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   珍しいことじゃない。  鉱山で働いてわかったが、事故といえば生き埋めだ。  事故だってそんな頻繁に起こるわけではないが、安全管理も危険予知もない労働環境。  日本の鉱山で働いたことがあるわけじゃないけど、まぁ、普通よりも多いんだろう。  後は火災とかだろうか。  とは言え俺の掘っているところでは、主坑道を魔法で固めた土や岩石で補強している。  燃えるものがないからか?実際に目の前で火災が起きたことはない。  生き埋めだってそうだ。主坑道を掘り進めていた時は、念入りに補強しているからか、岩盤や土が落ちてくることはない。  まぁ、一人で主坑道を掘ってんだ。目の前で生き埋めが起きる時ってのは自分が生き埋めになるときなわけだ。そりゃ、念入りにもなるってもんだ。  大体、生き埋めになったら助かることはない。生き埋めになった瞬間に打撲で死ぬか、生き残ったとしても窒息で死ぬ。  救助は迅速にするが助けるためじゃない。  死体が腐って臭い中で穴掘りしたくないってだけだ。  腐る前に外に出す。死体も生ゴミも一緒だ。  つまり何が言いたいかというと、声が出せる状態で、声が聞こえる状態で、声を聞くやつがたまたま直ぐ側に居たこいつは大変に運がいいということだ。  こちらとしても、救助活動(清掃活動?)で仕事に遅れが出るのはいただけない。  腹を決めて助けるか…。  まぁこちとら魔法が使えるし。そう大した労力でもない。  こちらの気分的にも死体よりも瀕死の人間のほうがマシだ。  死体の猫を運ぶよりも、瀕死でも血だらけでも生きてる猫を運んだほうが気分的に楽だ。違うか?まぁいいか。  こいつを助けたとして、生きて俺に恩を感じる素振りをみせたとして、決して油断しなければいいだけだ。いや、そもそも近づかなければいいだけだ。  まず、声が聞こえる付近に魔力を流してみるか…。  ん?なんかここ魔力が通りにくいな…、…人の形をしてる。ここにいるのか…。  まずこれ以上こいつに力が加わらないようにしなきゃまずいか。  こいつの周りを硬い土で覆って…。チューブみたいな形でいいか。  このチューブをそのまま主坑道に繋げて…よし。  内側に詰まってる土はどうするか…。柔らかくしとくか。掘り返し易いからな。  あとは…掘るしかないか。あぁ…結構大変…でもないな、柔らかくしたからかなり掘り易い。  あ、そうだ。長細いチューブを用意して…差し込んで…大丈夫か?…まぁいいか。こっちゃ努力してんだ。文句を言われる筋合いなんざねぇよ。  この細いチューブから空気を送り込んでおこう。窒息したら元も子もないし。  …空気さえありゃ掘る速度が遅くてもなんとかなんだろ。…多分。  魔法で作った土は結構硬いし…また生き埋めになるこたないだろ。  お、生き埋め野郎の頭が見えてきた。 「ッン…ブハッ、ハァ、ハァ、ッグ…」  おっと。頭が見えたから、空気を送るの忘れちまった。まぁ、息してるようだし大丈夫だろ。  肩まで土をどかしたら、服を掴んで周りの土ごと一気に引っ張って…と。 「アイッ…!、グッアッ……ガッ…!………!!…!」  あ~、あ~、うるさいな。どっか骨でも折れたか?我慢しろよ。命があっただけめっけもんだろ?  ん?あれ?意外と軽いな?見た目は結構ごついおっさんなんだけどな。  …いや、同じ奴隷だ。食事環境なんて想像できる。飯、食えてねぇんだろうな。  奇遇だな、僕もだよ。  見た感じ右足か?スネの部分がだいぶ腫れてる。こりゃ、折れてるな。でもまぁ、ディック爺にかかりゃ一発で治るだろ。  つくづく運がいい。良かったなぁ、オイ。 「おい。立てるか?…無理だろうな。……おい、これからお前を飯ん所まで連れてくぞ。ディック爺の手が空いてりゃすぐに助かるだろうよ。」  怪我人の返事は…いいか。どうせ声も出せねぇだろうし。  僕もだいぶ力持ちになったもんだ。  ここに来る前じゃ考えられない。  身体・肉体強化魔法を使ってれば、一抱えもある岩ぐらいなら軽く持ち運べる。  昔飼ってたデヴィ位の重さだ。体感的に。…いや、あいつ結構重かったな。デヴィより軽く感じるってことは…、どんだけ太ってたんだよ…バカ犬…。 「す、すまねぇ…助かったよ、先生…」 「あ?先生?俺はそんな名前じゃないが?」 「ど、奴隷の間じゃ先生さ。魔法も使えるし、文字も読めるし、ディック爺が楽しそうに話してるからな…」 「魔法なんて使える奴ぁくさるほど居るし、読み書きだって同じだろ。それで先生は馬鹿にされてるとしか思えねぇな。」 「そ、りゃ、シャバの話だろ?そんときゃ普通に居ただろうが、ここにいるのは奴隷だけだ…。奴隷落ちの一番の原因は、本人がボンクラってことよ。」 「…そうだな。奴隷落ちの奴らなんざバカでマヌケなやつばっかりだ。」 「そういうことだ。読み書き魔法に、品のある会話。あんたは先生さ。」 「まぁ、好きなように呼べよ。つるむ気もねぇしな。シャバの名前なんざ特に意味もねぇ。」 「そのとおりだ…。スッテン。俺はここで、そう呼ばれてる。よろしくな、先生。」 「スッテン?本名じゃないよな?」 「当たり前だ。スッテンコロリとよく転ぶから、スッテンだ。」 「そうかい。お互い奴隷らしい、惨めな名前だな。」 「そうか?先生なんてなかなか立派な呼び名じゃないか。」 「奴隷の先生なんざ皮肉がきいてるだろ。一体誰に何を教えるってんだ。」 「ち、ちげぇねぇ…。ところでもうちょっと優しく運んでくれねぇか?」 「いや、俺は早く飯が食いたいんだ。断る。」 「…厳しいのも先生っぽいな…」  こいつを信じることはない。  まさにガルーダが僕を騙した時と同じシチュエーションだ。  こんな弱々しい顔してても腹では何考えてるのかわかんないんだ。  決して僕は隙を見せない。  どんな相手にだって油断しない。信用しない。もう決して、騙されない。  でも。  まぁ。  命が助かることはいいことだ。  人が死ぬより、いいことだ。  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽ 「仕事だ!起きろ!」  いつもどおり管理者様の声で目が覚める。  いつも思うけど、こんな朝早くから奴隷全員を起こして周ってるんだから、管理者様ってのはホントはとんでもなく勤勉なんじゃないか?  僕だったら起こすのも奴隷にやらせてしまうが…。 「よぉ、先生。気分はどうだい?」  スッテンが馴れ馴れしく挨拶してくる。 「いつもどおり、最悪だ。」 「ちげぇねぇ。」  こいつはもともと別の部屋だったんだが、この部屋にやってきた。  驚きだが、奴隷同士の部屋の配置換えだとかってのは基本的に自由だ。  奴隷が逃げることなんざ微塵も考えていないからどこで寝ようと一緒だということだ。  だからもし、部屋を変えたいのであれば、奴隷同士話しを付けてしまえば簡単に移動できる。  しかもベッドで寝ることを諦めさえすれば、話を付ける必要すらない。…ベッドっていうか殆ど木の板だけど…。  このスッテンはあの時俺に助けられた後、この部屋で寝泊まりするようになった。  出来れば恩を返したいが、奴隷だとそんなチャンスはない。  いや、もしからしたら明日にはお互い会えないかもしれない。  だから先生の傍にずっと居てすぐに恩を返せるようにしとくんだ、とさ。  スッテンはそう言っていたが、胡散臭いことこの上ない。  俺に迷惑を掛けるなときつく言ったが、分かってんのかあいつ…。  ま、いい。どちらにしろ主坑道掘りは俺の専用仕事だ。そうそう絡むこともねぇだろ。なんせ起きてる間は殆ど仕事だ。 「おい。そこの。」  管理者様が俺を指さして何か言ってきた。 「はい。何でしょう。」 「お前には穴掘りだけやってもらう。随分掘るのが好き見てぇだからな。っへっへ。おい。おまえ。今日から引き車で石運びだけしろ。どんなボンクラでも、後ろにこんだけデケェケツがありゃ、早々転ばねぇだろ?」  ん? 「へぇ。解りやした。」 「おめぇの百倍の値段だ。こいつを全力で援助しな。」 「へぇ。旦那。おまかせくだせぇ。」  まぁ…、仕事が楽になるならいいか。  いつもどおり、仕事場に向かう。  違うのはスッテンがいるかどうかだ。いなくても別にいいが。 「ということだ、先生。よろしくな。」 「まぁ、いいけどよ。随分都合が良くねぇか?」 「そりゃそうだ。酒のんで豚のケツに腰振ってる野郎に申し上げたのさ。金貨200枚の奴隷は掘ることだけに集中すれば今の倍は稼げますぜ、とな。」 「素直に俺達の言うことを聞くことなんざあるんだな。」 「まさか!奴は奴隷の考えだなんて微塵も思っちゃいないさ。自分の道具から出た考えは、自分の考えってとこだろ。あとは、賢しらげに先生に命令するまで、先生に張り付きゃ、雑用係は俺のものってことさ。」 「はぁ…、そこまですんのか。ご苦労なこったな。」 「だから言ったろ?俺は義理堅いんだ。命の恩は、命で返すぜ。っへっへっへ。」 「恩はいいからさぼんなよ。俺が目ぇ付けられる。」 「随分真面目だねぇ…。ま、奴隷ならしょうが無いんだけどよ。」 「っは。おめぇだって奴隷だろうが。」 「…まぁ、ちげぇねぇ。とっとと仕事に掛かろうぜ。」 「スッテンが余計なことするから仕事が止まってんだろ」 「なに、先生が掘るのだけに集中すりゃ、余裕で取り戻せる遅れさ。」 「はいはい。」  やるこた変わらん。いつも通りの穴掘りだ。  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  正直最初は足手まといだと思っていた。胡散臭いし、信頼できない。あとうるさい。  だけど、自分が掘ることと坑道の補強だけに集中出来るってのは思いの外…効率がいい。  スッテンが他の奴隷よりもとりわけ優秀かどうかは分からないが、少なくとも一般的な能力はあるよ気がする。いや、単純な筋力という点ではかなり優秀だと思う。  これは思いの外ラッキーだったんじゃないか?  最初はおしゃべりで調子のいいやつだと思ったけど。  …。  …いや、やめよう。そういうのはやめようとしたばかりじゃないか。  ガルーダに騙されたときだってそうだ。第一印象からずっとそいつを見ようとしなかった。  相手を知る努力を怠ったから騙されたんだ。  お調子者でおしゃべりな第一印象だったとしてもだ。もっともっと相手のことを知らなきゃいけない。  もちろんそれで結局信頼出来ないということがわかるだけかもしれない。でも、それは相手のことを知ってからの話だ。  一番最初に使えないと決めつけたら、ずっと相手を使おうとしない。これはまずい。  相手を知って、情報を引き出し、利用する。信頼出来るところと出来ない所を明確にするんだ。  もう二度と騙されない。俺は騙す方に回る。 「意外と力があるんだな。魔法が使えたりするのか?」 「おう。基本的な筋力強化だけだけどな。」 「それにしちゃ、大分冷遇されてるような気がするけど。」 「そりゃ、言ってねぇからな。」 「嘘つくことなんて出来るのか?」 「出来るさ。まぁ、他の奴隷は出来ないようだがな。」 「はぁ?なんで出来んだ?スッテンは。」 「いや、それがよくわかんねぇんだよなぁ。まぁ、そういう体質なんだろうな。魔法が使えることも無関係じゃないんだろうけどよ。奴隷になってから気づく体質ってのもなかなかどんくせぇ体だよな。」 「…そんなことここで言っていいのかよ?」 「?」 「俺が管理者様にチクるかも知れねぇぜ?」 「あぁ、そゆことね。問題ねぇよ。管理者共は奴隷が絶対に嘘をつけねぇと思ってる。あんたがチクったとしても、管理者の目の前で魔法は使えませんって言えばそれで終いさ。先生が他の奴隷に騙されたとしか思われねぇよ。奴隷同士の嘘は禁止されてねぇからな。ま、奴隷もウソを付くなとは言われてないんだが。」 「ふーん。そういうもんか。でもよ、魔法が使えるってわかれば今より待遇が良くなるかもしれないぜ?」 「…先生ぇ。どんなに待遇が良くなってもよ。それは奴隷の中でいい生活ってだけだ。奴隷でどんなに幸福になったところで、人間になったわけじゃねぇ。俺達が奴隷って種族のままなのは変わりねぇよ。」 「…。」 「先生。人はよ。誰かの上や下にいるもんじゃねぇと思うんだ。人と人の間に何かがあったとしてもよ、うまく言えねぇが…、そりゃきっともっといいもんだと思うんだよ。でも、俺たち奴隷と人間の間にはそいつはねぇ。どんな幸福な奴隷になったところでよ、必ず人間じゃねぇと思い知らされる時が来る。結局奴隷の中で幸福であればあるほど惨めになるだけだよ。」 「だからよ。マシな待遇なんて幻想なんだよ。打ちのめされるのは構わねぇ、泥にまみれた飯を食うのだって構わねぇさ。でも、惨めな生き物になるのだけはごめんだよ、先生。」 「…。」  それでも美味い飯を食えたほうがいいじゃないか、とか、少しでも長生き出来たほうがいいじゃないか、とか反論は浮かんだ。  けど、どうしてもそれを口にだすことは出来ない。  …相手の方が正しいと思ってしまったからかもしれない。  自分をバカにし、見下している奴らの情けにすがって幻想に生きることに引け目を感じていたからかも知れない。  でも、一番の理由は、スッテンの言ってることが、モニの言っていることを思い出させたからだ。  モニは言っていた。  人と人には上下関係なんてないって。  どんな人にも優しく、誠意を持って接するのは奴隷でも貴族でも変わらないって。  これを聞いた時、どんな立場の人間相手でも人として誠意を持って対応すべきだって話だと思っていた。  ただ、今のスッテンの話を聞いて。  スッテンが少し自信ありげに、しかし確かな誇りを見せながら言った言葉を聞いて。  自分が、貴族や王や奴隷になったとしても、優しく、誠意を持って人と相対すべきだということなんじゃないかと思った。  自分の立場が上ならどんな相手にだって優しく出来る。  それはペットに優しくするのと一体何が違うのだろうか。  自分が一番下の立場になった時。それでも、人に優しく出来るってのはきっと生半可な覚悟じゃ出来ないんじゃないか。  少なくとも僕は…、出来ていない。  …するつもりもない。  モニやスッテンの精神は高潔だが…、それで死んだら元も子もない。  死んだら奴隷から抜け出すことだって出来ないし、モニに会うことだって…出来ない。  だから、僕はどんな卑怯なことをしても生き残る。  惨めな生き物に成り下がっても、例え誰に見下されようともだ。 「…それでも生き残りたいんだ。俺は。」 「あぁ、いいんじゃねぇか。先生。俺だって生き残りたいからなぁ」 「さっきと言ってること違うじゃねぇか。」 「違わないさ。俺は生き残るために、嘘をつく。あんたは生き残るために強かになる。手段が違うだけで、目指すところは一緒だろ?」 「…まぁ、そうかもな。」  適当で、お喋りで、嘘つきなこいつは、まるで信頼できない男だ。  だけど少しだけ、こいつを気に入っている俺がいる。  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽ 「いや~、しっかしすげぇなぁ先生は。」 「?何がだよ、スッテン。」 「なんか、掘るスピード上がってねぇか?3ヶ月前はこんなに早くなかったろ?」 「あぁ、なんかコツ掴んできたんだよ。」  3ヶ月以上一緒に奴隷やってると、やはりそれなりに仲良くなってくる。  とはいっても基本的に喋ってるのは奴ばかりだ。  スッテンは仕事をサボるのがうまい。  まず、管理者様だって四六時中監視してるわけじゃない。というよりも監視はほとんどしない。  奴隷の首輪で、全力で仕事することを命令しているんだ。わざわざ監視する必要すらないってことなんだろ。  そこで奴はうまい具合に自分の体質を利用して程よく仕事をサボってるってわけだ。  …あいつ俺より結果的に待遇よくねぇか…?  まぁ、いい。俺は全力で仕事するだけだ。 「あぁ、なるほどね。ツルハシが岩に当たる瞬間だけ強く魔力を纏わせてるのか。確かにそのほうが威力も増すし、魔力も持つだろうよ。しかし、相当魔力操作に熟練してなきゃ出来ない芸当だぜ?そのレベルの魔法使いって世界に何人もいねぇが…」 「あんた結構魔法に詳しいのか?」 「ま、それなりにな。師は誰だ?普通の現代魔法じゃないよな?」 「俺の師匠は…、俺と同じくらいの女の子だよ。」  モニから貰ったペンダントを、在り処を確かめるように触りながら答える。 「……へぇ…。珍しいな。その年で古代魔法を教えられる人間なんて。」 「古代魔法?というか現代魔法ってなんだ。魔法に古代とか現代とかあるのか?」 「あるぜ。あまり知られていない区分けだけどな。先生が使ってんのが古代魔法。人間共が使ってるのが現代魔法だ。大雑把な分け方だがな。」 「どう違うんだ?」 「一番は魔力の源が違うと言われてるな。現代魔法は、森羅万象に宿る魔力を操る。古代魔法は持って来るんだ、魔力を。」 「持って来る?何処から?」 「それは分かっていない。少なくともこの世界ではないどこかの世界から、ということらしい。昔のえれぇ賢者様が仰ってたことだけどよ。しかも、今は使ってる奴らが本当に少ない。ついでにこの魔法を使ってるって知られたら迫害されちまうっておまけ付きだよ。」 「…」 「まぁ、安心しろよ。現代魔法と古代魔法を判別できる奴がそもそも少ねぇからな。だからこそ、こんなところで穴掘りするまで気付かれなかった訳だ。」 「つーか、それを知ってるスッテンも大分やべぇんじゃねぇのか。」 「まぁ、俺が使ってるのも古代魔法だからな。だが、先生ほど大量の魔力を引き出せねぇし、操る力もうまくねぇ。…けど、まぁ、ババ引いちまったな。」 「どういう意味だ。」 「変な師匠のせいで、いわくつきの魔法を教え込まれちまったわけだろ?ついてねぇっつうかなんつうか…。何も知らない素人に古代魔術を教えるなんてよ、大分その師匠も屑な女だな。」 「いや、そんなことはない。師匠は…彼女は素晴らしい人だ。俺なんかよりよっぽど…」 「…そうかい。そりゃ悪いこと言っちまったな。忘れてくれ。……そのペンダントは師匠から?」 「あぁ、そうだ。随分大事な物だったらしいんだが、くれるってさ…。多分、もう自分が長くないってことがわかってたのもあるんだろうな…」 「!…死んだのか…?」 「…出会った頃にはすでに石化の魔法に掛かっててよ。徐々に徐々に進行していったよ。最期は全部石みたいになってよ…。…俺はリヴェータ教が嫌いだよ。なんであんな残酷な魔法を思いつくんだよ。」 「そうだな…。…俺もリヴェータ教は嫌いだよ。本当にな…」  少ししんみりした話題になってしまった。  お互い少し気まずい気分だ。いや、気まずい気分なのは俺だけか。スッテンは何故かニヤニヤしてやがるしよ。 「何かおかしいのか?」 「ん?あぁ、いや。同じもんを嫌ってるってのがいいよな。なんか、同士って感じでよ。」 「不健康な同士だな。」 「ッハッハッハ。同士ってのは不健康なもんだからな。大体負け犬の集まりだ。」 「俺達にぴったりじゃねぇか。」 「そういうことだ。先生。ま、とにかく先生の魔法はかなり高いレベルだってことだ。魔力量では少なくとも先生レベルは見たことねぇぜ。」 「まぁ、ありがたいけどよ。魔力量が多かったって勝てるわけじゃねぇからな。」 「そりゃそうだな。勝負ってのは…」  ふと、魔力糸に倒れた人間が引っかかった。  スッテンを助けてから、自分が掘っている主坑道内では魔力糸を張り巡らせて、他の奴隷たちをチェックしている。  スッテンが事故に遭うまで、自分が掘った穴で人が死ぬかもしれないということを全く想像していなかったことに気付いた。  事故は確かにあったが、俺の仕事場とは全く別のところで起きていたからか何も考えていなかった。  死体の片付けなんて面倒くさいことは嫌だし、そんないわくつきの場所で仕事するのも嫌だ。 「先生の網に引っかかったのかい?」 「あぁ、入口近くの方だ。あそこは補強が甘かったかな…」 「行くのか?」  なんてこんな会話してても既に入口に向かってるっていうね。  …ま、とっとと済ませちまおう。  ん?  あそこか?  …あーあ。  …やっぱり。  入り口から5mくらいの所の副坑道が埋まってやがる。 「せ、先生。ステ爺の奴が埋まっちまったんでさ。あと、もう少しで奴隷から開放されるんだって無茶して…」 「あぁ、解ってる。引き出したらディック爺のとこまで連れてくのは頼んだぞ。」 「ま、任せてくだせぇ。ス、ステ爺には俺はほんとに世話んなって…」  返事をする間もなく、引き出し作業にかかる。  実は奴隷同士のコミュニティみたいなものがあったりする。  奴隷になった当初では俺に話しかける奴も周りで話してる奴もいなかった。  だから俺は、奴隷ってのは無駄口すら叩けない存在だと思ってた。  けど単純に、管理者様のお気に入りの新参者に余計な隙きを見せないつもりだっただけらしい。  これは後からスッテンに聞いた話だが、俺は半分管理者様側だと思われていたらしい。  俺みたいな高い金を出した奴隷ってのは管理者様に大事にされる。そんな俺に、少しでも嫌われれば管理者様にチクられてまずい飯を食うことになるわけだ。  今ですらまずい飯の更にまずい飯ってのが想像できないが、まぁそういうことだ。  スッテンと一緒に働くようになり、こういった救助活動をしていくと俺に話しかけてくるやつも増えた。  ステ爺もそんな奴隷の一人だ。  このステ爺は、お人好しを絵に描いたような人間だ。ひもじいと言われりゃ飯を差し出し、腹がいてぇと言われりゃ仕事を変わってやり、挙句には奴隷に落ちたのは友人の借金の肩代わりだからってんだから筋金入りだ。普通そんな経験したら人間不信になりそうなもんだが、奴隷に落ちた今でも変わらず人を助けてる。頭がおかしい人間だと俺は思っている。  そんなステ爺を慕う奴隷は多く、人を殺して奴隷になりましたなんて奴もステ爺の言うことは聞くんだから不思議なもんだ。何人も娼婦を殺して死刑代わりに奴隷落ちしたクソ野郎が、ステ爺の前でおいおい泣いてたこともあった。次の日からそいつはステ爺のシンパだ。まぁ、さっき俺と話した野郎なんだが。  さっき話した元殺人鬼は、奴隷落ちの理由も相まって誰からも相手にされていなかった。奴隷にからすら見下されていた。そんな中、ステ爺だけは変わらず接した。いつもどおりお人好しな態度で。そりゃまぁ、落ちるだろう。半分洗脳みたいなもんだ。まぁ、実際ステ爺は頭のおかしさを除けば普通にいい爺さんだから、慕うのはわかるけどさ。でも、何人もの女を殺したような人間に優しくすんのは…どうなんだ?はっきり言って他の奴隷たちは奴を見下してるし、俺も他の奴隷と同じスタンスだ。殺された女や家族の気持ちを考えるとさ…とてもまともに接しようって気にはならない…。  でも、だからこそ凡人なんだろうな。俺達は。  一度ステ爺に聞いたことがある。なんであんな奴に優しく出来るんだって。あんただって騙されて奴隷落ちしたんだろって。他の人間が憎くはないのかって。 「おいはよぉ。奴隷になっちまった。一番の底辺さぁ。もう失うもんは何もね。だから、信じていいんだぁ。」  納得できなくて、更に聞いた。ステ爺にだって家族や大事な人がいただろうって。もしそいつがステ爺の大事な人を殺したら、おんなじ態度は取れないだろうって。 「信じるさぁ。おいは、大事な人はいっぺ大事にしてきたぁ。たとえ殺されても、大事にしてきたことがなくなるわけじゃあんめ。おいが出来んのは信じることだけだぁ。ほかは何も出来ね。出来ること全部してきたから、きっと信じていいんだぁ。」  俺にはよくわからなかった。  だが、この爺さんは底抜けに他人を信じている。果たして、身に寸鉄を帯びず、どんな人間も信じることの出来る人間はいるのだろうか。たぶんこれは信頼とかそういったものじゃないような気がする。全てのものを平等に心底信頼することを一体何と呼べばいいのだろう。  こんなことがあってから、ステ爺さんには一定の敬意を持つようになった。少なくとも俺に絶対できないことを実行している。そういう人間には、敬意を示すべきじゃないかと思ったからだ。  ま、俺も飯を食いそびれたときに飯を分けてもらった恩があるし。糞不味い飯を食わなくてすんだと思ったところに差し出されたもんだから、顔を平らにしてやりたいほどムカついたが。  …。  …だけど。  …まぁ、恩は恩だ。  …助けますか。 「先生。奴隷助ける時なんか嬉しそうだよな。」 「そりゃ、俺の奴隷が増えるかも知れねんだ。ニヤつきもするさ。」 「笑えねぇ冗談だよ。先生。」
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