フォントをダウンロード中
ページの左右でマウスを左クリックします。
または、 キーボードの左右の矢印キーを入力します。
ページ上で指先を左右になぞると、 前/次ページへ移動します。
メニューはページをタッチすると現れます。
× ヘルプを閉じる
そのころ霊斬は、夜風が気持ちいいと思いながら、飯屋に向かっていた。 暖簾をくぐると、 「いらっしゃい!」 と元気な声が聞こえてくる。 「おや、幻鷲さんじゃないか!」 「久し振りだな」 「いつもの場所でいいかい?」 「いや、今日はここでいい」 そう言って霊斬は、大将の正面に腰かけた。大将は四十代後半くらいだ。 「ご注文は?」 「酒」 「あいよ」 「前にきたのはいつだったか? 三年前か?」 「そうだな」 「幻鷲さんは変わらんな、俺は少し歳食っちまったが」 「なにを言っている。そんなことはないぞ」 「ほらよ」 大将は言いながら、酒を出す。 霊斬は無言で受け取り盃に注ぐ。 「幻鷲さん」 「ん?」 酒を呑みながら、霊斬が首をかしげる。 「酒、似合うな」 「そうか?」 霊斬は思わず酒と大将を見比べる。 霊斬は疑問に思いながらも酒を呑み、時折、大将との会話を楽しんだ。 霊斬は店に戻り、刀作りを再開する。 加熱した刀身を水などで急激に冷やす焼き入れの準備として、土置きを行う。平地用、刃紋用、鎬地用の三種類の焼場土を刀身に盛る。平地に専用の焼場土を均一に薄く塗り、刃紋に筆で刃紋焼場土を描く。刃紋から棟までを鎬地用の焼場土を厚く盛る。そうすることで、焼き入れでの急冷時に刃側は素早く冷やされ十分に焼きが入る。棟の側は比較的緩慢に冷えるため、焼きはそれほど入らなくなる。焼きにより、容積が膨張しながら硬くなり、日本刀独特の刃側が出っ張った湾曲ができる。棟の側は膨張が少なく高度より、靭性に富んだ鋼となる。硬いが脆い刃側の鋼を支える機能を担う。 焼き入れのときには作業場の明かりを暗くして、鋼の温度をその光加減で判断をする。土置きした刀身を火床に深く入れ、先から元までむらなく加熱する。加熱の温度は最も重要で、細心の注意を払い、最適の過熱状態を見極め、一気に刀身が入るほどの器に急冷する。 刀身は水の中で反りが生じ、十分な冷却の後に引き上げる。荒砥石で砥ぎ、焼き刃が確認できる。その後、刀身は炭の炎焔で炙る焼き戻しを行う。これが合い取りと呼ばれる作業だ。これを行うことにより、刃に適度な柔軟性を与える。反りは横方向にも少し生じるため、木の台で小槌を使って修正する。茎も焼きなまし形を整える。 霊斬は作業を中断し、伸びをする。切り上げ、眠りについた。 翌日、仕上げの段階に入る。焼き入れを終了させた刀の反り具合を修正し、荒削りをする。このときに細かい疵や、肉のつき具合、地刃の姿を確かめながら、最終的な調整を行う。 次に茎仕立て。茎は銑ややすりで形を整え、柄に嵌めるときに使用する目釘穴をひとつ開ける。この後に刀鍛冶独自の鑢目(滑り止め目的)を加える。 次に地金と刃金を砥石で砥ぐ下地研。 この作業には数日かかった。 次に銘切り。《鏨|たがね》を使い、自らの名や居住地、制作年などを茎に銘を切る。一般的に表(太刀や刀を身につけたときに外側になる面)に刀工名や居住地を切り、裏に制作年や所持者名などを切ることが多いが、裏銘や無名などの例外もある。 霊斬は制作年と刀工名(幻)を銘切りし、次の工程へ進んだ。 仕上げ研ぎ。必要な道具を用意して、親指で砥石を扱って作業を行う。 最後の工程を終え、二週間かけて、一本の日本刀が完成した。 刀工は年に二四本まで刀を作ることしかできず、月平均二本作るのが限界である。 霊斬は肩を何度か回すと、溜息を吐いた。
1
15
シリーズ一覧
感想を送る
作品を紹介
ブックマーク
しおりを挟む
作品情報
使い方
登録が完了しました!
確認事項
戻る
実行