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『聞いてくださいよー、桃ちゃんに振られちゃったー!!!』 『それな、俺知ってる』 『俺も知ってるぞ』 『何で!?』 『俺も振られたから』 『俺は叱ったから』 『え? え?』 『話すと長くなるんだよな……佐屋はまあ、犬に噛まれたと思って忘れろ』 『俺は向こう脛蹴られたんで忘れようにも忘れられませんけどね』 『何、桃ちゃん凶暴化?』 『それより拓真、傷は浅いか』 『あ、はい、額にチョップだけだったんで』 『そうじゃない、いやまあいいけど』 『悪気はないんだよなぁ、桃華も』  純と拓真を振って走って逃げていた桃華は偶然、校門前で大樹を見つけた。  しめた、と桃華は思った。 「先輩! せんぱーい!」  若干下りの坂道となっている校門前に引きずられるかのように、桃華は走るのが止められない。 「え!? ちょっ、止まんないー!」  そのとき、大樹が振り向いた。  疑問符がいくつも浮かんだ表情のまま、大樹は桃華をがっぷり四つに組んで受け止めた。相撲じゃないんだから。 「……桃華、相撲部に入部するのか?」 「違いますー! もうちょっとロマンスを感じさせる受け止め方してください!」 「怪我しなかったんだからいいだろ。で、どうしたんだ?」  解放された桃華は、大樹にちょっと屈むよう頼む。  背伸びした桃華が屈んだ大樹の耳元で、こう囁いた。 「今、拓ちゃんと純を振ってきました」 「は?」 「だから、告白されたから、振ったんです」  大樹は姿勢を正し、腕を組む。  何が始まるのだろうか。普段と違う雰囲気に桃華はちょっと怯える。 「桃華」 「ひゃい!?」 「ちょっと話がある。小町行くぞ」 「は、はい」  大樹に連れられて、桃華は黙って小町までの道のりを歩く。気まずい。  振ったことがそんなに悪いことだろうか。いや、だって恋愛に発展しないから振ったようなものだし、そもそも大樹から教わった恋愛観を元に考えてみた結果だ。  簡単に言えば、恋愛とは——手を繋ぎたくなる関係かどうか。  そのことを小町で注文待ちしていたとき、桃華が大樹に言ったら、大げさなため息をつかれた。店主には吹き出された。 「桃華……お前が俺の言いたいことをまったく理解してなかったことは分かった」 「ええー」 「もう面倒臭ぇから広瀬もその対応だったんだろうな」  ——何を言う、恋愛から面倒臭さを除いたら何が残るのか。だから手を繋ぎたくなるかどうかが問題であって。  一足飛びに結婚に行く、ほら私の最初の発想は間違っていない、と桃華は力説する。 「分かったから、一回頭リセットしろ」  非情な宣告だった。  ——一体、何を間違った?  ——ならどちらかの告白にOKを出せばよかったのか?  ——好きとはなんぞや。  悩む桃華、呆れる大樹。カウンター越しに出てくるラーメン。  とりあえず、桃華と大樹はラーメンをすすることにした。今日は味がしない。うっすらしょうゆ味な気がするだけで、麺も野菜も飲み込んでいるだけ、という感覚だ。小町の店主がラーメン作りに失敗することなどありえないから、桃華側に原因があるのだろう。  一応頼んだラーメンは腹に入れました、という《体|てい》の桃華は、空のラーメンの器をカウンター上に置く。大樹はそれを待っていたらしく、カウンターの回る丸椅子を桃華のほうに向けて、肘をテーブルについた。 「あのな桃華、お前に恋愛はまだ早い」 「それ、純にも言われました」 「黙って聞け」 「はい」 「佐屋を振った理由は何となく理解できる。恋愛対象として見られない、ってことだ。で、手を繋ぎたくなるか?」 「たまにはなります」 「ほらな、恋愛対象じゃなくても手を繋ぎたくなるんなら、恋愛手繋ぎ理論のお前の考えは間違ってたってことだ」  ——むう、そうかもしれない。というか何だ、その理論名。 「佐屋を振ったのはまあもうしょうがない。問題は広瀬だ」  ——なぜに純だけ。桃華はお口を塞いだまま、不満を顔いっぱいに表した。 「広瀬はお前の不登校のころの過去に向き合ったわけだろ。で、一度そのへんのわだかまりは消えてるはずだ。なのに、今のお前はまだ前のことを引きずってる」 「ええー……どういう意味ですか?」 「単純に、お前は広瀬のこと好きか?」  嫌い、と答えようとして、桃華ははたと口を止めた。  嫌味を言ったり、女子にモテたりするのは純だ。それはそれで嫌だが、純本人は桃華が告白された日のように、けっこう素直だ。桃華の不登校のときの話を聞いて素直に謝ってきたり、何でも率直にものを言うタイプだ。後者が素直に分類されるかどうかはさておき、いや、嫌味を言う時点で違うのか? とにかく、純の本来の性格は素直だ。  つまり。 「嫌味さえ言わないなら好きです」 「だろうなぁ」  大樹は頷いた。 「じゃあ、嫌味を言わなくなったら、広瀬の告白を受け入れるか?」 「前提が無理ですよ、嫌味を言わない純なんて」 「その前提でだ。多分、俺が思うに、告白にOK出したら、広瀬は嫌味を言わなくなるぞ」 「本当ですかぁ?」 「試してみろ。ダメなら別れればいいだろ」 「そんな他人事みたいな」 「物は試しだ。言わなくなったら俺にラーメン奢れよ、もし言ったら俺が奢ってやるから」 「私の告白の成否がラーメンで取引されてるー!」  かくして、桃華は二度目の告白の返事を考えることになった。 『何か桃華からメールが……』 『桃ちゃんLINE使わないから……』 『とりあえず、返事出しとけ』 『分かりました。じゃあ、おやすみなさい』 『おう』 『おやすー』 『なあ、佐屋』 『はい?』 『桃華が言ってたぞ。お前のこと、弟みたいだって』 『あー、言われました。それで振られたようなもんですけど』 『まあ、前向きに捉えとけ。俺なんかただの相談役だぞ? 来年から俺いなくなるってのによ』 『あ、そうか。荒井先輩受験ですもんね』 『だから、来年からはお前が桃華を助けるんだぞ』 『うえ? あ、はい』 『あいつおっちょこちょいすぎるからな。周りが支えてやらねぇと何しでかすやら分かったもんじゃねぇ』 『あはは、確かに! 頑張りまーす』 『おう、頑張れ』
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