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 「武器と防具ですか…、やはりショーさんは心得がお有りなのですね。」  「ご存知だったんですか?」  「えぇ、宿屋でのやり取りはお聞きしました。冒険者を一発でのしたとか。あの冒険者も一応は、成り立てとは言え城下級ですよ?それを一発というのは…、昨日今日で出来ることではありません。」  「昔は…、冒険者の真似事なんてしておりました。」  「真似事ですか…、面白い言い回しですな。まぁとにかく武器と防具でしたら、材料、原料を取引してるところがあります。ドワーフのギオリという方なんですがね。ここの裏手にありますよ。受注生産は間に合わないでしょうが、既にある量産品なら融通してくれるでしょう。」  「ありがとうございます。早速行こうと思います。」  「そうですな。そのほうがいいでしょう。あぁ、どうせなら最近入った魔獣の皮を持っていって下さい。月ごとの契約物です。マチーネからだと言ってもらえれば解りますよ。」  「マチーネ様、それは…。」  「まぁまぁいいじゃないですか。それを持っていけばかなり融通してくれると思いますよ。」  ラディーネさんが諌めてるが…、眼の前でやらないでほしいね。  「はぁ…、そういうことでしたら。では、失礼します。」  いや、どういうことなの。  月々納めなきゃならんものなら自分たちで持ってけよ。  なんか文句言いたそうだったけどさぁ。  じゃあ自分でやれっていうね。 マチーネさんもいきなり人使い荒すぎっていうね。  まぁ、いいけど。助けてもらってる立場だし、こんなもんで礼が出来るなら構わないけどさ。  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  ここがギオリの店か。  まんまギオリの店って書いてあるな。  武器屋か防具屋かも分からん。  こんな商売っ気がなくて大丈夫なのか。  取り敢えず入るか。  「いらっしゃい。随分怪しい男が来たな。何の用だよ。」    「ショーだ。こいつは、マチーネさんからの物だ。月々に納める皮と言ってたが。」  「…マチーネからの使いか。なぜてめぇが届ける?」  「偶々居合わせたら使いを頼まれた。俺も自分でやれよとは思ったよ。」  「あんたは使いだけかい?」  「いや、武器と防具を買いたいと思ってる。この皮を持っていけば大分融通してくれるとも聞いた。」  「商人って奴らは何でこう回りくでぇのかね。童貞臭ぇ駆け引きだ。もっと単純にやりゃあいんだよ。」  おい童貞のなにが悪いんだ。お?  「これを持たされたってことはあんたがマチーネに信頼されてるってことだ。まぁ融通しようか。身元不明人。」  「ショーだ。身元は不明じゃない。」  「じゃぁ、なんでそんな不自然な髪と眼をしてる。顧客の情報は死んでも渡さねぇぜ。ドワーフの誇りだ。それを知ってそうしてんのならケンカ売ってるとしか想えねぇな。」  「…何故分かる。」  「不自然なんだよ。髪と目の魔力がよ。ドワーフ相手に魔力で誤魔化そうなんざ、意味ねぇんだよ。」  「…今はヴァルドヴォニカル…、いや、ヴァルレンシアの所で世話になってる。」  「…あの可哀想な嬢ちゃんの所か…。ここの奴らはクソどもが多いからな。あの二人は苦労する…、ヴァルレンシアの所?ヴァルドのババアはどうしたんだ。」  「ルド婆さんは死んだ。ゼドラ病だ。ヴァルも今…その病気にかかってる。」  「…なんだと…、それでてめぇは今何してる。あぁ?!優雅にお買い物かよ?!」  「…3日後のザリー公爵の出立に合わせて嘆願をする予定だ。ザリー公爵から枢機卿へ依頼すれば…ゼドラ病を治せる治癒魔法を掛けて貰えるらしい。」  「…。」  「その3日後のために武器と防具を装備する。嘆願に武器は必要ないと思うが…、なにが起こるかわからない。念のためだ。」  「…なるほどな。俺は勘違いしていたらしい。すまなかったな。俺は口が悪いが…、あんたに特別ってわけじゃねぇ。全員に口が悪いんだ。」  なんだそれよ。  「あぁ、構わない。それで武器と防具を買いたい。」  「分かった。武器は分かるが、防具はいるのか?そいつはゴウィンの着ぶくれだろう?それさえありゃ、防具はいらねぇだろ。それとも扱いきれてねぇのか。」  「そうなのか?たしかに便利な外套だが…。」  「そうさ。そいつのイカすところは、自由に動かせて、硬くなるしでかくなるってとこだ。硬くてでかい自由自在なイチモツな訳よ、グハハハッ」  「…。」  「まぁ、待て待て。着ぶくれは、魔力で硬度も操れる。硬さは…、鉄の鎧くらいはあるぜぇ。だが、凄いのはこれだけじゃねぇ。大きさ…、つまりポンチョの生地が増えるって点だ。再生するにゃ時間が掛かるが…、壊された後でも、生地を伸ばして代用できる。限りはあるがな。」  「たしかにすげぇけど…中に防具仕込んでたほうがより安心だろ?」  「そりゃそうだがな。鉄の硬さのある薄い布が何重にもなってみろ、それだけで脅威だろ?そいつはそのまま攻撃にも使える。ゴウィン支部の奴らは、そのポンチョを使って不能どもを打ち砕き、あの大地を開拓してる。」  「う~ん…、じゃあ、このままでいいのか?だがこれは貰ったばっかりでよ。あまりうまく使えねぇんだ。」  「なんだ、ド素人かよ。んなら適当な防具と武器はあったほうがいいな。おめぇは…、陰の魔力か。動くタイプだな。力で無理矢理ブチ込むタイプじゃねぇ。小技で股を開かせるタイプだな…、となると…。」  こいつは下ネタ言わないと喋れないのかよ。  「浮蛇の筋を織り込んだ麻の服でいいだろう。防御力はそこそこだが…、こいつのいいところは動きを補助してくれるタイプだってことだ。魔力を通すのを忘れるなよ。膝と肘と胸に適当な革製の防具を付けとくか。武器は…、長剣にしろ。取り回しのいい短めの長剣がいい。」  「そんなもん扱ったことねぇぞ。短い…ショートソードを二刀流で振ってた。」  「いや、お前ぇの肉は剣の肉だ。間違いねぇ。今その剣あるのか?」  「一応持ってる。ほら。ただ本当にド素人丸出しのもんだからな。ちゃんとしたもんにしたい。」  「こりゃ…随分使い込んだ息子じゃねぇか。二本もあるなんざ羨ましい限りだぜ。ただのなまくらだが…、魔力はよく通してある。しかしヒデェなこりゃ。」    「俺が魔法で即席で作ったもんだからん。ろくなもんじゃねぇよ。」  「まぁ、二刀流なんざ慣れてないうちにやるもんじゃねぇが…大分使い込んでるな…。他になにを使う?」  「投げナイフだな。基本奇襲だ。」  「ふん…。なら投げナイフを装備するホルスターを付けてやろう。ついでに小手も付けてやる。こいつはただ頑丈なだけだが…、針を機械仕掛けで打つ仕掛けがある。構造はシンプルで、単純だが…、魔力なしに打ち出せる。偶に魔力の流れを見たりするやつもいるからな。」  「内側のホルスターからは、そのポンチョを操作してナイフを取り出して投げりゃいい、ただどうしても魔力を使うから流れを読むようなやつにはバレちまう。それで、この小手よ。厚手の革手袋の中に魔獣の筋が入っててな?決まった指の動きに応じて、針を打ち出す。こいつにゃ一切魔力が使われてねぇ。奇襲の後の奇襲に使える。奥の手ってわけだ。針の替えも買っとくか?」  「…いや、大丈夫だ。これだけ単純なら俺で作れる。この小手と、長剣と浮蛇の服がほしい。革の防具もな。…この小手なんか宝石みたいなのが付いてるんだが…。」  「それは、まぁ…、ちょっとした、装飾だよ。その、あれだよ。武器が美しくたって構わねぇだろぉ?指輪とか髪飾りみてぇによぉ。…別に何か効果があるわけじゃねぇが、別にいいだろぉ?」  「…。」  「…。」  「…まぁ、じゃあ、これで頼むよ。小手も、あー、まぁ、綺麗だしな…。」 「…毎度ぉ…。…マチーネの紹介だ。安くするが…、安くした分は奴から回収するだけなんだが、それでも最低限かかるぜ。金はあるのかよ。」  「現金もあるが…、こいつはどうだ。金の塊だ。幾つかある。」  「…。」  「どうした?問題でも?」  「…問題?問題だと?あぁ、あるね。おおありだ。てめぇこれどこで手に入れた。いや、…これはお前が作ったのか?」  「!…。あぁ…そうだ。だが、金であることは間違いないだろ?価値は変わらないはずだ。」  「…確かに価値は変わらねぇ。だがこれは俺たちの中でも一部の者しか出来ねぇ…。秘技だ。これを誰に教わった?」  「誰にも教わってない。自分で作り出した。」  「…おいおい…、学士の奴らだって出来るやつぁいねぇんだぞ。この秘技を得るために学士と俺達が殺し合い寸前までいったくらいだからなぁ。…自ら達したってやつか…。」  「不味いのか?」  「…まぁ、これが学士に知られりゃ、おめぇはドワーフの敵になる。学士に秘密に出来るなら…、俺らはあんたの味方だし、学士は何も知らねぇ白痴のままさ。どうする?」  「そんなもん一つしかねぇじゃん。別に手の内はバレなきゃ話さねぇよ。」  「そうか。なら、こいつを捌く時は気をつけな。俺たちには絶対わかる。まぁ、もしやばくなったら南部大陸にある俺たちの国に来な。あんたと、あんたの家族は俺たちが匿う。この秘技にはそれだけの価値がある。」  「そうか…、まぁ、考えとくよ。」  「…この紋章を持っていけ。これがあれば俺たちは一目置く。どんな奴でも話は聞いてくれるはずだ。秘技に達した俺達の同胞はこれを持つ。困った時はこの紋章を見せて助けを求めろ。」  「ありがてぇが…、そこまでしてもらう義理はないぞ。」  「いや、ある。この秘技にはそれだけの価値がある。俺たちは鍛冶の神、俺達の原初の槌振りを讃えてる。彼の人の技に達したものは、保護し敬う。高みに達したものは、それだけでどんな名剣より価値があるからな。この秘技を学士に漏らさねぇってんなら…、あんたと…あんたの家族は俺達の同胞だ。素直に受け取っておけ。」  「分かった。首から下げられるんなら楽だし構わねぇよ。ありがたくもらっとくぜ。」  「あぁ…、ん?そのペンダント…?」  「あぁ、こりゃ…貰ったんだ。昔にな。俺の宝もんさ。」  「ほぅ…、古いし誰の作かは分からねぇが、いい仕事してるな。繋ぎの首飾りか…これも俺達の秘技だが…失われて久しい。」  「そうなのか?ドワーフに貰ったわけじゃ無いんだが。」  「まぁ、そういうこともあるだろう。古いもんだし古い魔法だ。古い…ドワーフの姫が作った魔法だ。遠く離れていても伝えられるように、だそうだ。伝えられるものってのが何なのか、どういうものなのかは具体的に伝えられていないが。大事にしとけ、貴重なもんだ。」  「…遠く離れていても、か。…それは死んだ人にも伝わるのかね。」  「…そりゃ、わからねぇな…。だが、古い魔法ってのは、生死を超越してた。そういったことも…あるかも知れねぇな。…早速、装備をお前ぇさんに合わせるぜ。ポンチョを脱いでそこに立ってろ。すぐに調整してやるよ。」  遠く離れていても。    それがあの世でも、伝わればいい。  もう一度だけ、声が聞きたい。  決行は、明後日だ。 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  「体…起こせるか?」  「うん…なんとか、腕を使えば…。」  「なるべく筋肉は使ったほうがいい…と思う。頑張れ。明日にはきっと治ってるさ。」  「…うん…でも、大丈夫かな…、あたし、…巨人だし。」  「巨人に生まれたから悪いってことはないんだ。いや、どんな種族に生まれても、男に生まれても女に生まれても、それはその人のせいじゃ無いだろ?だから、それは悪いことじゃないんだ。」  「…。」  「そりゃ…、そう思わない人もいるけどさ…。そうじゃない、そういうことで判断しない人も少ないけどいる。たぶん、きっと…そういう人が信頼できる人、ってことなんだと思う。」  「ルド婆さんは、…俺が奴隷だからと見捨てなかった。だから、ルド婆さんは信頼できる、人だ…。」  「…。」  それを言ってどうなるのか。  ルド婆さんが生き返るわけでもないのに。  これが何の慰めになるのか。  …モテる奴だったらこんな時、女の子をうまく慰められたのかな。  学校で、モテてるやつってこんな時どうしてたっけ?  …。  …。  いや、そもそも学校で友達もいなかったしなぁ…。  今思えば、クラスの奴らってそんなに悪いやつじゃなかったな。  人を差別しないし、面白半分で人を殺さないし、騙して奴隷に落とさないし…。  いや、むしろ見下して、周りを差別してたのは俺か。  もう少し、もう少しクラスの奴らと向き合ってれば…、こういう時どうすればいいかとかもわかったのかな…。  もし、日本に帰れたら、今度はもっとちゃんと…。  いや、何を言ってるんだか。  帰ることなんて出来ない。  帰ったとして…もう俺は20歳近くなってる。  高校は卒業だ…。  俺より劇的な人生送ってるやつはいないだろうなぁ。  俺以外に誰が異世界に飛ばされて奴隷に落とされるっていうんだか。  …その経験は今役に立ってないけどね。  そういえば俺が女性にしたことで喜ばれたことって無いんじゃない?  …。  …おいおい。  …おいおいおいおい。  マジかよ。  そんなバカな。  …バカなぁ…。  …いや、ある。  モニは俺の作ったナイフを喜んでくれた。  よし。    あんな感じのを作ってやろう。  …ついでにこの小手の宝石を作ってガーク会派のマークを付けちゃおう。  知らぬうちに我が会派の勢力に取り込んでしまうのだ。  金で作るか。今なら無限に作れるからな。  前作ったみたいに…。  「…?」  確か、髪を整える用の細長いナイフを…。  「…。」  装飾もつけよう。羽がいい。というか羽しか付けたこと無いし。  「…綺麗~…」  そうだろう、そうだろう。  俺が女を喜ばせられないなんて嘘だ。う、嘘に決まってらぁ!  最後に小手の宝石と、ガーク会派のマークを付けて…。  あぁ、そうだ。  銘も付けるんだっけ。翔…と。  「ほら。これ、使ってくれ。髪を切ったりするための女性用のナイフだ。昔…俺の国で身だしなみを整えるために使ってた。女性の必需品だよ。」  「…綺麗…。羽の模様…?」  「そう。羽が好きでね…。あと、この印は俺が所属してるガーク会派のものだ。これを付けてる奴はみんなヴァルの仲間だ。俺もこの印が付いたナイフを持ってる。意味は前進、だ。」  「前進…。」  「ヴァル。この印を持ってる人は…、…こいつらはみんな良いやつだ。この会派の印を持ってる人がいたら、もし、いたら…、…きっとヴァルの友達になってくれる。」  「…。」  「生きてれば、きっと良い事がある。…生きてさえいれば、いつかきっと、救われることだってある。思いもかけずに。」  「…。」  「…。」  「だから、ヴァル。病気はかならず治る。明日はちょっと外を連れ回すけど…、それも明日だけだ。明日が過ぎたらきっといつもどおりのヴァルに戻ってる。そしたら…、死ぬなんて言わないでくれ。生きていれば、辛いこともあるけど、でも、良いこともきっとあるから…。だから、約束してくれ。生きるって。」  「…うん。わかった。」  …もしかしたら。 もしかしたら、無駄に苦しめてしまうことを言ってしまったのかも知れない。    少なくとも俺と同じ様な奴隷の待遇になってしまったら。  生きてさえいればいいことがあるなんて、ただ彼女を苦しめるだけじゃないのか。  …それでも、俺はモニに会えた。  それがあったから他のすべてを耐えられた。  きっとヴァルにもそんなことが起きる。  生きてさえいれば。  …本当にそうか。  そういうことがなかったら、ただ苦しめるだけなのか?  「おぃちゃん…。」  「?」  「…ありがとね。」  それでもゼドラ病だけは治す。  それだけは絶対に。  決行は、明日だ。  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  寒い。  北の大地だからか。  朝だからか。  思えば奴隷から逃亡する時も寒かった気がする。  あの時は、大成功とは言えないけど成功はした。  今日は、必ず大成功を治めなきゃならない。  アザンの街の正門は何とか…、見えるな。  肉眼で見えるギリギリってとこか。  ザリー公爵はまだ出発してない、たぶん。  ヴァルは、少し寒そうだ。  ありったけの布と毛布でぐるぐる巻きにしてる。  しかも、ヴァルを持ち運ぶために、俺のポンチョを巻き付けてる。だから、命に関わるほど寒くはない…はずだ。  ヴァルを家に置いておく事も考えたが、万が一があっても良くないしな。  家にゴブリンが入ってくる可能性だって無いとは言えないし…。  そもそも嘆願が成功したとして、じゃあ病人はこちらです。着いてきて下さいって信じてもらえるのか?  何かの罠だとは思わないか?  騎士だけ俺についてくるって可能性はあるかも知れない。  だが、ザリー公爵家の騎士、というかここの領の騎士全員をあまり…信頼してない。  勝手に判断して殺されることだってあるかも知れない。  俺がヴァルのために嘆願してるってのを信頼して貰うには、ヴァルが直ぐ側にいたほうがいい。  そうすればすぐにヴァルを連れて行ってもらえる可能性だってある。  ヴァルはちょっと…辛いかも知れないけど、これも永遠に続くわけじゃない。  ゼドラ病は体が動かなくなるだけで、気持ち悪くなったり熱が出たりするわけじゃない。  普通の健康な人間が朝の肌寒い時間帯にちょっと散歩するようなな状態と同じだ。  体が動かせずに車椅子もないのがネックだが…。それで病状が悪化するってことはないだろう。  大丈夫。大丈夫だ。後もう少しだからな。  「…おぃちゃん…、本当にうまくいくのかな…。」  「うまくいくさ。ヴァルはとにかく病気で体調が悪いって振りをしてろよ。喋るのも大変ってふうにさ。」  「…うん…でもいいのかな。嘘付いてるみたいだし…。」  「別に嘘じゃないさ。実際喋るのはいつもどおりいかないだろ?本当のことをちょっと大げさにするだけだ。ちょっと今日は元気ないけど、頑張って元気よく返事するのと同じさ。」  「…そうかな…。」  そうさ。  お?  正門が開いた。  あれが老狼騎士団か。  寒さに強そうな格好をしてるな。  確かに鎧を着ているが…、周りの殆どを毛皮で覆っているから、まるで動物だ。  街の騎士とは一線を画すな。  高そうな鎧だもんなぁ…。  お、マチーネさんが先導して…、老狼騎士団の半分が西側に向かってる。  約束通り数を減らしてくれたんだ。  …ありがとうございます。マチーネさん。  「…マチーネさんっていい人だな。立派な人だ。」  「…うん。ばあちゃんもそう言ってた。」  よし。  これならなんとかなるだろ。  ザリー公爵の護衛に当たってる老狼騎士団は10名に満たない。  そろそろ待ち伏せ先に行かなきゃ。  何か正門でまごついているようだが、今のうちに行かねば。  「ヴァル。行くぞ。少し揺れるが、後少しだからな。頑張ってくれ。」  「…うん。」  ヴァルを背負って移動するだけなんだが、このポンチョってのはすげぇな。  ポンチョで覆って固定してやれば、落とすことはないし、移動時に揺れることはない。  ものすごいやりやすい。  こういったことが即席で色々出来る。  こんなもん発明できたなら、そりゃ開拓も進むわ。  これを持ってるやつがゴロゴロいるんだろ?  すげぇな。これを一緒に作ったって…、ルド婆さんはかなり魔法に精通してたんじゃないのか?  いや、今となっては知る由もないか…。  ここら辺りがいいか。  ちょうど坂を下り始めたところだ。  遠くからここは見えない。  近くになって初めて俺達が見える。  予め追っ払われる可能性も少ない。  俺とヴァルは道の横に座って待てばいい。  座ると言ってもヴァルは動けないから、そこで木を背もたれにして座ってもらおう。  頭も下げられないから、ちょっと見えにくい所に座ってもらうか。  無礼だとか言われたら元も子も無いからな。  よし。  あとは、ここで待つだけだ。  うまくいく。  きっと、うまくいく。    ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  馬と、馬車と、鎧。  その3つが重なり合った音が聞こえる。  まだ、ザリー公爵一行の姿は見えていない。  ここは小さな山のようになってるからな。  彼らの姿が見えるのは10m程度に近づいてからだろ。  しかも、遠くから見えないように木の影に隠れるように座ってる。  ぎりぎり近づくまでわからないはずだ。  …しかし、いきなり見えないところから大声がしたら驚かないか?  驚いた拍子に槍でズボッと…。  …まずいな。  どうする?  …。  …最初は騎士に聞こえる位で話すか。  そして注意を向けてもらって問題ないと判断してから、声を大きくしていく。  うん。  これで行こう。  段々音が近付いてきた。  大丈夫。大丈夫。  問題ないさ。  …取り敢えず頭は下げておいたほうがいいよな。    昔の日本は頭が高いって刀で切られたこともあるらしいし。  そのほうがいいな。うん。  見た目からして敵じゃないって分かるしな。  そろそろか。  日本人の土下座ってもんを見せてやるよ。  近付いてくる近付いてくる。  もう10mあるか?ないか?  しかし馬の息ってすげぇな。    ここからでも馬の息遣いが聞こえるわ。  ちょうど目の前を通り過ぎる、少し前…、これくらいがいいだろ。  後2…mか?  落ち着いて、最初の第一声。大きすぎないように。  よし。  「ザリー公爵様。どうかお助け下さい。ザリー公爵様。」  馬は…、まだ進んでいる。  まだ気づいてない。もう少し大きな声で。  「ザリー公爵様!お願いがございます!どうか嘆願をお聞き届け下さい!」  よし!  馬が止まった。  全体が止まったぞ。  ここで畳み掛けろ!  「ザリー公爵様のお力をお恵み下さい!彼女、ヴァルレンシア・ヴォーズスは病に臥せっております!金はあれど、枢機卿への顔繋ぎの時間がございません!どうかお助けを…。」  「貴様は…。」  聞いたことのある声だ。  嫌な予感がする。  馬車は止まれど誰かが降りてきた様子はない。  誰が俺に声を掛けた。  騎士しかいない。  誰だ…。  「貴様は忌血と伴にいた…。」  あ、んたは、門番…。アザンの街の門番の騎士…!  ヴァルのことを差別していたあいつ…!  どうしてあんたが…!  あんたは老狼騎士団じゃないだろ?!    なんでここにいるんだ。  何故ザリー公爵の護衛をしてる…。  やばい。嫌な予感が…。  「そこに、忌まわしき血がいるではないか!失せろ!ザリー公爵様の御前を汚す気か!」  剣を抜いた。  剣を抜いた?!  バカな。問答無用で?!  そんなこと許されるのか?!  「彼女は巨人にしか掛からないゼドラ病にかかっております!!治すには枢機卿の持つ治癒魔法が必要なのです!こちらに金もございます!!ただ、時間がないのです!!どうかザリー公爵様のお力を…!!」  聞いてくれ、公爵様。  聞こえてるだろ!?  頼むよ!  「ヒューイ殿どうなされた?無手の者に剣を抜くなどただ事ではございませぬぞ?」  「ザリー公爵様に及ぶ危機を事前に削ぐのです!此奴は危険な一族です!」  「いや、まずは…」  「ヴァルは危険なんかじゃない!一度だって誰かを傷つけたことなんて無い!あんたのうだつが上がらないからってこんな子供に当たるんじゃねぇよ!」  適当に言った言葉だ。  とにかく止まってくれればと。  俺の言葉なんていつも全然聞いちゃいないから。  とにかく聞いて反応してもらわなきゃって…。  でも言ってから後悔したよ。  ヒューイの目が。  炎が出てしまいそうなほど熱くて。  ヴァルを見ていたから。  剣を振り降ろしながら。  「貴様ぁ!!ッグァ!…ぁ…。」  咄嗟に。  咄嗟に、斥力魔法を使ってヒューイを吹き飛ばしちまった。    投げナイフも剣も使わなかった俺は見事だったと思う。  嘆願に来て騎士を殺したら世話はない。  咄嗟に殺さなかったのは良かった。  だが…。  「ヒューイ殿!」  「貴様何者だ!」  「馬車の前に3名防御につけ!2名は後ろを警戒せよ!」  やばい。  だが、ザリー公爵に逃げられるのはもっとまずい。  このまま逃げて、領都に向かうか?  …いや、もう、ヴァルに残された時間はそう多くない。  …ここで決めるしか。  足を使って土魔法を発動。ヴァルの周りを丈夫な金属で覆う。ヴァルに危害が行かないように。空気穴を忘れないように。気付かれないようにやるんだ。  ザリー公爵の乗った馬車が走ってどこかへ行かないように。馬車の前にいけ。  ビビるな。 いや、もうそんなこと感じてる暇ない。  今しかないんだ。  もう時間が…。  「老狼騎士団5名で囲め!アザンの騎士はヒューイの治療と後方から弓を持て!」  殺してはいけない。  ザリー公爵と話をするには…、多少の時間…、殺さずに全滅させなければ。  「油断するな!魔術師だ!面妖な技を使うぞ!」  戦闘が、始まる。
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