隊長の援護に向かった。
 
 
 
 帝国side
 敵の戦闘機を追跡する、しばらくは回避機動をとりながら直進していたが、突然上昇した。
 
「なんだあいつは。クソ、でも放って置けねえ」
 
 突然の上昇、それはエネルギーを失いかねない危険な機動であったが、今はこいつを押さえておけないと、すぐ近くで戦っている青木の小隊にちょっかいを出される可能性がある。
 行かせるわけにはいかない。
 
「付き合ってやるよ」
 
 歯を食い縛って操縦桿を引き、新型機を追って上昇、ケツに照準を合わせて射撃する。
 
「おいおい、ホント頭おかしいな」
 
 敵機はエアブレーキを使わず機関の出力を絞って減速を早めた。
 敵機が前に出ている時間が増えるため、被弾する確率が大幅に大きくなるが、質量の関係で慣性力の大きい自機はすぐに減速できない。
 このままでは追い抜いてしまう。
 対応策は単純、このまま撃ち落とす。
 当たれゴルァー
 予想進路に二十二mmと十二・七mmをばらまく。
 それらの一部は敵機に当たっているが致命打にならない。
 やがて敵機を追い抜き、後ろに着かれる。
 ド畜生!
 後ろから激しい射撃を浴びせられる。



 いかに前後の装甲が厚いとはいえ、長い間射撃にさらされれば損傷する。
 敵の銃弾が翼内タンクを破壊し、燃料を噴出する。
 火は付かなかったが手痛い損害だ。
 しかし、充分に減速し敵機の後ろをとるのに適当な位置に来た。
 ブレイク!
 今度こそ墜ちろ
 隊長は撃つ、射撃音に合わせて敵機は舞う、その間を銃弾が迸る。
 一発の二十二mmが敵機の主翼端に当たった。
 敵機右主翼端の破片はまるでこの戦いを演出する紙吹雪のように散る。
 やがて隊長の出番は終わり、再び敵機がこちらを撃つ番が来た。
 ブレイク、短い沈黙。
 フィナーレを演出するのは激しい射撃音、響く着弾ショック、主翼の炎。
 完全に捉えられた壱式艦戦は射撃に耐え兼ね、プロペラが暫く惰性で回った後エンストした。
 機関の沈黙、残ったのは遠ざかる新型機のエンジン音と自機の風切り音。
 あまりにも呆気ない幕引きだった。
 
「あーあ、ペラが回らん。エンジンやられたか?はぁ、隊長から青木、旗機を代わってくれ。動けない」
 
 よく整備され、設計が優秀であるお陰か、すぐに主翼の燃料流出は止まり、消火もしたので、始動用の電動機を動かすと風切り音の中に出力軸が回る音が聞こえる。
 エンジンは無事のようだ。
 過給器が止まってしまったのでこの高度でエンジンをかけるのは難しいだろう。
 三千まで降りたら予備配管に切り替えて再始動してみよう。
 それでダメなら脱出だ。
 
「はい隊長、取り敢えず無事なんですね?
「陸軍の百式戦には劣るが操縦席は頑丈に出来てるからな。始動器は回るし異音もしないから燃料系がやられたのかね?まあ頼んだわ」
「はい、鈴木の手綱もしっかり握っておきますよ」
「副隊長から各機、隊長が離脱したので旗機を代わった。以後の指示は俺に従ってくれ」
「それと、やべーのがそっちに行った。すまない」



「どうにかしますよ」
 
 隊長機は滑空して高度を落としていった。
 
 
 
 合衆国side
 
「フランク、オスカーだ。まだ大丈夫か?
「隊長より、エンジンの温度は思ったより持ちそうだ。それより早くどうにかしてくれ」
「OK」
 
 バーチカルシザースで貯めた高度を使って降下増速、一対二の状況を崩す。
 機関全速、右翼端を失ったことで発生している右ロールを無理やり押さえつける。
 まずは一撃、手始めに隊長機に近い方の敵に機関砲を撃ち込む。
 敵は気付いていたようで問題なく回避する。
 不意打ちでもない初撃ならこんなものだろう。
 取り敢えず一旦隊長への攻撃は止んだ。
 
「大丈夫か?
「お前こそ、翼端が吹っ飛んでるじゃねーか」
「こんなの油圧が生きてりゃ関係ない」
「さっき基地から連絡が入った。多すぎて数が把握しきれないほどのレティーデリックで編成された爆撃隊が来てるらしい揚陸艦隊も発見したそうだ」
 
「上陸作戦か」
「多分な。もう長くなさそうだ」
「これが最後の出撃か?
「そういうことだな」
「このところ負け続きだし、最後くらいパーっと勝つか」
 
 敵機は上、自機の方が速いがエネルギーは五分、銃撃で追い払ってから少しずつ接近し距離を測っている。



 
「上にいる方を先に落とそう。突っ込んでくる」
「盛大に暴れてくれ」
「言われなくとも」
 
 オスカーは一気に距離を詰めにかかった。
 
 
 
 帝国side
 
「鈴木から青木、迂回して上昇中そちらの上にいます」
「青木から鈴木、バカ野郎!どこに離艦ロケットをあんな使い方する奴がいる」
「敵に当てはしたんで勘弁してください」
「そいつはまだ元気に飛んでるけどな」
「そんなぁ」
「押さえておくから早く来い。隊長が墜ちてやばいのが来たせいで状況が崩れた」
「任せてください」
 
 鈴木は集中を始め、遥か下方にいる敵機を視認する。
 狙いは何となく同じニオイのする翼端が欠けた新型機。
 会敵して真っ先にこちらをかき回し岡崎と岡村を食って更に隊長機までも墜とした……恐らく敵のナンバーワンパイロット。
 
「面白いじゃないですか」
 
 鈴木は降下を始めた。
 
 
 
 合衆国side
 オスカーは降下増速、再上昇で、敵機の真下から射撃した。
 二十mmの速射機関砲が火を噴く。
 



「おっと、流石に簡単には当てさせてくれないか」
 
 オスカーが放った弾丸は標的には当たらず飛び去ってしまった。
 オスカーの機体は右翼端が欠けてしまっているためロール軸が不安定になっている。
 照準を合わせにくいのは仕方がないと言えよう。
 そのまま離脱、後ろにいる隊長が追撃する。下方から連続して射撃を受けた敵機は弾幕から逃げるようにして降下している。
 スパローは重量の大きい壱式艦戦に降下離脱をされると追い付けない。しかし
 
「先に降りておけば良いだけの話なんだなこれが」
 
 いつの間にか先回りしたオスカーが再度射撃する。
 完全に予想外の場所から射撃を受けた敵機は成す術もなく墜落した。
 
「フランクは見えている方のルークを頼む。俺は降りてくる方をやる」
「エンジンが焼き付くまでに何とかしてみよう」
「それで充分だ。フランクはエンジンがダメになる前に帰ってくれ。後は俺がぶっ潰す

 
 二人は散開し、それぞれの相手へと向かった。
 
「さて、来たな」
 
 オスカーの後ろ、上方数百メートル、降下中のルークを感じる。
 異常な加速はしていないことからさっきのあれは連続して使えない、もしくは一回コッキリの切り札なのかもしれない。
 敵機の射撃が始まる。
 左右に揺らして回避するが、数発の十二・七mmが主翼を掠めて火花を散らした。
 右ロールを押さえ付けながらの操縦は慣れるのにもう少しかかりそうだ。
 襲ってきた敵機と逆方向に舵を切ってブレイクする。
 速度が無いので追い付けはしないが、多少安全な位置につけるはずだ。
 それから高度を上げて追い詰めよう。それに
 
「基本一撃離脱は効かないしなッ!



 
 しかし、敵は予想外の行動に出た。
 こちらを狙って降下してきた敵機は急減速し、エネルギー有利を捨ててまで格闘戦に持ち込んできた。
 万全の状態であればこちらが圧倒的有利なのだが、オスカーの機体は右翼端が欠けている。
 ルーは左旋回が得意なので左旋回に持ち込まれると少々危険である。
 
「思った通りだ。普通のやつは降下射撃から無理やり格闘戦に移行しようなんて考えねぇ、クハッ最高の気分だ。良いねー、俺の能力を理解しているのか?だとしたら最高だ!
 
 戦闘狂であるオスカーはますます燃え上がる。
 彼はとある能力によって一撃離脱や多対一は通用しないが、ドッグファイトは別だ。一対一では発揮できない。
 それゆえ死闘は確実だ。
 
「勝つのは俺だ」
 
 上空一万mの戦闘は最終局面を迎えた。
 
 
 
 帝国side
 
「青木から鈴木、中山が墜ちたらしい。無事なら合流したい」
 
 鈴木機の無線が鳴る、青木副隊長からの通信だがそれどころではない。
 敵機を追って急旋回中だ。
 必死で下半身に集まろうとする血液を脳内に戻している。
 
「……」
「鈴木、無事なら応答しろ」
「戦闘中、暫く待ってください」



 
 どうにか返答したが、血が下がりブラックアウトしかける。
 これ以上の応答は無理だ、無線を切る。
 すると、鈴木の感覚は前方にいる敵機だけを捉える。
 唸るエンジン音も風を切る音も不規則に放つ機関砲の音も消えてなくなり、世界は青黒い空と淡青色の敵機だけになった。
 鈴木は静かに引き金を引く。
 無音の発砲、恐ろしく現実感のない射撃だが、確実に敵機を捉えているのは直感で分かる。
 敵機は逃げる、まるで射線がどこにあるのか分かっているように。
 敵機は無数の弾丸を避け、自分の後ろをとろうと旋回する。
 壱式艦戦の苦手な右旋回、ここへ来て初めて空戦フラップを使う。
 グッと旋回半径が小さくなった。
 それと同時に今までより更に強烈なGがかかる。
 頭から血が抜ける。
 視界が狭まる。
 それでも鈴木は追い続ける。
 敵機に銃弾が当たる。
 しかし、まだ動けるようだ。
 速度が限界に達し、高度が落ち始めた。
 フラップを上げる。
 機首を下げる。
 逃げる自機を見逃すはずはない。
 敵は後ろにつけた。
 
「おぉぉぉぉぉ!!
 
 鈴木は雄叫びを上げながら降下する。
 後ろに敵機、二十mmは容赦なく機体を叩く。
 しかし、そんな音など聞こえない、聞こえるはずがない。
 速度を得た鈴木は操縦桿を引き、上昇する。
 さっきは見破られた釣り上げ、今なら効く気がする。
 機体は空を走る、頭上には海が見える。
 淡青色の点が追ってきた。



 釣れた!
 重量の大きい自機の方が慣性上昇は伸びる。
 縦長のループの途中で速度を失った敵機の後ろに付いた。
 不意に、自分と敵しか居なかった空に無数の影が映る、何かが接近している。
 音が戻る、自分が出血していることに気付く。
 鈴木は無意識に無線の電源を入れ直した。
 
「おい鈴木応答しろ!本隊が来た」
「鈴木から青木へ、ちょ くえ任務として戦闘を続行します。暫く無線を寄越さないでください」
「話を」ブツッ
 
 無線を切った。
 下方の敵機にもう一度集中する。
 真下に広がる海を背景に曳光弾の射線が走る。
 逃げる敵機に弾が収束してゆく。
 しかし、それは思いもよらぬ横槍によって中断させられた。
 敵機に噴進弾が迫っている。
 空中で通常の噴進弾は役に立たない、ならあれは試製四式対空誘導弾だ。
 鈴木は怒りを感じた。
 俺の獲物だ!
 メチャクチャに機関砲を撃ちまくる。
 何故か敵機は動きが鈍い。
 諦めたのか? いや、そんな筈はない敵機からは意思が感じられる。
 敵機は数発の銃弾を受け、装甲板の一部が剥がれる。
 すると誘導弾はそちらへ向かって飛んで行く。
 狙ったのか? いや、そんなことどうでも良い。
「最高じゃないか!!!
 鈴木は勢いのまま機関砲を発射し続けた。
 銃身が過熱して二度と発砲できなくなるまで。
 気付けば八門ある機関砲全てが使用不能になり、敵機を見失っていた。
 
「……敗けか」
 



 鈴木は再び無線の電源を入れ、帰還の申請をした
 
 
 
 合衆国side
 オスカーは自分の後ろにつけた敵機を振り切ろうと旋回している。
 
「エルロンの動きが鈍いな。油圧管に損傷があったのか」
 
 右主翼の揚力不足は右フラップの半展開でどうにかなったが、エルロンの動作不良はどうにもならない。
 かなり厳しい情況だ、フラップの展開で抗力も大きくなっている。
 隊長だけでなく自分の機体も時間がなくなってきたようだ。
 右旋回、スパローはルークと同じ左回転のエンジンを使用しているが、プロペラ径が小さいため、反トルクの影響が小さい。
 ルーは反トルクを利用して左には高速でロール出来るが、右ロールは非常に遅い。
 それを利用した基本的な回避行動だ。
 さらに、オスカーのスパローは右翼端を失っており右へのロールが速い。
 勿論着いてくるだろ?
 当然のごとく後ろのヤツは着いてきた。
 小型のスパローはともかく、ルーは主翼が折れかねない速度での旋回だ。
 ましてや追従では相手より旋回半径を小さくしなければいけないため、こちらよりGは大きいはずだ。
 十二・七mmが主翼を貫く。
 この高Gの中、正確にこちらを狙う敵パイロットの技量は称賛に値する。
 これで当てるかッ! 良い! が、読み通りだ。
 予想通り、敵機は旋回に耐えきれず高度が下がり始めた。
 オスカーはここぞとばかりに後ろに着く。
 
「おらおらおらぁぁぁぁ!
 
 機関砲を放つ、自機は小型ゆえに残弾は少ない。
 しかし、オスカーは惜しげもなく弾を放出する。



 
「堅ぇなおい」
 
 ルークは後部からの射撃をものともしない。
 普段、有利な場所から撃つオスカーが忘れていたルーの恐るべき耐弾性能を思い出させた。
 敵機が急上昇する、何故だろう、普段なら追従などしない。
 しかし、オスカーは吸い寄せられるように操縦桿を引く。
 機首が上がり、一度フレームアウトした機体が視界に入る。
 青黒い空に暗緑色、暗く不気味なコントラストを彩る敵機は何故か魅力的に映った。
 ああ、これが俺の敵だ
 昇りきれなかった自機は再び後ろに着かれた。
 
「最高だ!こんなに一方的に撃たれるのは初めてだ!!
 
 急降下、スパローは軽快な運動性を発揮して敵弾を避ける、避け続ける。
 しかし、途中で後ろの敵以外が自分を狙っていることに気がつく。
 ッ! 対空ミサイル! 完成してやがったのか
 一か八か、赤外線誘導だったら効果が無い。
 オスカーは一瞬射線に突っ込み、無数の金属片を飛び散らせる。
 それらは電波を撹乱し、ミサイルの誘導を無力化した。
 敵機は連続して弾を撃ち込んでくる。
 全ての弾は避けきれない。
 幾つもの弾が着弾し、機体に穴を開けて行く。
 必死に避けていると、いつの間にか射撃は止み、無線が鳴っていた。
 
「隊長よりオスカーへ、敵爆撃隊の阻止は不可能との判断だ。作戦は中止、直ちに帰投する」
「オスカー了解」
 
 帝国の勝利が確定した。
 
 
 



 作戦終了後
 一九四六年八月三日、合衆国本土に不穏なビラがばらまかれた。
 内容は『八月六日及び九日に南西部の砂漠X地点で新型爆弾の試験を行う。投下予定地点から二十kmにカメラを埋めて回収以外で百km以内には百年は入るな』と言うもの。
 当時、合衆国はある島の名を冠した計画で新型爆弾の開発を行っていた。
 帝国の爆撃によって開発には大きな遅れが出ているが、完成すればたった一機の飛行機が敵本土に到達するだけで勝利できる悪魔の爆弾を。
 これは極秘で誰にも知られていないはずだったし、ましてや帝国の連中が同じものを開発しているとは聞いていない。
 しかし、通知された内容は明らかにソレを投下する予告と思われる。
 大統領は決断を迫られた。
 
「頼みの綱の原爆さえ旭日に先を越されたのか?我々は降伏するべきなのか?
 
 誰にともなく大統領は問いかける。
 それが無駄だと分かっていてもそうせずには居られない。
 考え続けていると脳内はぐちゃぐちゃで埋め尽くされ、思考能力を失った。
 
「当日になれば分かるか」
 
 結局、大統領は考えることを放棄して時間に身を委ねることにした。
 一九四六年八月六日
 一機の零式陸攻が合衆国の砂漠地帯に現れた。高度一万三千m、上昇限度ギリギリの領域を飛んでいる。
 爆弾槽が開いた、落下傘付きの大型爆弾はゆっくりと降下し、高度六百七十mで炸裂する。
 閃光、白熱次いで爆風。
 今までの爆弾と一線を画する超威力の破壊兵器が放つ熱線は爆心地付近の砂をガラスに変え、爆風は辺り一帯を破壊し、爆炎は焼いた物全てを汚染し、生命の住めない不毛の地とした。
 事前通告にあった通り爆心地付近に人は居なかったが、そこに住む生き物はことごとく絶滅した。
 この事件を受けて合衆国は降伏を申し出た。



 太平洋を挟んだ大戦はこうして終結した。
 
 
 
 戦後
 戦後およそ二十年、合衆国に勝利した帝国は勢いに乗りそのまま旧大陸の国々をも制圧、統一した。
 陛下の意志によって各国の文化の破壊や産業の独占が行われることは無かったが、未亡人の後追い自殺の様な悪習の排除は行われた。
 世界が一つに統一されたことにより、国同士の戦争が発生することは無くなったが、少数の過激思想を持つ団体によるテロが少なからず発生している。
 陛下は世界平和を望んでいたが、結局実現することは無かった。
 争いを起こすのは人間の本能による物で、どうあがこうと抑制することは出来ても無くすことは不可能なのだろう。
 
 
 
 後日
「本日は、旭日航空ss201便をご利用いただきまして誠にありがとうございます。私は今回のフライトで機長を担当させていただいております赤城と申します。現在、当機は太平洋上空高度一万七千五百mを時速九百九十kmで飛行中でございます。そして、現在よりおよそ五分後、当機のメインイベントであります超音速へのせん飛行を行います。オグメンタを点火いたしまして、時速三千百六十kmまで加速し、高度二万六千五百mへ上昇します。どうぞ皆さんご着席いただいて、頭上の速度計をご覧になってお待ちください。なお、オグメンタを点火しますと、非常に強い加速をしますので、シートベルトのご着用と、お持ち物の固定をお願いしております。ランプが消灯しましたらどちらも外していただいて結構ですから、必ずご着用いただきますようお願い申しあげます。1分前になりましたら同様のアナウンスをいたしますので、それまでにご準備ください」
「いやー、赤城さん来れないとは聞いていたけどまさか俺達が乗る飛行機の機長をしているとはね」
 
 戦争が終結し、青木と鈴木は元合衆国から連絡を受けて、ある人物を訪ねようと旅客機に乗っている。



 
「そうですね。流石に想定外ですよ」
「昔の相棒と一緒に行けなくて寂しいか?
「まあ、出来れば一緒が良かったですね」
「そうだよな。俺の指示は全然聞かなかったし」
「悪かったとは思っていますよ」
「あの時は本気で殺意を抱いたけど今となっちゃ良い思い出だな」
「そうですか」
「オスカーとフランクリン、ニクソンか。一体どんな人なんだろうか」
「やっぱり興味ありますよね」
「二十年越しの再会だからな。しかも殺し合った相手と」
「なんだかんだ統一政府が出来てからも各国の文化はしっかり残っているし、反応が心配ですね」
「なーに、緊張することはない。もう戦争は起こらないんだからな」
「個人的に恨まれてたら死ぬかもしれないですよ」
「ま、大丈夫でしょ」
「楽観的過ぎませんか? そう言えばシートベルト」
「そろそろだったな」
 
 ~アナウンス省略~
 
「おおー、凄い加速だ。あ、音速超えた」
「音速を超えた実感は無いな」
「だから速度計なんですね」
「思ったより静かだから少し寝ておこうか」
「そうですね」
 
 
 
 飛行機から降りてバスに乗り換えた一行は車内で雑談をしている。
 
「ふう、長旅だったな」
「昔に比べたらずっと早いですよ。だって時速三千kmですよ?
「そりゃあ分かってるって。で、早速疑問なんだがなんで赤城さんがいるんだ?



 
 事前に聞いた話では来ないはずじゃなかったのか?
 
「ん、俺か? 一緒にいけないとは言ったけど行かないとは一言もいってなかったと思うんだけど」
「そりゃあ屁理屈ってもんですよ。まあ別に予約が必要とかじゃないから大丈夫ですけど」
「俺の言い方が悪かったなすまん」
「いいですよ。別に困ることじゃないですし。それに、こちらも多い方が何かと都合がいいでしょう?
 
 なぜだか知らないが鈴木は未だに警戒している。赤城は冗談まじりに茶化す。
 
「ケンカすんなよ鈴木」
「いやいや、流石に刺されそうになったら抵抗しますよ」
 
 冗談のはずなのに鈴木は結構本気だ。なんと言うか、鈴木は四十過ぎても血の気が多
い。
 
「俺が聞いた話ではそんなことねえから平気だよ。ほら、次だ。ボタン押してくれ鈴木」
「ポチッとな」
 
 一行はバスを降りて目的地の病院へと入っていった。
 
「おう、来たか。久しぶり……と言うべきか。初めましてと言うべきか、まあいい。俺はオスカーだ。先の大戦では世話になったな。会えて嬉しいよ」
「元帝国海軍航空母艦仙龍二八八航空隊第二中隊所属赤城だ。今は旭日エアラインで飛鳥のパイロットをやっている。今日はよろしく」
「ニクソンです。あの戦いでは『ピジョン』に乗ってました。えーと、俺はなんで呼ばれたんですかね? 最初はだけだったらしいですけど」
「あー、それはどうしても赤城が来て欲しいって言ったからだ。予定を潰しちまったならすまねぇ」
「え? 赤城さんが呼んだんですか」



 
 鈴木が聞く。
 
「そうだよ。連絡を受けたときあの奇襲が隊長の指示じゃなくて彼の提案だって聞いてね。一歩間違えば死ぬのにそんな提案を出来た彼に会ってみたかったんだよ」
「いえいえ、予定はありませんでしたから。ただ単に呼ばれたことに驚いただけです」
「そうかい、なら良かった。さて、そっちの彼は?
「ああ、俺は当時副隊長をやってた青木だ」
「よし、全員揃ったな。じゃあうちの元隊長に会いに行くぞ。あんまり長引かせると死んじまうかも知れねぇからな」
 
 帝国本土から来た彼らを引き連れてエレベーターに入り病室のある階を目指す。
 
「そうだ、俺はちょっと聞いておきたいことがあるんだった。あんたら女神に会ったことはあるか?
 それを聞いたオスカー以外の全員は首をかしげる。
「ならいいんだ。別の事を聞こう。痔は治ったか?
 
 痔は戦闘機乗りの職業病。多くのパイロットが悩まされる共通の疾患だ。
 
「俺はまだ現役だから時々出るな」
 と赤城
「俺はすっかり治りましたね」
 と鈴木。
「痔は治ったが腰痛は酷くなったな」
 と青木
「最近再発しました」
 とニクソン。
「え? ニックお前痔なの? ウケるわ。この後付き合うならよく効く治療法教えてやるよ」
「本当ですか? オスカーさん行きます、ぜひ」
「いや、そんなものねぇよ」
「嘘なんですか!? 期待したのに……」
「残念、一緒に行って教えてもらおうと思ってたのに」



「そんなもんがあったらちゃんと赤城にも言ってるよ。っとこの病室だ」
 
 扉を開けると緑一色の部屋に何台もベッドが並んでいる。
 その中の一台に目的の人物が横たわっている。
 
「連れてきたぞフランク。目を覚ませ」
「ああ、おはよう、オスカー。ちょっと水を取ってくれ」
「はいよ」
「ありがとう。えーと、君達があの時の?
「はい」
「生きているうちに会えて良かった。立っているのもあれだから座って欲しい。ニック、椅子を用意してくれないか?
「はい」
 
 ニックが廊下へと出ていった。
 
「鈴木、手伝ってやってくれないか?
「ハイっす」
 
 鈴木も調子の良い返事とともに廊下飛び出した。後ろには青木も付いていっている。
 
「ああ、良いのに」
「帝国人の性ってヤツですよ。黙ってもてなされているだけではこそばゆくって」
 
 そしてこのまま赤城も行ってしまった。
 
「変わらねぇな」
「うん? オスカー、何か言ったか」
 
 オスカーがひとり言を呟くとベッドの上のフランクが反応する。
 
「何でもねぇよ。昔の事を思い出してただけだ」
「開戦前、向こうに友達でも居たのか?
「ちょっと違うなぁ。けど概ねそんなもんだ」



「そうか、気の毒だったな。オスカー、最近はどうだ? 上手くやっているか?
「大丈夫だ。運が良いことに今の職場の同僚に俺と同類が居てな。楽しんでるよ」
「良かった。俺が知っている士官学校時代と従軍時代は戦いにしか興味がないような人間だったからちょっと心配だった」
「なーに、俺達は負けて帝国が勝って戦争が終わった。その程度を受け入れられない馬鹿者じゃないからなぁ俺は」
「戻りました」
 
 二人きりだったカーテンの中にイスを取りに行った四人が戻ってきた。彼らはベッドを囲うようにイスを並べて着席した。
 
「全員戻ったね。では改めて、まずは敗戦国民だった我々が戦勝国民であるあなた方を呼びつけてしまった点を謝罪しよう」
「事情が有っての事ですから気にしてませんよ。あなたが健常だったら行かなかったと思いますが」
「そう言ってもらえると助かるグフッ失礼」
 
 フランクはベッドの横に置いてある容器に血を吐き出した。長くないのは間違いないようで、その色は新鮮な赤ではなく黒く濁っている。
 
「フランクは痛み止めを打って無理やり話をしてるんだ。見苦しいところもあるかも知れねぇが我慢してくれ」
 
 オスカーはコップに水を注いでナースコールをしながら言う。
 
「それは承知してるさ。長くないんだろ? 早く本題に入ろう」
「そうだな。でも特にこれについて話したいってことはないんだ」
「そうかい、じゃあ俺が話題を提供してやろうかぁ。そぉだな、パイロット時代の定番、いや、あれだな。定番よりもあるあるネタの方が盛り上がるか」
「あるあるネタか、そうだな……俺達が乗ってた壱式艦上戦闘機は低速だと不安定だから新人が着艦でクラッシュするまでが教育課程だったりとかか?
「なるほど、あんな機体だったら無理も無いな。最初に見たときは爆撃機と信じて疑わなかったし。で、赤城。お前は何度やらかしたんだ?
「俺は最初の着艦だけだったな。そこの鈴木は一度もないけど青木は三回位やってる」



「別に俺が下手な訳じゃないですよ? 普通はニ、三回やるんです。あれと隊長がおかしいだけです」
「はは、そうかい。じゃあこっちのネタも少しだそう。うちの基地は基本的に機体不足で常時整備中。スクランブルは組み立てからだった。でも整備員だけじゃ間に合わない。そうすると手の空いた兵士は組み立てを手伝うんだ。俺達パイロットは搭乗準備で忙しいが、駆り出される地上兵は全員機体を組み立てられるようになる。このせいで基地に専門の整備士が殆ど居ない。戦闘機の整備? 陸軍に任せろとか、陸科の筆記試験の配点は整備が七十%それ以外が三十%とか、階級に比例して整備が上手くなるとか、上級士官の特権は機体を整備しない事とかさんざんに言われてた」
「それは」
「言いたいことは分かる。いつの間にか陸科は整備科と一緒に講義を聞いてたらしい」
「フッハハハ、そりゃあひどいっすね」
「ちょ、ここは一応病室なんだから静かにしろ」
「ああ、そうだな。俺は一向に構わないけど周りに迷惑がかかったら良くな」
「すみません」
「うちで話題になるような話の中ではこれが1番面白いかねぇ。フランク、何か無いか?
「そうだな……あるあるネタではないけどニクソン君が着任した時の話なんかどうだ?
「ええ!? あれの話ですか。もう何年も前の話だから良いですけど」
「本人の許しもいただけたところで…………」
 
 病室の六人は今となっては他愛の無い戦争時代の話をする。腹を抱えて笑う事もあれば涙を流すような話も聞いた。あの時代は辛かったが仲間との時間はとても良いものだった。やがて話は現在に移る。
 
「さて、そろそろ次の搭乗便が来てしまうから今まで避けていたけど敢えて聞いてみよう。フランク、今どんな病気にかかっているんだ?
 
 赤城が問う。同時に静寂が訪れた。フランクは一人ずつ顔を見渡した後、話始めた。
 
「なんて事は無い。ただの膵臓ガンだよ。人間ドックをサボっていたらいつの間にか血を吐いて、精密検査を受けたら既に全身に転移していた。物凄く後悔している。ちゃんと行っていれば初期に見つかったかもしれないし私の愛する妻とももっと長く一緒に居


られたかもしれない。でもそれは叶わない。間に合わなかったんだ」
「なぁ、こいつバカだろ? 無計画な俺でさえちゃんと受けてるのにこいつサボったんだぜ。お前らはそうなるなよ」
 
 殆ど自覚症状の無い膵臓ガンは大抵の場合気づいた頃には手遅れ。転移して合併症を引き起こすまで気付かないのが原因だ。故に致死率は極めて高い。治療には早期発見が不可欠なのだ。
 
「君たちの国では『後悔先に立たず』とか『親孝行をしたい時には親は居ない』とか言うけどまさにその通りだよ」
「そうだったんですね。鈴木、青木、起立!
 赤城は何を思ったのか突然号令をかける。鈴木と青木は困惑しながらも体は勝手に気を付けの状態になった。
 
「我々と同じく国のために闘ったフランクに敬礼!
「「ハッ」」
「フフ、俺の不始末なのにな。何だか安心したよ、これで逝くのは怖くない」
「久しぶりに心の底から笑ってるなぁ、フランク」
「ああ、今日は楽しめた」
「じゃあ、そろそろ帰るよ」
「帰りは空港まで送ってやる。車に乗りな」
 
 五人は病室から出て行き、そこには病人と静寂だけが残った。フランクは既に死に行く運命。生者とは別れる定めにある。いつまでも彼らと共にはいられない。
 
「さて、本でも読むか」
 
 フランクはベッドの脇に置いてあるタブレット端末を手に取りファイルを開く。保存されている書籍の大半は空戦ものの戦記だ。どれも既に数えきれないほど読み返しているが今寝てしまうと辛い。しかし、元々あまり文字を読むのが得意でないフランクは眠気に耐えきれず意識を手放してしまった。
 この二日後、フランクは息を引き取った。奇しくもこの日は彼が最後に闘った日でもある。
 同じ日に戦い同じように敗れた。しかし、今回の敵は他人では無く自分で負けたら取


り返しがつかないと言う相違点もあった。
 ともあれ、歴史に残る大戦、合衆国最後の空戦を実際に体験した証人が一人減ってしまった。
 人間とは愚かなもので記録よりも記憶を信用する。彼らの持つ痛ましい戦乱の記憶はしかし、その死によって少しずつ劣化して行く。
 記録は劣化せずとも生々しい体験や記憶は失われてしまう。
 それ故、過ちは繰り返される。幾度となく悲劇はよみがえる。何度間違えようと歴史が最良を辿ることは決して無いのだ。
 
 
 
 Background
「のう、葉山祐三よ、いや定方哲二と呼んだ方が良いかのう。これで満足か?
 
 部屋で眠っていると突然、和とも中華ともつかない着物を着た女が目の前に現れる。
 顔だけ見れば十三~十五歳程度だが、長身でその胸には豊満な双丘を湛えている。
 一見バランスが悪く見えるが、ギリギリで釣り合いがとれている。
 超自然的なプロポーションは彼女の存在を象徴する特徴の一つと言えよう。
 彼女の正体は背反事象を同時に起こし、因果の破綻すら自然に見せる全能の存在だ。
 
「なんだお前か。四十年以上見なかったのにあまり久しぶりな感覚が無いな。んー、見てみたいものは見られたかな。ただ、期待外れではあったよ。というか、に落したのは嫌がらせか?どう考えてもに落としてもらった方が楽だっただろう。面白くなると思ったからやったのか?
 
 定方はそんな超常の存在に何でもないように文句を言う。
 
「当然じゃ、そうでもしなきゃここではやっていけんからのう。まあ良いじゃろう、本題に移るぞ。少し過剰なくらいの能力を与えたのじゃから、これで少しは神様の気持ちが分かったじゃろう。その上でわりと楽しそうじゃったな。やはり貴様には神としての才能がある」
「良くない、そしてやだよ面倒くさい。一人遊びの趣味はないっつーの」
「別に一人じゃなくてもよい。わしは何でも出来るのじゃから貴様の相手になるのも容易いぞ」



 
 彼女は着物の帯を緩めて肌を曝す。
 最近ご無沙汰だった反応が股間に来たが、定方は妻子持ちなのでぐっとこらえる。
 
「どういう意味だよそれ」
「そう言う意味じゃよ。まあよい、貴様がここへ来る、これ自体は決定事項じゃ。その上で選択肢をやろう。その一、下に残って人生を全うした後にここに来る。その二、今すぐここに来る。どちらを選んでも下に残るものの幸せは保証しよう。どちらが良いか?
「三の寿命で死んでお前とも永遠にさらばかな」
「馬鹿なことを言っているでない。まあよい、それなら一でよいな?
「選ぶならな」
「では五十六年五ヵ月十二日三時間十二分五十六秒七五後にまた会おう」
「サラッと寿命宣告すんじゃねー」
「さて、次はオスカーの奴じゃの。尤も、奴はこの仕事に向いてなさそうではあるが」
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続きが読みたい!
感動した!
可愛かった!
かっこいい!
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