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「毎度毎度、見事な手際じゃねぇか。あ?さすが、”人たらし”のガルーダ様だ。」 「大したこたぁねぇよ。初なボンクラ引っ掛けるのに手際もクソもねぇさ。」 「んなこと言ったってよ、オメェが狙った獲物は大概活きがいい。どの方面でも高く売れるだろぉ?なんかコツってのがあるんじゃねぇのか?」 「まぁな…、まぁ、いいか。俺は鼻が効くんだよ。魔力を鼻で感知出来る。どうやって手に入れたか覚えちゃねぇが、いつの間にか備わってた能力だ。ま、才能だな。…戦闘にゃ全く役にたたねぇが」 「へぇ、そりゃ初耳だな。そりゃ捜し物にゃ便利そうだ。」 「それだけじゃねぇ、感知できる魔力ってのは、大きさと距離だけじゃねぇんだ。魔力の…質っていうのか?そういうもんもわかる。大概の人間の魔力は似たり寄ったりだ。だが、たまに質が違った野郎がいやがる。あとは、その中で抜けた面したやつを狙い撃つだけだ。」 「ほぉー、いいのかい、ガルーダさんよぉ。手の内明かすなんてらしくねぇじゃねぇか。」 「……まぁ、この商売もこれで終いだからな。”当たり”も引いたし、金になりそうなボンクラも引っ掛かったし、俺ぁ引退するよ。」 「おいおいおい!マジかよ!ガルーダ、考え直せって!お前ぇの手腕は、お偉いさん方も買ってるんだぜ?ギルドだって口にはしてねぇが、感謝してる奴らだっているだろうよ。」 「いや、俺もはしゃぎすぎた。そろそろ引き際だ。真面目な貴族の次男坊様が、ギルド幹部にご就職だ。もう今までのようには行かねぇだろう。ここが引き際だぜ。マジノも考えといたほうがいいと思うがな。」 「…は。生まれてこの方、こんなクズ見てぇな仕事しかしたことねぇ俺には引き際なんてねぇよ。騎士様に脳天ぶち抜かれるまで、泥ん中で糞喰ってくしかねぇのさ。おめぇみてぇに一生食えるくらいの金が貯まれば別だがな。」 「そうかい。止めやしねぇよ。俺は”上がり”だ。やっとまともな暮らしができる。普通で、ぬるま湯みたいな、くそったれた生活がな。」 「…うらやましいねぇ…。で、こいつらどうする。女は取り敢えずお偉様方に売るだろ?それ以外は炭鉱か?」 「いや、一人面のいい野郎がいたから、そいつも”上”だ。なんせ、マルダスが夢中になってたからな。」 「マルダスが?一回抱いたら大体飽きるよな?それが夢中っつーのは、…っはっは。」 「それと、魔法が使える野郎がいる。そいつは、銅鉱山につれてってくれ。おそらく10年はいけるぜ。」 「銅鉱山!?10年!?そりゃ相当有望だな。冒険者やってりゃそこそこのとこまで行ったろうによ。」 「全くだ。可哀想になぁ…」 「おめぇが言うなよ!ギャッハハハッ!」 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽ 首輪を付けられ、猿ぐつわをかまされ、目隠しをされ、馬車で数日運ばれたからか、俺達は衰弱しきっていた。 食事、水は最小限。休みも殆どなし。たった3日経たない程度の旅路ですら、体力と気力を十分に奪っていった。 首輪を付けられてから、魔法がうまく使えない。いや、魔法は使えるのだが、逃げようとしたり首輪を壊そうとする様な行為がからきしダメだ。 なんでだろう…。 ガルーダ達は、道中俺に優しくしてくれた。 ガルーダは思い出したように道中、俺を殴り、蹴り、あるいは罵倒してきた。 最初は抵抗した。言葉で。出来る限りの汚い言葉で罵った。だが、ガルーダはそれすら楽しんでいるようだった。 殴られ、罵しられ、蹴られ、罵倒され。 そんなことを繰り返していくうち、心はすり減り、挫けていった。 最初は目だった。 顔、腹、足、腕。こんなところを殴られている間は、我慢できた。痛いことは確かだったが、ふざけんなって気持ちだった。痛い、辛いなんて泣き言も言わなかった。 だが、たまたま顔を蹴られたときにつま先が目に入った。 その時の痛みが、あまりにも予想外で、今まで感じたことがなくて。 惨めな叫び声を上げてしまった。 そこからは、目に対して集中的に暴行された。 長い針のようなものを、瞳を避けて差し込まれた。ガルーダが飽きた頃、全ての針を抜かれ、ミジィに目を治された。目は繊細な器官なんだから大切に扱わなきゃねって。 次は、爪だった。 爪を端から剥がされていった。剣を使ったり、釘を使ったり。色々な方法で剥がされた。アンナは意外と難しいなって言ってた。その後、ミジィに爪を治された。爪はすごく役に立つ器官なんだよ。大事にしなきゃって。 次は、骨の構造を見せてくれた。 ナイフで腕を刺されて、そのままぐりぐりって。ここが関節だって。解体する時、ここから分解するだろうって。俺はありがとうございますって言った。ミジィは、よくお礼が言えたねって。頭をヨシヨシってしながら、俺の傷を直してくれた。ちゃんと動くようにしてあげなきゃねって。 次は…、次は…、次…。 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  「そういえば、こいつ武器とか持ってるぞ?いいのか?取り上げなくてよ?」  「問題ねぇ。首輪ってのはそんなちゃちなもんじゃねぇのさ。何持ってても何も出来ねぇ。それが隷属の首輪ってもんさ。それに、ショータには念入りに言って聞かせたからよ。わかってくれるさ。なぁ?ショータ?」  「ぃヒッ!、は、はい…。すいません、あ、すいません。逃げ出しません。」  「そうだよなぁ。よく出来たぞぉ、ショータ。」  「すいません。ありがとうございます。すいません。」  「…相変わらず見事なもんだな。ぜってぇ、ろくな死に方しねぇぞ、オメェはよ。」  「おう。だからどんなクズ見てぇなことしても生き残ってやる。ろくな死に方したくねぇからな。」  「じゃあ、いつも通り、金の受け渡しは値がついてからでいいな。」  「あぁ。こいつはよく働くぜ。死ぬまでよぉ。」  「…そこもおめぇが評価されてるところなんだがな。全く惜しいことだぜ。」  そう言って、ガルーダさんとマジノさんは別れていった。  貴族に売られる予定の綺麗な女・男達は、別の人達に連れられ、鉱山行きになった人達はマジノさんに連れて行かれた。  俺以外の皆は、金・銀鉱山に連れて行かれるらしい。金・銀鉱山は国が管理している鉱山で、例え奴隷といえどそれなりの労働環境を保証されている。  俺が行くところは銅鉱山。  金・銀が、国が管理している鉱山であるのに対し、銅鉱山は各領主に下賤されたものだ。様々な功労に対する報奨として与えられる。  金・銀と同様に貨幣としての需要があることから、一定の収入が見込め、且、実入りはいい。  ここでさらに沢山の銅が産出出来るのであれば、その分儲けは大きくなる。  コストを少なく沢山銅を掘るためには少ない人数で多く労働できる方が良い。  こういうときに魔法が使える奴隷というものは重宝する。  肉体魔法、身体魔法といった体を強化するような魔法は誰しも、名称が違えど持っているらしい。  こういった魔法は独自で開発している奴だっているし、気付かずに使っている奴もいる。  けど、その数が多いわけじゃない。  魔力は誰でもある。自分で鍛えることも出来る。僕はたまたま師匠が居たが、街や村ですら基本的な魔法の訓練方法は知られている。にも関わらず魔法を使える人間は少ない。  これは、俺も訓練したからわかるが、とにかく面倒くさいのだ。訓練を進めていくと、精神的な負荷…というのだろうか。眠気と、風邪気味のときの症状と、気持ち悪さが合体したような気分になる。  体を鍛える時は、疲れるのは体だけだ。場合によっては訓練後に気持ちよく休めたり、ぐっすり眠れたりする。  しかし、魔力、魔術?、魔法?の訓練の時はそうは行かない。眠るのすら、気分が悪くてうまくいかないのだ。そして肉体のように数ヶ月で目に見えて効果が現れることはない。マッチョになったりとかしないから。  だからだろうか、魔力を鍛えるという事を続けられる人間は少ないんじゃないかと思う。これは誰かに聞いたわけじゃないから確かではないけど、そういうことなんだと思う。  魔力は誰でもある。恐らく、簡単な魔法程度なら使える。しかし、実用的な、役立つ魔法使いとなると格段に少なくなる。  冒険者ギルドで見聞きした感じでは、4,50人に1人くらいだろうか。  自分が魔法を使えることをギルドにすら黙っている人間はかなりいると思うから、もう少し人数は多くなると思うが、それにしても少ない。  しかもこれは、戦闘用の魔法だけでなく、探知や回復、生産様々な魔法使いを含めての確率だ。  だからか、魔法が使える奴隷は、銅鉱山に売り払われる。かなりの高値で。  身体強化魔法が使えるとわかっている人間なんて、確実に高く売れる。  高く買ったとしても、十分にペイできるらしい。  俺が行くところは、そんな所。この大陸の端の方にある、辺境の場所。  こんな内容をマジノさんは一人陽気に話していた。  俺はずっと、彼の話を黙って聞いていた。    「~~~~~ですから………であってですね!~~~~もちろん…でしょうから、今回も~~~~~。しかも、~~~~……」  マジノさんはこの鉱山の責任者だろうか、彼に必死に売り込んでいる。俺を。  聞いている男は、ニヤニヤしながら聞いている。  「マジノよ。長い付き合いだ。お前の言葉を疑ってはおらんよ。ただどれだけ使えるかだけは見せてくれ。」  「もちろん。問題ございません。おい!ショータ!道中見せてくれた奴をラミシュバッツ様にお見せしろ!」  「ヒッ!すいません!い、今すぐ…」  そう言って道中幾つか仕込まれた事を披露した。まぁ、でかい石を持ち上げたり、全力でジャンプしてみたりといった身体・肉体魔法の力量を見せているだけだ。  しかし、なんだな。  最近、大声で誰かに怒鳴られたり話しかけられたりすると、自然と口から空気が抜けてしまう。  前はそんな事なかったのに。  自然と、体が硬直して、ビビって、ガルーダを思い出してしまう。  やつだけは許せない。  ギルドにもある意味認められてるとか言っていたが、そんなことは関係ない。  あの男がやっていることは、犯罪だ。いや、悪だ。  くそッ!なんであんな奴らを簡単に信じたんだ。  今思えばなんだかんだギルドの受付をさせてくれなかったことから怪しかった。  なるべくギルドという組織から離れさせようとしたんだ。  それに、メディンさんとの依頼にガルーダが着いてきたのもまずおかしい。  最初は、お金を貰わなくても一緒に仕事したいだなんて、すごくいい人だななんて思ってたが。  おそらく、あれは監視だ。  余計なことを話されないようにしたんだろう。  そういえば、メディンさんもなんでも自分でできるようになることが大事だとか言ってたな…。  たぶん、ガルーダ達のターゲットになっていることに気付いていたんだろう。  ギルドにも認められているって言葉から、ガルーダたちの悪行はある程度暗黙の了解だったんだろう。  それにガルーダを敵に回すってことは、奴らをバックアップしてる奴らも敵に回すってことだ。  見ず知らずの新人にそこまでの義理はない。守るべきものや人が多いほど、そう思うはずだ。  いや、そもそもガルーダが人を騙して奴隷にするなんてことを証拠に残すわけない。  証拠がないのにおいそれと疑うようなことは言えない。  だけど、なんとかしたい一心で、手を変え、品を変え、俺に助言をくれたんだ。  俺が自分で気づく分にはなんの問題もないからだろう。  それなのに俺は…、最初の嫌なイメージを引きずって真面目に話を聞いていなかった気がする。  思い返せば、俺は結構そういったところがある。  最初のイメージや印象だけで、相手を決めつけて、それ以降考えを変えない。  ガルーダのときだってそうだ。最初弱々しいイメージだったし、しかも困った所を助けたから、その時の印象もあって、自然とガルーダを見下していた。  決してこいつは裏切らないと。  格上の俺には絶対に逆らわないと。  そうして一度決めた相手の印象を変えることは無かった。  ガルーダにそこをうまく突かれた。  騙されたんだ。こんなに簡単に。  その助けたってところも芝居だったんだから、情けなくて涙が出てくる。  簡単に、人を、信じてはいけない。  俺は、何を今まで見ていたんだ。  日本でも、日本で呼んでいた本でも、漫画でも、ドラマでも。  悪い奴らはいたじゃないか。騙される奴らだって居た。  そんな奴らをみて、こんな簡単に騙されるかよって思ってたじゃないか。  ましてや、ここは異世界。法律も、道徳も未発達の未開の地。  そんなところで、なんで簡単に人を信じたんだ。  物語の主人公だとでも思っていたのか。都合のいいことが向こうからやってくるとでも?  自分の馬鹿さ加減に腹が立ってくる。  人は、信じちゃいけない。  これは、絶対だ。  「もう、いいぞ。」  「はい!…おい!やめろ!…それでいかほどで…」  「そうだな…、金貨200でどうだ。」  「にひゃッ!?…これはまた、随分と…。」  「なに、ガルーダの引退祝も兼ねてだ。やつには随分稼がせてもらったからな…。」  「そういうことですか…、それでしたら、遠慮なく。やつも喜ぶでしょうな。」  随分、テストされた後、俺の値段が決まった。  相場は分からないが、マジノの反応を見る限り、大分お高いようだ。  「この首輪の管理者は…」  「もちろん、ラミシュバッツ様を登録してございます。いつもご贔屓にしてくださっておりますからね。」  「手際の良いことだ。おい奴隷。屋敷の厩に行って立っていろ。その後は、管理者に従え。」  「…厩とはどちらでしょう。」  「正面玄関の裏手側だ。行け。」  「…はい。」  逆らう気力もなく、ただ従う。    貴族がこうなのか、それともラミシュバッツがこうなのかは分からないが、彼は魔法の能力を確認している間以外、僕のことを一切見なかった。  無駄にでかい屋敷を正面玄関から裏手に回る。  確かに厩がある。ここで待っていればいいのだろうか。  ラミシュバッツ様は立って待っていろと言っていた。立って待っているか…。  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  一時間、二時間待っているが、人は来ない。しかも雨が降ってきた。  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  大分雨が強くなってきている。ここ数日間の垢が落ちるほどの強さだ。管理者はまだ来ない…。  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  雨は上がった。ただ、日は落ちた。体にまとわりついた雨と、太陽の消えた暗闇が僕の体温を奪っていく。  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  「いよぉ~~~。お前が200枚の奴隷か。俺が管理者だ。自己紹介はするつもりはねぇ。俺のことは管理者様と呼べ。取り敢えずお前の職場に案内するぜ。付いてこい。」  「…はい。」    唇が真っ青なのも、手が震えているのも、体中が濡れているのも気にせず管理者様はそう言った。  「お前はこれから、鉱山で働く。簡単な仕事だ。掘って、運んで、掘って、運んで。それだけの仕事だ。お前に求めることは三つ。管理者の命令に従うこと。逃げようとしないこと。全力で仕事をすること。それだけだ。」  「…はい。」  「さすが、ガルーダの商品だ。しっかりしつけが行き届いてる。こりゃ楽だわ。うぇっへっへっへ。」  「さて、職場に行く前にやることがある。黙って付いてこい。」  そう言って、でかい屋敷からしばらく歩いた後、掘っ立て小屋の様なところに案内された。  小屋の中に入り、木の台の上にうつ伏せにさせられた。  「この状態で何があっても動くなよ。声も上げるな。うるせぇ~からな。」  そう言って管理者様は、一人のおじいさんを連れてきた。  「今回の哀れな奴隷はこいつかね。可哀想になぁ。」    「くだらねぇ偽善をかましてねぇでさっさとやれよ。早く帰って一杯やりたいんだ俺ぁ。」  「人一人の人生より、今日の一杯か。ろくでもないな。」  「おう。返す言葉もねぇよ。ま、同じクズみてぇな仕事してる同僚のよしみだ。大目に見るけどよ。ヘヘッ」  「…ま、私も似たようなものか。とっとと始めるか。」  そういって、爺さんはおれの首元に鉛筆のような、針のような者を刺し始めた。  「ッ……ッ……………ッッ!!?…ッ……」  何が何だか分からない顔をしていると、管理者様が話しだした。  「お~お~。わけわかんねぇって面してるな。今はよ、隷属の紋っていう入れ墨を掘ってるんだ。隷属の首輪代わりのな。」  「隷属の首輪ってのはよ~、数が限られてるってんで、高いのよ。数多く生産されちゃいるが、ソレでも数は多くねぇ。しかも、鉱山見てぇな粉が舞ってたり、落石が多いところだとひょんな拍子で壊れっちまうのさ。」  「だから、同じ効果を持った紋をおめぇの体に刻みつけるって寸法よ。リヴェータ教特性の魔力非感応性の紋だ。最近出てきた最新式の魔術だぜ?時間も精度も求められるから、隷属の首輪を嵌めたやつにしか出来ねぇけどな。まさにお前のことだが。ブハッ!」  「入れ墨になりゃあ、首輪みたいに壊れることはねぇ。あ、その紋、首切り落としても紋だけ元通りになるんだぜ。すげぇよな。あ~、つまりオメェは、一生この穴掘り仕事をし続けなきゃなんねぇ。ま、オメェの人生は文字通りお先真っ暗なわけだが、真面目に働きゃ、多少の肉と酒ぐらいは出てくる。良かったな。死ぬよりかはマシだぞ。」  「…ッ…………ッ!!ッ!!…」  「アズ爺さん!とっととやってくれよ、何回インク漬けてんだよ!」  「んな、簡単なもんじゃないんだよ。薄さの調節が大事なんだ。結構難しい技術なんだぞ?」  「知らねぇよ。リヴェータ教特性の魔法技術に首を突っ込むほど、馬鹿じゃねぇからな。」  「安心しろ。一朝一夕で出来るもんじゃない。魔力を覚えたての子供の頃から教育しないと出来ないもんだからな。」  「へーへー」 「…ッ…………ッ!!ッ!!…」  「お~お~、ホントに声も上げねぇとは。根性あるなぁ…。大抵の奴隷は、泣き叫ぶけどな。爺さん。終わったら呼んでくれや。今日は静かに眠れそうだ。」  「好きにしろ。煩いやつが居なけりゃその分早く終る。」  「へいへい。」  ここからは、ただ痛みに耐えるだけの時間だった。  終りが見える分、ガルーダたちの拷問よりよっぽどマシだったが。  大体、2,3時間ほど立っただろうか。いや、正直時間の感覚が曖昧だったからもっと時間が立っていてもおかしくはない。  「さて、これからオメェは、奴隷たちの部屋住みになる。何度も言うが、逃げようと思うな。管理者の命令に逆らうな。自分の出来る限りの力を出して仕事をこなせ。これがお前が守るべきルールだ。いいな。」  「……………はい。」  痛みと疲れで、返事をするのも億劫になっている。  鍵の掛かったドアを何個かくぐり抜け、暗い行動の中をすこし進んだところにある部屋に押し込まれた。  中には奴隷らしき人らが10名ほど居た。8畳位の部屋だ。5段ベッドが両サイドに置かれており、それで終いだ。  中の奴隷たちは俺に一切見向きをしなかった。  右手の五段ベッドの一番上があいているようだったので、はしごを使って登る。  ガキの頃2段ベッドでとんでもなくテンションが上っていたのを思い出す。  5段なんて使ったらとんでもなくテンションが上がるかとも思ってたが、むしろ下がっている。僕は上がっていっているのに。  地獄へ上り詰めている気分だ。 そんなくだらないことを考えながら、ベッドに横になる。  首輪がないぶん横になるのは楽だ。入れ墨が痛むが。  首元が痛まないよう試行錯誤していたら眠気がやってくる。  どんなときでも眠気には勝てないらしい。    くそったれた異世界バンザイ。  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  「起きろ!!仕事だ!!」  昨日俺をここに連れてきた管理者様が蹴破るようにドアを開けながら叫ぶ。    この部屋だけでなく、他の部屋も回っているらしい。ドアを開けてすぐ、他の部屋に向かっていった。  同じ部屋の奴隷たちは一言も話すことなく準備を進めていく。  とはいっても、ベッドから降りて、ドアを出て広場に向かうだけだ。  どうやら部屋ごとに班分けがされているらしい。各部屋にまとまって集まっている。  綺麗に整列しているわけではない。ただ、ぼやっと集まって、下を向きながら立っているだけだ。  「泥虫、蛆虫、糞虫どもはいつも通りだ。向かえ!虫クズは、今日は運び屋だ。虫クズの新人!お前はこっちに来い!」  どうやら虫の名前が、各班の名前になっているらしい。     細々したところで尊厳を踏みにじってくる。  ぼくがいる班は虫クズらしい。その新人といったら僕のことだろう。  ノロノロと管理者様のもとに向かう。  バンッ!バンッ!ドグッ!  頬を2発と、腹を1発。唐突に殴られた。  「走ってこなかった分、返事をしなかった分、最期はてめぇの面がムカつく分だ。着いてこい。」  今まで、奴隷に落ちた今の今まで、どこか夢見心地だった。  明日目が覚めれば、家で目が覚めるとか、誰か優しい人が助けてくれるとか、そんなことを思っている自分がどこかに居た。  けど、今殴られて、まるで暇つぶしのついでに踏みにじられて、唐突に理解した。  僕はもう人間で失くなったのだと。  もう誰も僕のことを尊重してくれる人は居ないのだと。そしてそれは一生続くのだと。  自分の将来とか、夢とか、希望とか。はたまた、やる気とか、根性とか、魂とか。そういったものが口からこぼれ落ちていくかのように返事をした。  「…はい…。申し訳ありません。」  もう前を向く気力すら無かった。  俺は管理者様の後ろから、自分の足元をみながら着いていく。言われたとおりに。  顔を上げて歩く理由なんて無かったからだ。 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  「お前がやることは単純だ。このツルハシをもってここをまっすぐ掘り進めろ。人間が一人入り込めるくらいの大きさがいい。只々まっすぐ掘れ。掘った物は全てこの引き車に乗せて外まで運べ。ここからも銅が採掘できるはずだからな。」  「お前が守るルールは単純だ。逃げようとするな。管理者に逆らうな。自分の持てる限りの力を使って仕事をしろ。お前が他の奴隷よりも使えるってのがわかれば、多少いい飯も食らわしてもらえる。ただ、もし使えねぇってなったとしたら…、金貨200枚の損失だ。どうなるかはわからねぇなぁ…。へっへっへ。死ぬ気でやれよ。」  「…はい。」  管理者様からの命令には必ず返事をする。大丈夫だ。僕は忘れてない。  「へっへっへ。今からやれ。」  「はい。」  管理者様がツルハシを持っていたから、それを受け取ろうとしたら地面に投げ捨てられた。手渡しすら、奴隷を人間として認めることになるとでも言うように。  管理者様が地面に投げるように置いたツルハシを持って、多少掘り進められた坑道に向かう。    ぼろぼろのツルハシを持ってただ坑道を掘り進める。  ツルハシででかい石を砕き、スコップで細かくなった石や柔らかい土を運ぶ。  ただただ、それを繰り返す。  言われたとおり、魔法が使えるようだ。  早速、身体魔法と肉体魔法を使う。  随分懐かしい気がする。首輪をされてからこの魔法を使っていなかった気がする。  やはりこの魔法はいい。単純に力が強くなって、体が丈夫になる。  それがどれだけありがたいか身にしみるようだ。  ただ、身体魔法は今だ操りにくい。ものすごい速さでの体の操作は出来ないが、穴掘り程度にその速さはいらないだろう。通常の動きで力があればいいんだ。  こうやって岩を掘っていくと、モニに風呂を作ってあげたことを思い出すな。  あの時は、自分で作ったナイフとかで岩を切り出したんだっけな。  懐かしいなぁ。モニはすごい喜んでくれたな。  呪いが進行して、子供帰りしていっても、お風呂だけは好きだったな。  いつか必ず、モニのいるところに戻ろうと思ってたけど、もう、無理なんだろうな…。  後もう一回、石でもいいから、モニの顔を見たかったな。  メリィはちゃんとモニを拭いてあげてるかな。モニはきれい好きだったからな。    モニから貰った首飾り。これは、奴隷になっても取られなかったな。よかった。  そういえば、俺たち結婚したんだっけ。モニからしたら子供の頃にした他愛もない口約束なんだろうけど、嬉しかったなぁ…。  もう一回、会いたいなぁ…。 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  坑道を掘り進めている間、考えることはモニのことばかり。  でも、彼女のことを考えると、何もできなくなってしまう。  結局、もう二度と会うことが出来ないってことに行き着いてしまうからだ。  だから、仕事中は考えないことにした。  幸い、仕事中でも魔法は使えた。むしろ、管理者様からすればもっと使えって感じだったし。  だから、より早く、正確に身体魔法を使えるように意識しながら仕事をした。  最初に感じていたブランクは、今は鳴りを潜め、いつもどおりになっている。  身体魔法を使うためには、自分の体や筋肉がどういうふうに動くのかをよく知る必要がある。  日本に居た頃はそんなこと意識したことは無かったが、無駄にある時間とモニのことを考えなくて済むように、なるべくそういったことを意識して色々試した。  最初は一つの動作を完璧に身体強化できるようにする。  この仕事で言えば、ツルハシを振る、スコップで掘る、岩・土を運ぶ、引き車を引くと言った動作だ。  この動作に関してだけ、身体魔法を完ぺきにできるように頑張る。  とにかく、細かい動きを色々試してみて、ベストな動き方が分かったら、後はどれだけそれを早く出来るかだ。  それのみに没頭する。そのほうが何も考えなくて済むからだ。  引き車から出てきた岩石類が人間10人分くらいの体積になった時、気付けばあたりは暗くなっていた。  「ほ~、随分と進んでるじゃねぇか。やはり拾い物だな。おい!飯だ。着いてこい。」  「…はい。」  「明日からは、坑道の補強も並行してやれ。掘り進めすぎて生き埋めになりたかねぇだろ?必要があれば木材を用意するが、使える魔法はあるか?」  「はい。補強でしたら出来ます。」  「じゃあ、お前の出来る限りでやっておくんだな。」  明日の仕事の打ち合わせのようなものをしながら、管理者様の後ろについていく。  どうやら、寝泊まりしていた場所に戻るようだ。  部屋自体も、坑道を利用したもののようだ。だから、部屋に戻る時は穴蔵に入らなきゃいけないのだが、食事はこの穴の前の広場で行うらしい。  「あそこにある容器をもって飯を貰いに行け。早く行かねぇとなくなっちまうぞ。もちろん、それでも仕事はしてもらうがな。それと、明日からは迎えには行かねぇ。日が沈むまで仕事したら自分でここに帰ってこい。いいな。」  「はい。」  管理者様に適当に返事をした後、すぐに食事の列に並んだ。  硬そうなパンと、何かよくわからないドロドロとしたスープだ。  しかし、箸もナイフも、スプーンすら配られない。どうしたらいいんだと周りを見渡すと、ほとんど手づかみだ。  このスープのような半液体系の物を手づかみって…。  一瞬、マナー云々を気にしたが、やめた。  全く意味のないことだ。とにかく食わなければ死ぬ。腹に入るまでに何を使っていようと関係ない。  腹がふくれるのは間違いないのだから。  そう思ってからは早かった。パンにスープを付けて食い、パンが無くなったら手でスープを救って食べる。ちなみにパンはものすごく硬かった。このスープがなければ絶対に噛み切ることが出来ない。  食事が終わると、各人多少の自由時間の後、部屋に戻される。  部屋の中では会話がない。というより、誰もお互い目を合わせようとしない。  こちらにとっても都合はいいが、それも異様な雰囲気だ。  驚いたことだが、部屋に鍵などがかかっていない。トイレなどは、部屋を出て専用のトイレ部屋がある。  まぁ、逃げるやつなんて居ないってことなんだろう。  あぁ…今日も疲れた。これが毎日続くのか…。でも、余計なことは考えなくて済みそうだ。 ゲェェェェェロ!グェェェェェロ!オエッ!オエッ! うるせぇ鳥の鳴き声だな。静かに寝かせてくれよ。寝るときくらい現実から逃げてぇんだよ。
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