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 「なるほどね…。」  「すまねぇ…勝手に決めて。」  「…でもなんでその子は助けたいんだ?…言い方は悪いけどさ、奴隷なんざそこらに腐るほどいるじゃねぇか。そいつらは見捨ててその子だけ助けるのか?それとも知り合いか?」  「…いや、そういうわけじゃねぇ。ハルには話したけど、…ここに来てからまずナガルス族の人に助けられたんだ。すげぇ…世話になった。でも結局何も返せずに死んじまってよ。…だから、出来るだけナガルス族は助けようと思ってるんだ。…ただこの大陸では…。」  「あぁ、そう言えば言ってたな…。…確かにこの大陸じゃあナガルス族はな…連れて歩くだけでも目立つ。…俺達の旅はより過酷になるぜ?」  「…すまねぇ…。…でもハルはもう言葉も分かるし、中級冒険者レベルの力はある。冒険者ギルドからランクアップの話があったから。ここで中級冒険者ってことは他のとこじゃ上級に片足突っ込んでる位だって…。ぶっちゃけ俺と組まなくても逃げられるだろ?…いや、俺と別れたほうが逃げやすいはずだ。チケットは3枚来るだろうし…、チケットが来たら俺とその子だけで…。」  「おいおいふざけんな。見くびるんじゃねぇよ。俺は勇者、元勇者だぜ?ビビってこんなこと言ったんじゃねぇ。ただシャムにその覚悟があるのか知りたかっただけだ。」  「…ああ…覚悟してる。いざという時は…人を殺すことだって…。」  「…分かった。分かったよ。…とにかくチケットが来てからだな。…そう言えば、なんだそのごちゃごちゃした奴?」  「ああ…これ?持ち運びタイプの薬調セットだ。結構いいやつだぜ?そろそろ自作の薬も少なくなってきたからさ。補充しとこうかとね。売ってる薬は買って揃えられたけど、売られてない薬もあるからな。常に作っておかないと。腕も錆びつかせる訳にはいかないしな。」  「ああ…そう言えば薬も作れるんだっけ?教えてくれるとか言ってたけど本気か?結構貴重な技術じゃねぇのか?」  「かなり貴重だと思うぜ。でも…教わった人の遺言…ってわけじゃねぇんだけど、色々な人に教えてやってくれって言われてさ。望むなら人に教えようと思ってんだよ。」  「…じゃあ、せっかくだから教わろうかな。しかし教わってばっかりってのはな…。」  「別に気にすんなよ。大したことじゃないさ。」  「いや、何か…何かないか?俺が教えられること…。いや、ないか…。俺なんかがお前に教えられるようなことなんてな…。」  こ、これはまずい。  ダウン系の時の佑樹だ。  一度下がると自分を追い詰めるし…、何か、適当なの無いか。何でもいい。知識的な…あ!  「あぁ!!そう言えば!!聞きたいことがあったんだ!!」  「ん?そうなのか?」  「ああ…、えーと、ハルのその指輪って魔道具?ってやつなんだよな?」  「ああそうだよ。ちょいと使うのにコツがいるが…いい魔道具だ。」  「実は俺も魔道具?らしきものをもらったんだが…うまく使えないんだよね。結局使わないまま放って置いてるんだけど、なんかコツとかある?」  「どんな魔道具なんだ?」  「ああ、えっと…何処だっけな?…あったあった、これだ。これ。モノクルっていうんだっけ?これを掛ければ魔力の流れが見えるぞって貰ったんだけど、掛けるとそこら中にある魔力が全部見えてさ。全く前が見えないのよ。ほら、俺って片目じゃん?だからとても掛けたままに出来なくてさ…。」  「へぇ…。結構良さそうな魔道具だな。魔道具にはいくつか種類があるが…大別して簡単に使えるやつと使うのに技術がいるタイプが有る。俺の指輪は簡単に使えるやつで、シャムのは技術がいるタイプだろう。」  「…じゃあ、やっぱ無理か…。」  「いや、待て待て。こういう技術が必要なタイプは最初のハードルは低いものもある。なるべく長く身につけながら技術を磨くようになってるはずだから…。この眼鏡で言えば、人の体内に流れてる魔力から感情や心情まで分かるようになったりだとか、次の動きを予測したりだとか…。そういう技術を身につけるのは確かに難しい…。だがただのメガネのように使うことくらいは簡単に出来るはずだ。…付けて全然前が見えない程ってのは…、壊れてるってことない?」  「う~ん…、一応これ貴族から貰ったんだけど、褒美?報奨?的な感じで貰ったんだよね。いくらなんでもそれで壊れた物を渡すってのは…。っていうか渡される直前まで使ってたっぽいし。」  「それじゃあ、壊れてる可能性はないな。…んん~…。魔力はどうやって流してるんだ?」  「ん?魔力?剣とかに込めるみたいに、全体にガッっと…。」  「ん?入口と出口はないのか?」  「入口と出口?」  「…こういう魔道具には魔力を込める時の入口があるんだ。出口も。入口から魔力を入れて出口から魔力を出すイメージで循環させる。」  「…なにそれ聞いてない…。どこにあるの?それ。」  「ええ…っと…。大抵は分かりやすい所に付いてるもんなんだよ。後は穴とかが開いてる場合が多いな。穴を開ける意味はないんだが、魔道具のルールっつーの?そういうのがあるんだよ。色を付けたりとか。まぁ、わざと違和感があるところを作るんだ。」  「マジで…?そんなこと一言も言ってなかった…。」  「知ってて当然だと思ったんじゃないか?シャムはかなり魔法が使えるだろ?それを見たら向こうも当然魔道具の使い方を知ってると…。お?これじゃないか?ここに小さな穴が開いてる…。あともう一つあるはずだが…、大抵はこの穴から一番遠い…。…これだ、ここ。鼻にかける所に一個、耳に掛ける部分に一個。」  「おお…確かにある。これは…ここから魔力を流せば良いのか?どっちから流せば良いんだ?」  「まぁ、どっちも試してみるのがいい。すぐ分かるからな。だけど、こういう体につけるような魔道具は、根本から先端に流すような物が多い。手袋の魔道具だったら、手首から指先に向かってとか、靴だったらくるぶしから指先へって感じにな。もちろん例外もあるが。」  「となると…この鼻にかける所から耳まで流すような感じ…お、おおお!!おお!」  「うまく行ったか?」  「ああ!!見える!!普通の眼鏡と同じだ!!普通に見える!!」  「あとは、その流す魔力を操作していって、その魔道具を使いこなしていくのがいい。」  「ああ!ああ!ありがとう!!これマジで使えなくて困ってたんだよ!もったいないしさぁ!」  「確かになぁ。こういう探査系とか調査系の魔道具って結構多いんだが、やっぱあると便利なんだよな。数が多い理由が分かるよ。」  「だよなぁ。お!魔力を見えなくさせたりも出来る!これはいいな!」  「へっへ。良かったな。まぁ、この街じゃ掛けらんねぇとは思うが、見えない所では訓練しといたほうが良い。」  「ん?なんでこの街じゃ掛けられんの?」  「ん?だってそれ魔道具だぜ?よく出回ってる魔道具にしても…白金貨7,8枚は下らない。そんなもん付けて回ってたらチンピラの皆さんに差し上げます!って言ってるようなもんだよ。」  「えぇ…。ちょっと高すぎやしませんかね…。いくらなんでも。渡した金貨はそこまでの額じゃ無かったと思うんだが…。」  「それほど、シャムを買ってたってことだろ。まぁ、とにかく俺達はこれ以上目立つことは控えなきゃ…。」  「おう!!ハル!!昨日は凄かったな!!貴族相手にあんな啖呵…しびれたぜ!!」  「あ…ダンケル…あ、おう…。」  「あの後あのバカ貴族お前の名前をブツブツいいながら帰っていってたからな!!笑えた!!」  「い、いや、結構その場での適当な感じで…。」  「?ナガルスが俺たちと無闇に戦わないってのは知ってたからじゃないのか?」  「そりゃ…各地で目撃されても争わないんだろ?知ってたよ。」  「…まぁ争わないってのは間違いじゃない。だがビビってこっちから攻撃したこともあったみたいだぜ?」  「へ?だ、大丈夫なのかそれ?」  「それが大丈夫だったらしくてなぁ。まぁ、殆ど一般人が弓とかで攻撃しようとしただけだから大した事はねぇんだが…中には結構な強さの冒険者とか騎士とかが攻撃したこともあるそうだ。」  「全然攻撃が通じなかったのか?」  「いや、通じた。結構な致命傷を与えたこともあったそうだ。」  「えぇ…それで争いにならないのか…?」  「それがならないんだよ。次の日ケロッとしてまた空を飛んでるんだ。確かに大怪我させたはずらしいんだがな?」  「…。」  「まぁ、とにかく奴らは理性的な奴らだ。無闇矢鱈どころかこっちに攻撃すらよほどのことがないとしてこない。っていうかよほどのことがあってもしてこないんだよ。あんたの言ってることは正しかったってわけだ。知ってたのかと思ってたが。」  「いや…初耳だ。」  「そう?まぁ、とにかく昨日の啖呵は見てた奴らがみんな言いふらしてるぜ?元気なルーキーがいるってさ。」  「…そ、そう。」  「ま、頑張れよ!」  「おう…。」  「…。」  「…。」  「…なるべく目立つことは控えようって…。」  「…はい…すんません、本当。」  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  「乗船券はまだかよ。」  「…まだだ。後二日、いや、三日掛かりそうだ。」  「明日で約束の一週間だ。明日までに蹴りをつけると言っただろうが。…俺は今日までには来てるもんだと…。」  「…確かに言った。だが要望の乗船券が急に一枚増えたし、そもそもが一ヶ月を二週間ほどに出来る程度で、それは最初から頼まれてた場合…。」  「だが!お前はあの時一週間で蹴りをつけると言ったろうが!そのために高い金を払ったんだ!!裏ギルドは約束を守るんじゃねぇのかよ!!」  「…確かに、その通りだ。これはこちらの落ち度だ。あと二日か三日、遅くて四日を超えることなんざないはずだが…。」  「そんなんどうでもいいんだよ!!俺たちは!!明日!乗船券がほしいんだ!!」  「おい…シャム。落ち着けって。来ないもんはしょうがない。届かない場合のことも考えないと…。」  「来ない?来ないだと?せっかく、ハルの命を掛けてまで密輸して金を作ったのにか?!こいつらはそこまでのことをさせておいて仕事すら果たさねぇだと?!」  「…俺達は金になる仕事を紹介してくれと言われたから紹介しただけで、その仕事をしたから乗船券を渡すわけでは…。」  「…そんな理屈が通るとでも?」  「…。」  「お前らは、俺たちが、乗船券を、欲しがってたことを知ってたはずだ!心の底から、欲しがってたことを!俺たちの財布事情も!追われてることも!知ってたはずだ!!俺たちが断れないことを知ってて密輸を紹介した!しかも人質まで取って!」  「…。」  「どう考えたって乗船券が欲しけりゃこの仕事をしろって意味だろうが!俺は、俺達は仕事をこなした!あんたらは仕事をこなさねぇ!これが通る話なのか?!」  「シャム、シャム。落ち着け。俺は気にしてねぇ、気にしてねぇから。どんな事をしても上手くいかないことはある。大事なのは次どうするかすぐ考えることだ。失敗したことに固執したって良いことはない。特に今の俺たちにはな。」  「……。…そう、そうか…。そうか…。そうだな…、…こんな所に仕事を頼んだのが間違いだった。俺が最初にミスしたのが悪いんだ。すまねぇ、ハル。」  「気にすんな。俺がここを紹介したようなもんだ。とりあえずチケットは来ないものとして今後どうするか考えよう。とりあえずここを出ようぜ。」  「待て。待て…。確かにシャムの言うとおりだ。あんたらにここまでのことをさせておいて、あれだけ儲けさせてもらってあんたらの仕事を果たさないってのは筋が通らねぇ。…明日の朝一番に来てくれ。必ずチケットを三枚分用意しよう。どんな手を使ってもな。これは俺たちの沽券に関わることだ。」  「…信じられねぇ。」  「必ずだ。朝一番にここに来い。朝の鐘が鳴った後、直ぐに来てくれ。なる前には来るなよ。鳴った後だ。俺たちは奥の手を使う。…足が出るが金を貰って仕事ができねぇじゃ何処の業界でも生き残っては行けねぇ。」  「…。」  「シャム。そもそも約束の期日は明日だ。待とうぜ。」  「…ああ…。乗船券が来るまで、乗船券が来なかった時どうするか考えておこうぜ。」  「…ああ…、そうだな。色々考えておくのは悪くねぇ。」  「……。…エイサップの情報も伝える。これも金を貰ってた仕事だ。」  「…ああ忘れてたよ。仕事が出来るとは思わなかったからな。」  「シャム、いい加減に…。」  「分かった、分かったよ。…今日はハルが応対してくれ。俺は今日もう口をきかねぇ。」  「はぁ…。そうだな。そうした方が良い。すまねぇな、マルタさん。情報ってのを教えてくれ。」  「…あんたはハル…か…。怒らねぇのかい?俺たちはあんたを脅しのタネにしてシャムに仕事をさせたんだ。」  「ハッハ。構わねぇよ。生き残る算段もあったしな。むしろあんたらが監視してたおかげで安心して迷宮に入れてた位だ。…二度目の時はあんたらのおかげで助かったと言ってもいいしな。シャムに伝えてくれて助かったよ。」  「…俺達は俺達の算段があっただけさ、礼を言われる筋合いはねぇ…。…だが今のあんたを俺達だけで攫うのは相当骨が折れそうだ。…驚異的な成長だな。」  「へっへ、そうかい?喜んで良いのか微妙な褒め方だな。まぁ、ありがたく受け取って置くよ。」  「…エイサップの情報だったな。ザリー公爵領に着いてからは暫く療養と情報収集を行ってたようだ。」  「行ってた?もう終わったのか?」  「ああ…。情報収集は終わったらしい。エイサップは独自の手法を使って追手を追うが…対人関係が点で駄目でな。人に話を聞いての情報収集が出来るやつじゃねぇんだ。だが、毒花エレンザレムがな…こいつは対人間から情報を聞き出すことに優れてる。恐らくかなりの人間から情報を集めたんだろう。」  「…そうか…。」  「そしてエイサップチームが昨日、ザリー公爵領を出発した。これは俺達が掴んだ情報だが…、冒険者たちも知ってる。というより、奴らが近づいてきてるからかな、冒険者たちも自身で情報を集めている。」  「そうか…。少し前までお祭り騒ぎだったのになんか静かになっちまったよな、冒険者達。情報を集めてるのに関係があるのか?」  「うぅ~ん…関係があると言って良いのか…。…どうやらエイサップ達はガハルフォーネ侯爵領を目指しているらしい。ガハルフォーネの迷宮都市をな。…つまりここを目指している。」  「…。」  「…。」  「その話が冒険者達の間で広まってな。…ここに逃亡奴隷がいるんじゃないかって話になってる。もちろん、もう通り過ぎてる可能性も考えてるが…、もしかしたら俺達の英雄が俺達の町に…ってな。冒険者たちは今、息を潜めるように過ごしてるよ。」  「…エイサップ達は何時頃ここに付くかね…?」  「奴らは昨日発った。どんなに早くてもここには三日は掛かる。…つまり明後日だな。…あんたらが乗船券を手に入れた一日後だ。」  「…。」  「…。」  「あんたら二人と、奴隷のガキ一人。密輸の時の移動速度を考えれば、一日あれば撒けるはずだ。…奴隷のガキは領主の館の馬小屋に飼われてる。朝昼と連れ回すことはあるが、夜になれば必ずそこにいる。」  「…乗船券を受け取って、その日の夜にその子を攫い、そのまま逃げればいいってことか…。」  「そのとおりだ。…その子には奴隷紋が刻んであるが…、問題ないよな、あんたなら。」  「…ああ。」  「っへ。とんでもねぇ話だ。逃亡奴隷はお上を手玉に取るどころかリヴェータ教の鼻も明かしてたとは。」  「…。」  「…しかし…、随分優しいんだな。俺達に協力する意味はあまりないと思うが。」  「協力なんざしてねぇよ。金を受けた仕事は果たす。それだけだ。」  「じゃあ、エイサップたちがもし、あんたに逃亡奴隷の情報を聞きに来たらどうするんだ?金を払ってさ。」  「もちろん、話すさ。それが裏ギルドってもんだからな。…まぁ、どんなやり手でも俺の眼の前に来るには3日は掛かるだろうがな。」  「…よく、分からないな。じゃあ、さっきの乗船券の話はどうなるんだ。乗船券が二日遅れたら俺達はもう受け取ることは出来ないだろ。あんたらの協力は乗船券が明日に届いてこその話だ。」  「…もし、乗船券が二日遅れたら別の場所で渡すつもりだった。アギャンバ伯爵領でな。先に行って現地で渡すわけだ。」  「…エイサップを撒く程の俺達の足に追いつけるのか?」  「追いつく必要はない。現地にいる俺達の根に直接乗船券を買ってもらって手渡せばいい。情報は一瞬で伝えられるからな。」  「ああ、学士を使うのか。なるほどね…。しかしそうなったら大分大損だな。乗船券を倍買うことになる。今こちらに運んでる分は無駄になっちまうところだったな?」  「ッハッハ。あんたは知らないかもしれんが、乗船券の値段なんざ大したことねぇ。ぶっちゃけかなりぼったくってるからな。この値段は後ろ暗い人間用だ。」  「…なるほどぉ…。納得したよ。あんたらが何故俺達の味方をしてくれてるのかはわからないままだが…あんたは言ってくれなさそうだ。」  「っへ。元奴隷の話なんざ聞いてて楽しいもんでもないからな。」  「!!…明日の朝、また来るよ。」  「ああ…。…あんたは何か不思議な魅力があるな…。…人質にして、悪かった。」  「次にする時は言ってくれ。こっちも準備があるからな。」  「ああ、そうしよう。」  佑樹は…すごいな。  俺はあんなふうにうまく出来ない。  怒ると…ああいう風になっちまう。  もっと冷静にならないと。佑樹みたいに。  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  「俺は領主の馬小屋の方を調べてくる。下見だ。乗船券の受け取りは…、翔で大丈夫か?」  「…大丈夫だ。もうヘマはしない。きっちり受け取って、今日の夜奴隷の子を攫っておしまいだ。」  「分かった。俺達の目的地はアギャンバ伯爵領最西端のリバリー港だ。この街から南下してぶち当たった川の下流に向かえば間違いなくつける。南の岸側だな。一応大丈夫だと思うが…、行き方を調べてくる。色々な。それ以外に必要なことはあったっけ?」  「いや、保存食も旅の準備も終わってる。途中で狩りだって出来るしな。少なくとも食う飯に困ることは絶対にないさ。」  「了解だ。チケットを受け取った後は宿で落ち合おう。後は夜になるまで領主の館で張っておけばいい。」  「ああ。じゃあ、行ってくる。」  「おう。冷静にいけよ。」  「もう大丈夫さ。」  急げ、急げ。  今日が運命の分かれ道だ。  今日さえうまく行けば、うまく行けば南部大陸に行ける。  絶対に行く。  佑樹と南部大陸に行って、ナガルスぶん殴って、日本食を作って食いまくろう。  楽しみだ。  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  「乗船券三枚だ。確認してくれ。」  「…確かに、乗船券、リバリー港発ワサド港行と描いてある。…オールドタウン経由?」  「ああ、航路上一発で行けるわけじゃないからな。補給の意味も兼ねてオールドタウンに寄る。というよりリバリーとオールドタウンとワサドで貿易をしてるだけだな。人も物も運んでるだけだよ。」  「なるほど。ワサド…って南部大陸にあるドワーフの…。」  「そう確か…誉れ高き平野ワサドの一族が治める港だ。ここはドワーフのくせに商売っ気が強い一族でな。港も持ってるんだ。色々なところと貿易してるからな。多分ハルダニヤのどの港より儲かってるぜ。」  「そういうもんか…。あまりドワーフが商売やってる想像が出来ないが…作った武器を売ってるわけだしな。商売が出来ないわけがないか。」  「そういうことだ。」  「しかし良く乗船券を用意できたな。絶対無理だと思ってた。どうやったんだ?」  「…まぁ、奥の手だ。おいそれと教える訳には…。」  「俺だよ。」  …。  …この声。  …まさか。  そんな。  何故奴に気付く事が出来ない。前も気付かずに近づかれてた。  「ニギ…どうして…。かなり前に出ていったはずだ…。いや、何故気付かなかった。俺はここの中ぐらいだったら流石に…。」  「おいおい。大陸級ニギ・サンダーボルト様を舐めるなよ。お前ら程度に気付かれる訳ねぇだろ。」  「ニギ…さん。」  「この俺を足に使ったやつがどんなやつか拝んでおこうと思ったら…まさか手前ぇか…。よく会うなぁ…えぇ?」  「…。」    「ニギ、…あんたは納得して仕事したはずだろう?物を受け取って全力で戻ってくるだけだ。しかもガハルフォーネ領内での話だ。美味しい仕事と言えるだけの金も弾んだはずだ。」  「それとこれとは別だ。この俺を足に使った苛立ちが収まるわけじゃねぇ…。…随分と焦ってるようじゃねぇか。こんな乗船券を慌てて手に入れてよ…。もう今日には出発すんのか?」  「…。」  「おいおい…。苦労して運んでやった功労者の雑談にも答えられねぇってのか?あ?」  「…そうだ。明日の朝にはいなくなってる。…あんたからしたらムカつくやつがいなくなるんだ。いい話だろ?」  「そうだなぁ…。確かに手前の面を明日で見なくなるのはいい話だ。…だが迷宮での借りを返してねぇ。」  「…それは…金を渡しただろう?でけぇ水竜の魔石も渡した。…それで手打ちじゃねぇのか。」  「おいおい、ハッハ、勘違いするなよ。あれは俺の狩場を荒らした分の金だ。そうだろ?」  「…。」  「俺に剣を抜いて、俺のことを殺そうとした分を返してねぇ。それとも忘れたか?あぁ?」  「…あの時は…そうしないとあんたに殺されてた。…自分達を守るためにしたことだ。決してあんたを殺そうとしたわけじゃ…。」  「だが、だがよぉ!俺はビビっちまったんだよぉ…!怖くて怖くて…チビリそうだった…!…どうしてくれんだよ。お?お前のおかげで眠れない夜が続いたんだぞ?」  「…。」  「…もちろん冗談だよ冗談。ちょっと場を和ませようとしてな…。分かってるって、あの件は金を貰ったから貸し借りなしだ。俺は仕事は真面目だが、金にならねぇ殺しはしねぇぜ?…じゃあ、俺は失礼するぜ。うまく逃げられるといいなぁ。南部大陸まで。」  「…。」  「そんな顔すんなよ。俺のことを信じてくれ。な?アハハハッ」  「…。」  「…。」  奴は何故こんな簡単に俺の背後を取れるんだ。  街中でも探査魔法は常時使ってるんだ。気付かないはずがない。  奴が話しかけてからは探査魔法に引っかかった。今は…確かに奴はいなくなった…はずだ。  だがどうして…。  「…あんたら街を出たほうがいいかもな。直ぐに。」  「…いや、それはだめだ。あの奴隷の子を連れ出せない。夜まで待つしか…。」  「だがあそこまでニギに目をつけられてるんだ。もう…奴隷のガキは諦めたほうがよかねぇか。」  「…いや、いや。諦めない。あの子は必ず連れて行く。」  「…それは…俺としても嬉しいがよ。三人死ぬより、一人死ぬほうがいいだろ?」  「…三人生きてた方がもっといいだろ?」  「…まぁ…な。…今日会ってその日の内にあいつがなにかすることも…ないだろ。今日中に全て片付けば全然問題ないだろ…。」  「その通りだ…。だが、昼から館を張って機会がありそうだったらすぐに攫う。早く出ていけるに越したことはない。」  「それはそうだな。急げるなら急いだほうがいい。とっとといけ、英雄。」  「…ああ…じゃあな。」  やっぱり、逃亡奴隷って事は気付かれてたか。  懸賞金目当てに殺されなかったのはラッキーか。  こいつは何時気付いたんだろうか。  …まぁ、いい。今はそんなことは些細なことだ。  早く宿に…。  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  …まだか。    …佑樹はまだかよ。  くそ…何処に行ってるか聞いておけばよかった。  時間がないってのに…。  「おう。早いなシャム。無事チケットは…。」  「佑樹!今すぐ出よう!とにかく早く…!」  「え、おい、どうしたんだよ。え?」  「行きながら話す。とにかく出よう。」  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  「マジかよ…。ニギを運び屋に使ったのか?それで俺達がピンチになってるじゃねぇか。」  「ああ…。マルタは俺達を会わせるつもりもなかったみたいだけど…。…どうやら運び屋ってところがニギの癇に障ったみたいで…。」  「それで隠れてたって訳か…。なぁ、迷宮の時も気付かなかったよな?」    「そうなんだよ。おかしい…、俺の探査範囲はかなり広いはずなのに…。」  「相手の探知をくぐり抜けられるのか…?…ありゃ何だ?館…?の前に人だかり…?」  「…嫌な予感がする。」  風探査魔法…展開。  音を拾って…。  「ニギ殿、そろそろいいのか?」  「待ってくだせぇよ。アンディ様…お、いいぞ。やってくれ。」  「む…。オホンッ。あーあー。諸君!!以前からナガルス族を恐れていただろう!!このナガルス族の奴隷によって!!」  !!  こ、これは…まさか…。  「お、おい、翔。これってひょっとして…。」  「…い、行くぞ。とにかく…。」  「確かに、このガキを殺せば奴らは怒りのまま襲ってくるだろう!この街すら危うくなる!!だが!ここにいるニギ・サンダーボルトが!大陸級の冒険者が!解決策を示してくれた!!」  「なんと!なんと!!彼がこの奴隷の始末を付けてくれるのだ!しかもナガルスの怒りを一身に受けてくれると!!…ニギ殿。」  「おう。…てめぇら!!どうやら大分ビビってるようだが問題ねぇ。このガキを殺した後、ナガルス共にこいつの首を持って言ってやる!ハルダニヤを恐怖に陥れる逆賊共よ!この俺様が正義の鉄槌を下してやったぞ!文句があるなら掛かって来い!ってな!」  「大丈夫なのか…あれ?」  「だがニギなら…。」  「大陸級とは言え一人だぜ…?」  「じゃあお前が言えよ。俺は嫌だ。」  「俺だって嫌だよ。」  「はぁ…暫く隠れるかな…。」  なんて…なんてことを。  こ、これは…。  …もうダメか。助けられない。  ニギには、勝てない。俺じゃ絶対に。勝てない。  乗船券は手に入った。あとはリバリー港から船に乗れば…逃亡生活も終わりだ。  ここで無理する必要なんて…。  「しょ、翔…お、俺は…あれ……。お、俺は……。」  そう。佑樹も分かってる。ニギに勝てない事は。  奴が俺達に気付いてないならまだしも、奴は俺達に気付いてる。いや、こっちを見てる。  「お前らみたいな!!根性無し共はいつも考えてる!!逃げることばかりを!!大したことない人間の癖して後生大事にその下らねぇ命を惜しんでやがるんだ!だからいつまで経っても弱いまま何だよ!!」  …俺達を見ながら言うんじゃねぇ。分かってるんだよ。そんなこと。  ……自分の命を惜しんで逃げた先には何もない事くらい。  「しょ、しょう…お、俺は…俺は……。あっ。」  佑樹…すまん。チケット…お前の分だけ渡しておくよ。先に逃げてくれ。  しかし風探査魔法にも…ニギは反応しないんだな…、今は音を聞くようにしてるのに…、息遣いも心臓の鼓動も聞こえない。  不思議だ。  …はぁ…。後少しだったのに。  ここで死ぬのか…。後もうちょっとだったのに。  「ニギ!正義の裁きを下すのだ!!」  「はいはい。ガキ、ついてなかったな。…オォぉぉぉ……!!」  「……………………お母さん。」  「ッラァ!!…。………ッフ。…ッフッフッフ。」  だが。  だがよ。  そういう生き方はもう出来ない。  モニに誓ったから。それだけはもう出来ない。  「…おい、あれって…。」  「…ああ…ルーキーだ。ニギに喧嘩売った。」  「…マジかよ…。」  「あ……しょ…あ、お、俺……俺は…。」  「…これは、どういうことだ?ニギの、いや我々の正義を邪魔するものがいるぞ。なぁニギ?」  「えぇ…、こいつは大問題ですよ。参ったなぁ…。え?シャムよ。その薄汚ねぇ服をどけてくれねぇか。硬くて切れねぇんだ。」  「…うるせぇんだよ。てめぇらの反吐が出そうな臭せぇ息にはうんざりしてんだ。…今すぐこの子を置いて失せろ。そうすれば命だけは助けてやる。」  奮い立たせろ。心を。  戦うと決めたなら。一歩だって引くな。  欠片だって弱みを見せるな。  「ック…ッグフ……ッグックックック…。フフ…。ッオホン。…と言ってますがアンディ様どうします?」  「ん~…。それは…いかんなぁ。え?ナガルスは逆賊なのだ!我々ハルダニヤ国の敵だ!敵を生かせばどうなるかわからん。それが子供でもな。そのガキを殺すのは、この街の皆を、いや、ハルダニヤ国の未来の子供達を救う正義なのだ!!その正義を邪魔するものは…悪だ。当然だよなぁ?」  「なるほど…正義の為なら…悪を成敗する為なら…しょうがねぇなぁ…。ッグフフ。」  「あぁ…ニギ殿。その男ごとガキを殺せ。」  「任せてくだせぇ。アンディ様。」  ニギは笑った。  こいつはいつも笑ってる。    だが今日は…いつもより喜んでるように見えた。  「お前は絶対来ると思ってたぜ。…前のこと…忘れてねぇから。」  …いいぜ。  来いよ。 …ぶっ殺してやる!
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