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オオオオ……。 オオオオオオオオ……。 オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”!!! 近づけば近づくほど、蜥蜴共の叫び声が大きくなる。 氷の山を壊そうとしてる。 群がってる蜥蜴共は…サイズ的には火蜥蜴と同じ程度だが数が100匹以上いるんじゃないか? あそこ広いし。 そして一番奥にいるでかくて静かなドラゴン。 水色で…ぬるっとした皮で覆われたそいつはずっと、佑樹が襲われてるのを見てる。 助けるでも襲いかかるでもなく…。 気になる。 気になるが今は雑魚を片付けなければ。 ここには土が吐いて捨てるほどある。 固めた土の材料を変えて…元素を変えて…。 固く、強い金属にして、更に魔力を全力で込めて、斥引力魔法でふっとばす。 前にもやったように周りに作った金属を斥引力魔法で浮かせておく。 足りなくなったら作って常に周りに浮かせておけば、防御にも使える。 今はポンチョを固めることが出来るから更に防御力は高い。 それでも入り込んできた奴はこの剣でぶった切る。 …ひょっとして剣を使ったのは買ってから初めてか? 投げナイフ用のホルスターもあまり使ってないな。 せっかくナイフ作っても意味なかったか?まぁいい。 …どうやらそこらの雑魚蜥蜴は土魔法の弾一発で倒せるな。 砂塵・土蜘蛛で周りの警戒を忘れずに。 …いや、ちがう。 警戒するのは一番奥にいる…あのドラゴン。 あいつだけは警戒を解いちゃいけないタイプだ。 俺が片っ端から蜥蜴をぶっ殺してる時、奴は警戒し始めた。 腰の下に足をきっちりと入れ、顔を常に俺の方に向けてる。 一見薄暗い洞窟の中では解らないが、魔力の糸と風探査魔法を併用すれば、これくらいの動きはすぐ分かる。距離も近いし。 土魔法で作った弾をマシンガンの用に打ち尽くせば、正直一網打尽にできる。 だが急激に攻撃してあのでかぶつに隙を突かれてもつまらない。 ゆっくり…俺が十分反応できる程度に削っていく。 出来れば仲間が殺されてるのに怒って突っ込んできてくれねぇかな。 隙を突けるかも知れない。 …無理っぽいな。 動くつもりはなさそうだ。 だったら片付けてくぜ。あんたのお仲間をよ。 とは言え、もう半分は消した。 一発打ち込めば止められる。 当ててるのは小さい球だが当たればかなりの部分を削り取れる。 上半身以上に当てれば間違いなく殺せるし、そうでなくても動きは確実に止められる。 あとは火蜥蜴みたいなブレスがどんなもんか…。 っと!! これがブレスか! 奥で座ってるだけかと思ってたが初めて攻撃を…。 …これは…冷気?と氷? そうか。 だから佑樹の氷は無事だったのか。 相性が悪かったんだ。 氷の檻に冷気をぶつけても壊れやしないよな。 …氷は多少のダメージになるのか。しかし微々たるもののようだ。 …なんであいつはわざわざ佑樹の氷の檻を攻撃してるんだ? なんとなく全力ってわけでもなさそうだったが…。 しかしあのブレス、俺にはちょっとやばい。 避けたブレスは地面に当たって当たりを凍らせている。 …あれ当たったら動けなくなるな…。 少し大げさに動いて万が一にも当たらないようにする。 ギオリに貰った服のおかげで動きがだいぶ楽だし、肉身体強化魔法もかなり使えるようになったから大丈夫…だと思う。 それに氷蜥蜴を倒せば倒すほど障害が出来てブレスに当たりにくくなる。 時間が経てば立つほどこっちが有利になってきてる。 大丈夫だ。 大丈夫なはずだ。 残り10体。 ここまで来たら殆ど勝ちは揺るがない。 大丈夫だ。そのはずだ。 だが何故。 奥のでかぶつは殆ど動いてこない。 決定的な隙を突こうとしてるのか? だから手を出してこないのか? そんな隙は見せねぇぞ。 どうする?ほら?もう最後の仲間が死ぬぞ? ほら?ほら? 危ないぞ? 助けに来ないのか? こんなに苦しんでるじゃないか? いいのか? …。 全く動かねぇ…。 くそ。 取り敢えず止めは指しておくか…。 …佑樹は…大丈夫か。 万が一にも佑樹に危害が及ばないように氷の前に立ってないと。 しかし、どうするか。 俺も火魔法は苦手だからどうやってこの氷を解除すれば良いのか。 っていうか佑樹は俺のこと気付いてるのか? 覆われてるし音は通じないか…? 土魔法で削っていってもいいけど万が一佑樹に当たってもまずいし…。出来れば慎重にしたいがこの眼の前の奴が…そうさせてくれるとは思えない。 隙は見せられない。 ここで立ってるしか無いのか? どうすればいい? 攻撃するか? そうか。攻撃して倒しちまえばいいんだ。 相手があんまり不気味だから考えすぎてしまった。 倒してしまえばいいんだ。 全力で、全力で土に魔法を込めて、全力でぶっ放す。 行くぞ。 行くぞ行くぞ行くぞ、オラッ!! …避けた? あんなデカイ図体しててあんなに早く…。 いやどんどん撃て。 考えるな。 撃って撃って撃ちまくれ!! ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽ 何だ? どういうことだ? どんなに撃っても避けるだけ。 こちらには絶対近づいてこねぇ。 氷のブレスを一応は撃ってくるが…こっちだって簡単に避けられる。 後ろの佑樹にもダメージはない。だって氷で覆ってるんだから。 何がしたいんだ? 魔力切れを狙ってるのか? 悪いが俺の魔力はまだまだ大丈夫だぞ? お互いこれじゃジリ貧じゃないか? いや、攻撃を多くしてる分、こっちが一発当てて殺せる可能性はある。 しかもたまに岩とかに当たったりしてるんだが結構簡単に傷がついてる。 逃げ続けても向こうにメリットがない。 向こうにとってのほうがジリ貧じゃないか。 一体どういう…。 ん? なんだ? 氷が溶けて、氷が溶けて?! 佑樹の氷が溶けてる! 何故?! ど、どうして…。 「す、すまねぇ翔。ま、魔力が…。」 魔力切れか! そういうことか!! 奴は佑樹の魔力切れを狙ってたんだ! そうか! ギオリも言ってた。魔力が見えるやつがいるって。 だから俺の土魔法も避けれてるのか! 「グルルルルルッ……。」 初めて声を上げやがった。 「すまねぇ…。あ、足、また足引っ張っちまって…、か、金を稼ごうと…もっと稼ごうと…。奥に行ったら…足怪我して、一気に奴らに襲われて、ビ、ビビっちまって…。」 そうか。怪我人が居たほうが俺の動きは遅くなる。 魔力が見えるんなら、後少しで氷が溶けてなくなるってわかれば。 それまで時間を稼げばいいってことか。 しかも…低層への道は向こうが抑えてる。 いや、佑樹を抱えてなんとか抜けられないか? 肉身体強化と斥引力魔法とポンチョがあれば…一気に抜けられ。 「グギャオオオオオオ!!」 !! なん、後ろに向かって…。 うるさい!!なんてブレス!! あれがあいつの全力のブレスか!! さっきまでのは何だった…。 あ、あいつ。 ブ、ブレスで、道を塞ぎやがった。 低層への道を、帰りの道を。 ああ…。 「す、すまねぇ…俺はなんてこと…。か、金稼げば、きっと足しになるって。すま、すまねぇ。こ、こんなはずじゃ。もっと、もっと上手くいくと…。」 「…バカヤロー。こんな雑魚俺に任せろって。ちょっと火蜥蜴がでかくなっただけじゃねぇか。大したことねぇよ。休んでろと言いたいとこだが…連れ回すぜ。これを足に付けてろ。」 「こ、これって…?」 「俺が作った遅効性傷薬だ。塗ることしか出来ねぇが…無いよりマシだ。早くやってくれ。」 「わ、わかった…っぐ…。」 奴は…どうする? 動きはない。こっちを警戒してるのか? 解らない。どういうことだ? 「ぬ、塗ったぞ。」 「よし。悪いが動かないでくれ。」  俺のポンチョで包む。  遅効性だからな。すぐに治らねぇ。治ったとして魔力のない佑樹をほっておく事は…。  ブレス!!  くそ!!  なんでいきなり!!  俺が佑樹と抱えるのを待ってたのか?  …動きが遅くなるし、一緒に殺れるからから?  だが、俺が佑樹を治したらどうするつもりだったんだ?  一気に二対一だぞ?  そこまで考えてなかったのか?  …。  …それとも。  …それともそうなったとしても佑樹の実力だったら取るに足らないと考えたのか。  最悪2対1になっても俺一人と戦うのと変わらないと。  なら、足手まといを守らせる可能性に賭けたと?  …。  …なめやがって。  …後悔させてやるよ。  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  俺の土魔法、土砲丸はそれなりの威力、スピード、数だと思う。  当たれば大抵の奴は吹っ飛ばせると思ってるし、スピードは目視できるレベルを超えている。  弾を予め複数作っておけばかなりの数一気に飛ばせる。  そこそこ優秀な魔法だと思ってる。  「くそっ!!」  「…ッグ…。」  当たらない。  佑樹の氷の檻が背後にあったときですら当たらなかったのに、今度は向こうからブレスが来る。  こちらの攻撃に合わせてだ。  向こうのブレスはモーションがあって俺より早く打つのは難しいみたいだ。  ただ俺の射撃の合間合間に撃ってくる。  俺は佑樹に当てるわけには行かないからどうしても大げさに避ける。  そうすると二手三手遅れる。  向こうはその間に体勢を整え、もう一度ブレスの準備に入る。  俺はまた避けて、準備していた岩を飛ばす。  「ック。」  「…ゥグッ…。」  段々、向こうのブレスのインターバルが早くなってる。  さっきと同じジリ貧だ。  だけど俺が追い詰められてる。  周りは氷が多くなって滑りやすくなってる。  ポンチョを蛸の足みたいにしてなんとかバランス取ってるが…、ポンチョの操作はまだ慣れてない。  正直その場しのぎだ。今はなんとかなってるが…。  「クソッ、クソッ!」  「…アィッ…」  「佑樹大丈夫…。」  「大丈夫だ。俺のことは気にすんな。問題ない。」  もう一つは佑樹だ。  足の傷がまだふさがってないのか移動の度にダメージを負ってる。  …早くしないと。  そもそも俺の傷薬がどの程度効くのかわからん。  俺に効いたから大丈夫だと思うが…。  けどブレスを避けるたび佑樹が傷ついてるのは事実だ。  早く勝負を掛けないと…。  でも当たらない。  俺の攻撃が当たらない。  どうすれば…。  どうすればいい、何か方法は。  俺の武器、俺の攻撃手段。  投げナイフ、土球、長剣、小手、ポンチョ。  …だめだ。  結局奴に当たらない。そもそも近づけない。  あいつの動きを止めなければ。  動きを止める…。  普段火蜥蜴を土魔法で拘束してるじゃないか。  あれで止めるか…?  いや、…難しい。避けられる気がする。  土弾も土拘束もそうだが、発動してからはかなり速いし強いと思う。  だが、発動しようと思ってからそこにたどり着くまでが遅いんだ。  土弾は撃ち出すまで、土拘束は相手を土で覆うまでが遅い。  だからザリー公爵の騎士隊を襲った時、俺の土拘束は隊長に避けられたんだ。  …いや待てよ。  あの時隊長が飛び上がった時引斥力魔法で引っ張ってすっ転ばせたんだ。  やってみるか…?  だが失敗はできない。    あいつは頭がいい。  一度魔法を見せたらその対策をされそうな気がする。  絶対避けられないようにしなければ。  …効果範囲を大きくするか。  俺の全力の魔力を込めて地面を柔らかい泥にする。ここらの大きさは…でかい体育館くらいか。  なら…なんとか。なんとか行ける、と思う。  あいつは避けると思う。  飛び上がった瞬間、引斥力魔法でアイツを地面に縫い付ける。  その後地面全部を金属にして拘束する。  最後に土弾で止めをさせばいい。  最後に一発だけあればなんとかなる。その分の魔力を残して全力でやる。  よし。これだ。これで行こう。  多分出来る。これぐらいの広さだったら地面全部変えられる。俺の魔力だったら。  タイミングは…奴が壁を足場にして俺の土弾を避けるときがいい。着地が地面になるように壁側を覆うように多数打つ。  そうすれば、下に逃げるだろう。その時に地面を変えるんだ。  着地前に地面を変化させられたらそのまま硬化。  一度ジャンプしたら斥引力魔法で縫い付けて硬化。  行く、行くぞ。  これで行くぞ。  後少し、後少しだ。  行ける、行ける。  チャンス、後ちょっと、今。  「あああああああ!!!!」  「グァッ!!!」  避けた!    地面行った!  地面、泥に…。  「オオオオラアアアアア!!!!」  「ギヤッ!!!」  硬化は間に合わん!!  だが地面全部変えられた。  斥引力魔法で縫い付け…。  「ゴギャアアアアア!!」  ブレス?!  俺達?違う!地面?!  地面?  あ…。  地面凍らせて…。  「氷で足場を…。」  氷は俺じゃ操作できない…。  魔力は、半分切っ…。  「…舐めんじゃねぇ!くそ蜥蜴がぁぁぁぁぁ!!!」  佑樹?!  火球?!こんなでかいのを?!  まだ撃てたのか?!  いやそれよりも。  足場が融けてる!ダメージも受けてる!  か…。  「固まれぁぁぁああああ!!!!」  全力で!!  魔力を込めろ!!  後を考えるな!全力で!!  「ああああああ!!!!!!」  …!!  ……!!  ………。  …。  …どうだ。  どうなった。  「翔…あいつ、動けてねぇぞ…。」  「本当か…。」  あいつ、あの蜥蜴野郎。  体の半分が地面に埋まってる。  「…ギュァ……ァ……。」  地面は全部…金属だ…。  暗くて何の金属かわからない。鉄か?  だが重要なのは奴が動けていないということ。  「…すげぇな…。地面が全部…金属に…鉄か?周りから集めてきたのか?いや…材質を変えたのか…?こんなこと…出来るもんなのか…?」  「あぁ…俺もまだよく分かってない。…奥の手だ。魔力も大分食う。もう殆ど無い。」  「ァ……ァ…。」  この蜥蜴は体を縦に割ったように地面に埋まってる。    顔も半分埋まってる。口も、口の中も。  ほっとけば死ぬだろう。  …だが、止めをさす。  「悪いな。俺達の勝ちだ…。」  「……。」 こいつは土弾一発で死んだ。  たとえ迷宮でも、生物を殺すのは嫌だな。  いや、他の蜥蜴だったら気にしなかったか。  こいつだからだ。  こいつは知性があった。だからちょっと嫌な気分になってるだけだ。  「…やったな。」  「ああ…やばかった。」  「…あぁ…すまねぇ、翔。俺は金をもっと…。」  「おいおい、そんなことより聞いてくれよ。今日の密輸でチケット2枚分が貯まった。もう依頼は出してる。」  「え、あ…おう。」  「しかも、今回は結構割がよかったみたいでな。金貨70枚も余ってんだよ。これで暫くパーッとしようぜ。チケットが来るまでゆっくりとよぉ。」  「…そうだな。ここの蜥蜴共の魔石も足せば大分金持ちだな。」  「そうだよ!そうじゃん!!あのでかいドラゴンなんて相当なもんになるんじゃねぇか?」  「へっへっへ。暫く休めるな。」  「あぁ…、怪我も直さなきゃな…、そう言えば足の怪我はどうだ?」  「ああ、そう言えば問題ない。あの傷薬すげぇな。どっかで買ったのか?」  「いや、俺が作った。前に教わってな…。」  「…リヴェータのポーション以外でこんなに効果がある物ってのはねぇぞ。効きは遅いが…、効果は遜色ねぇ。とんでもねぇな…。」  「気に入ったら教えてやるよ。俺に教えてくれた人もこの技術を広めてほしいみたいだったしな。」  「マジかよ。じゃあ、後で教えて…。」  「俺の狩場を荒らしたのはてめぇらか?」  深層からやってきたそいつは。  遠く離れてるにも係わらず。  声を荒げてる訳でもないのに。  一字一句損なうこと無く言葉を届けた。  「金の匂いがするなぁ。」  ニギ・サンダーボルトがそこにいた。 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  この町唯一の大陸級冒険者。  近接最強の男。  かのダックスという最強剣士とタメを張るくらいの実力者。  そして気分で人を殺す怪物は。 でかい金棒とでかい大剣を背負って悠々となんでもないようにこちらに近づいてくる。  スキンヘッドに敷き詰めるほど掘られた刺青が青く光っている。  「なぁ?俺様はこの落とし前をどうつけるのか聞きたいんだが?」  「あ……ぁ………。」  佑樹は…動けない。声も出せていない。  俺もその気持はわかる。    殺気とか、殺意とか。戦いの世界に身を置いても今までそういう物を感じたことはなかった。  そんなものは無かったんだと思ってた。  でも今は違う。  これが殺気なんだ。  戦ったら確実に死ぬというイメージ。予想。  これが殺気なんだ…。  勝てない。  逃げなければ。  早く逃げなければ。死ぬ。  「はぁ…ぁぁ……ッヒ…。」  佑樹を置いてか?  また逃げるのか?  仲立さんやガークを置いて逃げたときのように?  ヴァルを…見捨てようとした時のように…?  …。  やめたんだ。そう、ここだ。  ここでやらないと、また同じところに落ちちまう。  そう決めたんだ。  「…そこで止まれ。」  「…あ?」  佑樹の前に立ちふさがった俺を見たからか。  俺が取り出した長剣を見たからか、俺の周りに浮いている土弾を見たからか。  ニギは動きを止めた。  あの竜を斥引力魔法で縫い留めなかった分、魔力が少し余ってる。  魔力の計算が甘かったからそれでも残り少ないが、ハッタリにはなる。  数発位なら…打てる。  …そして近づかれたら俺は勝てない。絶対に勝てない。  だからこの距離で勝負しないと。  「つまり…手前ぇは俺の狩場を荒らした挙げ句、俺様に指図しあまつさえ殺そうとしてるわけだ。ん?」  「…あんたと敵対する気はない。」  そう。  ニギも俺と敵対するつもりは無かったのかも知れない。  朗らかに近づいて俺達と握手でもするつもりだったかも知れない。  だが近づかれたらもう打つ手はない。  誰も居ない場所で、奴に手も足も出ないルーキー二人。  奴は金の匂いがすると言っていた。  俺達のことだろう。  殺さずに奪うほうが楽と考えるだろうか、殺して奪うほうが楽と考えるだろうか。  「その割にゃあ殺る気まんまんじゃねぇか?」  「近接最強のあんたの近くじゃ取引もクソもねぇ。俺達を殺して終いだ。」  「…ヘッヘッ。この距離なら俺と対等に取引できると聞こえるなぁ。あ?」  「…あんたの言う通り俺達は金を持ってる。ほらっ。」  金貨70枚が入った袋を投げ渡す。  「へっへっへ…。おぉ…結構持ってんじゃねぇか。」  全く躊躇うこと無く奴はそれを受け取る。  「…その金は好きに持っていっていい。…ここにいる奴らも金に変えようと思って狩ったんじゃない。襲われて仕方なく狩ったんだ。勿論、こいつらの魔石も持っていって構わない。」  「…へぇ。」  「その金はこの狩場を荒らしてしまった詫びだ。これで俺達が持ってる金目のものは何もない。あんたに取っちゃ何の価値もない防具と武器だけだ。」  「…。」  「このクソみたいな装備を奪うために俺達を殺したいってんなら、しょうがない。俺達も死にたくはねぇから全力で戦わせてもらう。」  残り少ない土弾に魔力を込める。  魔力を濃くして…材質を変えて…そう、確か…仲立さんは、そういう武器があると教えてくれた。 ウラン?プルトニウム?だっけか?そういうイメージ。  名前は…何だっけか。忘れた。  弾は小さくなるし、一つしか出来なかったが…当たれば、毒になると言ってた。  治癒魔法があるこの世界でどれほどの効果があるか解らない、そもそも俺の元素変換魔法でそのウランとかプルトニウムにできてるのかも解らない。  でもこれがうまくいったらかすり傷でも与えれば、体内に取り込ませれば、死ぬか生きるかの話になる。  「…。」  …いや、そもそもこいつがそういうものだとニギは分かってるのか?  言ったほうが良いのか?  逆にハッタリだと思われるか?  そもそも信じてくれたとして理解してくれるのか?  「…かすり傷位は付けられるぜ、この弾でな。」  「…へっへっへ。分かった。良いだろう。お前の話を信じよう。…確かにこの距離は宜しくねぇからな。」  「…。」  「…お前の名は?」  「シャムだ。」  「シャムね。…確かマルタにそんな男のことを言われたな。…まぁ、いい。覚えておくぜ。…覚えておく。俺は、絶対に、お前を忘れない。」  「…。」  「…まぁ、今日の所は引き下がろう。…信じてくれていいぜ。っへっへっへ。」  「…。」  ニギはそう言って俺達に背を向ける。  あのでかいドラゴン、そいつの魔石は手に入れたいようだ。  他のドラゴンの魔石も持っていくのか?  …何か…考えてる素振りを…。  …結局他の雑魚はいらないのか。  本当に何でもないように行動してるな。  魔石の取り出しも一振りで真っ二つにしたし、やはり、慣れてる。  …特に何か俺達にするでもなく、普通に去っていった。  …隠れてるとか無いよな?  俺達が隙きを見せた後ズバッと…。  一応風探査魔法で探るか。  …大丈夫だな。普通に帰っていってる。  常時探査魔法を展開したいが…魔力が…。  だが今は取り敢えず、奴はここから離れてる。  今すぐ襲われたりはしないか。  「…はぁ~~~。ヤバかったなあいつ。でも絶対名前覚えられたよなぁ?」  「…。」  「…佑樹?大丈夫か?」  「あ、ああ…。何だっけか?」  「…あぁ~。取り敢えず、あいつが拾わなかった雑魚蜥蜴の魔石集めないか?あいつら一体火蜥蜴くらいのサイズあるだろ?魔石だけでも結構な儲けになるんじゃないか?」  「ああ…。そうだな。…俺が集めてくるよ。休んでてくれ。」  「いや、俺もやるよ。魔力がすっからかんだから時間が…。」  「いいって!休んでてくれ!俺がやるから!!」  「お、おう…。じゃあ、少し休んでるよ。魔力が回復したら手伝うから。」  「ああ…。」  大丈夫か?佑樹は…。  やっぱ金が殆どなくなったの気にしてんのかな。  自分のせいでって思ってるみたいだしな。  でもおかげで大量の魔石が手に入りそうだし、結構儲かるんじゃないか?  うん。  換金した後くらいにそんな感じで伝えれば良いだろ。  気にし過ぎなんだよなぁ。  …まぁ、無事にギルドまで辿りつけるかどうかが心配だが。  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  結局無事にギルドまでたどり着けた。このうるさいうるさい冒険者ギルドに。  っていうか随分騒がしいな。普段こんなにうるさかったけか?  …まぁ、良い。 魔石は100個以上あるよな。もう面倒くさくて数えてないが。 二人の麻袋いっぱいに魔石を詰めて持ってこれた。それくらいはあるだろう。  いや~~、大変だったわ。  ニギは居なかったが、途中途中に会う魔物がなぁ…。もう戦う力は無いからとにかく逃げて隠れて…。  結局戻るのに一日近くかかったか。  水は魔法でなんとかなったし、俺が持ってた保存食で最低限食えてたが、やっぱり腹減ったわ。  換金したら飯食って寝よう。うん。  「白金貨7枚と金貨20枚だ。端数はおまけしといてやったぜ。」  「白…!」  「と、とんでもねぇな…。」  「く、苦労したかいがあったな。終わりよければ全て良し!俺達大金持ちだぜ!ハル!!」  「そ、そうだな…。」  「これで暫くゆっくり出来るな!!暫く贅沢してもいいな!!」  「おう…、こりゃ…すげぇな…。」  「お前たちも中々の実力がついてきたじゃねぇか。水竜のスタンピードを片付けるとはな。ふたりとも城下級の試験を受けるか?火蜥蜴を一人でやれれば合格だが。」  「あ~、そうだな。時間が出来たら受けよう。いいよな?ハル。」  「あぁ、構わねぇぜ。」  「そう言えばなんでこんなにうるさいんだ?何かあったのか?」  「ああ?知らないのか?エイサップ共がジャキジョイの群鳥域を抜けたんだ。そして竜の巣に突入していった。冒険者共はとんでもねぇ騒ぎになってるよ。ジャキジョイを抜けるなんざ半端じゃねぇってな。本物の実力者だってな。」  「そういうことか…。」  「冒険者っていうか俺達にとっちゃ英雄みたいな奴だからな。奴隷上がりで、実力もあって、王族も大陸級冒険者達も翻弄してる。胸のすく思いさ。」  「随分お上に不満があるんだな。」  「…不満があることすら分かってなかったんだろうな。それがみんな当たり前だと思ってた。でも奴隷が、俺達よりも下の階級の奴隷が上に逆らって、生き延びてる。これで興奮しないほうがおかしいさ。」  「…そういうもんなのかねぇ。」  「そうさ。だが、もう賭けは成立しないだろうな。ここまで来てくたばってるってことは無いだろう。もうみんなそれを願ってる。それに…エイサップの情報が入ってこなくなってる。奴らも情報を垂れ流しにする方がまずいって思い始めたのかもしれんな。…ここまで逃げるのも予想外だったんだろう。」  「ふぅ~ん。まぁ、確かにダンケルとも賭けが成立しなかったしな。」  「だから今はお祭り騒ぎなのさ。皆、逃亡奴隷を自分の代わりみたいに思ってるんだ。英雄って言ってるやつもいるんだぜ?」  「…英雄ね。」  気楽なもんだぜ。  こっちは命がかかってんのによ。  …しかも奴らは確実に俺達に近づいてきてる。  「まぁ、そういうことなら分かったよ。ありがとさん。」  「ああ、予定が会いたら教えろ。城下級への試験をするからよ。」  「分かった。」  …チケットは、チケットは何時届くんだ。  エイサップが俺達に辿り着く前に届くのか。  …とりあえず飯食って寝るか。
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