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 「じゃあな、気をつけろよ。まぁ、あまり心配しちゃいねぇが。」  「そっちこそ。出来れば最速の一週間でこなそうと思ってるが、長くて1ヶ月掛かる可能性もある。」  「残り一ヶ月の命か…。」  「おい。失礼な事言うんじゃねぇよ。」  「っふ。冗談だよ。まぁ、失敗しても構わねぇ。やばくなったら逃げちまえよ。」  「…そしたら佑樹はどうするんだよ。」  「そしたら裏ギルドに攫われて俺が元勇者だと速攻でゲロるだけさ。高く丁寧に王女様に売ってくれんだろ。…だから、まぁ、死ぬことはねぇ。気にすんな翔。」  「…っへ、俺が戻ってくるまではどうすんだ?まぁた女を落とそうとすんのか?あれもう無理だからやめたほうがいいぞ?」  「いや、無理じゃねぇし。いけるし。…まぁ、迷宮に潜ろうとは思ってるよ。火蜥蜴だったら逃げるのも難しくなさそうだしな。」  「…おい、そりゃ俺が戻ってくるまでやめといたほうが…。」  「おいおい。俺はガキじゃない。やばくなってもなんとかするくらいの甲斐性はあるさ。まだまだ強くなれそうだしな。その日の宿と飯代位は稼げるようになっておく。翔はそっちに集中してろよ。」  「…分かったよ…。なるべく早く戻ってくる。無理はすんなよ。」  「こっちのセリフだよ。まぁ、死なない程度に頑張れよ。」  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  今回は、フォア伯爵領に向かう。  地竜山迷宮を超えて南側だ。  超えるってのは走破するって意味じゃない。普通に上を跨いで行く。ぶっちゃけ迷宮の外側はただの山だからな。  超えた後、道に沿って南下。国境沿いに関所がある。  関所と言うか山と山の間にそびえ立つクソ…、いや砦がある。  そして山には…小型の竜の巣窟だ。  昔地竜山に住んでいた竜達は何処へ行ったのか。それはこのガハルフォーネ侯爵領の周りにある山々に移っていった…とされている。  地竜山に住んでいた竜は賢く強大だったらしいが、周りの山々に住んでいる竜は賢く…はない。強大さも薄れていっている…とされているらしい。  ただ、数が多くなり縄張り意識が強くなっている。…つまり普通の獣と同じ様になっているらしい。  当然普通の人間はここを通らない。通れない。  大陸級の人間でも難しい。  蟻の巣の蟻共が、竜になったようなもんだと言ってた。  ふざけんなっつー話しだ。  まぁだからこそガハルフォーネ領が許されてきたって理由もあるんだろ。  出るのも入るのも難しい。入る方は見て見ぬふりされてるらしいが。    正直そのレベルなら俺にもここを通り抜けることは出来ない。  …地上はな。  実はザリー侯爵の老狼騎士団と戦った時に思った。  …俺空飛べるんじゃね?  このルド婆さんから貰った着ぶくれポンチョ。長いこと鍛えてきた風魔法。もうはるか底が見えなくなってる俺の魔力量。  夜に空高く舞って砦を超えることくらい出来るのでは?  色々俺も調べたが、空を飛ぶ魔法ってのは中々難しいらしい。  いや、空を飛ぶこと自体は出来るらしいのだが、長距離飛ぶというハードルが高い。  普通の魔術師であれば魔力量の関係でだ。  だからか種族柄元々飛べる能力がある人達しか長く飛び続けることが出来ない。ナガルス族とか妖精族とか昆虫族とかしか翔べない。  制空権という意味ではナガルス族一択だ。  空で活動するということはそれだけの困難さがある。  だからこそ強大なハルダニヤ国と、数で劣るナガルス族が長く戦えて来た。  いずれにしろ、そう簡単に飛び続けることは出来ない。  例えば小型の竜がわんさかいるような山をまたぐほどの長距離飛行は。  …俺なら出来るんじゃないか?  「地」竜山迷宮の竜たちがここに移ったんだ。  つまり奴らは空を翔べない。でかい蜥蜴と一緒だ。…羽のないドラゴンと一緒でもあるけど。  まぁ、もし仮に途中で力尽きても、俺の土魔法で、地中に潜って周りを覆って休めばいい。  蟻の巣でやってたようなことだ。慣れたもんだ。  少なくとも地竜山迷宮にいた火蜥蜴は俺の土魔法の拘束を解けなかった。つまり、壊せなかったんだ。  奴らは俺の土魔法を突破できない…可能性が高い。  十分勝算がある…はずだ。  国境を超えたら関所南西にある裏ギルドの根城に行く。  南西の丘にある3本の大木の根本で一日焚き火をしてれば向こうから接触してくるそうだ。  真ん中の大木には黒い布が枝に巻かれている。  後は符丁を合わせて向こうの指示に従えばいいそうだ。  物と入れ替えに向こうが金をくれる。  白金貨15枚程と聞いた。  この内一枚が俺の取り分ということだ。    十分の一以下ってのは中々ひどい中抜きだと思うが…、運び屋なんてこんなもんかもしれない。  …。 …しかし…でけぇなぁ…関所って。  砦っていうかもう…城?  絶対に通さないっていう強い意志を感じる。  一本道ってこともあるが遠くからでも十分わかる。  周りの山もでかい。高い。  山道を登ったところに砦があるから、威圧感が凄い。  竜はギャーギャーギャーギャーうるさいし。  緑豊かな山って感じよりも、岩肌が見えてるような山だな。  …確かに地竜山迷宮と似た感じの場所だ。竜が移ったという話が出るのも分かる。  あそこの砦よく竜に襲われないな…。  …これ行けるんかな?  …いや、行くんだ。  迷ってる時間はない。  取り敢えず、麓に沿って…西に行こう。  飛び立つところを砦の奴らに見られてもつまんないしな。  それに麓ならまだ竜は出てこない。危険はまだ無い…少ないだろう。  夜になったら…決行だ。  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽    うおおおお!!  すげぇ!!  空飛ぶってこんな感じか!  飛んでる!!…ていうか吹っ飛んでる!!  タコの足みたいにポンチョを広げて…風魔法で押し出す!  押し出した直後にポンチョの足を折りたたんでタコが海の中を突っ切るように!!  これを繰り返す!!  繰り返す!!…と。 …。…あれ? な、なんかどんどんスピード上がってない?  お、落ちる前に進まなきゃならんし、どんどん加速が。  いいのか?  別にいいのか?  いや、良くない。怖い。  めっちゃ怖い。  これ着地どうすんの。  俺の体は耐えられんの?  余計なこと考えるな!その間にどんどんスピード上がるから!  やばい!どうする!  !  そう、そうだ!  と、取り敢えず真上に飛び上がる!  落下して地面に付きそうになったらもう一回真上に上がって…。  …ふぅ…。  …いやー、マジでびびったね。  速けりゃ問題ないだろとか思ってたけど駄目だわ。  根本的に怖い。  幸い地面の竜共は何もしてこない。眠ってるのか?  空に飛んでる魔物もいないから助かる。  鳥の一羽もいないのは不思議だが…。  …鳥か…。  ポンチョを鳥の羽みたいに羽ばたかせて飛んで見るってのはどうだ?  …お?  意外と形にするのが難しいな…。  …。  …。  …うーん…。  形にはなるけど、動かそうとすると綺麗に動かないな。  精度良く動かないっていうか。  広げて閉じる!みたいな単純な動きだったらなんとかなるけど、羽ばたくって…難しいな。  そもそも綺麗な羽の形にすることが難しい。  そこにリソースがだいぶ割かれてる感じ?  …いや、待てよ?  鳥だっていつも羽ばたいてるわけじゃない。  羽をピンと張って滑空してるだけのときもある。  それならなんとかなるか?  …一番真上までタコみたいに飛んで…。…名付けて凧揚げ、なんつって。  …やめよう。俺ネーミングセンスねーわ。  そいでもって鳥の羽みたいな形にして…滑空…。  お、進む。  おお…おわ!!  グルンって!!  バランスが取れない!  羽を軸に回っちゃう!  なんで?  羽が細いのか?  体を覆うようなでっかい羽を…。  …なんとか様になったか?  うん、うん。  まだバランス悪いけど、なんとか飛んでる。滑空してる。  風魔法とポンチョで一気に高い所まで飛び上がって、そのあとポンチョの形を変えて滑空。  なかなかいいんじゃないか?  …滑空してるときに少しだけ風魔法使うか…、引力・斥力魔法も併用すれば…もっと効率良く滑空できる気がする。  …ほら、ほら!  さっきよりも全然進んでる!  これは効率がいいぞ!  …羽大きすぎるか?  鳥…よりも、ムササビみたいな感じでいいんじゃないか?  …そういえばYout◯beで見たことある。そういう飛ぶやつ…ウィングスーツ…だっけ?  …こんな感じに…。  おぉ…、いいね…。  少々の風魔法と、引斥力魔法を併用すれば…滑空?いや、これは殆ど…飛んでるんじゃないか?  少し高度が落ちてきたら…また飛び上がればいい。  いい。  いいね。  これはかなり優秀な移動手段じゃないか?  いざって時にかなり高い確率で逃げ出せるだろ。  土魔法で砂をぶちかまして相手の視界を奪った上で飛んで逃げれば…止められないんじゃないか?  …こいつは奥の手にしよう。  バレたら簡単に対策取られそうだしな。  …しかし奥の手か…。  必殺技…と言い換えていいだろう。  フッフ…必殺技か…。  ついに俺も必殺技を持つまでに至ったか。  …別に殺すわけじゃないけど。  い、いや、「必」ず相手の「殺」意から逃げる「技」ということで必殺技ということにしよう。  うん、これは必殺技だ。  必殺技が出来たからには名前を付けなきゃな。  これは当然のことだろう。  一応、土蜘蛛とか砂塵・土蜘蛛とか魔力の糸とかもあるけど、探査メインだからなぁ。  必殺技って感じじゃない。  …これも必殺技って感じじゃ…。  いや!必殺技だ!名付けて凧揚げ!  …いや、待て。凧揚げはダサい。  もっと別の名前を…。  もっと…いい感じの…凧揚げじゃなく…。  …凧揚げじゃなく…その、空飛ぶ、いや、スーパーフライいやそうじゃなく…。  その…。  …。  …。  …。  …もう凧揚げでいいや。  よく考えたら逃げる技に必殺技っておかしいだろ。  うん、これは必殺技じゃないな。  だから名前がダサくてもいい。  ちゃんとした名前はちゃんとした必殺技に付けよう。  必殺技を作ったらちゃんとさ。  今回のはなし。  やっぱなし。  …やっぱなし。  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  案外簡単に抜けることが出来たな。  しかも滑空してるから余裕を持って地面を見ることが出来る。  出来るが…、暗くて全く見えない。  適当なとこで土に潜って休むか。  こんなとこで襲われてもつまらないし。  念には念を。  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  結局、国境越えるまで一日しかかかってないのか。  あんまり速すぎるとなんか言われるかな。  …いや、まずは取引を成功させることだけを考えよう。  それ以外はその後考えればよろしい。  え~と、確か、関所の南西にある丘にでかい木が三本あるって言ってたな。  取り敢えず、空から見てみるか。  流石に朝になれば分かる。  いよ!っとぉ。  お~~。  夜と昼じゃやっぱり空の景色は違うな。  こりゃ綺麗だ。  空も綺麗だが、ところどころ飛んでる浮島もなんかいいな。  …よく考えれば浮島にも辿り着けるんじゃないか?  …いや、今は関係ないか。  関所関所と…あれか。  ガハルフォーネ側から見た形と全く一緒だ。  しかも山の上にあるから分かりやすい。  これの南西…、こっちの世界にもコンパスがあるんだよな。  冒険者には結構必需品だし、それなりに売ってるから手に入りやすい。  特に今回みたいな時は方角がわからないと話にならないからなぁ。  あっちの方向か…。  あ~…確かに少し高いところがあるな。  でかめの木が一本あるけど、三本もあるか?  っていうか周りに木がありすぎてわからん。  …行って見るしか無いか。  黒い布があれば当たりなんだ。  虱潰しに探したっていい。  …飛んでいくか。  せっかく飛べるようになったしな。楽だし。  …。  …いや、奥の手をそんな簡単に使いまくっていいのか?  なるべく隠してたほうがいいだろ。  相手に自分の事を把握されるだけで負けに一歩近づく。いや、死に近づくのか。  奥の手があるだけで向こうは攻めづらくなるし、こっちは取れる手段が増える。  こっちの隠れた部分を勝手に脅威に感じてくれたりもする。  底が見えたら…しゃぶり尽くされるだけだ。  俺はそれをあのうんこガルーザから学んだだろ。  この近くには裏ギルドの仲間がいるかも知れない。  油断すべきじゃない。  …歩いていくか。  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  やっぱり空から見たこいつだったな。  見えにくいが…、高い枝の所に黒い布…というか汚い布が巻いてある。  一応木に登って確認できたし、間違いないだろ。  ここで一晩焚き火するってのも間違いないっぽい。  何度も焚き火をした後が木の根元に見える。  ご丁寧に竈っぽい感じで準備されてる。  …あぁ、昔教えてもらった、冒険者たちの間だけで使われてる休憩所みたいな感じだ。  周りに獣も魔物の気配もない。  …ここで狩りは出来ないな。  血の匂いは確か駄目だった気がする。  まぁ、保存食もあるし一日二日問題ないが。  火も…なんとか………点いた。  …はぁ。俺は火魔法苦手だなぁ。  佑樹はいいよな。  始めから上手く使えてよ。  …そういえば仲立さんも火魔法は得意だったな。  日本人は火魔法が得意なのか?  俺がむしろ駄目なのか?  …いややめよう。  俺には土風魔法があるし。  何よりこのポンチョがある。  このポンチョはやばい。  とんでも無く強い。いや、強いってより…便利なんだ。  これがあれば武器も防具も必要ないってのがよく分かる。  空飛ぶ羽になるし、着地の時のクッションみたいにもなる。  木とかに引っ掛けて衝撃を和らげることだって出来るし、自分自身を引っ張って空高く飛び上がることだって出来る。カタパルトみたいに。  当然固くして強度を上げて防具に出来るし、剣とか棒みたいな形に変えて殴ってもいい。  固くして体を覆った状態で敵をぶん殴ったっていい。  おおよそシンプルな形状変化は出来る。いや、出来ない形がない。  しかも、時間が経てば傷ついても修復してくれる。  もちろん、早く、精度良く、自分の思った通りに操るにはかなりの練習が必要だし、俺はまだそのレベルじゃない。  だけど確実に、これを操れるようになれば強くなれる。  そう確信させてくれる程のヤバさだ。  …今後はこのポンチョを操る訓練も入れていこう。  しかし、何でできてるんだこれは。  ルド婆さんはレイスの外套っつってたな。  魔法の世界らしい材料か…。  …なんとか自分で作れないだろうか。  …いや、そう言えばこれの製法を記したものをこの外套の内袋に入れたって言ってたな。  …どうせ一晩待たなきゃならんし暇つぶしに読むか。  …もちろん砂塵・土蜘蛛は発動したままだ。  なんのストレスもなく探査魔法を展開したまま他のことを出来る。息をしてるのと同じだ。  …俺も成長してるんだな…。  …。  一応、ポンチョの硬度も上げておこう。  大丈夫だとは思うけど念の為。  …俺も臆病になったな…。  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  何々…。  まずレイスを倒す。  その時浄化してしまわないように、火魔法、聖魔法は使わないようにする。  非常に効果の高いポンチョを作るには、レイスに影響を及ぼしにくい物理的な攻撃で倒すことが望ましい。  かなり時間が掛かるから、レイスが昼夜姿を表せるような環境、つまり向こうにとってベストな環境で戦わなければならない。  相手によっては一週間を超える戦いになることがある。複数で戦いに挑むのが望ましい。  倒したあと手に入れた外套は、水属性と土属性を混合した水に浸す。この時の比率の目安は手に入れた外套によって変わる。外套が水の中に沈まず、浮かび上がらない程度の比率で混合させたものが程よい。おおよそ水魔法3割、土魔法7割だ。  この時混合させる属性魔法は、純粋な属性での混合でなければならない。わずかでも火属性、風属性が混合されている場合、水に浸すとレイスの外套が徐々に消滅していく。消えていった外套は、主たる魔力がないことから修復されない。外套の見た目が三分の一程度になると消滅は止まらなくなり、失敗となる。  このレシピには詳しく描いてないが、純粋な属性ってのは喰也が言ってたことだろうが、この発現自体がかなり高度で熟練を要する。ポンチョ制作の肝はこの純属性魔力であるらしく、ここさえクリアすればなんとかなりそうだ。  俺は無理だが、もしかしたらヴァルなら。  ルド婆さんのことだ。このポンチョ制作も見越して生前の内に仕込んでいたんじゃないか?  というか純属性魔力を発現してるってどうやって分かるんだ。  熱を含まない水とか土とか風って不可能じゃ…。  いや、土魔法は土を空中から出してるわけじゃない。そこらにある土を操ってるんだ。  これで純粋な土属性って…つまりどういうことだってばよ。  いや、そもそも他の属性もなにもないところから。  …。  こっちに近づいてきてる奴らが何人かいる。  さて、どうするか。いや待つしか無いんだが。  一日と半日寝てないんだよな。  直ぐに金を用意してもらえるかも分からねぇし…、残りのポーション飲んどくか?  集中はこれからも続けなきゃならんし…飲むか。  …っし。  目が覚めた。  眠気が吹っ飛んだってより、ものすごい濃いコーヒーを飲みましたって感じだ。  徹夜をしなきゃならん時にポーションを飲むのはありだけど…、連日飲み続けたらおかしくなっちゃうかもな。  リヴェータ教から買えればいいんだが俺達は出来るのかなぁ…。    「…ずいぶん若ぇもぐらだな。それともここで偶然一夜を明かした不運な冒険者かい?」  「…いや、北の大皿から来たマルタの使いだ。腹に蜥蜴のクソが詰まってて動きにくくてしょうがない。」  「!…蜥蜴のクソが詰まってるのは辛いだろうな…。こちらでよく効く腹下しを用意しよう。腹下しは何錠必要かな?」  「…俺は…15錠あればいいと聞いている。腹下しを貰ったら直ぐにクソを放り出して帰るさ。」  「…分かった。…おい!腹下し15錠ほど持ってこい!…気に障るかもしれんが俺もここで待つ。クソを見るまでは安心できないしな。」  「好きにしてくれ。時間が掛かるのか?」  「半日もかからんよ。楽しくおしゃべりと行こうじゃないか。…一応物を見せて貰っても?」  「…。…構わねぇぜ。これだ。」  「…これは…確かに魔法具だ。地竜山迷宮産か。しかもこの迷宮でも珍しい遠見遠話の玉だ。」  「どういう魔法具なんだ?」  「遠くにいる奴の姿と会話をあらわす魔道具だ。」  「ふぅん…。なんかあんまし凄そうじゃないな。」  「はぁ?!んなわけねぇだろ?!これがあればハルダニヤ大陸の半分ほどの範囲にある奴の姿を何時でも見ることが出来る。もちろん会話もな。これが凄くねぇって?」  「あぁ…なるほど。確かに凄そうだな。…逆に言えば腹下し15錠じゃ足りないんじゃないか?」  「まぁ、末端はもっと価格が上がるだろうが…、恐らく他に制約があるんだろう。何時でも何処でも誰でもってわけじゃないはず。魔法具に寄って違うが…、これか。…ふん。対象をこの玉を通して一定時間肉眼で見る必要あり、か。人数に限りは無いとよ。距離が離れすぎると見れなくなるらしいが。」  「…そいつはすげぇな。どれ位見続ければいいんだ?」  「…半日だとさ。」  「…無理じゃね?」  「そうか?やりようによっちゃいくらでもなんとでも出来ると思うがな。」  「…ま、俺には関係のない話だ。」  「そうだな。これは返そう。腹下しが来るまで持っててくれよ。」  「ああ。」  「…しかし、クソが詰まったモグラが来るなんざ久しくなかったな。どうやって来たんだ?」  「…悪いがそれは…。」  「おお!そうだな!その通りだ!悪い悪い。あんまり珍しいもんでよ。ついつい好奇心が出ちまった。」  「構わない。…そんなに珍しいのか?」  「ああ。一応マルタと腹の詰まったモグラが来ることもあると決めておいたが…ほとんどこの符丁が役に立つことはなかったな。精々手紙を持ってくるくらいだ。それほど関所を抜けることは困難だ。手紙は頭で覚えちまえばただの無害な人間と変わらねぇ。正規で関所を抜けて来るだけだ。」  「なるほどな…。ちなみに前に成功させた奴はどんな奴なんだ?」  「う~ん…まぁ、調べりゃすぐ分かるからな…。ニギ・サンダーボルトだよ。大陸級冒険者のな。」  「マジかよ…、どうやって来たんだ。」  「普通に、歩いて山を超えたんだとよ。近づいてくるやつは全てぶった切ったと言ってたな。」  「…頭おかしいんじゃねぇか、ニギって奴はよ。近場じゃ勝てねぇな。」  「…まぁ、あのニギに勝つか負けるかで考えてる時点で、あんたも十分人外の域だがな。…確かにニギの腕はずば抜けてる。性も俺ら寄りだ。救いようがない奴だよ。」  「…そのまま俺にも返ってくる気がするが。」  「まぁ、気にすんなよ。ハッハ。」  「…早く錠剤持って来てくれよ。」  「…まぁまぁいいじゃねぇか。こんなこと早々ないんだからよ。他の領にもぐらするなら…。」  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  「確かに錠剤15個渡したぜ。」  「ああ。受け取った。…この布は?なにか印が書かれてるが。」  「物を受け取った証だ。これで確かに仕事が終わったことになる。まぁ、どっかで錠剤15個調達してきてもばれないからな。マルタとしちゃそれでも構わねぇだろうが、仕事をきっちりしたならその証拠も渡さねぇとな。」  「なるほど、了解だ。」  「俺は、ワザだ。通しのワザと呼ばれてる。あんたとはまた何度か会いそうだ。」  「…かもな。その時はよろしく頼む。シャムと呼んでくれ。」  「ああ。シャム。それじゃきっちり届けてくれよ。」  「ああ、じゃあな。」  まだ、昼過ぎくらいか。  関所に向かって歩くか。  明らかに隠れて付いてきてる奴らがいるし。  こいつらもちゃんと撒かねぇとな。  砂塵・土蜘蛛がなかったら気付けなかったろうな。  油断も隙もねぇ奴らだ。  ちょっと追いかけっこを楽しむか。日が沈むまでは。  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  …意外と簡単に撒けたな。  3時間位森を全力で走っただけじゃねぇか。  だらしないな。  …いや、そうでも無かったか。  3人ほど居たが特に最後のやつは粘ってた。  根性あったよ。  まぁ、最後は疲れ果てて座り込んじまってたが。  暫く周りを遠めにうろちょろしてても微動だにしないし、しょうがなく土と水を混ぜたドロッドロの泥を土魔法で顔に何回かぶつけてやったら、震えながらだけど立ち上がろうとしてたしな。  目をギラギラさせて歯を食いしばってさ…。  まるで物語の主人公みたいだった。  立ち上がった瞬間に足元をドロッドロにしたらすっ転んだけど。  何回か繰り返してたらうつ伏せのまま動かなくなってたな。  「あああ!!!」とか「ああ!!ああ!!あー!!!」とか言ってたと思う。    他の言葉も言ってた気がするけど、泥にまみれて判別出来なかった。    分かったのがその言葉だけだったからしょうがない。  汚い言葉は勉強してこなかったからさぁ。育ちがいいんだよ、育ちが。  その頃には夜になってたから、国境超えに向かった。  あそこまですれば気付かれることは無いだろ。  しかしほんと空飛ぶの楽だわ。  こんなに楽でいいのだろうか。  結局これ3日で終わるぞ。  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  「…速すぎねぇか…。」  「なぁに、今回は偶々運が良かっただけだ。うまく行ってよかった。あんたらもハルを攫ってないようだしな。」  「…攫う暇もねぇよ…。きっちり受け渡してるな。印もある。マジかよ、どうやって超えたんだ。」  「そいつは渡せねぇネタだな。」  「それもそうか…。しかし時間だけで言えばニギを超えるな。」  「あぁ…、前に運び屋してたんだっけか?」  「運び屋って程やってねぇさ。一回か二回ほどだったと思う。本人からすりゃ張り合いのない仕事らしいからな。」  「張り合いねぇ…。割のいい仕事だと思うがな。」  「…。まぁ、とにかく速さは一番だ。この仕事は別に強いかどうかは関係ねぇ。どれだけ早く、確実に送り届けてくれるかどうかが大事だ。」  「通しのワザの都合もあるから必ず3日でとは言えねぇが、まぁ、1週間もありゃ確実だと思うぜ。」  「遅くて一週間か…。危険はないのか?」  「ほぼ無いな。まぁ、今回はフォアの方だけだったし、他のところに行くならまだ分からねぇとしか言えねぇ。」  「そりゃそうだろうな。だがかなりのもんだ。っと、こいつはあんたへの報酬だ。白金貨一枚…、乗船券分に付けとくかい?」  「…いや、俺達で持ってよう。これで金貨100枚分溜まったわけだ。魔石の売上分で付けてる分も合わせると、残り金貨何枚だ?」  「80枚程だな。…もう一度やるかい?今度はもう少し高い物を移動してもらおうと思う。当然報酬も今回よりも上だ。向こうに行った後に暫く遊んで暮らせる程度のもんは渡せるぜ。」  「…いいぜ。次のをこなせば乗船券分の金は貯まるわけだ。手配を頼むぜ。」  「任せろ任せろ。密輸の用意は3日掛かる。その時来…て、く…。」  「…あ?どうした?3日後に来りゃいいのか?」  マルタがいきなり固まった。  というか周りにいた奴らも静かになってる。  どういう…。  「随分とごきげんじゃねぇか、マルタ。えぇ?俺への依頼が少ないのはそのガキのせいか?」  「ニ、ニギ…。い、いや、こいつは最近仕事を依頼し始めたんだ、あんたとは関係ない。」  「あぁ!?じゃあなんで俺の仕事が少なくなってんだよ!?」  「い、いや、あんたはあまり仕事を受けねぇから…こっちの方で遠慮してたんだ。」  「そういうことかよ。じゃあ割のいい仕事をよこせ。」  「あぁ…、ちょうどぶっ殺して欲しい奴がいる…。」  「そういうのだよ、そういうの。」  こいつが、ニギ・サンダーボルトか。  でかい。2m超えてるんじゃないか。  巨人族か?  いや、そんな話は聞いてない。  しかも身長があるくせにそれを感じさせないほど筋肉量がある。  だが鈍いって感じじゃねぇ。  歩く動きですらが滑らかで靭やかだ。  チーターに筋肉被せたらこんな動き方しそうだ。  駄目だ。  圧倒的に勝てない。  こいつの剣が届く範囲じゃ勝負にならない。  遠目から土魔法で打ちまくって…近づいてきたら引斥力魔法でふっとばして…緊急避難として空を…。  「何見てやがる、あぁ!?」  「!!…あ、いえ…申し訳ありやせん。最近地竜山に潜っておりやすハルと申しやす。以後、お見知りおきを…。」  「ニギ。こいつは前行っていた俺らの仕事を手伝ってくれてる新人だ。目を掛けてやってくれと…。」  「俺はそんなこと聞いてねぇんだよ!!なんで俺様を見てたかって聞いてんだ!!」  「…。」  マジかよこいつ。やべぇな。  「実は…ニギさんの歩く姿を見ただけでとんでもねぇ強さだと分かってしまいやして…。驚きで目が離せやせんでした。申し訳ありやせん。」  「…ッチ。まぁ、いい。おい!とっと仕事を寄越せ!!」  「わかったわかった。じゃあなシャム。次も頼むぜ。」  「ああ。それじゃ、失礼しやす。」  頭を下げる。  ニギはもうこちらを見てもいない。  見てもいない、が。  隙は見せてない。  重心がまだ少しこっちに残ってる。  蟻とかオークとかがこっちに飛びかかってくる前に見せる動作に似てる。  必ず重心を少し落とす。  人間も同じなんだな。  少なくとも俺はニギにとって隙を見せていい人間ではないと思われたらしい。  嬉しいのか悲しいのかわからん。  この男に注目されるのは…どんな理由だろうと嫌だ。
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