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 寒い。  痛い。  あれからどうなったのか。無我夢中で殆ど覚えていない。  ただ、川の上流に向かってとにかく這いずってきた。  どれ位の時間が経ったのかわからない。  気付いたら3,4m位の高さの滝が眼の前にある。  滝の横手に窪みがあって、気付いたらそこに蹲ってた。ここ迄這ってきた後気を失った…んだと思う。  右目はもう…ダメだろう。  仲立さんがナイフを抜いた後、水魔法で濯いで、布を巻いてくれたんだっけ。  …仲立さん…、ガーク…。  お、俺は何で…。  寸前まで、寸前までガークを助けに行こうって言ってたじゃないか。仲立さんは先に行ってて下さいなんて格好つけて…。  それなのに、ちょっと、目をナ、ナイフで刺された位で、それ位で…。  あの時バッと、頭の中で色んな事が駆け巡って。  ガルーザとかアンナとかミジィとか、奴らにやられたことで頭いっぱいになって…、モニにもう一度会いたいって思ったら、もう体が全然…。  最後は死にたくない死にたくないって。  でも仲立さんは優しくて…、俺がビビって足手まといになっても見捨てなくて、そ、それどころか…、最後、自分が囮に…。  何で俺はあの時戻らなかったんだ?  戻って仲立さんと一緒に戦えば、奴を倒す迄はいかなくても一緒に逃げ切ることは出来たんじゃないか?  でも俺は死にたくなくて…。逃げて…。  …。  …いや、何を言ってるんだ。最初からその予定だっただろ?  ガークも、仲立さんも俺が生き残るために利用したんじゃないか。最初からそのつもりだった。  あの二人を利用して俺は生き残ることが出来た。万々歳だ。何の問題もない。  むしろ当初の予定通りだ。俺の作戦勝ちなんだ。  みんなに裏切られて奴隷になった。だから俺だって裏切っていいはずだろ?そのはずだ。  やられたことをやり返しただけじゃないか。  そうだ、大成功だ。  俺は騙されて奴隷になったけど、ついに騙される側から騙す側になれたんだ。    ッハ、騙されやがって、馬鹿な奴らだ。    あの二人だって俺を利用しようとしてたに決まってる。でも、最後の最後で俺が勝ったわけだ。俺の勝ちだ。勝ったんだ。  …。  …でも、じゃあ何で。  何で、二人は残ったんだ。  ガークは奴隷を助けるためって…、あいつらを囮にするはずだったろ?仲立さんだって、いざとなれば一人で逃げられるって言ってたじゃないか。  …。  …仲立さんは…、…楽しかったって言ってたな。俺達と話すのが楽しかったって。  ガークも、結構楽しかったぜって。  何だよそれ。  俺はあの二人を利用して、…利用して…。  俺は途中から一人じゃなくてあの三人で逃げることを考えてなかったか?  一人でもいい筈なのに、落ち合う場所まで決めて…。  …いや、分かってる。  俺はあの三人でいるのが楽しかったんだ。  この世界に来て、裏切られて奴隷になったけど、そんな中でも三人でいた事は楽しかった。  毎晩毎晩、飽きもせず話してたのは、自分に必要だと思ったからだけじゃない。  楽しかったんだ。  日本のことを話すのも、くだらないことを話すのも…好きな人のことを話すのも。  この世界で初めて出来た、話してて楽しい人達。  いや、日本にいた時だってそんな奴らはいなかった。  もし、あの二人が日本にいたら、きっと毎日くだらないこと話して、遊んでたんだろうな。  学校にも毎日くだらないこと話して馬鹿笑いしてる奴らがいた。  毎日毎日同じ奴らで、どうでもいいようなことをさ。  馬鹿にしてた。勉強してる俺のほうが偉いんだって。本読んでる俺のほうが偉いんだって。  そんな時彼奴等は、俺達友達だよなって言い合ってたな。  …何が楽しいんだって、俺はそう思ってた。  …でも、そうか。  そうか。  ガークと仲立さんはきっと俺の…。  …。  …戻らなきゃ。  とにかくあの町まで戻って二人の行方を追おう。  なんとか助けるんだ。大丈夫、大丈夫。きっとまだ…生きて…。  モニを助けられなくて死ぬほど惨めだったのに、また同じことをするつもりだったのか。  今度こそ、今度こそちゃんと助ける。  いつもいつも。 俺は気付くのが遅すぎる。  いや、そんなこと今はどうでもいい。 とにかく町に向かわないと。川を下流に向かって行けば、仲立さんが戦ってた所に行ける。 そこを調べて、今度はもっと下ってガークと別れたところまで行く。 そうすれば町までの道は解るだろう。 今は夜だ。 明るくなってから…。 いや、それだと見つかる可能性がある。出来れば夜に動きたい。見つかる可能性も少なくなる…。 でもばったり出くわす可能性もあるか…? そういえばガークから教わった風魔法。広い範囲の探査に使えてしかも魔法を使える相手には気付かれ難いと言っていたな。 これをなるべく広範囲に広げて移動すればこちらが先に敵を見つけられるだろう。 ただ…、夜移動すると周りが見えないから危険だ。足元がどうなっているか全くわからない。周りの状況も見えない。ファイヤーボールを作って明かりに出来るが…、当然向こうに見つかるだろう。却下だ。 …そういえば…。 昔、ガルーダ達とジャックポットを狩った時、周りの地形を見てなかったか? 確か…、魔力の糸を使って植生を確かめたんだ。俺の魔力の糸は生命体に反応するからな。これを試してみたらどうだ? …いや、だめだ。あまり良くないな、これは。 これだと周りの木や草の位置は解るが地面や石がどういう状態か判らない。 生命体には反応しても、石とか物とかの…なんだっけ…そう、無機物、仲立さんは無機物って言ってたな。そいつには反応してくれない。 どうする、どうする…。後もう少しだって気がすんのに…。 …はぁ。 …取り敢えず腹が減った。飯を食べよう。 川に魚はいるかな。魔力の糸を…、お、いるな。 適当なそこら辺の石をナイフに変えて、ぃよっと…。 …ナイフ作るの早くなったな。 そこら辺の石で強度も考えなくていいなら、握った瞬間にナイフに出来るようになった。 いや、魔力を込めれば強度の問題もない。 これもガークに教わった訓練のおかげか。 魚を捌くのも懐かしいが慣れたもんだな。 良くモニに作ってやったっけ。 取り敢えずファイヤーボールで炙るか。流石に生は危ないしな。 なるべく光が遮られるように小さく…、簡単な窯を作ればいいか。 これくらいならすぐ出来るようになったからな。 あぁ、そうだ。 武器も作っておこう。ちゃんとした金属で。 今持ってるガーク会派印のナイフは…、なるべく使いたくない。いざという時のためのものだ。 幸いここは鉱山の近くだし…、浮島にいたときは川の地面の下に鉄があった。ここにもあるかも知れない。 どうだ…。 川底には…ない…地面下の表層にも、…ないか…。 もっと奥に…、お、これは…なんだ…、知ってるような金属が…銅か…、そういやここ銅の鉱山だったっけか。でもあんまり銅は硬くないって話だったしな…。 …もうちょっと調べるか。 もっと奥に…、!これ!これ鉄でしょ! 良し。これを引っ張ってきて…、武器のサイズは、ナタくらいのでかいナイフでいいか。 取り敢えずそれ位を回収して…。 …いや待てよ。 これって、今俺、地面の状態を分かってるよな? …。   そうか。 土魔法を使えば、土のことだったら分かるのか。 確かに、川底がどんな感じかも解ったし、地面表層の状態も解った。硬いか柔らかいか位はすぐ解る。 これで…、いや、俺は今手を地面につけてやっている。 これをしてしまうと片手がふさがってしまう。いや、地面に付けてなきゃいけないから、ほぼ両手が塞がってしまってる。 なんとか…なんとかならないか。 例えば足の裏で出来るようになれば…。 無理か? …いや、そもそも魔力の糸だって風探査魔法だって、掌でやってるわけじゃない。 なんというか…、体全体で使ってるんだ。 だったらこの抽出魔法だって掌以外で出来るはずだ。 ちなみにこの抽出魔法ってのは仲立さんに名付けてもらった。 特定の元素を取り出すなら抽出だねって。 だから抽出魔法って名前にした。 うん。よく解らないが。 しかし、そう考えればそんなに難しいことでもないな。 土魔法は…、手で使うときは腕の真ん中を通せば使える。 それを足ですればいいだけだ。 …お、…お、行ける。行けるぞ。 把握できる範囲は半径2、3m位だけど…、でも解るぞ。地面の形と何があるかが分かる。 これで…、風魔法を使って、遠くの敵を感知し、魔力の糸を使ってすぐ周りの状態を読み取り、土魔法を使って地面を把握する。 …いや、無理じゃ…。 そうじゃない。 やるんだ。なんとしても。なんとかして。 取り敢えず全部一緒に…。 …難しい。 でも、出来ないわけじゃない。 ただ、風魔法で探知できる範囲は2,30m。魔力の糸は1m。抽出魔法は1m。 これじゃ殆ど…。 どうすれば…。 …2つ同時だったらどうなる? 風魔法と、魔力の糸を同時展開すると…。 お、これなら…風魔法が50m位か?魔力の糸は2,3m。 風魔法と、抽出魔法だと…。 これも風魔法が3,40m位か?抽出魔法は1mと少し位。 これならなんとかなるか? これを交互にすばやく展開すれば。 早く展開させるのは、奴隷の時散々練習した。でも、抽出魔法は足でやってるからこれはちょっと早く展開するのは難しいな…。 じゃあ、足を使った抽出魔法は常に使って、魔力の糸と風魔法を交互にすばやく展開しよう。 これなら…。 うん。なんとかなりそうだ。 これなら風探査魔法と魔力の糸の範囲がそこそこ広い。 良し。行こう。 もう行こう。ここで、一晩待ったら…。きっとビビって何もしなくなっちまう。 俺は臆病で、卑怯な奴だから。 だから、すぐ行くんだ。 決心出来た、今のうちに。 よく決心できた。今の俺。今度こそ、今度こそ行くんだ。 恐怖に捕まる前に。 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽ うまくいってる。 走ったり、ジョギングする様なペースは無理だけど、早歩き程度のスピードなら大丈夫だ。 さっきの川で作った武器は重いけど、移動には問題ない。 良し。大丈夫だ。大丈夫。 とにかく川を下って仲立さんの所に…。 ん? あれは? 明かりか? いや、火?……違う。 松明だ。 人だ。…どうする? …風魔法だ。確か、音とかも聞けるって言ってた気がする。 動けなくなるけど、風探査魔法を広げて…。 「あぁ~あ、とんだ外れ引いちまったよ。」 「全くだ。しかし、ラミシュバッツ卿が有事を宣言しちまったからな。俺たち冒険者は従わなきゃなんねぇ。」 「有事って…、たかが奴隷狩りだろ?大げさすぎんだよ。っつーか、明日の朝からやりゃいいじゃねぇか。いくら魔物が殆どいねぇからって、夜の森に危険がねぇわけじゃねぇんだぞ。」 もう追っ手がかかってる。 どうする。 ここから離れるか? いや、奴らはこっちに向かって来てない。 たぶん…このまま通り過ぎる。だったらもう少し情報を…。 「まぁ、お上は夜の森の危険さもご存知ねぇからな。危険な仕事はやる気がでねぇのもご存知ねぇわけだが。」 「フッフ。その通りだ。俺達の事を考えねぇなら俺らもお上の事を考えねぇよ。奴隷~~!!山狩り中だぞ!!出てくんじゃねぇぞ!!」 「おい!んなこと言って本当に出てきたらどうする。こんな時間に命懸けの戦いは勘弁だろ。」 「だからだよ。向こうは逃げたい。俺らは楽したい。そのためにはちゃあ~んと気持ちを伝えなきゃな。」 「敵に居場所を教えることもないだろう。ここら辺を担当してるのは俺達だけなんだぞ。」 「松明持ってる時点で居場所なんざ丸わかりだっつーの。しっかしバッツ卿は焦り過ぎだなぁ…、昨日の今日で数が集まってねぇのにもう調査開始だよ。」 「王女様がお怒りあそばされて王都に戻られたからな。…噂によると反乱奴隷を全員捉えないとバッツ卿の首が飛ぶらしいぞ。…物理的にな。ククッ」 「情報屋から金で買った情報は噂とは言わねぇよ。ほぼ確かな情報じゃねぇか。…お前ぇも陰険だよな。」 「フンッ。ラミシュバッツ直属の騎士団は動かず、下賤の冒険者は夜の危険な森を巡回だ。そりゃぁ何が起こって必死あそばされてるのか知りたくもなるだろう?」 「へぇ…、で、実際のとこどうなってんのよ。」 「今回の奴隷の反乱は大したことはない。ただのバッツ卿の手落ちだ。これだけが起こってたら大して対応もしてなかったかもしれん。だが、今回は…、この反乱と同時に勇者様が逃亡されたらしい。」 「逃亡ぉ!?勇者が?そりゃ…また何で?」 「さあな。それはわからん。だが、王女様は勇者の逃亡と奴隷の反乱に関係が有ると考えた。そして、奴隷を管理してるラミシュバッツは…」 「なるほどねぇ。そりゃやべぇだろうな。勇者様ってあれだろ?ナガルスの侵攻を単身抑えたって奴だろ?結構な戦力失くしてんじゃねぇか。そりゃ奴隷探しに躍起になるわなぁ。自分の無実を証明する必要があるからな。」 「あぁ。だから奴隷は全員生け捕り。その後王都に搬送してお話を聞くんだとさ。殺されることはないらしいぜ。どうやら奴隷の扱いがリヴェータ教の教えに反していたらしくてな、ラミシュバッツ卿の疑いが晴れた後も首輪を付けたいんだろう。金はあるからな。」 「はぁ~、さすがエゲツねぇ王女様だ。まぁ、バッツ卿に任せたら拷問して都合のいい言葉とって、後片付けだろうからな。良い判断だろ。もう奴隷は殆ど捕まえたんだろ?」 「あぁ、町の正門前で騒いでた奴隷は粗方な。そいつらは王都に送り届けるらしい。まぁ、所詮奴隷だ。管理も結構適当らしくてな。全員捕まえたかどうかは解ってない。ただ、管理人の中の治癒術士が行方不明でな。恐らくこいつは何か関係ありとして手配されてる。」 「まぁ、そりゃ確かに怪しいな。まぁリヴェータ教のはぐれはプライド高ぇからなぁ。嫌気が差してとんずら扱いちまうのも分からないでもないがな。じゃあ、俺らが探してる奴隷ってのは?」 「管理人の証言では、正門の奴隷を指揮していた奴隷が一人、モナド様が捉えた黒目黒髪の二人組の片割れ、この二人が怪しいと言ってる。特に黒目黒髪は魔法を使う。かなり厄介な相手だ。これは依頼を受けるときにお前も説明されたはずだがな。」 「そうだったか?いや~、お前がいると思うとついな…。ブハハハッ!」 「ったく…、それに今日の探索なんざ、ギルドが子爵に見せてるポーズだ。どうせすぐ追跡専門の冒険者が来る。それに多分モナド様が捉えた奴隷に吐かせれば、使う魔法も解るだろうしな。後はそいつに任せればいい。」 「なんだ。特力型が派遣されんのか?じゃあ、なおさら今日は手を抜こうぜ。わざわざ危険な事することもねぇや。どうやら腕も立つ奴隷みたいだしな。」 「そうだな。俺もこんなつまらない仕事で死にたくはない。適当な所で切り上げるか。」 「あぁ、そうすんべ。適当に時間つぶして…」 「すぐ…帰っても…疑われ……。」 「程…時間……帰……一杯…。」 …仲立さんは…捕まったのか。 多分生きてる。…でも多分拷問を…。 助けなきゃ。とにかく早く。そうしなければ王都に連れて行かれてしまう。 ガークは取り敢えず捕まってないのか。なら、取り敢えずは大丈夫だろう。 町に侵入して仲立さんだけは助けないと。 まず町へ向かおう。 彼奴等は十分離れた。風魔法でも声が聞こえない位だ。もう十分だろう。 急げ、急げ。 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽ あれが…、仲立さんが捕まってる町か。 でかい。 街は両端にそびえる山の絶壁に挟まれてる。 そして、その間にレンガで出来た2,3m位の高さの壁がある。 その上を兵士が巡回しているみたいだ。…たぶん。 暗くて正直良くわからない。 …これじゃ侵入は難しいか? あぁ、もう夜が明け始めてる。 身を隠さないと。日が出てるときの侵入は無理だ。 …いや、逆に運が良かったと思おう。正門を監視してれば奴隷が輸送されてるかは解るんじゃないか?取り敢えず正門を遠目から監視して、出来るだけ街の様子を監視しよう。 肉体強化と身体強化を使えばあの程度の壁は簡単に飛び越せる。 暗闇に紛れれば、例え兵士がいても騒がれずに侵入できる。 あとは、町中のスラムのような所に混ざれば発見されない、と思う。 中まで入ればこちらが有利だ。たぶん。 まさか俺が町中にいるとは思わないだろし。 なんとか、仲立さんが捉えられてる場所を探さないと。 領主の屋敷か、冒険者ギルドの支店か…。 いや、とにかく中に入ることが大事だ。 中に入るルートを今のうちに探さなきゃ。 やるしかない。 やるんだ。 大丈夫。行けるさ。 こんな時のために、訓練してきたろ? ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽ 「ラミシュバッツ従金騎士団!これよりお前達は国境を封鎖するよう配置する!お前達の使命は唯一つ!反逆の徒である反乱奴隷の頭目と目される黒幕を捉えることである!此奴は奴隷を先導し、王女様並びに救国の英雄である勇者様を危機に至らしめた悪逆非道の奴隷である!外見は黒目黒髪!身の丈、馬の体高より頭一つ出!痩せ型の男!必ず見つけ出し、生きたまま捉えろ!重要な情報を持っているが、口さえ聞ける状態であれば良い!」 「「は!」」 「従金騎士団隊長!前へ!」 「は!」 「直ちにラミシュバッツ領全ての騎士を纏め上げ!迅速に国境全てを封鎖せよ!!これはラミシュバッツにおいて最上の命令である!ラミシュバッツの誇りに掛け必ずや果たしてみせよ!」 「は!」 「彼奴目は、服従のワダツの責めを耐えきった男。油断すまいぞ…」 「!…は!」 「この命令書を持ち直ちに展開せよ!ゆけ!」 「「は!」」 王女なんて知らねぇーよ…。 悪逆非道の徒か。だいぶ誇張されてるな。 正門前で騎士団集めて何してるかと思ったらわざわざ全員の前で命令するためだけに集まったの? とっとと探しにいきゃいいじゃん。 まぁ俺はここだが。 こんだけ離れてりゃ分からんか。こっちは森のなかにいるわけだしな。 しかし、この風邪探査魔法は本当に便利だな。 遠い場所の声が聞こえるのはやばいくらい役に立つ。 これがあれば絶対捕まらないんじゃないか? …いやいや。 こういうのは良くない。 油断は大敵だ。 ガークは魔力を使って探査してるとそれで見つかることも有ると言っていた。 なるべく使わなくていい時は使わないようにしよう。 でも今は使う時だ。 相手の情報が手に入る時に出し惜しみなんてしてられるか。 大丈夫。見つかりにくい魔法だとも言ってた。 …ん?お!?騎士団は全員馬に乗ってどっかに行ったか!  あそこに残ってるのは…、冒険者たちか?  それにしても随分と数が少ないな…。  30人いないように見える。騎士に任せて冒険者は特に何もしないのか?  しかし、昨日の森にいた冒険者の話だとそうでもないようだけど…。  「荘園級冒険者ナターシャ・ドゥーカス!前へ!」  「へぇ。」  「諸君らラミシュバッツ領冒険者は、すでに緊急事態を宣言していること聞き及んでいると思う。この宣言が解除されるまで!諸君らは私の指揮下に入る!本城下町一帯の冒険者の統括は、ナターシャに任せる!適切に人員を配置し、モナド様が奴隷と捉えた地点を始点とし、調査を開始せよ!発見し次第生かして捕らえよ!」  「へい。分かりやした。しかし、冒険者は稼ぎがないと食ってけやせん。長期の調査になるならある程度の人員を抑える必要がありやすが…。」  「人員の配置、方法は全て任せる!一つ言えるのは逃亡奴隷が見つからない限り宣言は解除されない!」  「…へぇ。了解しやした。んで、そちらにおわす方は?」  「エイサップ・アイターだ。荘園級なら知っているのではないか?」  「万里見敵の…。お顔は初めて拝見しやした。」  「そうだ。ナターシャよ。今回エイサップ殿には無理を言って来てもらった。追跡・調査は彼に任せてくれ。冒険者の仕事は彼の護衛、補助、生活の支援だ。」  「生活の支援?」  「そう。…彼は生活能力が著しく低くてな…。…その辺の面倒も頼む。」  「ふん…。彼のお守りってことですかい?」  「そうだ。拒否は許さん。では行け!」  エイサップ・アイター…、ヤバそうだな…。  遠目だから顔とかもわからない。だが、ひょろそうな外見だ。背は高い。髪は金よりの茶髪か。短髪だな。おそらく男だ。…戦えば勝てる…か? …どうやら冒険者全員森に行くようだ。  …いずれにしろ夜になるまで中には入れない。  背後に気を付けつつ、街の様子を探るしかないか…。  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  この街を探ってみてわかったことがある。  ラミシュバッツは街の周囲全体を城壁だけで覆っているわけではない。  鉱山の街だからか、背後に大きな山がある。殆ど断崖絶壁だから、山と言っていいか疑問だが。  その断崖絶壁を城背後の天然の壁として利用し、残り半分の前面を煉瓦でできた城壁で覆っている。  この煉瓦でできた城壁の上には兵士が監視する通路、高見台が置いてあり、常に誰かしらがいる。  高見台と城壁には松明の用意があり、暗闇でも視覚が遮られることがない。  これを超えることはかなり難しい。どの時間でもだ。  はっきり言って無理だ。  …俺が土魔法を使えなければ、だが。  俺はツルハシ程度の量の土だったら一瞬で変形させることが出来る。    しかも一日中それをやり続けても魔力がなくなることはない。  作戦はこうだ。  夜になったら城壁の遠い所の山の壁から登る。  登る時は、手足を引っ掛けるところだけ魔法で突起を作って登る。  十分高い所まで登ったら、そのまま城壁を絶壁を伝いながら超える。  城壁から十分離れたところまで来たら降りていく。  出来ればこれを一夜でやりたい。  でも無理だったら、人がひとり隠れられる分のスペースを魔法で絶壁に掘り、休み、隠れる。  そしてまた次の日の夜になったら降りていけばいい。  万が一、万が一落ちてしまうことがあるかも知れない。  でも、身体強化と肉体強化を使えば死ぬことはないと思う。  十分に落ちないよう注意するが。多分。大丈夫。…多分。  かなり魔法の操作も上がってるし、肉身体強化も強くなってるだろ。  そもそも落ちないように十分に注意する。途中で休憩を挟めるなら何の問題もないだろう。  それより…、あのエイシップ・アイターって奴が…、嫌な感じだ。    わざわざ追跡のために呼び寄せた冒険者。  早めに行動をおこしたほうがいい。そんな気がする。  ビビるな。行くしかないんだ。  スラムとか貧民街の調査は出来てないけど、取り敢えず頭だけ布で覆っておけば、一番目立つ黒髪だけは隠せる。左右の袖が亡くなったが、まぁ、なんとか…。  後は現地調達しかないか。何か、外套とかローブみたいなものが手に入ればありがたいんだが…。  金はないし、盗むしかないのか…。  どうせ店は行けないが、せめてそこらの奴らと直接交渉できる物があれば、金でも物でもいいんだが…。  …物々交換か…。  いや、あるか。  俺の作ったナイフはそれなりに価値があると言っていたな。  ガーク会派用ナイフとナタはやれないからそれ以外の交渉用のナイフを作っておくか。  鉄じゃなくてもいい。  ここら辺の地下深くを探ったらなにかあるか…。  …。  ……。  ねぇ。  金属らしきものは何も。  石ばっか。そんな都合よくいかないか。  鉄を簡単に見つけられるわけ…。  …。  …そういえば。  俺が奴隷から逃げられるきっかけの時…、確か金属の色が変わったよな…。  隠そう隠そうとして結局殆ど調べられなかったけど…。  今やってみるか。  取り敢えず、一種類の元素だけ集めてみて…。  これくらいでいいか。  んで、確か、魔力を薄く…、ん?あんまりうまくいかないな…。  魔力を濃くしてみたらどうなる…。  お、お!おお!  変わってる。土の、石の色が変わっていってる。  土塊って感じから光沢が…、つまり、金属っぽく…。  お、お…、大体こんなところか…?  少なくとも俺が持ってる剣と同じ材質だってことは解る。  これってつまり…、俺材質を変えられるってこと?物さえあれば。  え?すごくない?これって。  土魔法ってこんなことまでできんの?魔力を薄くしたり濃くしたりするだけで?  他の属性魔法だったらどうなんの?  …いや、今は置いておこう。  大事なことじゃない。大事なのは俺がどこでも鉄を作ることが出来るということだ。  今俺の目的には鉄が必要。そして目の前に鉄が有る。とっとと、やることやっちまおう。  分量は半分くらいになっちまったが…。まぁ、いいだろ。    材料は無限にあるんだから。  これで夜になるまでに投げナイフを作ろう。装飾付きの。これで、攻撃にも使えるし、物々交換用の品としても使える。  …いや待てよ?  …材質を変えられるってことは、金とかにしちゃえば何でも買えちゃんじゃない?  …い、いや。そこらのホームレスが金を大量に持ってたらおかしいだろ。  それだけで悪目立ちしちまう。  なるべく目立つのは控えないと。  作るナイフだって、なるべく装飾を抑えてあくまでシンプルに。  でも、そのかわり仲立さんがやってたみたいに、熱でナイフの表面の色を変えよう。  これでちょうどいい感じじゃないか。  念の為、凝ったやつも一本くらい作っておくか。  …あと金も少しだけ作っておこう。念の為、念の為ね。
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