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鍛冶町の外れに、一軒の店がある。 引き戸は閉じており、屋根には店の名が書かれた看板が置かれている。引き戸には商い中と書かれた板が下がっている。 そんな中、カン、カンと音が響く。 入ると刀だけではなく、根付や鍔といった装飾品なども含め、数多くの商品が並べられている。右側の奥には階段箪笥。真ん中には部屋があり、よくここで依頼人と刀の修理などについて話をする。左側にはもうひとつ部屋がある。戸が閉まっているが、先ほどからの音はここからしている。 室内の壁側には箱鞴がついた炉があり、中では炎がめらめらと燃えている。その反対側に、熱した刀身を冷やすための水桶、隣には金箸が置かれている。 その中心に胡坐をかいて座り、鉄床の上に熱したばかりで赤くなっている刀身を金槌で叩く霊斬がいる。 歳は二十八。引き締まった身体つきをしている。漆黒の長髪は後ろで一つにくくっている。刀身を見る、切れ長で髪と同じ色の瞳と端正な顔は真剣そのものだ。袖はたすきで縛っており、動きやすそうな青の着物を着ている。 鍛冶屋〝幻鷲〟の店主。客から修理の依頼を受けたり、刀を作ったりしている。腕がいいと噂が広まり、繁盛している。 幾度か金槌で叩いた後の刀身を水で冷やし、状態を確かめてから、霊斬は部屋から出る。 大きく伸びをした。 「昼時か」 格子から見える空を眺めながら、たすきを《解|ほど》く。戸締りをして店を出た。 霊斬は普段、店から近いという理由で、あまり好きではないそばを食べるのだが、いい加減飽きていた。通りをぶらつきながら店を探していると、角にうどん屋の看板が見えた。 何度か食べており、美味しいので、通ってもいいかもしれないと思っていた。 軽い気持ちで、店に入った。 店の中は広々としており、客達が机を囲んでいる。昼時にしては人が多い。人気の店で繁盛しているのだろう、と予想がついた。 「いらっしゃいませ! 空いている席にどうぞ!」 黒髪に黄色の小袖を着た女――千砂が、彼を見るなり、声をかけてきた。 今まで通っていた店では、客に対してあっさりとしすぎており、入ってすぐに声をかけられることがなかった。内心で驚きながらも、空いている席に腰を下ろした。 「醤油うどんをひとつ!」 千砂が出てくるころあいを見計らって、大声で注文した。 「少々お待ちを!」 注文を終えた後、さりげなく店内を見回した。武士、近くの商人、旅の者など様々な人が利用しているようだ。 「お待たせしました! ご注文の品です」 机に置かれたお茶をそっちのけで、具だくさんのうどんを見る。 うどんを食べ始めた。 美味かったからだろう、ものの五分で食べ終えてしまった。 「いかがでした?」 お茶を飲んでいるころ、千砂に声をかけられた。 「美味かった」 「それは良かったです!」 「ああ」 千砂は普通の人からすれば美形と言われる顔立ち。けれども、男にはない淑やかな印象を受けた。歳は霊斬より三つほど下くらいか。 代金を机に置き、席を立った。 「ごちそうさん」 千砂にそう言い、店を後にした。
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