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 「随分…早かった…んだな…。」    「ああ。随分上手いこと行ってよ。取り敢えず3日後にもう一度この仕事をする。そうすりゃ目標金額が貯まる。」  「そう…か。そりゃ、すげぇな。とんでもねぇ実力だ。俺なんかじゃ絶対出来ねぇ…。」  「?ああ…そりゃ…まぁ…。…そっちの迷宮探査の方はどうなったんだ?」  「ああ…。火蜥蜴の方は一人で倒せるようになったよ。一発の威力を上げる方法がわかったんだ。魔力もその分使うが…、うまく行けば一発…少なくとも二発あれば絶対に倒せるようになった。」  「マジかよすげぇな。とんでもない速さで成長してるな、おい。」  「そうかな…。少なくとも確実に一発で火蜥蜴を倒せるようになりたい。一発で…。」  「…?一発も二発も殆ど変わらねぇだろ?それくらいの威力はあるってことじゃねぇか。で?どうやって威力を上げたんだよ。」  「ん?ああ…。水魔法と火魔法を複合させたんだ。そしたらうまくいった。」  「複合…?熱湯をぶつけたってことか?」  「そうじゃねぇ。前言ってたろ?火魔法で冷やすことも出来るんじゃねぇかって。できたんだよ、冷やすことが。水魔法を冷やすことで氷の玉が出来た。そいつをぶつけたんだ。」  「…つまり氷魔法を作ったってことか?…やばくない…勇者やばくない…?」  「何言ってんだよ。確かにこの魔法は火蜥蜴に相性が良くてかなり効果が高いがそれでも一発で倒せるほどじゃない。…まだまだ全然…。」  「…?なんでそんなに一発で倒すことにこだわるんだよ。そこまで威力があるなら十分だろ?」  「…いや…。とにかく、俺はもう少し迷宮に潜る。シャムはどうする?」  「俺は今日休んで、3日後の仕事に備えるよ。ハルも無理して迷宮に潜ん無くてもいいぜ?次の仕事がうまく行けば二人のチケット分は確実に貯まる。危険を犯す必要なんてねぇさ。」  「…それでも強くなっておくことに越したことはねぇさ。もう少し深い階層にも興味あるしな。」  「まぁなぁ…。あまり無理はすんなよ?」  「分かってるって、俺だって死にたくはねぇさ。」  「お!二人とも久しぶりじゃねぇか。」  「ダンケル。久しぶりだな。おい。」  「何処行ってたんだ?」  「あれ?お前俺の言ってること分かるのか?」  「簡単ならな。ハルだ。よろしく頼む。」  「おお、おお。まさかこの街一番のヒモと話せるようになるとはなぁ。色々あるもんだ。」  「なんだよ、ハル。何時の間に話せる用になってたんだよ。」  「簡単だけだ。最近、シャムいない時。言ってること分かる。話すのうまくない。」  「ハハッ。確かにぎこちねぇな。だが会話は十分できるレベルだ。ダンケルだ。改めて宜しくな。」  「どうしたよダンケル。随分ごきげんじゃねぇか。なんかあったのか?」  「ああ!実は城下級の昇進試験の受験が出来るようになったんだよ!ついに城下級だ!」  「まだ城下級じゃねぇだろ…。」  「いやいや、一人で城下級の魔物ぶっ殺せば良いんだ。そんなん何度もやってるしよ!余裕だよ余裕!」  「ああ、そうなのか。それなら確かに余裕か…。じゃあ、祝おうぜ。飲もう。」  「おお!そうだな、飲もう!今日は俺のおごりだよ!好きなだけ飲んで食ってくれ!」  「おお!やった。ラッキー!」  「らっきぃ…?何だそれ?」  「運がいいって意味さ。早く飲もうぜ。」  「おお!そうだな。それじゃあ…俺の昇級を祝って…カンパーイ!!」  「「カンパーイ!!」」  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽ 「そう言えば最近ナガルスが各地で出没してるらしいな。」 「おお!シャムも聞いたか!確か…最近一番新しいのは、ヘルダイナ子爵領とフィー子爵領だったかな?」 「ふぅん?聞いたことねぇな。何処にある領なんだ?」 「おいおい…王家直下子爵衆じゃねぇか。知らねぇって。」 「いや、知らねぇし。冒険者にそんな門関係ねぇだろ?」 「そうかも知れねぇがよ…。王家直下子爵衆ってのは王家直轄領の周りに位置してる奴らだ。王家に対する忠誠心がとんでもなく高ぇ。しかも平野で穀倉地帯だ。豊かで金もたんまりな奴らだ。いや、豊かな場所だから忠誠心の高い奴を配置したんだろうな。」 「まぁ、そういうことはあるだろうな。場所的には何処らへんなんだ?」 「えぇと…、確か…、王都の西側…オウダニムとかラミシュバッツの北側かな。」 「ラミシュバッツの北か…それならちょっと分かる。そのまま真っすぐくればこの領だろ?」 「そうそう。」 「あれ?そう言えば、エイサップがいるところと被るのか?まっすぐ来たとしたら?」 「いや、エイサップの奴らは少し東にずれてるかな。まぁ、空と地上だ。仮に出会ったとして、お互いに戦う意志がなけりゃ戦闘にならん…と思う。なったら面白いんだがなぁ。」   「眼の前で見れねぇからあんまり面白くねぇな。」 「確かに。」 「エイサップの奴らはどうなってるんだ?」 「おお!そうだそうだ!それも確かすげぇのよ!なんと!エイサップの奴らが蟻の領域を抜けたらしいんだよ!しかもジャキジョイの群鳥域に入ってったってよ!!」 「蟻の巣…?ジャキジョイ…?」 「ああ!ハルは知らなかったか。どうやら逃亡奴隷はよ!蟻の巣を生きて抜けるほどの実力があるってことがわかったのよ!!しかもジャキジョイの群鳥域に入っていったってこともな!」 「それ凄い?よく知らない。」 「凄いんだよ!少なくとも蟻の巣を一人で走破出来るなんざただの大陸級じゃ出来ねぇ!!しかもその後群鳥域に入ったってことはそこも抜けられるって奴隷本人は思ってたから突っ込んだんだろ?!とんでもねぇ強さだってことだよ!!」 「あぁ…確かそんな事を冒険者達が言ってたらしいな。なんか賭けにもなってたんだって?」 「そうそう!俺は勿論奴隷が抜けてた方に賭けてたからな!結構大勝させてもらったぜ!ハッハ!!バカどもがよぉ!!」 「だから奢るなんて言い出したのか…。まぁいいけど。」 遠まわしに考えれば俺のお陰な訳だし。     「まぁいいじゃねぇか。賭けにも勝ったし昇級するし。俺の人生順調だわ。もしかしたらどっかの貴族に雇われちまうか?ダハッダハッ!!」  「はぁ…。次の賭けもあるのか?群鳥域を出たか出ないか。誰に言えば賭けが出来るんだ?」  「そんなの決まってねぇがよ。誰とでもいいぜ。例えば俺とでもさ。」  「じゃあ、賭けようぜ。俺は群鳥域を抜けた方に賭ける。」  「そりゃ賭けにならねぇな。俺も抜けたと思ってるからよ。多分これ以上は賭けにならねぇんじゃねぇのか?みんな逃亡奴隷は生き残ってると思ってるからよ。」  「なんだつまんねぇな…。」  「まぁなぁ。だが冒険者達はみんなはしゃぎまくってるぜ。ついに奴隷が貴族を倒すか!!ってさ!」  「いや、意味わかんねぇし。別にその奴隷は貴族を倒そうとしてるわけじゃねぇんだろ?」  「まぁそうだけど…。っていうかその奴隷の目的も何も分かっちゃねぇからな!いや逃亡奴隷なんだから逃げるのが目的か!」  「…もう酔ってんのか。」  「いやいや、違うんだって!なんつうのかな…。ほら、俺達みたいなど底辺はさ。貴族様とかもっと偉い人達とかの一言で首が飛んだり、犯されたりするわけよ。」  「…。」  「…。」  「下手すりゃ、貴族がこの街に来るってそれだけで死んでいったやつもいる。貴族様が今日は熱いなって言って死んだやつだっている。俺達はそういう、抗えないクズみたいな存在だってことだ。当然お上に逆らうなんざ出来ねぇし、逆らったとして生きては行けない。」  「…。」  「…。」  「だからこうやって息を潜めて、隠れて隠れて生きてんのさ。」  「…。」  「…。」  「でも!だ!!ここでその逃亡奴隷よ!!そいつは奴隷っていう一番弱い、俺ら冒険者より低い立場なのに、貴族や…ましてや王族の鼻を明かしてる!今まで受けてきた仕打ちを覚えている奴であればあるほど、この奴隷を讃えてるぜ!」  「…。」  「で、でも。王も民の事考えてる。税金下げたり、勇者の祭りしたり…。」  「おいハル…。」  「ああ、ああ。そうだな。確か王家に納める税金は下がったらしいなぁ。その分その領の領主に多く納めるようになっただけのことが殆どだ。北の方の領地は割とちゃんと下がったらしいが。」  「…。」  「殆どの奴らは税金が下がった恩恵は受けてねぇ。いや、王都直轄領に住んでる奴らも違ったかな。勇者のお披露目祭りもそうだ。」  「…勇者の祭り、なにかあったか?」  「ラミシュバッツでやったきりもうやってねぇが、あの時、奴隷の多くは殺されてたんだよ。」  「!!…!?…な、なぜ?勇者、奴隷やさしくと言ってた!」  「それ、まさにそれよ!ほとんどの奴らは奴隷をひどく虐げてたそうでなぁ。勇者が来て、万が一王女や勇者に直訴されたら奴隷を持ってた奴らの首がヤベェ。口封じを命令して終わったやつもいたが、それも絶対じゃねぇ。破ろうと思えば破れるからな。…だから確実に喋れねぇように殺した。勇者が来る前に街の奴隷は半分になってたらしいぜ。」  「そ…そん!!…そんな…。バ、バカな…。」  「おい、ハル。ちょっと…。」  「お偉い様は一体俺達の事をどう考えてんだろうねぇ…。いや、考えてねぇし見えてもねぇのか。どうなってもいいんだろうしなぁ。」  「…。」  「あ、…いや、流石にどうなってもいいってことは…。」 「っていうか勇者って何だよ。ナガルス族に対抗するために呼んだんだっけか?殆どの平民や貴族はナガルスが気に食わねぇんだろうけどよ。俺達冒険者からすりゃ、そんなに興味もねぇ。」  「…そうなのか?そりゃ、初耳だな…。」  「そりゃそうだろ。あいつらは何故かわからんが最初から王族のみを狙ってる。王族が倒された所で、別のやつが王になるだけだ。貴族や平民は上が変わったらやばくなるやつもいるかも知れねぇがな。俺達冒険者は関係ねぇ。稼げなくなったら別の大陸に行けばいい。城下級程の腕前だったら正直どこでもやってけるからな。」  「…。」  「俺達には何にも関係ないことで勇者を呼んで、その勇者様が余計なことをしたせいで大量の人間が死んだ。そしてお上はそんなこと気にもしちゃいねぇ。そんな気にするほどの価値もねぇ俺らかりゃすりゃこの逃亡奴隷は英雄さ。全てを洗い流してくれる。」  「あー…。でも、この奴隷が逃げることで迷惑を被ってる冒険者や平民もいるんじゃねぇか?」  「あぁ、たしかにそういうこともあるな。だがそれよりも良いことの方が多い。ビビり始めたお上様が少し優しくなったりな。ッハッハッハ!!」  「…そりゃ、良かったな…。」  「…。」  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  「本当に大丈夫かよ?最近迷宮に潜りっぱなしじゃねぇか?」  「ああ、大丈夫だ。どんどん強くなるのが楽しくてな。全然問題ねぇ。」  「…そうか。今回はまた別の領に密輸するみたいでな。この前より時間が掛かるかも知れねぇ。」  「わかったわかった。まぁ、俺は毎日迷宮から出てくるつもりだからすれ違うことはねぇだろ。」  「ああ…そうだな。とにかく無理はするなよ。」  「わかってるって。じゃあな。」  「ああ。」  今回はウンゲルン子爵領に向かう。  前回よりも少し遠い場所にあるらしい。多分その分時間が掛かる。  昼は空を飛んで注目されたくないしな。  …昨日今日と佑樹がしゃべらない。  殆ど迷宮に篭ってる。宿にいる時は黙っていることが多くなった。  …確かに、俺も佑樹になんて言葉を賭けたら良いかわからない。  …正直、俺もダンケルと同じことを思ってるところもある。  勇者のおかげで俺達は逃げることが出来た。  だが、勇者のせいでステ爺は死んだ…。  いや、違うか。俺達が逃げようとしたからステ爺は死んだのか。  …でも、勇者がいなければ仲立さんも、ガークも一緒に逃げれたかも知れない。  別の適当なイベントの時に合わせれば、少なくとも仲立さんを捕まえようとしたあの女騎士はいなかったかも知れない。  …いや、やめよう。  俺の失敗を、勇者の、佑樹のせいにしたいだけだ。良く考えれば祐希は全く関係がない。  …。  …この仕事だ。  この仕事さえ終われば、船のチケットが二枚貯まる。  この大陸さえおさらばしちまえばなんとかなる。  佑樹だって追われなくなるわけだし、そんな根を詰めることだってなくなる。  大丈夫、大丈夫だ。  とっとと依頼をこなしちまおう。それがいい。  とっとと。  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  「あいよ、確かに完了の印を受け取った。しかし早ぇな。一体どんな足してんだよ。」    「みんな気になるらしいな。向こうでも取引終わった後大分気になってたようでな。随分と付け回されたよ。いや、そりゃこっちでも同じか。」  「…まぁ、秘密が多いほど気になるもんさ。女がよく言うだろ?」  「そうかも知れねぇな。付け回される男は冷めてる奴が多いが。嫌われてるのがわからないもんかね。」  「なぁに。ちゃんとお互いわかり合えれば問題は解決さ。ッハッハ。」  「いや、別に別れりゃいんじゃね?ッハッハ。」  「…。」  「…。」  「…これで乗船券分の金は貯まったはずだ。約束通り手に入れてもらうぜ。」  「わかってるって。確かに承ったよ。今から手配する。」  「どれ位掛かりそうだ?」  「さてなぁ…。一ヶ月は掛からないと思うが、そう多くあることじゃねぇからな。」  「…なるべく早く頼むぜ。」    「わかってるって。それと今回のあんたの取り分だ。乗船券分を差っ引いたもんだ。」  「おう…。金貨70枚か。結構余ったな。」  「今まで魔石分で積み立ててたし、今回は前回よりも儲けの大きい物だからな。」  「ふぅん…まぁ貰える分には構わねぇよ。」  「おう、そうだそうだ。情報の方も渡しとかねぇとな。確か、他の奴隷の行方だっけか?」  「わかったのか!?」    「おう。やっとな。苦労したぜ。あ、この分の料金はさっきの報酬から差っ引いてるからな。」  「分かったから早く教えてくれ!」  「はいはい。えぇと…、確かまず黒目黒髪のやつだよな?名前は…ナカダチ。マサタカ ナカダチでいいか?」  「そうだ。その人は今何処に、どういう状況だ。」  「こいつは王都に今いる。確か反乱奴隷ってことだが幽閉って扱いだな。何故か分からんが王女の命令で幽閉されてる。ただ、かなり優遇されてる。幽閉には、ある屋敷があてがわれてるんだが、その屋敷中だったら自由に行動できるし、食事、着替えも満足にさせてもらってるようだ。」  「…無事なのか…。」  「あぁ。王女の意図は分からねぇが、ラミシュバッツの首輪としての役目じゃねぇかと言われてる。奴隷を冷遇していた生きた証拠だからな。少なくとも殺されたり拷問されたりするようなことはねぇだろ。」  「そうか…。」    「反乱に加担していた他の奴隷たちは、基本的に王都で聴取を受けた後、王都で働いている。王都から出ていくことは出来ないが、市民権が与えられている。つまり、奴隷からの開放か。かなり厚遇してるな。というよりも、ラミシュバッツの金が相当魅力的なんだろうな、王女にとっては。」  「…ここまでになったらラミシュバッツも相当落ち目じゃねぇのか。そんな奴を繋いでおく必要はあるのか。」  「ラミシュバッツは確かに落ち目だが、貴族の中でもかなり上位の金稼ぎの才能があるからな。ただぶっ殺すのは惜しいんだろうさ。」  「そうか。…かなりありがたい情報だ。他の奴隷の情報はあるのか?」  「そうだな…。反乱していた時に実際に指揮を取っていたやつがいたが、そいつは未だに見つかっていないそうだ。ただ…こいつは同じく逃亡してる黒目黒髪のやつよりも真剣に追われてるわけじゃねぇ。一体何故なんだ。」  ガークか。  あいつもまだ見つかってなかったのか。良かった。  仲立さんも今すぐ殺されるような感じじゃななさそうだ。良かった。本当に。  取り敢えず、別大陸に逃げて、体勢を整えてからかな。仲立さん救出は。  まだ、余裕がある。大丈夫だ。  ガークも逃げ続けられてるならなんとかなるだろ。良かった。これで肩の荷が少し降りた。  「さすが、裏ギルドだな。本当に情報が手に入るとは思わなかった。取り敢えず、これで終いでいい。」    「そうか。まぁ…そっちが良いなら良いが。一応、その逃げ続けてる男について予想があるが…聞くか?」  「ん?あぁ、まぁ聞いておこうか。」  「奴隷の反乱が起きた時に管理者側にもかなり被害が出た。死んだやつがそこそこいたんだな。勿論奴隷の方も死んだ人間が多い。だが奴隷と管理者で決定的に違うのは管理されていたかそうでないかということだ。」  「奴隷が管理されていたという話か?」  「いや、そうじゃない。奴隷は管理されていなかった。ほとんどザルよ。管理者の方は労働者であり、曲がりなりにも木っ端貴族の次男三男だった奴が多くてな。名簿くらいはあったわけだ。だが奴隷はそんなものがない。死体があっても名前も分からないなんてことは普通にあったらしいし、そもそもどっかに逃げたのか死んだのかすらわからないことも殆どだ。」  「ふぅ~ん。ん?じゃあ、その指揮を取ってた奴が何故逃げたと分かるんだ?」  「そいつは反乱してた時に指揮を取って目立ってたからだな。その時に顔を覚えられたんだろう。それ以外の奴隷なんざ死んでるか生きてるかもわからん。というか奴隷紋がある時点で逃げたら死ぬわけだが、じゃあ、何故反乱したのかという話になる。だから、反乱はあった。あった以上、逃亡も可能性としてありえるということだ。そして、指揮を取っていた奴の死体がない以上、逃げた可能性が高いということだな。」  「なるほどね…。で、つまりどういう話だ?」  「つまり、確実にわかっていることは、指揮を取っていた奴隷が逃げたということ、そして管理者側にも一人行方不明者がいるということ。」  「管理者側に行方不明?…つまりそいつも逃げたっつーことか?」  「ああ。おそらく、その奴隷と一緒にってことだと思う。いなくなった管理者は、アズ・ワルディック。魔法新論をぶち上げてリヴェータ教を追い出されたはぐれだ。元大司教様だったかな。」  「アズ・ワルディック…。ワル、ディック?」  …。  …ディック爺か!!  いつも回復魔法を掛けてくれた爺さん。あの爺さんか?  「そう。恐らく指揮を取ってたやつはワルディックと一緒に逃げてる。何故かはわからんがな。だが、回復魔法が使える人間が一緒に逃げてるんだ。生きてる可能性はかなり高い。ま、管理されてない他の奴隷も生き残ってるやつがいるかも知れねぇがな。」  「そうか…。しかし、その割にはあんまりそいつらが追われてる印象はないな。」  「ああ…。何故か王女は黒目黒髪ってところに大分こだわってるようでな。そこは何故だか…わからん。」  ふぅん…。  やはり勇者と関わりがあるとされてる俺の方を優先して追ってきてるのか。  実際は関係ないわけだが…、逃げたタイミングがドンピシャで形貌がここまで似てたらそりゃ関係があると思うわな。  王女様は逃亡奴隷よりも勇者にご執心なようだな。  好かれてるなぁ…佑樹。  …俺殺されるのかな。拷問されたりした後。  実際今は勇者と一緒にいるわけだし、関係なかったですって言っても通らないよな。  …あれ?  結構やばい?  …。    …ま、まぁ、…いい。    これで二人の安全が確かめられた。それで良しとしよう。  これで後は大陸から脱出するだけだ。    チケット待つだけか。  しかしエイサップの野郎も近づいてきてる。  早くしなければ、早く。     「ああ、それと…、最初に言っておくが俺達じゃねぇからな?」  「?何のことだ。」  「ハルのことだよ。2日前から姿を見ていない。」  「は?…。」  「そんな顔するなって、俺達じゃないって言ってるだろ。俺達は監視してたからすぐ分かるんだ。あんたが失敗したら直ぐにかっさらえるようにな。」  「何処にいるんだ!」  「落ち着けって。恐らく地竜山迷宮だ。迷宮に入ってから出てきたところを見てないからな。深い層まで足を踏み入れちまったんじゃねぇか?」  「くそ!!」  なんで!  無理するなっつったろーが!  なんで深層なんかに!  いや、まだ分からねぇ。もしかしたら偶々怪我して動けないだけかも知れない。  とにかく早く行かねぇと!  「あ、おい、気をつけろよ、中にはニ…」  くそ!くそ!  やっぱり俺がいない時は潜らせんじゃなかった!  今から行って間に合うか!  そもそも迷宮の何処にいるんだ!  もっと急げ!もっと!!  …もっと…!!  …早く!  …。  空を。  …空を飛んで行く!!  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  くそっ!!  迷宮に着いたは良いが何処にいるかわからん!!  迷宮って言われるくらいだからな…。  どうやって探し。   そう、そうだ。探査魔法。 風魔法。風探査魔法を全開で広げる。  これで引っかかって…くれないか…。  …いや、とにかく進もう。  進めば俺の風探査魔法でも届く距離まで辿り着けるかも知れない。  道が大きくなる方に進めばいい。  深い所へ。  敵が強くなる方へ。  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  普段俺達が潜ってる所よりだいぶ先に進んだ。  途中で結構会う火蜥蜴がうざったい。  結構な数が浅い層にいた。  …もしかして通り過ぎちまったのか。  もっと浅い所で怪我をしてるのか?  それだったら引き返したほうが良いか?  いや、でも強い敵がいる所にいるほうが危険が高い、か?  いや、怪我をして動けないんだったらどんなに弱い敵でも死ぬ可能性はあるか?  やっぱ引き返して浅いところを探したほうが良いか?  待て待て。  落ち着け。  浅い所は俺達が普段使ってる狩場を通ってきた。  その周囲数kmは風魔法で探査できたはずだ。それでも浅い層を全てカバーできた訳じゃないが、ここらへんでもかなりの数の火蜥蜴がいた。  火蜥蜴の再出現には数日掛かる。  もし、ここらへんを狩り尽くして、浅い層の別の箇所に火蜥蜴を狩りに行ったんだったら俺が通り過ぎた所に火蜥蜴があそこまでいるのは理屈に合わない。  佑樹がいつもの狩場を狩り尽くしたわけじゃないってことだ。  …つまり、佑樹は深い所に自分で潜っていったのか。  しかも、火蜥蜴をいつもの所で狩り尽くしたからもっと深い所へって訳でもない。最初からもっと深いところを目指してたんだ。  …何故…。  くそっ!  全然俺の風探査魔法に引っかからねぇ。  全力で広げてるのに…。  くそッ!  もっと全力で、大きく、強く…。  魔力をもっと込めて、濃くして…。  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  クソッ!  全然風探査魔法に引っかからない。  まだ狭いのか?  迷宮は入り組んでるからその分広げるのに手間がかかるのか…。  もっと広げる方法はないか…。  風…、現状では風探査魔法が一番魔力を感知できる範囲が広い…。  いや、魔力が感知できる必要はない。  佑樹の場所がわかれば良いんだ。  …音…。  前、逃亡奴隷に成り立ての時…森で冒険者の話を盗み聞きした。  その時は音だけを拾えばよかったから風探査魔法を広げられた気がする。  …どうだ…。  …広がった…気がするが…捕まらない。  駄目なのか…。  広がって無いのか…?  いや、確かにさっきより広い範囲の生き物のことがわかる。  そいつらが歩く音、息を吐く音が聞こえる。  その音はさっきより広い範囲を拾えてる。  …でも駄目だ。  まだ捕まらない。  …くそ、くそ…。  どうすれば…。  風を使ってもっと、音よりも遠くに届くものなんてあるのか?  音速だろ?光速ぐらいしかねぇじゃねぇか。  ああ…違う。流石に光は分からない。  風に乗った音を聞く…、風に乗った魔力を感知する…、風に乗った音は耳で聞いて…、風に乗った魔力は俺の魔力で感知して…。  風に乗った音…、風の中にある音、風の中、風、風…吹く、流れる、漂う、匂い、匂い…鼻…風の中に…!匂いが漂って…!!そう、こんな方法を使ってる奴が居た。  ガルーザ。ガルーザ・バルドック。  あのクソ野郎は…匂いを感知していた。    試しに、試しに匂いを感知して…。  鼻を強化すれば良いのか?  …!!  頭が痛ぇ!  何だ!!     一気に頭に来た!!  何だこれ!匂いか!!  痛い!!  何が何だか!!  いや、落ち着け、落ち着け。  焦るな。  落ち着いて…ゆっくり息を吸って…本当に少しずつ…。  よし、よし。  これならパンクしない。  鼻から息を吸う分はゆっくりほんの少しにすればいい。    そうすればパニックにならない。  よしよし。  これで…。    !…これ、は…。  残り香…か?  佑樹が気に入っていた…香水の残り香…か!!  こっちだ!!  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽    匂いが、強くなってる。  そうか。  匂いだったら、跡に残るんだ。    音だと現在進行形で鳴ってないとわからない。  でも匂いだとそこを通れば匂いも付く。  ただ歩くだけでもそこに匂いが残る。  しかも近づいていけばどんどん匂いは強くなる。  これは便利だ。  …ガルーザが匂いで感知してた理由がよく分かる。  …くそ。  ん?  なんだ?  あれは…大きな、氷?  小さな山程の大きさの氷だ。  その氷に向かって大量のドラゴン共が体当たりをかましてる。  奥に…異常にでかいドラゴン…らしきやつがいる。  だがあんなドラゴン見たこと無いぞ。  火蜥蜴じゃない…?  深層だからか?  違うタイプのドラゴン…。  !!  あの氷の奥に…佑樹がいる!!  良かった!!    生きてた!!  後は周りのドラゴンを片付ければ終いだ。  ふぅ…。  …あの蜥蜴共。 ハルダニヤの勇者にずいぶん調子こいてるじゃねぇかよ。  ぶっ殺してやる!!  
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