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 「あんた行く所ないんだろ?家にいればいいがね。」  「…」  いきなりぶっ込んでくるな。  まぁ、俺も歩く位は出来るようになったし、どうするか気になるのか。  しかも、夕飯で腹が一杯になったヴァルはぐっすり寝てる。  聞かれても良い話をするには絶好の時間ってわけか。  「あんたがなんとなくカタギの人間じゃないことは分かる。あんたはこれからどうしたいってのはあんのかい?」  「俺は…」  どうしたいんだ?  ガークや仲立さんを助けに行くか?  ガークはどこにいるかわからない。  仲立さんは、きっともう…。  …。  「俺は、南部大陸に行く。やることがあるんだ。」  最初の目的だ。  それが何より大事だろ?そう決めたじゃないか。  ガークや仲立さんと出会う前に戻ったと思えばいい。  …奴隷だったことだって忘れっちまえば…。  …。  「あまり、やりたく無さそうな顔してるねぇ。」  「…そんなことはない。やる。必ずやる。」  「…そんな顔して言われても説得力はないね。…で、どうやって行くんだい?金は?」  「…金は…ない。どこかで冒険者をして金をためてサウスポートから南部大陸に行く。」  「…で、体が治って金があれば何の問題もなく行けるのかい?」  「…。」  「あんた暫くここにいて薬作りを学びな。あたしが教える薬は旅に役立つ。体力や怪我を回復したり、…髪や眼を染めたりも出来る。」  「!…。…なぜ?」  「ん?なんだい?」  「なぜここまでする?俺が顔を隠したい男だと判ってるんだろ?なぜそんな男に薬作りや生活の世話をする?あんたらの生命線だろ?」  「前言ったみたいに、技術を伝承したいってのも嘘じゃないがね。もちろん、打算もある。いや、頼みがあるってことだね。」  やはりな。  ただでこんな事するはずがない。  やっと納得できる。  「…なるほどな。頼みってのは?」  「…そんな顔をするもんじゃないよ。…頼みってのはね、ヴァルを、ヴァルレンシアを南部大陸に連れて行ってくれないかい?」  「…なぜ?いや、あんたが連れていけばいいだろう?」  「あたしは無理だよ。もうそろそろ出迎えだからね。…少々長く生き過ぎちまった。」  「…とても寿命には見えないが。」  「巨人族は老けないからね。だが、不死というわけではない。せいぜい2,3百年程度さ。だが、お迎えはそれが理由じゃない。」  「?」  「病気にかかってる。巨人族にしか掛からない、原因不明の病気、ゼドラ病…。ゆっくりと体が動かなくなり、腕を持ち上げる力すらなくなる。最後は心の臓が動くための力すらなくなる。」  「…治す手立てはないのか?」  「リヴェータ教の枢機卿以上が使える治癒魔法は効果があると聞いたことがある。しかしそれに掛かる程の金はない。枢機卿がいる街まで行ったとして、会えるまで果たしてどれほどの時間が…もう間に合わない。これは呪いなのかもしれないね…。」  「…。」  「つまりあんたにヴァルを南部大陸まで連れて行ってほしいってことさ。」  「そもそも何故連れて行く必要がある?ここでも上手く生活出来てるんだろう?…変装しなきゃならない男についていくより、安全は保証されてると思うが。」  「そんな危ない男に連れて行かせてもいいほど、巨人への差別は根強いのさ。…あの子は町へ行く度傷ついてる。あたしがいれば守ってやれるが、そうでなくなったら…。」  「公爵に嘆願したらどうだ?仁徳あふれるんだろ?」  「っふっふ。随分心配してくれるじゃないか?」  「…子供を連れて旅なんてまっぴらだからな。」  「…実はここに住むのにザリー公爵様に随分とご迷惑おかけしてね。ザリー様は一銭の特にもならない、いや、ともすれば害にすらなりうる女を置いてくれた。…これ以上のご迷惑は掛けられないよ。…それに、ザリー様に嘆願する頃にはもう…。見た目ほど時間があるわけじゃ無いのさ。」  「そんなに悪いのか?あとどれくらいなんだ…。」  「あと…、1ヶ月は無いだろうね。」  「そんなに…、あんた俺が来なかったらどうするつもりだったんだ。」  「十分に食っていけるだけの技術は教えた。そのためのコネ作りも済ませてある。だから…、最低限暮らしてはいけるさ。…悪意と差別に晒され続けてもね。」  「だが、あんたは来た。くだらない男だったらこっそり始末しちまおうとも思ったが、なかなかどうして…。神だなんだのは信じちゃいないが…、あんたが来た時は、…運命かと思ったよ。」  「…まだ引き受けていない。」  「誰かに追われてるあんたは、どうやって追手を撒く?その目立つ黒目黒髪で。」  「…」  「まさか逃げてる男が子連れだとは思うまい?髪染め薬と染眼薬の作り方も知っておけば、あんたの旅はさらに安全で快適になる。」  「…」  「こんな役に立つ薬の作り方を無償で教えてくれたババの孫をあんたはどうするんだい?」  「…南部大陸に放り出しちまってもいいのか?」  「出来れば南部大陸のヴァリの国の隣に巨人の国がある。そこにヴァルを送り届けてくれないかい?巨人の中だったら、きっと、…差別なんてされないさ。」  「…なぁ、やってくれないかい?あんたにとって損な話だけじゃない筈だ。冒険者登録だって、船の乗船権利だって、ヴァルを通せば捕まるリスクはほぼ無くなる。だろう?」  確かに。  確かにそうだ。  ヴァルに冒険者登録させて、俺が手伝って…、そうすれば足がつくことはない…。  「…保証は出来ない。だが出来る限りはやってみる。…それしか言えねぇ。」  「いいよ。いいよ。それで十分さ。…ありがとうね…。」  「礼なんざ言うな。…結局追手に追いつかれて南部大陸どころじゃなくなるかもしれねぇからな」  それに、あんたが死んだあと…、俺一人で出ていくことだってある。  ヴァルだってあんなに見えて力も強い。危険は危険だ。  一緒にいたら寝首を掻かれるかも…。  あぁ…、胃がムカムカしてくる。  あぁ…。  「追手って…、ラミシュバッツ領だろ?あんなところから誰が追いかけてくるってんだい。どんな物好きだよ。」  「確か…エイシップ・アイターと言っていたな。万里見敵?とも呼ばれていた。」  「!!…万里見敵のエイシップか…。とんでもないのに眼を付けられたね…。あいつを差し向けられたってことはあんたも相当なもんだね…。」  「そうなのか?」  「人や獲物を追跡することにかけて奴以上はハルダニヤにいないね。大陸級の人間は数が少ないとは言え、他にもいるといえばいる。だが、追跡の技術だけで大陸級になったのはこいつだけだよ。雇うにはそれなりに金もかかる。あんたに差し向けられたってことは、その金を払う価値があると思われたわけだ。…なるほどねぇ。それならラミシュバッツ領からずっと逃げ続けてる理由もわかる。」  「…やはり追いついてくるか…。」  「逃げる時はどこを通ってきたんだい?」  「よくわからない。川を超えて山を超えて…、途中小さな虫の大群と鳥みたいな奴らの大群とずいぶん長いこと戦ってた気がする。最後にでかい生き物が空を飛んでる所を通ってここに来た。」  「…はぁ!?アントの巣とジャキジョイの郡鳥域を抜けてきたのかい!?最後に龍の巣を通って!?」  「…なんだ?どういうところなんだ?」  「知らないのか…。いや、知らないからこそか…。アントの巣とジャキジョイの群鳥はフォア伯爵領に群生してる魔獣の事だ。一匹一匹の強さはほとんど大したことないが…、ここに踏み込んだものはその生息域から脱出するまで常にこいつらに襲われ続けるんだ。絶え間なく、昼も夜も…、それこそ無限と思うくらいにいる。」  「確かに、あの時は常に奴らが襲ってきてたな。襲われていない時間は基本的になかった。」  「だろうね…。ここはその無尽蔵の数と獲物を殺すまで諦めない奴らの執念が合わさってとんでもない所になってる。少なくとも、大陸級の人間ですら単身で抜けようと思うやつは一人だっていないだろうね。」  「…」  「最後の龍の巣はどうだった?襲われたんだよね?」  「わりかし小さいやつは俺に襲ってくることも有った。だが、でかければでかいほど俺には近付いてくることすら無かったな。」  「…あそこは、特大型のドラゴンが多数空に浮いている。通常の人間なら問答無用で襲われているが…。」  「そうだな。俺は殆ど襲われなかった。一番でかいやつはずっと遠くから睨んでくるだけだったな。」  「…あそこの龍の巣ではでかいほど強く、賢くなっていく。…一番でかい奴は古代竜王なんだが…、そもそも人の前に出てくるようなもんじゃないんだがね…。そいつらが襲って来なかったなら…。恐らく、竜の知性があんたを襲うことに得はないと判断したんだろう。こりゃすごいね…。何しろその古い竜のお眼鏡にかなったんだからね。」  「…俺って強いのか…?」  「…強いかどうかはわからないが…。少なくともあんたが通ってきた道を一人で通ってみろと言われてやりたいやつは大陸級にすらいないよ。そうだね…やり方を考えれば大陸級に勝つことすら出来るかもしれない…。」  「ふーん…。」  「…ふーんって…。条件さえ揃えば大陸級を凌げるんだよ?少なくとも尋常じゃないよ。」  「あまり人と比べたことはないからわからないな。」  「…殺し合いはしたことがないんだね?」  「…あぁ。ないよ。人は殺したことはない。」  「初めてやる時は躊躇しちゃいけないよ。相手の眼を見てもいけない。…ま、人なんか殺さないに越したことはないさ。」  「…そうだな。人を殺したことがありそうだな?」  「まぁね。実家を出てから色々冒険者になって旅したからね。巨人族は魔法の適正が高くて力も強いからアダウロラ会派が合ってね。ゴウィン支部で荘園級までになったんだよ。その分突っかかれることも多くてさ。まぁ、自然とね。仕事もあったし。長く生きてりゃそういうこともあるさ。」  「まぁ、そうだな。生きてりゃ、色々あるよな…。」  「ッフ。とりあえず明日からは、ヴァルと一緒に薬作りを学びな。魔力を扱う必要があるが、あんたは大丈夫そうだったしね。岩魚の鱗は見事だった。」  「分かった。他に必要なことがあったら言え。俺はそこそこ役に立つ。」  「ッフッフ。人がいいねぇ。あんたにゃ周りの人間全てを疑うなんて出来ないし、似合わないさ。」  「…それでもやらなきゃならん。生き残るにはそれが必要だ。」  「っフッフッフ。」  なにがおかしい。 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  「さて、もうそろそろ二人はアウレの根の取扱は学べたと思う。ヴァルは知ってただろうけどね。遅効性傷薬、強走薬、魔力阻害薬は作れるようになれたから、今日は髪染め薬、染眼薬の作り方を教える。」  アウレの根の加工は簡単だったな。乾燥させて分量量って粉末にする。その後、魔力を込めた水をゆっくりと混ぜていく。この水は魔法で作り出した水しか使えない。どんなに綺麗でも自然にある水ではダメらしい。なぜだかよく分からん…。  この混ぜる魔力の属性と分量が大事で、それが秘伝らしい。  確かに繊細な魔力操作が必要で、かなりシビアな比率で魔力を混合してた。材料がわかったとしてもこれを発見するのはなかなか難しいのではないだろうか。  ルドばあさんも巨人族の研究成果があってこそのレシピだと言っていたし…。  「はい!ばあちゃん!あたしそれ知りません!」  「あぁ、そうだったね。他の薬の殆どはヴァルに教えたけど、これは教えてなかったね。でも、この二つはとても役に立つ。そして…、この二つについては作り方も、そもそも作れるってことすら人に教えてはいけない。」  「なんで?」  「姿を変えられるっていうのは、知られていないからこそ効果があるのさ。」  「ふーん。わかった!」  「さて…、材料は、アウレの根と…、死の手のきのこ、ゴブリンかオークの睾丸だ。ゴブリンの睾丸は、髪染め薬。オークの睾丸は染眼薬になる。材料が変わればそのまま効果が変わるだけで手順は変わらない。」  「はい!…おぃちゃん。ちゃんと先生には返事しなきゃダメだよ!」  「あ…、はい。」  「うん。そういうのはちゃんとしなきゃダメですよ!」  「はい。すみません。ねぇさん。」  「ん!よろしい!」  「っくっく…。さて、乾燥させたゴブリンの睾丸が向こうにあったはず…。」  「あ!ばあちゃん!あたし取ってくる!」  ヴァルはいつも元気だな。  ルド婆さんの世話を良くしてる。むしろ俺にあまり手伝おうとすらさせない。きっと自分で世話してあげたいんだろう。  …その気持はよく分かる。  大事な人の世話は自分がしてやりたいよな。その分俺は違う所を手伝えばいい、薪割り、料理、洗濯、掃除。やれることは沢山あるしな。  …ルド婆さんは最近ベッドから出れなくなった。  足腰にうまく力が入らないみたいで、歩き周るのが億劫だそうだ。  だから殆ど俺たちで生活に必要なことはしてる。  薬の原料を集めるのはヴァルが得意だが、食料を集めるための狩りは、俺が得意。  うまい具合に役割が出来てる。  薬の原料も食料になるものが多いから生活は出来ると思うが、それでも肉があるとないとじゃだいぶ違うしな。でも、そろそろ町に買い出しに行かなきゃならない…。  「はい!持ってきました!」  「ありがとよ。ヴァル。じゃあ、まずは遅効性傷薬で使うように、アウレの根の粉末混合魔力水を作ってくれさね。」  「はい!」  「はい。」  全ての薬の基礎となるアウレの根を使った魔力水の調製は難しい。  水の属性魔法を使って元となる水を作り、その水に火の属性と土の属性を混ぜ込みながら、風と火の属性魔法で乾燥させた粉末と少しずつ混ぜ合わせる。この時の粉末の重量、水の重量は調製用の天秤と分銅で厳密に量る。  属性魔法を込める比率は感覚でしかないが…、火と土が92.5対7.5。風と火が70.3対29.7って所か。まぁ、感性のみの話だから俺の中の指標でしかないが…、とりあえず日本語でメモは取ってる。  他のレシピとかも記録として残すことにルド婆さんはあまりいい顔をしなかったが、俺しか読めない字だと言って見せたら納得してくれたから、まぁ、大丈夫だろう。  「出来たね?それじゃもう一つ魔力水を作ってくれ、手順は一つを除いてさっきと全く同じだ。水に混ぜる火と土を34.92対75.08の比率で作ってくれ。水がトロトロになったら成功だよ。」  「お、おお!すごい!水じゃないみたい!」  これは…、粘っこいな…なんだろう…油…かな?そんな感じがする。  「水みたいにガブガブ飲んだら体に悪いよ。一応食用にも出来るが…、水分補給としての役目は果たさないと思いな。食事に少し掛けるくらいなら問題ないよ。」  「美味しいの?」  「いや…味はしない。調味料としても使えないだろうねぇ…。ま、いい。これが出来たら、ゴブリンの睾丸を乾燥させて粉末にしたものを混ぜ込みな。10分の1の重さの粉末を混ぜ合わせるんだ。この時、温度を上げた状態で混ぜ合わせるんだ。調製棒を入れて気泡が見えるくらいの温度がいい。」  「はい!おぃちゃん!ファイアボール出して!」  「はい。」  二人の共同作業で温度を上げていく。  ヴァルは水と火、土と風、全ての属性と扱えるが、あくまで薬調製レベルの範囲でしか使えない。  俺みたいに攻撃に使えるほどの威力はない。俺も攻撃に使えるのは風と土くらいだ。実質ダメージを与えられるのは土属性ぐらいか?  でもヴァルの魔力操作はすごく正確だ。俺の魔力操作は早いが正確ってほどじゃない。いや、奴隷の時にかなり正確に扱える様になったと思うし、このレベルはなかなかいないとルド婆さんに言われた。ただ、ヴァルの場合は正確というよりも精密だ。俺の100倍の細かさで属性魔力の比率を合わせている。  薬調製にはこの魔力の精度が一番重要らしく、ルド婆さんは徹底的に彼女にこの技術を叩き込んだらしい。だからか、やはり彼女の薬の効力は俺の薬の効力と比べると格段に強く、安定してる。  とはいえ、俺程度の精度でも薬調製はできる。ルド婆さんに言わせると、普通は薬調製の魔力操作が出来るようになる迄数年は掛かるもんだと言われた。俺の今までの訓練も無駄じゃなかったってことだな。  「さて、この二つの魔力水をよく混ぜ合わせるんだ。かき混ぜるんじゃなくて、容器に入れて振るんだ。…20分ほどね。」  「えぇ…。」  「はい!…おぃちゃん、はい。」  はいじゃないが。  …やりますが。  「さて、ショーが振ってる間に、ヴァルは一番最初に作った魔力水に死の手のきのこを浸すんだ。10分位だが、色が大体薄茶色になるくらいでいい。」  「はーい!」  なんか俺のほうが辛い作業の気がするんだが。心なしか返事がウキウキしてるように聞こえるんだが。腹が立つんだが。  「ねぇー、ショー。今日ご飯何?」  今振ってるんだが。薬調整中なんだが。  「あぁ、あたしも楽しみだね。ヴァルは料理がちょっとね…。」  「あたしだって出来るし!でもばあちゃんの世話が大変なの!」  「はいはい。そうだねそうだね。」  「はいは一回でしょ!一回だから!」  「で、何にすんだい?」  婆さん…。  「そうだな…。このトロトロしたやつを使って揚げ物とかしてみるか。卵とパン粉と小麦粉があったよな。多分出来ると思う。まぁ、出来なくてもまずくなるだけだからいいだろ?」  「よくないよ…。」  「よくないね…。」  うるさい。腕が疲れたんじゃボケ。  「ま、じゃあ、料理は楽しみにしておくとして…。振った奴を暫く置いておくと…、上と下に分かれるだろ?その上澄みの部分を別に移して…、死の手きのこを浸した液に混ぜる。混ぜるのは…20分位振って…。」  「…。」  無言で見つめてくるのはやめろ。振るさ。振ればいいんだろ。  「ねぇ、ショーなんか面白いこと教えて。」  無茶を仰る。  社会に出たらお前それパワハラだぞ。  「…そうだな…五目並べでもやるか。地面に掛けば簡単にできる。一本線を引いて…、ここに四角いブロックを積み上げていくんだ。先に5個並べたほうが勝ち。」  「へー、面白そう!やろう!」  「あたしもやろうかね。面白そうだ。」  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  「ずるい!なんでショーばっか勝つの!ずるい!」  「あんたなんか隠してんじゃないだろうね…。」  ちょっと怖いっす。  もうだいぶ前に振る作業が終わって、ロートみたいなものに入れてもう1時間経ってる。  どんだけやるんだよ…。  「それより、次の薬調整作業は何なんですか…。」  「そんなもう液体が二層にわかれたら下の部分を取り出して終わりだよ。それを飲めば髪は染まるよ。色は選べないけどね。その時々の体調によりけりさ。それよりこっちをやるよ。」  「次!あたしね!次は勝てそうな気がする!」  「今あんたやったばっかりだろう!次はあたしだよ!」  「…料理の準備があるんで…」  「逃げた!逃げたー!」  「…卑怯者がぁ…」  怖いわ。  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  「さて、そろそろお願いしたいことが合ってね。今まで作ってきた薬を町でさばいてきてほしい。商業ギルドにおろしてきてくれればいいだけだ。そのお金で食料や生活用品の購入を頼むよ。」  「…うん。」  「ショーも一緒に行ってくれ。今回の髪染め薬とあたしが作っておいた染眼薬を使えば大丈夫だろう。」  「わかった。」  「ショーも行くの!?やった!」  「不当に買い叩くやつはいないとは思うが…、それでも色々面倒くさいからね。頼んだよ、ショー。」  「大丈夫だ。薬はどれくらい持つんだ?」    「ヴァルが作ったのだから一週間は持つよ。あんたが作ったのは…、一日ってところかね。」  随分得意げな顔をしてるなヴァルよ。  「まぁ、一日効果が持つ薬を作るのもなかなかのもんだよ。薬師の一人前の一つの指標だね。」  最低限のレベルにはなったのか。  「歩いて半日は掛かるから一日泊まっておいで。夜は出歩くんじゃないよ。危ないからね。」  「うん!わかった!ショーも教えてあげるね!町は初めてだよね!」  「あぁ。ここの町は初めてだ。よろしく頼む。ねぇさん。」  「任せて!あたしが案内してあげる!」  随分機嫌が良さそうじゃないか。  ま、女の子だもんな。街に行くのは楽しいか。  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  ヴァルは随分興奮してたが、やっとさっき寝てくれた。  小学生の時の遠足前はあんな感じだったな。  「もう判ってるとは思うが…、あたし達は町で随分差別されている。」  「…」  「今まではなるべくそういうところはあたしが表に立って対応してきた。ただ、今回からはあたしがついていけない。本当は全部あんたに代わってほしいくらいだが…、どうしても場所の案内や、最初の顔見世くらいはさせないといけないからね…。」  「あの子も感づいていると思う。でも、目の前でわかりやすい悪意を受けたことはないはずだ。これも勉強のうちの一つさね。あの子の世界は、まだ、あたしと、親であるあたしの娘しかいないんだ。そこにやっとあんたが入ってきたくらいでね。」  「もう、そろそろ…。あたしたちを嫌ってる人間がいるということを知る必要がある。…あの子にはまだ早いだろうか…。」  「…世の中自分の味方ばかりじゃないってことは知っておくべきだ。早く知っておけばその分どんなことだって対策が打てる。」  「そう…、そうだね。…ショー。あの子を…ヴァルを頼んだよ。守ってあげてくれ。」  「あぁ…、ヴァルは俺の生命線だからな。」  「そうだね…。…もうちょっと…、もうちょっとあたしに時間があれば…、もっとちゃんと教えてやれたのに…。なんで…、あの子は悪くないんだ。何も…悪くないんだよ。」  「…ああ…、そうだな。」  「頼んだよ…。」 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  「出発!進行!いくよ!おぃちゃん!」  「はい。ねぇさん。」  「…気をつけていくんだよ。」  「うん!明日の夜には帰ってくるから。それまで待っててね!」  「気をつけてね…。」  ルド婆さんは大分弱気になってるな。  まぁ、そりゃ心配だろう。  自分は老い先短く、敵意しかない所に孫一人で行かせなきゃいけない。同伴者はどこの馬の骨とも判らない野郎一人。これで心配にならないほうが変だろ。  「あたし達が作った薬売れるかな!」  「売れると思うよ。傷薬なんてリヴェータ教のポーション以外ないと思ってたからな。これはかなり貴重な薬だ。」  「そっか~~。ショーは他の町に行ったことあるの?」  「あるよ。王都にいたことがある。」  「王都!すごい!王様とかいるの!?」  「いると思うよ。俺は一度も会った事ないし、遠目に見ることもなかった。偉い人だからね。」  「そっかー、あたし王女様に会いたいんだ。ラドチェリー王女様って綺麗なんだって!」  「…そうなのか…。いつか会えるといいな…。でもヴァルだって可愛いよ。」  「ホント~!?ふ~ん…。おぃちゃんの灰色っぽい髪もかっこいいよ!」  「…ありがとう。」  まぁ、俺も結構気に入っている。  日本にいた時は髪を染めることなんて無かったからな。色が変えられないのは不便なのかもしれないけど、黒髪でさえなければいい。  髪染め薬という名前だったが、この薬のすごいところは全身の毛の色が変わるということ。  髪の色が変わっても、まつげや眉毛の色が黒のままだったらやはりちょっとおかしいだろう。  これはかなり楽だ。  ついでに染眼薬で瞳の色も変えた。薬で目の色が変わるってヤバくないか?とも思ったけど…、副作用も大してないらしい。色が戻る時に少しぼやけるらしい。…後遺症はないよな…。  瞳の色も灰色っぽくなってるらしい。鏡もないしヴァルとルド婆さんが言うにはだが。  しかし、歩くペースが早いな。    やはりヴァルは基本的な身体能力が高い。俺が肉身体強化魔法を常にかけてるから問題ないだけで、普通はこのペースで歩き続けることなんて出来ない。  っていうかこれ殆ど走ってない?  このペースで半日って…。修行かよ。  「あ~。緊張するな~!ばあちゃんいないの初めてだしな~!薬売れるかな~!」  「…大丈夫。売れるよ。」  「そうだよね~!ばあちゃんの薬結構人気だって言ってたもん!」  「うん。こんな薬王都でも聞いたことないよ。きっと王都でも売れるよ。」  「本当!?じゃあ、王都にも今度行こうね!」  「…いいね。いつかきっと行こうか。」  「うん!絶対だよ!ばあちゃんとおぃちゃんとあたしで行こうね!」  「あぁ…、そうだ…、三人で、な…。」
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