フォントをダウンロード中
ページの左右でマウスを左クリックします。
または、 キーボードの左右の矢印キーを入力します。
ページ上で指先を左右になぞると、 前/次ページへ移動します。
メニューはページをタッチすると現れます。
× ヘルプを閉じる
 弱い奴は嫌いだ。見ていてイライラするし、余計なことばかり引き起こす。弱いならでしゃばるな。むしろいない方が良いとさえ思う。 「心を読むのかー……一筋縄じゃいかなそうだね」 「そんな敵にどうやって勝てばいいんだ……?」 「無心で戦うとか?」 「そんなの無理だろ……」  蘭李と紫苑が喋りながら前を歩いている。二人はそれぞれの武器を背負っている。その内片方は、腰にホルスターを装着している。  ――――――これでみんなを助けられるなら、助けたい。  ――――――――………ふざけやがって。 「ねぇ海斗。大会の時どうやって突破したの?」  蘭李が振り向いた。何も知らないような、いつもの馬鹿っぽい顔。だが、それは偽りだった。  最近、そればかり考えている。馬鹿か俺は……そんなこと考えたって意味無いだろ。  そう、意味の無いこと―――。 「海斗?」 「蜘蛛は俺達の葛藤しか読み取らない。だからそれさえ無ければ倒せる」 「葛藤?」  途端に二人は険しい顔をした。蘭李は大体予想出来るが、紫苑にもあるのか。面倒なことになりそうだな。 「大丈夫かな……なんか不安になってきた……」 「俺も……」 「紫苑も悩みあるの?」 「まあ………」 「やっぱみんなあるよね……」  早くも通夜状態になる二人。蘭李は虚空に向かって何かを話しだした。先祖だという幽霊と話してるんだろう。もう見慣れた。  ――――――銃の才能だけはピカイチだ。コノハを使うよりずっと強い。  ――――――…………チッ。うるせぇな。 「海斗は? 悩みある?」 「はあ?」  衝動的に蘭李を睨み付けた。蘭李はびくりと小さく震え、ちらりと横目をやった。視線の先の紫苑も戸惑っている。  ―――落ち着け。これ以上突っかかったって無意味なことだ。 「………悩みは無い」 「あっ……えっと……そ、そうなんだ……さすが海斗……」  完全に萎縮した蘭李は、不自然に笑った。その態度にすらイライラしてくる。  その時、蘭李の背後に蜘蛛が見えた。木の幹に張り付いている。俺はすぐに銃を取り出し、蜘蛛に銃口を向けた。  ――――――――パンッ  発砲音が鳴る。だが弾は幹に食い込んだだけだった。蘭李と紫苑は振り返り、武器を構える。  ――――――今のが当たらなかった? そんなはず無い。この距離で外すなんてあり得ない。 「うわっ! 気持ち悪!」 「こんなに大きいのか……!」  蘭李が駆け出し、蜘蛛にコノハを振り下ろした。蜘蛛の体を刃が走り、緑色の体液が飛び散る。もろにかかった蘭李は、ドスンと尻餅をつく。その隣に傷付いた蜘蛛が落ちた。 「うっわ……! なにこれっ……!」 「大丈夫か⁈」  紫苑が蘭李に駆け寄る。蘭李はアウターを脱ぎ、それで顔を拭いた。全て拭き取り一回だけ上下に振ると、濡れたアウターはもとの綺麗な状態に一瞬で戻った。 「……そうだね。しょうがないか……」  アウターを着直しながらぼそりと何かを呟き、蘭李はコノハを鞘にしまう。続けてホルスターから拳銃を取り出した。俺の心臓がドクンと鳴る。 「お、おい。銃使って大丈夫なのかよ?」  不安そうな表情で蘭李から一歩離れる紫苑。蘭李は拳銃をぎゅっと握ると、その銀の体をじっと見下ろした。 「人じゃないから……もしかしたらいけるかも」 「暴走するのはやめろよ……?」 「うん、分かってるよ」  その返事を機に、多くの蜘蛛が現れる。紫苑は斧でなるべく体液が飛び散らないように斬り、蘭李は拳銃で蜘蛛の頭を撃ち抜いた。  ――――――蘭李は頭を確実に撃ち抜くんだって。まさに一撃必殺って感じだよな。  ―――――――そんなデタラメな才能があってたまるか。  なら、俺は…………いくらやっても――――――。 「勝てるわけなどない」  男の声が木霊した。紫苑と蘭李もピタリと静止し、驚いている。カタカタと、嘲笑しているような音も響いた。  この感じ―――覚えがあった。 「俺のやってきたことは、無意味なことだった」  カタカタという音が大きくなる。  分かっている。誰がこんなことを言っているのか。だからといって、動くことは出来なかった。 「いくら努力しても、才能に勝てるわけないんだ」  これは―――蜘蛛を通した俺の声だ。俺が思ってしまった、感じてしまった言葉だった。  言うまでもなく、蘭李に対して抱いてしまった、無駄な嫉妬だ。 「か、海斗……なのか……?」  紫苑がおそるおそる俺を見る。顔は強張っており、信じられないと言いたげな視線を送ってきていた。蘭李も同じだ。俺は深い溜め息を吐いた。  どうせぺらぺらと喋られるなら、俺が全て話してしまおう。他人に言われるのは気に入らないしな。 「ああそうだ。俺の心の声を蜘蛛が喋ったんだ」  ギロリと蘭李を睨みながら言い放つ。未だ何に驚いているのやら、蘭李は目を丸くしたままだ。 「心の声……? 今のが……?」 「何かおかしいか?」 「だ、だって………海斗が、そんなこと思うなんて……」 「思いもしなかったか? なんでだ?」  視界のあちらこちらに蜘蛛が見えるが、無視した。どうせあいつらは襲ってこない。  俺が迷いを断ち切らない限り―――永遠に。 「だって………海斗、強いじゃん………」 「強い? ハッ、よく言うな。俺に勝ったくせに」 「あれはだって………」 「銃だから、か? ふざけんじゃねぇぞ。だからこそ、思ったんだろうが」  ズカズカと歩く。蘭李も距離を取るように後ずさるが、幹にぶつかって止まった。すぐ真上に蜘蛛がいることなんて気にも留めず、俺は蘭李の胸ぐらを掴み上げた。 「《自分がかわいくて|・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・》《何もしてこなかった|・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・》お前に、努力していた俺が負けたんだ………ムカつかないわけないだろ」 「そんなの………ただの逆ギレじゃん!」  蘭李も俺を睨む。しばらく沈黙した。嘲笑は止み、葉の揺れる音が流れていた。  分かってるんだよそんなこと。こんなのただの逆ギレであって、こいつに当たったところで何かが変わるわけではない。  分かってるけどなぁ…………! 「………てめぇはその「事件」ってのから、一度も銃を使わなかったんだよな?」 「……そうだよ」 「ってことはブランクがあるわけだろ? それなのに、俺は負けたんだ。毎日毎日必死に努力している俺が、少なくとも一年以上はブランクがあるお前に!」  拳に力を入れると、蘭李は俺の手首を掴んできた。カタカタと、再び笑い声が聞こえる。背後で紫苑が何かを叫んでいるが、聞き取れなかった。 「お前も特訓していたなら俺は何とも思わなかった。だが、お前は今まで逃げてきた。目を背けていた。そんなやつに俺は負けたんだよ。じゃあ、俺がやってきたことは無意味なことだったのか?」 「そんなわけないでしょ⁈」  蘭李も手に力を入れてきた。黄色い目がギラギラと光る。 「ムダな努力なんてないはずだよ! それに、相手を殺せることだけが強さじゃないでしょ⁈」 「ハッ! そうやってまた馬鹿なことを……!」 「バカなことじゃない! 話せば分かる時だってある!」 「そんなこと言って殺されたらどうするんだよッ!」  思いっきり蘭李を幹に押し付けた。苦しそうにむせるこいつなんて気にもせず、俺は力を入れたまま怒鳴る。 「てめぇは何も分かってねぇ! 殺さないように、話し合えば分かるなんてそんなの幻想だ! そして相手もそこにつけこむ! 改心したようなふりをして襲ってくる!」  ――――――――――――本当馬鹿よね。 「ッ……!」  不意に思い出した女の声に、思わず力が緩んだ。蘭李から手を離し、左手で頭を抱える。それでも、「あの声」は収まらなかった。  チッ………うるせぇ………黙れ………! 「海斗……?」 「てめぇはよぉ……もしそんな判断をして仲間を死なせたら………どうするつもりなんだ?」  途端に、蘭李の目が見開かれた。俺の方はというと、声は収まったものの、頭の隅に「あの時」のことがちらついてて鬱陶しい。  やめてくれ……今思い出したら――――――。 「そ、そうなる前に……殺す……」 「結局殺すんじゃねぇか」 「ちがう! だってそれは、あっちがいけないから……」 「別に良いけどよ……。てめぇ、その判断が間に合うと思ってるのか? どんな時、どんな相手でも、仲間が殺される前に敵を殺せると?」 「ッ………」 「そんなのは馬鹿の考えだ。都合の悪いことは考慮しない、弱者の発想だ」  ――――――そんな奴に、俺は負けた。  ムカつく………こいつにも、俺にも………! 「なら、殺しちまえよ。そんな馬鹿なんてさ」  異質な声が降ってきた。見上げると、黄緑色の髪をした黒和装の男が、黒い羽を背から生やして浮いていた。その黄緑色の瞳と目が合う。  あぁ……あれは蘭李を狙う、悪魔――――――。 「お前……! なんでここに……⁈」 「海原。その方が、お前らの為でもあるだろ?」 「ふざけんな!」 「海斗、あんな奴の言うことなんて――――」  背後から肩を引かれ、紫苑が俺の顔を覗き込んだ。直後、自身の顔をひきつらせる。そして蘭李を呼ぶと、こいつの顔も青ざめた。当然だろう。  何せ俺は今―――笑っているんだ。 「海斗⁈」 「あぁ、たしかになぁ………こんなトラブルメーカー、さっさと殺しちまった方が俺達の為だな……」  ――――――こんな俺みたいな馬鹿、いない方が周りの為だ。  ならさっさと、死んじまうべきだよな?  こいつも。  ――――――――――――俺も。
1
15
シリーズ一覧
感想を送る
作品を紹介
ブックマーク
しおりを挟む
作品情報
使い方
登録が完了しました!
確認事項
戻る
実行