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残ったのは父と彼だけ。 「いつからだ。……いつから、お前は剣の腕を磨き始めた?」 父は落ちた木刀を拾って構え、彼に問う。その声音は静かだった。 「今から、ちょうど二年前です」 「どのように腕を磨いた?」 「中庭で稽古をしているのをじっと観察し、夜に記憶を辿りながら、練習を繰り返してきました」 「腕に自信があるようだな」 「ありませんよ」 「本気で向かってこい。お前の腕がどれほどのものなのか、私に見せてみろ」 「……分かりました」 彼はそう言い、右手で構える。 「なぜ、両手で構えんのだ!」 「その方が、動きやすいんですよ。……こちらから、仕掛けますよ」 彼はそう言い、父との距離を詰め、木刀を振り下ろす。それをなんとか受け止めた父であったが、彼の力に《圧|お》されている。 父の顔には怒りと驚愕が入り混じった、複雑な表情が浮かんでいた。 父は一歩下がって、彼の体勢を崩そうと突きを繰り出した。が、その攻撃は躱され、体勢を戻そうとしたところで、木刀を喉につきつけられた。 「信じられん……」 「これが現実です。正直、俺も驚いています」 「驚く?」 「あなたに勝てる、とまでは思っていなかったんです。この武家の将来が楽しみですね」 彼は冷たくそう言って、木刀を喉から引き、背を向けた。 「た、頼む。家に戻ってくれ。私が間違っていた。お前に当主の座を渡そう。今までのことは、水に流してくれないか」 彼はその申し出に対し、鼻で笑った。肩越しに父を睨みつけた。 「断る。あなたを《赦|ゆる》すつもりはありません。ここに、俺の居場所はない」 彼はそう言い放った。乳母とともに、育った武家を去った。 「最低な奴らだった」 霊斬は憎しみをあらわに呟く。 「本当に、その通りだよ。どうして、あたしにこんな話を?」 「お前は俺が興味深いという変わり者だからな。これくらい言ってもいいかと、思っただけだ」 「そうかい。あたしは、親の顔すら憶えてない」 呟くように言うと霊斬は、千砂の顔を凝視する。 「物心ついたとき、あたしは忍びの里にいた。あたしは貧しさあまりに、売られてここにきたらしいって教えてもらった。そこからはずっと修行。子どもらしいことなんてなにひとつない。ただ、強く優秀な忍びになるためだけに、育てられた」 千砂は遠い目をして、簡単に経緯を語った。 「そうか……」 ほんのわずかだが、お互いの距離が縮まった瞬間でもあった。 翌日の夜中、霊斬と千砂は、佐田家へ忍び込んだ。 千砂は屋根から、霊斬は中庭から、佐田家を徹底的に調べ始めた。 霊斬は廊下を歩いていく人を一人一人、観察。千砂は屋根裏へ侵入し、天井板をずらしながら、一部屋ずつ、該当する人物がいないか捜した。 千砂は脇息に寄りかかっている芳之助を見つけ、静かに様子を見守った。 しばらくして霊斬の方では、息子の吉之助が部屋に入っていくのを確認する。 千砂はそのまま、様子を見ることにした。 霊斬は部屋の近くまでいき、聞き耳を立てた。 「おお、きたか。吉之助」 「父上、なに用でしょうか?」 「その前に、もう少し」 「は」 吉之助は父との距離を詰める。 「例の件、どうなっておる?」 「あの方への賄賂ですね? すでに準備は整っております」 「よし。では、あの方へ伝言だ。六日後にここでお渡しするとな」 「承知いたしました」 吉之助はそう言い、座敷を後にした。 霊斬は吉之助が出てくるころには、中庭に身を潜めていた。千砂と合流し、屋敷を後にした。 隠れ家に戻ると、霊斬が口を開いた。 「決行と同じ日で、まだ良かったかもしれない」 「そうだねぇ」 「じゃあ、またうどん屋でな」 「はいよ」 二人はその場で別れた。
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