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 実は、水泳は得意な方だった。小さい頃からスイミングスクールに通っていたお陰で、水に抵抗は無いし泳ぐのは楽しい。だから、夏は少し楽しみだったりもする。  けどまさか今日、まだ水も冷たい三月に泳ぐことになるなんて、思いもしなかった。  海斗が突然、両方の手のひらから大量の水を出現させたのだ。津波にも近いような水の波は、俺と蘭李に押し寄せ、俺達は完全に水中に囚われてしまった。  とにかくまず水面に出ようと上昇するが、水の勢いが強くてなかなか進めない。さらに葉っぱや木の枝などが流れてきて邪魔だ。  こんなこと出来るのかよ海斗……! あいつ、どこが弱いんだよ……!  やっとのことで、水面から顔を出せた。必死に酸素を貪り左を見ると、海斗と悪魔がいた。海斗は鋭い目付きで、未だに津波を起こしている。海斗の肩に手を置く悪魔は、不敵に笑っていた。  あいつのせいで海斗はおかしくなったに違いない。けど、どうすれば……⁈ 水流のせいでろくに近付けないし……。  俺は辺りを見回した。俺の体はどんどん流されている。水面にはたくさんの葉や枝が浮いている。蘭李の姿はなかった。  ――――――ちょっと待て。  そういえばあいつ………泳げないんだった! 「蘭李ッ!」  俺は顔を水中に入れた。しかし蘭李は見当たらない。  マズイ……! 早く助けないと……! 「ッ!」  木の根元、水の底に、コノハの鞘が見えた。俺は潜ってそれを取る。浮上してから、水につけないようにコノハを鞘から抜いた。コノハは、緑色の刀身をぐねりと曲げた。その先には海斗がいる。 「な、なんだ?」  ぐねぐねと海斗の方を指すコノハ。  何て言ってるんだ……? なんで海斗を指してるんだ……? もしかして、あっちに連れていけってことか? 「ああッ! もうわかんねぇよ! 投げるぞッ!」  海斗に向かって、コノハを思いっきり投げた。コノハはくるくると回り、途中で人の姿になる。直後、コノハから大量の電撃が放たれた。 「ぐぁあああッ!」  水中にいる俺に電気はよく通り、いつも以上にダメージを食らった。気絶するかと思う程の痛さだった。  津波が消滅すると、電撃も止んだ。俺は地面に体を叩きつけた。全身が痛くて動けない。けど、この前の刺された時よりはまだマシ……! 「ねぇ」  コノハが駆けてきた。緑色の目で俺を見下ろし、倒れている海斗の方を指差す。 「蘭李を探してくるから、お前はあいつら倒しといて」 「え……?」 「じゃ」  そう言ってコノハは行ってしまった。  俺が……あの二人を倒さなきゃいけないのか……? そんなの無理に決まってる……! 「逃がすかよ」  悪魔が黄緑色に目を光らせ、俺の横を通りすぎていった。俺は何とか起き上がり、辺りを見回す。本当に悪魔は行ってしまったみたいだし、蜘蛛もいないみたいだ。  ひとまず、安心か……? 「くっそ……! くっそぉッ……!」  海斗は仰向けで倒れていながら、右の拳を地面に叩きつけていた。遠いから確認は出来ないが、声から察するに泣いているように感じる。  海斗が……泣くなんて―――俺はふらつきながら、海斗へと歩みを進める。 「海斗……?」 「あの悪魔がッ………あんな奴に俺はッ……!」  やっぱり………あの悪魔に何かされたのか。きっと海斗を使って、蘭李を殺そうとしたんだろうな……許せない。  ぶつぶつと何かを言う海斗に、俺は手を差し伸べた。 「あの悪魔に洗脳されたのか? 海斗」  青い瞳は鋭く俺を睨んだ。思わず体が硬直する。さっきは泣いていると思ったんだが、その様には見えなかった。 「……悪魔の言葉はまともに受けるべきではないんだ。言葉にも魔力が宿ってる。良いように乗せられて滅ぼされるんだよ」 「そ、そうなのか……」  海斗はゆっくりと上半身を起こす。眼鏡をかけ直し、項垂れながら呟いた。 「俺は………本気で蘭李を殺そうとした……無意味なことなのに……」  ハハッと小さく笑う海斗。苦しそうな笑みに、俺の胸にもズキンと痛みが一瞬走る。 「でも、悔しかった。今まで、才能が無いなりに努力してきた。あいつだって、その当時は努力していたのは分かる。だけど………こうもあっさり負かされると………」  ――――――俺は一体今まで、何をやってきたんだろうな?  沈黙が降りた。俺はすぐに声をかけられなかった。  海斗の努力は無駄じゃない。けど実際、蘭李に負けてしまった。それは紛れもない現実だった。  でもさ………仕方なくないか……? 「なあ、海斗……」 「………なんだよ」 「しょうがないよ。蘭李には才能があるんだ。天才に勝とうとする方が無理な話で……」 「そんなこと言ってたら守れねぇだろ!」 「―――――守る……?」  すると海斗は、はっとしたような表情をして、小さく舌打ちをした。ちらりと俺を見て、溜め息を吐く。 「………言いたくなかったが……」  そう言いながら、立ち上がる海斗。深海のように深い青色の視線が、眼鏡のレンズ越しに俺を見据えた。 「………俺が強さを求める理由、教えてやるよ」
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