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 マーガレットに乗り、標的に向かって短剣を投げつける特訓。  全動作完了まで一秒以下にならないとお話にならない、と言われ、ただひたすらカリンは《Ball》を微細な感覚頼りに操る。  腰に下げた短剣を逆方向の手で取り——右腰なら左腕、左腰なら右腕——抜き取る瞬間に、《すでに》投げる動作を指示しておかなければならない。  ただ、数回それを繰り返しただけで、マーガレットは自分で動作の最適化を模索し、カリンの操作を予測して準備を先回りする。この《先回りする》というのが曲者で、そうであることを搭乗者であるカリンも知っておかなければ、二重操作、つまりエラーが出てしまう。マーガレットもつくづく繊細になってしまったものだ、とカリンはため息を吐いた。  しかし、おかげでこんな芸当もできるようになった。  マーガレットは左腰の短剣を二本取り、高速で動く標的の行く手を一本目の腹で阻む。標的が戻ろうとしたそのとき、二本目の短剣が同じく標的を傷つけないよう縦向きの腹に的を支える鉄棒の前に立ちふさがる。ガコンガコン、二進も三進も行かなくなった動く標的は、ほんの小さな隙間を行ったり来たりするだけのポンコツになってしまった。  前なら、高速で動く的に当てるのが精一杯だったところだ。それも瞬時に判断できず、動きのパターンを探してやっとだっただろう。 カリンは短剣を二本抜いてやり、標的は正常に動き始めた。  《工廠|アーセナル》でもこれ以上予算的に短剣の予備を作るのは難しい、ということで、ワイヤー付き短剣を使うか、こうして一つ一つ拾いに行く地味な作業をしなければならない。  カリンは地味な作業は嫌いではなかった。マーガレットはカリンの意思を反映するかのように先んじて動くようになってきたし、そのおかげか過敏な操作感覚もかなり落ち着いてきた。《工廠|アーセナル》の葵主任にはこれ以上調整はするなときつく言っておいたし、このまま行けばこの特訓の最後の試練——真湖に短剣投擲だけで勝利するという超難関試験が待っている。  そもそも武器持ちの超攻撃型の真湖に短剣だけで勝利するというのは、他の上級生でさえ難しいのではないか、とカリンは思ったが、どうも真湖はマーガレットの短剣の特性を考えれば不可能ではない、と考えているらしい。  カリンにアドバイスしてくれた真湖の考えはこうだ。  GAの最大の弱点は、むき出しの関節部だ。他にもあるにはあるが、これの改善がもっとも難題で、関節部まで装甲で覆うようなGAは動きに難があり、とても対GA戦で使い物にならないという。  とはいえ、関節部分も装甲部分より弱いというだけで、幾層もの強化軟炭素繊維に包まれている。短剣を投げただけでは、そう簡単に貫通はしない。  だが、瞬間的に連続して短剣を叩き込まれればどうだろうか。  それに、ワイヤー付き短剣を絡ませられれば、今のマーガレットの膂力なら引っ張るだけで相手の一肢の自由を奪える。  だからこその、一秒以下なのだ。  たった一秒で形勢を逆転できる切り札を武器としているマーガレットならば、他の機体でできないことも可能である、と。  まるでラウラのペルニカのように、とも真湖は付け加えた。ペルニカがたった一瞬で形勢を覆したあのときのように、GA同士の戦闘では本当に何が起きるか分からない。  とはいえ、そこまで辿り着くにはあと何十時間訓練をしなければいけないのか。いや、マーガレットの《自己学習|ラーニング》機能をもってすれば、十時間足らずといったところだろうか。  今の時点で、連続搭乗時間はざっと五時間ほど。目に見えた成長もあるし、あと五時間は粘ってみようとカリンは時計を見る。  午後九時。 「あれ?」  カリンは呆ける。連続搭乗時間は確かに五時間、ということは午後四時から始めてぶっ続けで五時間訓練?  よく見ると、スタジアム式訓練場もナイターの明かりが灯っていた。その一角で、真湖とリーザが何やら教科書とノートと筆記用具を用いて試験勉強をしている。 「もしかして……五時間も集中しちゃってたの!?」 「今更お気づきですか、殿下」 「あ、気づいた? 邪魔しちゃいけないと思って、こっちはこっちで勉強していたから、大丈夫よ」 「私は勉強できてなーい!」  カリンの叫びは、外部スピーカーを通じて訓練場に響き渡った。
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