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 辺りは十分暗くなったか…。  …行くか。    なるべく崖を伝う距離は少なくしたいからギリギリまで近付こう。  篝火の明かりが届くか届かないか…、そんな距離まで近付きたい。  でも篝火の明るさってたいしたことないな。よく考えれば、焚き火だってそんな遠くまで全体を照らすほど明るいわけじゃなかった。  遠くから焚き火を炊いてることは解るけど、遠くの暗闇に何があるかは焚き火じゃ解らなかった。  篝火だって似たようなもんだろ。  10mも離れれば十分見えない。  だけど、念の為20m、いや15m位まで近づくか。  行ける…と思う。  登る。  俺の重さは、ナイフ数個に、ナタ一つ、ガーク会派ナイフに金少々。  全部合わせて5kgはいかないだろ…多分。  とにかくこれくらいの重さは大したことない。  登るのに支障はない。  右手を掛ける瞬間に、窪みと突起を作り…出来る。出来るぞ。  うん。これなら行ける。落ち着いてゆっくり行こう。  肉身体強化も並行して掛けねば。  万が一落ちたときのことも考えなきゃな。…考えたくねぇ…。  いや、行く。行くんだ。  登れ、下を見るなよ。  …しっかし、一体俺は何やってんだろ。  数年前まで普通の日本の高校生やってたってのに、今や全国指名手配の逃亡生活。  しかも今は無断で町に侵入し、最重要参考人を逃亡させようとしてる。  これ日本だったら笑っちゃうくらい悪党なんですけど。  あぁ…、そう思ったらなんか笑いがこみ上げて…。  やめろやめろ。こんな所で笑って落ちたら洒落にもならんわ。  しかし、ミッション・◯ンポッシブルより◯ンポッシブルな事してない?映画化出来るでしょこれ。本出したら馬鹿売れ間違いないね。◯ンポッシブル…◯ンポ…ッグフ。  …落ち着け。  普段とありえないことしてるから、こんなくだらないことで笑っちゃうんだ。  俺が今まで◯ンポなんて考えたこと有るか?いやないね。◯ンポ…ッグ。  おぉーっし。解った。  集中、集中。  周りの岩全てにウジ虫が這っている想像しよう。しかもだ、ウジ虫がウジ虫に食われて、食ったウジ虫は新たなウジ虫を生み、ウジ虫の新陳代謝が…、おぇぇぇ…。気持ち悪いぃ…。  いや、でもこれならいいぞ。  笑うことはなくなった。  ウジ虫のことを考え続けよう。ウジ虫の新陳代謝を、◯んちんたいしゃ…、おい、おい、おい!  何故そうなる。俺の脳みそ。  全くそんな気配なかったろ、気持ち悪い感じで一杯だったじゃん。おかしいじゃん。  解ってんの?俺が死んだらお前も死ぬんだよ?  落ち着け…、落ち着け…、とにかく頭の中を別のことで一杯にしなければ。  何も考えないってのは難しいって聞いたこと有るし。  とにかく何か別のことで一杯にすればいい。    レンガ。  レンガ、レンガ、レンガ、レンガ、レンガレンガレンガレンガレンガ煉瓦レンガレンガ煉瓦煉瓦レンガ煉瓦レンガ、レ◯ガ…。  …いやそれは別に…あ!    あとは降りるだけか…。  よくこれで落ちなかったな…。  まぁ、いい。取り敢えず降りよう。  見た感じ人はいないように見えるが…、一応魔力の糸でさらっと…。  大丈夫だな。特に人はいない。  ゆっくり…、ゆっくり…、慎重に…。  着い…った!  よし!  ふぅ~!あっぶねぇ!よし!  うぉ~…、手と足ガクガクじゃん。体力にはまだ余裕あるから…、単純に怖かったのか。  まぁ、めちゃくちゃ怖かったよね。ただ高いってだけであんなに…。  登り降り中の心の持ちようもなんとかしなきゃ…。いつか落ちるぜあれ、帰りもあそこ通らなきゃだろ?仲立さんをおぶってさ。  いや、とにかく今は身を隠す物を手に入れないと。  魔力の糸と土属性探査魔法を同時展開して…、いい加減これにも名前つけるか。  土蜘蛛でいいか。糸に土。覚えやすいしな。  土蜘蛛展開。  家の中と、外。外に人がいる所に向かおう。  夜でも外にいるってことは、家がないってことだからな。  探すか。 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  よし。よし。  いるぞ、いる。  これぞ路地裏ってところに所狭しと。  子供…、だけじゃなく大人もいる。  だけど大人はバラックの様な物を建てて一応その中にいる。子供も少し入ってるか…?    恐らく家族なんだろう。  そういう家が結構ある。  屋根には…、木の板や、廃材…か?それに布も…。  あれを譲って貰うのでもいいか。  しかし、なるべく余裕があるところと交渉するのがいいよな。  バラックが広くて…、その中の子ども達がなるべく痩せていないような…、大人は夫婦いるところが精神的にも安定してるか…?  候補に入るのは…、3件か。  端から行ってみるか。髪は布で巻いてるし。追われてる奴隷だとバレる最悪は防げる…と思う。  行くか。なるべく下品な感じで。  「すいやせん、すいやせん」  「はぁ…?なんか用?」  「最近こちらに着いたもんでごぜぇやす。着の身着のままで寒くて寒くて、外套を一枚恵んでいただけねぇでしょうか。」  「はぁ…?いや、無理だよこっちだって余裕なんてねぇよ。さっさと失せな。」  「いえ、いえ、もちろんただでとは申しやせん。こちらのナイフと交換ってのはどうですかい?俺の最後の財産でさぁ。」  「…よくわかんねぇが…、確かに良さそうなものではありそうだな…、だが、最後の財産だろ?然るべき所で売れば外套10枚は買えるぜ。おかしくねぇかい?」  「いや、流石旦那。とんでもねぇ慧眼でさぁ。実はしばらくこちらに厄介になろうと思いやしてね、そのご挨拶にってことでさぁ、旦那。」  「…なるほどな。そういうことなら受け取ろう。外套でいいんだな?」  「へぇ、十分でさぁ。しばらく隅の方でご厄介になりやす。」  「好きにしな。開いてるところなら自由だ。だが、しょっぴかれてもそりゃ手前ぇの責任だぜ?」  「もちろんでさぁ、旦那。ありがとうごぜぇやす。」  「ほら、これでいいだろ。持ってきな。」  「へへぇ。旦那の慈悲は忘れやせん。」  「…ふん。」  一発目で上手く行ったか。  この外套…いい感じにボロっちいな。いいぞいいぞ。  取り敢えず一晩適当なとこで休むか。  後は領主の館かギルドの近くで、風魔法で音を拾って…仲立さんの情報を集めればいい。  落ち着け…。大丈夫、上手くいってる。  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  まずは領主の方から調べてみるか。  もし拷問されてるなら、領主の館の方なんじゃないか。  大事な情報を引き出すってのに、知らない人間が出入りする拠点ではやらないだろう。  領主の館の場所を調べるか。    流石にスラムの奴らでも知ってるだろ。  「なあ。そこのあんた。領主の館ってどこだか知ってるかい?」  「…さてなぁ…、おいは知らねぇな…。」  「…この町は領主様の城下町だぜ?知らねぇなんてことあんのかい?」  「…そういうこともあんでねぇかなぁ…、城下町なのに領主様の館の場所を知らねぇ、顔も見えねぇ怪しい奴がいるようになぁ…。」  「…!…。いや、すまねぇすまねぇ。こちらに来たばっかでよ。教えてくれねぇか?」  「…腹が減ったなぁ…」  何かよこせってことか…。 だが手持ちにはナイフと金の粒少々しかない。ちょっと渡すには勇気がいる相手だな…。どうするか。  「…旦那ぁ。領主様の場所なら私が知ってますぜ。」  「…ッチ…、横から入ってくんでねぇよ、羽つきぃ…」  「っへっへ…、でも旦那に払う金は無さそうって顔でしたぜ?」  「…そうだなぁ、好きにせぇや…」  「旦那。そういうことで私が場所をお教えしますぜ。」  「羽つき…ってあんた…、ナガルス族か…!?なんでこんなとこに。奴隷じゃないのか…!?」  「へへッ旦那。奴隷ですぜ。俺らみたいなもんは、家ん中で寝泊まりも出来ねぇんでさぁ。」  「…そうか…、…領主の館の場所を教えてくれるか…?」  「えぇ、よろしいですぜ。とはいっても、この路地裏を出た大通りを太陽の方向に進んでいって見えるデケェ屋敷がそうでさぁ。誰でも知ってることです。これで金を取ろうってのはさすがにねぇ…。」  「ッハ、その通りだな。」  「ちなみに館の様子を調べるなら、館裏側の森の中がいいでしょう。バレにくいですぜ…。」  「そうか…。助かった。こいつを何かの足しにしてくれ。」  金の粒一つ程なら大丈夫だろう。  何より、こいつはナガルス族。こいつに助けを求めることは難しいにしても、モニと同じ種族だ。なるべく助けてやらないと。  「こ、こいつは…!?ヘヘッ、旦那。私は、アナンとお呼びくだせぇ。いつでも力になりますぜ。」    「あぁ…。頼むぜ。」  なんとか場所を知ることが出来た。  しかもナガルス族に会えた。  モニ以外のナガルス族に出会うのって初めてじゃないか?  羽はちょっと小さい感じもしたけど。でも良い奴そうだった。  なんとか助けてやりたいけど…。まずは仲立さんだ。  命の危機が迫ってる方が大事だからな。  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  確かに領主の館周りに森があった。  かなり大きな木が立ち並んでる森だから、肉身体強化魔法で上に登って監視できる。  とは言っても50mは離れてるから目視での確認は難しい。  俺には風探査魔法があって声くらいは聞こえるの…だが。  館の中の声が全く聞こえない。  人がいないのか?  いや、流石にそんな事は…。馬車も有るし、屋敷の中の管理をする人間だっているだろうし。  家みたいに閉じた所の声は聞こえないのだろうか。  いや、スラムのバラックの中の声は聞こえた…。 …一度帰ってアナンに聞いてみるか。    ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽ 「旦那。そりゃ無理でさぁ。領主の館ともなりゃ、そりゃ、魔法障壁の一つや二つ掛けてあるもんでさぁ。魔法を使っての諜報は無理でやすぜ。その道の専門でもねぇ限りね。だから未だに、貴族を調べるときゃ人が直接忍び込むんでさぁ」  「そうか…。参ったな…。ここまでくりゃなんとかなると思ったんだが…。」  「何か情報をお探しで…?」  「あぁ…、モナド様が捉えた奴隷を探しててな…、どこに捉えられてるか知ってるか?」  「あぁ、あの…、今はギルドの魔法使い用監禁部屋にいるらしいですぜ。腕のいい魔法使いらしいですからなぁ。」  「!!…ギルドの…助かる。こいつは礼だ。ちなみに脱出の方法はあるか?」  「ヘヘッ。ありがとうごぜぇやす。旦那。脱出の方法ですか…、牢獄の内側からの魔法は一切無効ですし…、建物自体は全て鉄で出来てる頑丈っぷりです。難しいのでは?それに逃げてもこの大陸にいる限り逃げ切るのは難しいですぜ。」  「…鉄か…、解った。俺らはこの大陸から逃げるつもりだ。サウスポートから南部大陸に渡ってな…。サウスポートの場所は解るか?」  「逃げ…。サウスポートはこの町から北のヴィドフニルの大樹に向かって行くとリバーロードっていう道に当たります。その道はでかく、まるで川のようで…、おそらく見れば解ると思いますぜ。その道を南東に進むとガティネ伯爵領の港町に着きます。そこがいわゆるサウスポートと呼ばれてる所でさぁ。正式名称は違うんですが、皆そう呼んでやす。」  「そうか…。お前、俺達と一緒に来るか?ナガルス族だろ、あんた。俺はナガルス族には恩があるからよ。」  「…一緒にですかい?残念ですが俺は奴隷でさぁ、この通り入れ墨もしっかり入ってまさぁ。一緒に行くのは無理ですぜ。」  「大丈夫だ。それに関しちゃ俺に当てがある。どうする?」  「!?…当て…ですかい?…もしそれが本当なら着いて行きやすぜ。本当ならね。」  「あぁ、本当だよ。だがそれにはまず仲立さんを助けなきゃな。逃げる寸前に開放する。ここでバレるわけにゃぁいかねぇからな。」  「…解りやした。私も協力しやしょう。冒険者ギルドの牢獄は、ギルド支店に連なっていまさぁ。貴重な金属を使って外からの、魔法障壁を使って内からの破壊を防いでます。精密で秘匿性の高い魔法陣を使う必要があったから、石を使うのは難しかったんでしょう。全て鉄で作る必要があるなら、地下に作るのも厳しかったんでしょうな。当然見張りもついてます。ギルド支店の中から入るのはちょいと…。外側から壊せりゃいけるかも知れませんが、分厚い鉄でできてやすからね。魔法で作ったから繋ぎ目もねぇですよ?うるさくしたらもちろん人がすっ飛んできやすしね。」  「いや、大丈夫。金属で出来てるんならやりようも有る。早速行ってくる。」  「…まぁ、大丈夫ってんなら止めやせんが。」  「あぁ、助かった。仲立さんを助けたら、あっちの門の絶壁付近に行く。兵士から見えない辺りで待ってろ。そこから脱出する。」  「脱出の方法まで当てがあるんですかい?こりゃ期待できそうですね。西門の山肌寄りですね。分かりやした。お待ちしてましょう。」  「今日の夜には救出する。待ってろよ。」  「…えぇ、待ってやす。」  …ん?  ありゃ何だ?  教会みたいな所に…子供が入って行ってる?子供だけじゃないか。大人も、いや、年を食ってる老人もいる。  皆一様に…泣いてる…?  「なぁ、アナン。ありゃ何だ?」  「ん?あぁ…あれですかい?」  「あぁ、みんなやべぇ面してるじゃねぇか。」  「そうでやすね。だが、やべぇ面するのはこれからですよ。」  「?」  どういうことだ。  全員中に入ってしばらく経ってるが…まだ出てこない。  「やべぇ面するのはこれからって…拷問でもされんのか?」  「まさかまさか!仁愛高きリヴェータ教がそんなことするはずもねぇでしょう。ま、しばらく待ってりゃ分かりやすぜ。…胸糞悪ぃですがね。」  「どういうこと…お?出てきたぞ。」  さっきの奴らは、全員…晴れ晴れとした…スッキリしたような表情で…。  さっきまでの悲しい表情はどこ言ったんだって位の…。  「なんだ?すげぇいい顔して出てきてるじゃねぇか。何か良いことでもあったのかね。」  「良いこと…なんですかねぇ…。」  「勿体ぶるじゃねぇか。教えろよ。」  「ご存知ねぇんで?奴らは記憶を消されたんですよ。」  「記憶?はぁ?」  「…知らねぇんですかい…。奴らは、親や兄弟、妻や夫、子供が死んじまった奴らですよ。悲しみに暮れて苦しくて苦しくてもうどうしようも無くなった奴らです。」  「…」  「どうしようも無くなった奴らは最後にリヴェータ教に縋るんでさぁ。…そして、大事な人間の記憶を無くす…。そうすれば元気一杯、次の人生に踏み出せるってことですよ。」  「何だそれ…、そんなことしたら…、…それは…教わった大事なこととかも忘れちまうんじゃ?」  「そういう生活に必要な部分は消えねぇみたいですよ。ただ死んだ人間の記憶だけが綺麗さっぱりってやつですわ。」  「見てくだせぇよ。彼奴等の顔。朗らかでさっきとは段違いでしょう?奴らはこれから心機一転、新しい人生を歩んでいくわけです。」  「…」  「…素晴らしいでしょう。てめぇの大事な人間を忘れてさぁ、心機一転ですかい。彼奴等のために死んでいった奴らだっていたはずだろうに…、それも忘れて元気一杯ってか。救われねぇなぁ…。」    なんだそれ。  確かに…記憶がなくなれば、悲しまないし次にすぐ進めるけどよ…。  それって良いのか?  俺もモニと別れて苦しいし寂しい。    でも、じゃあ、忘れたいか?  彼女のことを無かったことにしたいのか?  それは、それは…、それって何か…。  「気持ち悪ぃ奴らですよ。」  …あぁ、そのとおりだ。    ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  あれがギルド支店か…。もう夕暮れだが、暗くなる前にたどり着けてよかった。  今日は激動の一日だが…。  大丈夫、それも後少しだ。  取り敢えず、適当な所で難民っぽく…。  ギルドの正門が見える所が良いな…。  周りを嗅ぎ回りたいが、流石に明るいうちからは目につくからな。  俺の探査魔法、土蜘蛛と土探査魔法・風探査魔法の合わせ技なら暗闇でも大丈夫だしな。  土探査魔法と風探査魔法の並列発動にも名前を付けるか。  風と土。だから、砂塵とかでいいか。  土蜘蛛と砂塵の高速交換発動。  砂塵・土蜘蛛と名付けよう。  なかなかいいんじゃない?  まさか俺が必殺技の名付けをすることになるとは。  人生わからないもんだなぁ。  …殺す技じゃないから必殺技じゃないが、気持ち的には必殺技だ。  …うん。実際暗闇に紛れて行動できれば、大体の敵は倒せるしな。  必殺技と言って問題ないよな。  うん。いいね。俺だけの技。っへっへ。  悪くない。順調だし。  そういえば、あの土の材質を変えられる方法。あれって風魔法でやったらどうなるんだ?  あんま大掛かりなことは出来ないからあくまで小さく…。  小さなそよ風を出す感じで…。    それでいて魔力を薄く…、薄く、薄く、もっともっと…薄く。  お…なんだ…?  袖が引っ張られてる?  風で引っ張られてるのか?  いや、そんな感じじゃない。  どちらかといえば、磁石のような…そんな感じ。  お!?お!?  なんだこれ!  俺の手も引っ張られていく!  だけじゃない!周りの砂も石も…、やめ!ストップ!これストップ!!  …なんだ…風魔法を薄い魔力でやると、引っ張る力が発生する?引力?  う~ん、よく分からん。しかし、これは色々試しておく必要があるな。  出来れば、火と水もやろう。  でも水は殆ど出来ねぇんだよなぁ。  ま、出来るところからって感じでいいか。  …ん?随分暗くなってきたな。そろそろ行動に移す時か…?  冒険者の奴らが多くなってきたな。  俺を探してた奴らも戻ってきたのか…?  でも奴らは俺の顔は知らないはず。知ってるのは黒目黒髪と身長くらいだ。  髪は隠してるし、外套で顔も隠れてる。これじゃ見つけられるわけない。  …ん?  あれは…?  エイサップ・アイター?  何故ここに?  いや、取り敢えず今日の分の調査が終わったから帰ってきたのか。  すぐにどっか行くと思ったんだがな…。  大丈夫だよな…。  エイサップ自身は…、やっぱりひょろいなって感じ、いや、少し痩せ気味だな。冒険者らしく身だしなみは雑な感じだな。短髪…ってよりボサボサって感じか。防具は…、最低限を身に着けてるだけだな。革製の防具を肩と胸だけだ。膝と肘にプロテクターみたいな物も付けてる。身長は俺より高い180cm以上はあるな…。 ボケっと抜けた顔してるぜ。  あれなら大丈夫じゃないか。大したことはない。戦っても勝てそうだ。  周りの冒険者は…、だいぶ殺気立ってるな…。  どれ…。  「エイサップ殿…、本当に奴はこの町にいるので?普通はこの町から遠くに逃げると思いますが?」  !!  バレてる!?  何故!?    どうしてだ!?  「そうですねぇ。私もそう思いますが、辿って来た結果この街に来てるんですよ。どうやってでしょうねぇ…。」  「それで!?今はどこにいるんです!?」  「まぁ、落ち着いてくださいよ。そのためにも西門の壁付近に行かねば。僕は後を辿ることしか出来ないんですよ?」  「解っている!解っています!しかし何故この街に…。」  「う~ん。そりゃ恐らく捕まった仲間に関係してるんじゃないでしょうか。彼の護衛を増やしたほうがいいのでは?」  「!そうだ!そうですね!確かにその通りだ。おい!今すぐナカダチの護衛を増やせ!」  「へい!」  やばい!!  人を増やされたら不味い!  しかしここで焦って救出に向かっても…。取り敢えず様子を見るしかないか…。  あ?  何だエイサップが頭を抑えて…。  魔法の使いすぎか?  俺も砂塵・土蜘蛛を使った当初はそんな風になったな。  …いや、冒険者を長くやってる奴が魔法を使いすぎなんてことすんのか…?  それよりもあれは…、高負荷の魔法、俺の砂塵・土蜘蛛みたいな、そんな魔法を使った直後…。  俺を見た?何故?  …俺を指差し…、ナターシャがこっちを…。  バレた。  バレた、多分。  逃げる。逃げるしかない。  「おおい!奴がいたぞ!こっちだ。汚ねぇ外套着てるやつだ!!」  糞!  何故!  こんな簡単に!  エイサップって奴はやべぇ。なんだあいつ! 何故分かる。こんな簡単に追いつかれるのか?!  どこに向かう!?  スラム?壁を登るか!?  「奴は西門の山肌から入ってきてる!逃げ道もそこだ!そっちには逃がすな!」  「弓兵!魔法屋!奴を撃ち抜け!足を狙え!」  「ここは人がいます!巻き添えを食らったら、冒険者通則に…!」  「馬鹿ッ!奴を野放しにしたら民間人に危機が及ぶだろ!九番通則を思い出せ!」  「あ!!そうか…!奴を…」  「糞!路地裏に…」  「追いかけます!」  「分かった!あと騎士に門の閉鎖を依頼しろ!それと東西の岩壁の監視も依頼するんだ!」  「はい!」  「しかしとんでもねぇ速さだね。体強化をあそこまで滑らかに…、気合い入れてやんないとこっちも危ないね。奴隷だと思って舐めてたよ。」  「かなりの使い手だって何度も言ったじゃないですかぁ。」  「…あぁ、悪かったよ。で、次はどこ行く?」  「…いや、ここで話すのは不味いですねぇ。あいつまだ魔法使ってますよぉ。こっちを探るタイプの魔法ですね。」  「何!?じゃあこっちの話は筒抜けか…。」  「ギルド長室に行きましょう。あそこは小さいですけど、魔法障壁が掛かってるはずですよ。」  「あぁ…、なめやがって…、必ず捕まえてやるよ。聞いてんだろ、出歯亀野郎。」  バレた。  しかもこっちが風探査魔法を使ってることもバレてる。  糞!  この魔法は相手に気付かれにくいんじゃなかったのかよ!  …いや、これがバレちまうほどエイサップがやばいって事かもしれない。  ナターシャって冒険者は気付いてないようだった。  この魔法を魔法が使える奴相手に使うのは不味いかもしれん。    どうする?  町の外に逃げるか…?  いや、もう門も岩壁も抑えられてる…。  取り敢えずスラムに…、アナンに助けを…。 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  「どうしたんですかい!旦那!」  「バレた。バレちまった!エイサップの野郎、とんでもねぇ奴だ。」  「エイサップ…万里見敵の…!?とんでもねぇ一流じゃねぇですかい。そんな奴に目ぇ付けられたんですかい…。」  「あぁ…、ほとぼりが覚めるまで身を隠さねぇとな…。どこかいい場所知ってるか?」  「…知ってますぜ…、話を付けてくるまでここで隠れててくだせぇ。何、この町のナガルス繋がりですからね。安全です。」  「そうか…。それなら…。解った、待ってる。」  「えぇ…、すぐにきやす、俺を信じててくだせぇ…。」  「…あぁ…待ってる。」  …随分簡単に話がまとまったな。  …信じてくだせぇか…。  …いや、やめろ。そんな筈ない。ナガルス族だ。きっと、他の人間とは違う。  …。  ……。  風探査魔法…。  「糞!あのガキ!奴隷から開放なんて嘘で釣りやがって!やっぱダメだったじゃねぇか!」  「ッチ…、このまま奴が捕まれば俺の名前を吐く。俺も裏切り者として殺されちまう…!」  「どうする…、どうする…。」  「…いや、今すぐエイサップに報告して、俺も奴を捉えようと信頼される様に立ち回りました…でいいんじゃねぇか?」  「上手く行けば奴隷からも開放…ありえないことじゃねぇ…」  「何がナガルス族に恩があるだ…、ラィジット第七分家の真心を踏みにじりやがって…、地獄に落ちやがれ…」  …あぁ。  やはりそうか。  そうだよな。  …逃げねば…。  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  「いたぞ!あそこだ!正門前!」  気付かれた!  だが!  このまま行く!  俺の鍛えた肉身体強化魔法なら…!  「消えた!?消えたぞ!!」  「違ぇ!飛んだんだ!」  「飛んだ!?マジじゃねぇか!浮遊の魔法か!?」  「いや…、あれは…!ただ飛んだんだ!ジャンプしただけだ!」  「はぁ!?飛び越えたってことかよ!?ただのジャンプで!?とんでもねぇ高さだぞ!」  「糞!弓兵!何やってんだ!」  「いや…あれは無理だろ…。」  …ッガ!!!  痛ぇ!!  とんでもなく飛び上がっちまったが…5階位の高さにはジャンプしたよな…!  肉体強化でなんとか耐えられたか…。  でも二度とゴメンだ。  逃げなきゃ。  もう俺の狙いはバレてる。  アナンに全部喋っちまった。  糞!何で俺はいつもこう…!!  簡単に人を信じて…!何が良い奴そうだ、だ!  ナガルス族だって信頼できるかなんて分からねぇじゃねぇか。  何で簡単にペラペラと…。  もうサウスポートに行くってこともバレちまってる。  ここでしばらく…、いや、だめだ。  エイサップがいたらすぐに追いつかれる。  とにかく遠くに離れねぇと。  サウスポートの反対…。  ヴィドフニルの大樹が北って言ってたな。  ヴィドフニルの大樹の根本は王都か…。  いや、王都は不味い。俺の面が割れちまってる。万が一がある。  北よりちょっと西…、北西に向かおう。  今は暗いが…月明かりのおかげで大樹は薄っすらと見える。  あの大樹の少し左側を目指せば…北西だ。  日が昇ったらまた追っ手が来る。    今のうちに離れないと。  …あぁ…。  まただ。  また結局助けられない。  俺の詰めと脇の甘さから全部…。  いい加減にしろよ、何度も何度も…。  ちょっとガークと仲立さんにほだされて…、簡単に油断する。  ナガルス族だからって何で簡単に信じた?  …モニと同じ種族だからか。  関係ない。関係ないだろ。  相手がどういうやつかも分からず、何故信じようとしたんだ。  馬鹿野郎が。  糞!  糞…!  ちくしょう…。
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