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 あたしゃ嫌だって言ったんだ。  どうもろくでもない感じがするって。  そもそもラミシュバッツ卿からの依頼っていうのがまずね…。  確かにこの領は奴隷をうまく使って豊かになってる。それは子爵の手腕さ。…しかも奴隷に落ちればこうなるぞ、という脅しにも使えてるからね。平民以上はそりゃ真面目に働く。大したもんだよ、ラミシュバッツ卿は。  でもだからこそ気に入らない。あたし達は恐怖の上に生活させられてるんだ。  …ふぅ…。  まぁ、ね。  そりゃ最初はね。  そりゃ最初は、あのエイサップと一緒に仕事ができるなんて光栄だと思ったさ。  大陸級なんて、なることは勿論会うことすら稀だよ。  それが一緒に仕事出来るとなりゃあ…、孫の代まで自慢できるよ。  …そう最初は思ったさ。  初めて会った時は…まぁ、大陸級になるってのはこういう事なんだとは思ったね。  あたしと同じ20中盤で大陸級まで上り詰めるってのは、人間らしさとかそういうもんを削っていかなきゃならないんだってね。  …あたしはまだ26歳だ…。  …。  確かに凄かった。  あれよという間に逃亡奴隷の跡を追って一日で追い詰めた。  流石だと思ったね。  あたしが何十人もの冒険者を指揮しても何処にいるかすら解らなかった逃亡奴隷をたった…。  だがここで最初のケチがついた。  逃げられたんだ。  街中にいて周りには味方しかいない状況で…ただの逃亡奴隷を逃しちまったよ。  …魔法を扱えるとは聞いてたが…門をひとっ飛びで超えられるほどの使い手だとは聞いてなかった。  …まぁヘマをしたのは事実だよ。しょうがない。    責任を取るためにもあの逃亡奴隷を追わなきゃならないってのはしょうがない。  誰かがやらなきゃラミシュバッツの冒険者の緊急事態宣言は解かれない。  頭のあたしがやるしかないってことね…。  まぁ、こっちにはエイサップもいる。  直ぐに追いつくと思ったね。  実際、ラミシュバッツの街で次はサウスポートに逃げるって情報も入手したしね。  …あの奴隷は気に入らなかったけどね。まぁ嘘はついていないようだったから…、エイサップもそう言ってたし。  ところが、だ。  奴はサウスポートに逃げてはいなかった。エイサップも魔力の跡が見えないのがおかしい、と途中途中言ってはいたんだ。  だが、あの奴隷が嘘をついていないとエイサップが判断した。そちらを優先して判断しちまったんだよ。…私もそれに賛成しちまったけどね。…普通は直ぐに別大陸に逃げようとすると思うじゃないか…。これで大分遅れを取っちまったよ…。  もう一度ラミシュバッツの街からやり直すことになったよ。  …とは言えエイサップだ。こいつがいれば何時までも何処までも追える。  そんなに心配しちゃいなかった。  戻ったラミシュバッツの街で王都への出頭命令がなきゃね。  ココらへんが次のケチかな。  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  「あなたがナターシャ様ですね。私はハルダニヤ国第一王女、ラドチェリー・ゲム・ハルダニヤです。」  「は、は!…し、知ってる、いや、存じ…上げており…ます。」  「…ラミシュバッツ卿からエイサップ様と一緒に逃亡奴隷の捕獲を依頼されていると思いますが…その依頼、今から私が引き継ぎます。今から依頼主は私…ということになります。よろしいですね?」  …よろしくないですとは言えないんだろうね。  「…は…。」  「報酬とは別に、掛かる経費は全て我々が負担します。逐一の報告を希望しますが…、どれほどお金が掛かっても構いません。エイサップ様の人脈を使って出来るだけ高い実力者を雇って頂いて構いません。必要であれば。一応連絡用の学士を教えておきます。そちらは…学士の一人や二人いるでしょう。」  「…は…は?ど、どれほど…ですか?…エイサップ殿は大陸級で…彼の人脈ともなれば当然…。」  「大陸級、国家級でしょうね。ですが構いません。あなたとエイサップ様が必要だと思う分を必要なだけ雇って下さい。」  「!!…は。」  「それと、今回あなた方に逃亡奴隷を捕獲してもらうのはある目的のためです。…こちらは極秘の話ですが…依頼をする以上お伝えする必要があるでしょう。」  嫌ですよ、王女様。聞きたく御座いません。  「…今回奴隷逃亡と同じ時刻に勇者様がお隠れになりました。私達は勇者の逃亡にその逃亡奴隷が関係していると考えています。」  「ゆ、勇者様が…お隠…逃亡されたんですか?!」  ゆ、勇者が関わってたか~…。  勇者とこのラドチェリー王女が手柄を積み重ねていけば…、いや、もうすでにナガルスを単身撃退という功績を上げてるんだった…。  そして王女と勇者の関係は有名。  つまり…時期王が関わってると言っていい話…。  やばいネタだったのかい…。  「…逃亡ではありません。」  「!!は!失礼しました!」  ここがお気に召されない所かい。  まぁ、逃亡っていったら、じゃあ何から逃げたんだって話になるしね。  戦いが怖くなって…というんだったらまだ分かる。いや、良くはないが勇者は向こうでは兵士でも冒険者でも無かったらしいじゃないか。ただの平民だ。戦いが怖くなるってのは理解できるよ。  戦えないなら戦えないなりに使いようはあるからね…。  …ただもしほかの理由で逃亡したなら…。  もし、王女様から…。  「だからその逃亡奴隷を生きて捕獲して貰う必要があるのです。彼に勇者の行方を吐いてもらうために。」  「…なるほど。…もし、途中で勇者を発見したらそちらの捕獲を優先するということでいいのですね?大事なのは勇者である…と?」  「そのとおりです。あくまで今は手がかりが逃亡奴隷しかないのです。」  「…あの…、エイサップ殿のお力を借りて、勇者様を直接追えばいいのではないのでしょうか?」  「…それは…恐らく無理でしょう。」  「何故でしょうか?勇者様の魔力をエイサップに直接追ってもらえばそれが一番早いかと。」  「…そう、魔力を追えれば、ですね…。…恐らく今の勇者様の魔力と王都にいた時の…、いえ、王族の近くにいた時の勇者様の魔力は質が違っているはずです。全くの別物かと。勇者の特別な魔力…というのでしょうか、それは王族が近くにいることで初めて発揮されるのです。彼はその力を使っていたはずですが…、我々から離れた今、その魔力は無くなっているはずです。」  「…なるほど。それでは追えませんね。」  …今あたしすごい話を聞いたんじゃないのかい?国家の機密情報ぐらいの話し…だよね?  …見逃してくれるかな。  「今のは極秘の情報ですが、依頼を受けてくださるナターシャ様だからこそお伝えしました。エイサップ様にもお伝えしておりません。」  「…その、なぜあたしなのでしょうか?正直彼や彼が集める人達はあたしが及びもつかない冒険者達です。足を引っ張ることしか出来ないかと思いますが…。」  「オホホホ。あなたは彼が人を率いて何かが出来る方だとお思いで?」  「…いえ…。」  「それに他の大陸級、国家級も…あなたも会ってみれば分かるとは思いますが、まぁ、自分勝手な方々です。常識的な方が一人か二人は必要なのですよ。あなたには彼らの管理・監督をお願いします。それ以外は彼らに任せればよろしいかと。」  「…は。」  「まぁまぁ。彼らと一緒に仕事が出来るのはいいこともありますよ。実力者と一緒に仕事をすることで強くなることはよくある話ですからね。前金も満足できるだけ払いますし…成功報酬も…。あなたには他の人よりも多少多くお支払いしようかと思っております。ね?」  「…は。ありがとうございます。」  「あぁ…それとこちらでも人員を何人か用意できました。冒険者のフレーズ・ナーン、ミキ・ナーン、ロパロム枢機卿です。ご存知?」  「…はい。美食家フレーズ、要塞ミキ、聖人ロパロム…。とんでもない方々ばかりですね…。」  「知っているなら良かったわ。彼女らは一生懸命やってくれると思うから、是非仲良くね。」  「は。」  「依頼の完遂を期待しています。」  「…は。」  …依頼が駄目だったらどうなるんだろう…。  …ま、そんときゃあたしのせいじゃない。  これほどの人間が集まって無理なら、そりゃ無理だよね。  うんうん、気楽に行こう。  どーせ失敗したら逃げりゃいいしね。アハッ、アハッ、アハッハッハ。  あたしゃもう関係ないよ!  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  あれから状況はどんどん悪くなってる。  奴は北に逃げたらしい。  鬼の住処に入っていった。  そもそもここをたった一人で抜けられるか?という疑問もあった。  抜けたとして蟻の巣とジャキジョイの群鳥域、そして竜の巣だ。  抜けるのは不可能だろう?  …だがいずれにしろ死体は見つけなきゃいけない。  死んでいたなら死んでいたでいいんだ。それで。  だが、わかりませんでした。これはまずい。  それは…まずい。  いずれにしろ、中に突っ込んでいかなきゃ行けないわけだ。  だが何処で死んだか?  それが重要だ。  もし、蟻の巣を超えたら…いや、竜の巣まで辿り着いて死んだとしたら相当な戦力をこちらも用意しなければならない。  だが…あの身体能力。抜けてる可能性は…高い。  …どうするか…。  「ナターシャさん。恐らく、間違いなくその男は強いはずです。私にはわかります。ですから…竜の巣を超えられる戦力を集めるべきだと思います。」  「ミキ…。逃亡奴隷を知っているのかい?」  「いえ…会ったことはありません。ただ…故郷が同じなんです。私達の故郷出身の者は…どうやら魔力の扱いが上手いようで…。私も数年で国家級になりましたし。」  数年…。 数年?! 数年で国家級?!  …ある程度戦いの心得はあったんだよね…?  「…あ、いや、けどそれはフレーズ殿の指導が良かったからってのも大きいだろう?その逃亡奴隷が有名な奴に指導してもらったという話は…。」  「ミキは最初から魔力の扱いは天性の物があったよ。あたしはちょいと使い方を教えただけさね。今じゃあたしより自由にポンチョを使える。あたしはデカブツにしかなれないってのにさ。」  「そんなことないです!!師匠はあたしよりも凄いですから!強いし、あたしを助けてくれたし、一人で何でも出来るし…。」  「ふん、だから可愛げがないってよく言われんのさ。」  「じゃあずっとあたしと一緒に暮らしましょう!大丈夫です…みんなで仲良くやれますから…。」  「何言ってんだい!あたしを抱きしめるな!あ!抱っこすんな!」  「師匠~…。あたし師匠ならオシメだって変えられます…。」  「あびゃあ!!やめな!やめなぁぁ…。」  「あ!師匠…。行っちゃった…。」  「…う~ん…。」  「ッオホン…。…それに彼が奴隷になる前に何か指導を受けていた可能性もありますし。」  「…だがその男は騙されて奴隷になったのだろう?強いやつがそんなことになるかね…?」  「う~ん…戦闘力はあるとは思います。魔力の扱いが長けてるという意味で。でも、生き残り…生き抜くための知恵となれば話は違います。…むしろそういう強かさは…私達の故郷の人達は…ない人が多いかも知れません…。」  「…エイサップ、どうする?」  「え?あ…えっと…あ、僕は……彼を追いかけます。」  「ああ…そう…。」  「…。」  「…。」  「はぁ…。…人を集めよう。出来る限り。戦力を整えて進もう。」  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  「しかしこの蟻の巣はキツイね~~。」  「そうじゃのう。わしも一人じゃ挑戦したくないのう。」  「僕も嫌ですねぇ~。本当に彼は一人でここを抜けたのかい?もう半分は進んでるけど、この道程を一人で…?エイサップ君?」  「あ、…はい。一人、で…進んで、一人…で戦ってた…ようです。少なくとも、誰、か…。すぅ~、はぁ~…。…別の人間がいた、形跡はありません。」  「そうですか…。ここを一人で…。…もう勇者とは関係ないのでは?追わなくても良いんじゃないか?…一人でここまで逃げて必死なんだ。無駄と分かってて追い、さらに彼を追い詰めるなんてことしなくてもさ…。」  「そうじゃの…。共に逃げてる者がおらんのなら勇者を逃したって可能性はほぼないじゃろ。無駄足になると思うがな。」  「…何処かで落ち、合う。可能性もある。あります。勇者と関係ない。と、するには、時期尚早です。」  「…まぁ、ね。しかしここを一人か…。にわかには信じがたいですね。僕らはエリーの魔法があるから必要な時に休めてるわけじゃない?」  「うむ。この植物の臨時の拠点があるから儂らも進めておる。…なんで蟻が寄って来ないんじゃ?」  「これはねぇ。蟻が嫌いな匂いを発してる植物なのよぉ。ラバの木っていうんだけどねぇ。この匂いのおかげで近寄ってこないし、近寄ってくれば混乱してフラフラになっちゃうわぁ。これだけの量を出すには相当な魔力が必要だから戦闘には加われないけどぉ…。」  「構わないっすよ。俺の魔力は無限大っすから。エリーさんの分は任せて下さい。ここでは好きなようにぶっ放せるし。」  「まぁ、あなたはそうでしょうねぇ。悪いけど戦闘は皆さんにお任せするわぁ。私はロピーのワンちゃんに乗ってるからぁ。」  「ええ。構いませんよ。二、三人は簡単にお乗せできます。…ミキちゃんも乗りますか?」  「え…?あ、あたしは…自力の及ばない物に自分を任せるなと言われてるので…。」  「でも良く隠れてマーチを撫でてるじゃないですか。もう全身を使って…。…ポンチョを使って飲み込むよう撫でてた時は流石に直視出来…。」  「え!?なんで?!なんで知ってるの!!」  「すまない。ミキ。面白くてあたしが呼んだんだ。」  「師匠!ひ、ひどい!」  「ポンチョで巨人になったあんたがマーチを撫でる姿は面白…。いや、どうしたんだと心配になってね…。」  「うそ!うそ!!今面白いって言った!言ったもん!!」  「まぁまぁ。せっかくだし乗せてもらいなよ。出来るだけ自分が及ぶ範囲で行動すべきだと教えたのはあたしだがね。どうしてもそれが出来ないこともある。だったらそういう時の練習と思って乗せてもらえばいい。いざって時にはあたしが補助するよ。そのために組んでるんだろう?あたしらはさ。」  「じゃ、じゃあ、そういうことなら。師匠…、あとでお礼に抱きしめますから。」  「うぇぇ?!なんで?!」  「ミキ嬢。もちろん、このアベル・グウェンツもあなたをお守りしますとも。この命に変えても。」  「あ、はい。」  「くぅ…。そのそっけない態度…新しい、新しいですよ…。」  「…はぁ…。」  「ふふ…僕は諦めませんよ。旅は長い。僕を知ってもらう時間はたっぷりありますから…。」  「…やめてくれませんか。私そういうのはいいんで。」  「照れてるね。分かってるよ、君の気持ちはね。君自身すら気づいてない、君の本当の気持ちを…。」  「…。」  「わかりました。アベル様。あなたがミキさんを口説くのがありなのでしたら、私もあなたを口説かせていただきます。大丈夫です。すぐですよ。リヴェータ教の素晴らしさを分かってもらうのに時間なんて…。」  「分かった!!ミキ嬢が迷惑だって言うならこれ以上はやめようじゃないか!!僕は女性が嫌がることが嫌いなんだよ!!」  「…ッチ。」  「うむ。その判断は正解じゃな。ロパロム殿の勧誘はすごいぞ。人格が変わるからのぉ。」  「そんなになんですかい?ゴムリ殿?」  「ん?呼び捨てで構わんよ、ナターシャ嬢。お主はロパロムの犯行現場を見たことがないのかの?」  「犯行じゃありません。勧誘です。」  「え、あ…はい…。あの…嬢なんて…そんな女らしくないですし…。」  「っはっは。儂から見りゃおんしはかわいいお嬢ちゃんだよ。ロパロムの勧誘は手加減が無くてのぉ。」  「そうなんですか?聞きたいです。」  「うむ。朝から晩まで説法を聴かせるのは知ってると思うんだがの…あいつ絶対それ以外になんかやってると思うんじゃよね。途中から夢に…夢に…とか、暗闇の向こう…とか、空を見上げてブツブツ呟いたりとか…。」  「…ッゴク。」  「問題はそうなるまでが異様に早くての…三日持った奴はいなかったよ。…その後は…ロパロムの従者というか奴隷と言うか…そんな感じになるな。まぁ、そうなってからは一言も喋らないからよくわからんが…。」  「照れますね。」  「褒めてないが。」  「あら?私にもナターシャ様と同じように可愛い小娘扱いしてほしいのですが?」  「はぁ?200歳超えたババアがなんじゃって?儂より年上じゃん。このチームには2人程おるけど。」  「あ?エリーとは違います。」  「あ?ロピーと一緒にしないで。」  「あたしは違うからね。ミキ。」  「師匠…。」  「え…エリーさ、エレンザレムさんって200歳超えてるんすか…。マジっすか…。」  「ああらぁ。あららぁ。カモちゃん?ドルディーちゃん?恋に年齢なんて関係あるのかしらぁ?年上はお嫌い…?」  「え…あ、いや、べ、別に嫌いじゃないっす。」  「じゃあ、あたしのことどう思うぅ?」  「あ、あの、あ、お、お綺麗だと…思うっす。」  「カモくん。心から君のことを心配して言うが、その女はやめておきたまえ。悪いことは言わないから。」  「分かってます。分かってますよ!でも、でも!!こんなに綺麗なんですよ!!こ、こんなに綺麗な人俺の人生で一体何人…!」  「そうよぉ。つまらない事気にしないで自分の思う通りにしたほうがいいのよぉ。人生は一回しかないのよ…?」  「フフフ…、百年もない人間の人生と5、600年はあるエリーの人生を一緒にしてはいけませんよ。子羊が崖に向かって歩いているなら私も見て見ぬふりは出来ません。」  「はぁ?んであんたはその子羊の頭に寄生虫打ち込んであんたの萎びた臭ぇ乳吸わせるんでしょ。それより百倍マシだわ。」  「あぁ?木の皮で出来た穴に突っ込むだけの人生より百倍意義があるわ!あぁ?!」  「ごめんなさいねぇ!蜘蛛の巣張ってるあんたが羨ましいわ!ねぇ奴隷に乳吸わせてイってるってホントぉ?!ちょっと高度過ぎない?!」  「うるせぇ!!穴に突っ込むだけがセックスじゃねぇんだよ!!浅い経験で語りやがって!!カモ!!来い!!あたしが教えてやるよ!!」  「あ、あ…あの大丈夫っす…。」  「ほらぁ!!バーカ!!小部屋作るからあたしと来いよ!!カモ!!」  「あ、い、いえ…大丈夫っす…。」  「「あぁ?!」」  「ぎょ、ごょめんなさい!!」  「ちょっと酷すぎないかい…このメンバー…。」  「でも、ちょっと楽しいですよね、ナターシャさん。」  「えぇ…、ミキあんた本気かい…。」  「こっちに来てからこんなに楽しいの初めてかも知れません。ね?師匠?」  「まぁ、あんたを拾った時はあんたも酷かったからね。」  「…そんな酷かったんですかい?」  「あたしに敬語はいいよ。ナターシャ。同じ年だろ?」  「え?!25歳?!」  「…22歳…。」  「えぇ!?」  「…老けてないだろ…。」  「ホ、ホビット族の年齢は判らなくて…。」  「ふふ~~!師匠は可愛いんですよ!!将来の旦那様のために美味しい料理を作れるようになろうとしてるんですよね!!」  「ミ、ミキィ!黙りな!!」  「…分かるよ。あたしも結婚資金を貯めようと思って始めたら…。」  「あぁ…。強くなっちゃったんだね…。」  「…うん…どうもこの仕事相性いいみたいで…。」  「「…。」」  「で、でも!師匠もナターシャさんも美人じゃないですか!!私の故郷で二人程綺麗な人は滅多にいませんでしたよ!」  「そ、そう?」  「本当?」  「本当ですよ!もし、私の故郷に二人が来たらモテモテですよ!モテモテ!!」  「ふぅ~ん…。じゃ、これが一段落したらあんたの故郷を探そうかい。」  「あたしも協力する。」  「う~ん…。見つかるとは思えないですけど…。」  「そんなことないだろ!」  「そうだ!期待持たせること言うんじゃないよ!」  「えぇ…。」  「儂も是非その故郷にいってみたいのぉ。新しい文化に触れることは新しい武器を作るチャンスじゃからの。」  「もちろん僕も行くさ。良いだろう?ミキ嬢。」  「私も行くぅ~。最近私の事知ってるやつが多くなっちゃって…。」  「私も行きましょう。リヴェータ教の素晴らしさを伝えなければ。」  「…そうですね…。もし…故郷に帰れたら…みなさんを案内しますよ…。…悪い所もあるけど、良い所も一杯あるんですよ。ご飯も美味しいし。…故郷にいた時は、気付かなかったけど…。」  「…食事は再現できるかもね…あたしの故郷は美食の国でね。この世の食材が全部揃ってるんだよ。」  「そうなんですか!?私結構料理してたから食材さえあれば故郷の料理作れるかも知れませんよ!?」  「じゃあ…まずアタシの故郷にいってみようか。これが一段落したらさ!」  「あ、俺も行きたいっす。…実は俺食べ歩きが趣味で…。」  「あたしも行くよ。…失敗したら逃げなきゃいけないし…。」  「そうなのかい?ならあんたらも来なよ。みんなにも紹介するよ。私の国をさ。」  「楽しみぃ~~。ホビットの男ってどんな感じなのかしらぁ。」  「そう言えば南部大陸の布教はまだでしたね…。」  「儂も行こうかのう。ついでに故郷にも寄ってくか。」  「ミキ嬢が行くなら当然僕も行くさ。ホビットの女性ってどんなんかな~~。」  「はい!!まかせて下さい!!」  「…何でミキが返事をするんだい…。コルオル!あんたも来なよ!向こうじゃあんたの面を気にする奴なんていないさ!」  「………ああ。」  「返事した…。」  「初めて聞いたぞ…。」  「そんな声だったのぉ?」  「これは私も驚きです…。」  「僕も初めて聞いたよ…。」  「喋れたんスね…。」  「初めての返事がこれかい…。」  「私、は。…知ってまし、たよ。ふふっ。」  「ああ…なんか似てる所あるもんね。あんた。」  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  アベルとゴムリが手を引くのは分かってた。  途中から明らかに逃亡奴隷の肩を持っていた。  孤独で強く、敵ばかり。にも係わらず人助けをしている。  エリーが催眠粉を使って、巨人の娘から逃亡奴隷の話しを聞き出してから、あいつらは逃亡奴隷を捕らえる事にさらに消極的になった。  強い冒険者であればあるほど自分の正義と美学を持っている。  国家級に毛ほども引っかからないあたしでも分かる。本当に最後の最後の死ぬ時は、一人だ。  強くなる過程で死ぬ寸前の経験をしているやつは多い。 どんなに仲のいい友人がいても、家族がいても、恋人がいても。  そういう奴は死ぬ時は一人だと知っている。 だから、死ぬ時に自分の正義に寄り添ってもらえないと、本当の孤独になってしまう。  自分の美学だけは裏切れない。それだけが、はざまに持っていけるものだから。  そしてあたしも、エイサップも逃亡奴隷を捕らえずに済むのであれば、とそう思っていた。  もう逃亡奴隷を、敵として見ることはできなくなっていたから。  逃亡奴隷の名前はショーというらしい。でも、誰一人としてその名を使わない。 奴隷だからじゃない。きっとそう呼んでしまったら、追いかけることすら出来なくなると思ってたんだ。  …今から思えばミキは…、ミキはその頃から口数が少なくなってた。師匠のフレーズと共に。  まさかあの糞ブス女王から脅されていたなんて…。  …恋人を人質に取る、か。 しかも二度と帰れない故郷から偶然二人でやってきた恋人同士を引き裂き人質にって…、どういう神経してるんだよ…。どっからどう見ても悪役じゃないか…、糞。  いや、それはいい。  良くはないけど、あの逃亡奴隷を捕まえたいって言うならそれはそれで良いさ。  出来ればあたし達は捕まえたくなかったけど、そもそもの依頼は生きて捕獲することだ。  ミキ達の方が正しい。あたし達の方がわがままだ。…わがままを通す理屈は一応用意していたどさ…。  それに運良くニギ・サンダーボルトと戦って瀕死の状態だ。  ほぼ間違いなく捉えられる。 …ニギと戦って、分ける、ってのも大概異常だけどね…。  …万全の状態で戦ったとして果たしてあたし達は倒すことが出来るだろうか? いや、倒せはするかもしれない。だが、捕まえられるだろうか…。もし彼が全力で逃げに回ったとしたら…果たして確実に捉えられると言えるだろうか。  ミキが瀕死の相手に口撃を仕掛けてる。いや、宣誓か。  …ミキ、そりゃ駄目だ。まずいよ。  捕らえると決めたなら。敵と決めたならそいつとは話しちゃ駄目だ。  情が移るんだ。  そいつとはいくら話しても覚悟は決まらない。  特に相手が良い奴であればあるほど、相手の良さが分かってしまうだけなんだ。  少し助言を…。  いや、しかしあたしの美学は…。    !  「ミキ!!」  あの男は誰だ?! ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  この任務が終わったら。  全部全部終わったら。  このチームで南部大陸に行くのも良いと思ってた。  あの時みんなは冗談半分だったけど。  一緒に行こうって言ったら着いて来てくれる位の本気さは感じた。  その場限りの他愛もない話題。  それでも笑い合えたのはきっとみんな寂しかったからだ。  この任務が終われば…。  …。  どこからケチがついた?  口達者な冒険者が時間稼ぎしたときか。  勇者が逃亡奴隷を助けようとしたときか。  女王の依頼を受けたときか。  エイサップと組んだときか。  …ラバの木の上で、笑い合ったときか。  どこをやり直せばこの状況を回避できた? …どうやれば、あの、あのナガルスの天才、シャモーニ・ル・アマーストが逃亡奴隷を守るように降り立つのを回避できた?  どうやれば、無数のナガルス族があたし達の周りを包囲するように上空で囲んでいるこの状況を回避できた?  …どうやれば、彼ら全員が怒りの表情になるのを防げた?  「…これは流石に僕も協力しよう。…生き残ることを優先するが。」  「…そうじゃの。もう奴隷、勇者どうのこうの言っておる場合じゃないからの。」  「…とりあえず空になら魔法ぶっ放せるっす。」  彼らの協力はありがたいが…果たしてそれに意味があるのか。  ナガルス族はとんでもない数だ。  「う”お”お”お”お”お”お”お”!!!糞ガキが!!ぶっ殺す!!」  ニギ…サンダーボルト…目が冷めたのか。…死んでなかったのかい。  こんな複雑な時に。  「ぶっ殺す!ぶっ殺す!ぶっ殺す!!どけぇ!!」  何の策も無く突っ込んでってるが流石大陸級。とんでもなく早い。  シャモーニの方は…、何だ?羽?背中の翼を大きく…振りかぶって…。  「うおっ!?お?!お”?!お”お”?!お”あ”あ”あ”あ”あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”………!!!!」  何だ?     翼を振り切ったと思ったら奴が吹っ飛んでいって…魔法で飛ばされてるのか?しかも…飛ばされながら切り刻まれてるよ…。…あれ、どうやって抜け出すんだ?  あぁ…もう見えない…。あれずっと切り刻まれるのか?…死ぬまで?  …勘弁しておくれよ…。  大陸級を羽ばたき一つで…?  アベルも、ゴムリもドルディも微動だにすら出来ない。あたしもだ。  多少は時間稼ぎできると思ったけど、それすらもできそうもないとわかったから。 シャモーニ…確か前回…か?前々回だったか?王都に攻め込んできた時に、打ち倒されて死亡したと聞いていたのに…生きていたのか。  「こちらに攻撃しなければ危害を加えることはない。」  静かな、しかしよく通る声でシャモーニ・ル・アマーストが話しかけてきた。  …いや、話しかけてきてるわけじゃないか。宣言してるだけだ。  …だが、これで逆らわなければ死ぬことはない。助かっ。  「ウグゥゥッ!!」  !!  ロピー!?  何故?攻撃しないんじゃ…。  「そこの気狂い宗教家みたいにこちらを攻撃しようとしたら手加減はしない。」  ロピー…。そうか、あんたはリヴェータ教だったね。  この状況で呪いでもかけようとしたのか。…気狂い。間違っていないかもね。  あれが、古代魔法。  どうしてあんなことが出来るのかさっぱり…。  ん?シャモーニは何を?  あ、原生魔法を解除して…、解除して?!  あんな簡単にエリーの魔法は解除できるもんなのかい?!  あの逃亡奴隷を優しく持ち上げて…。別のナガルス族はあの奴隷のナガルス族の子を連れて、飛び立とうと…。  「うわぁぁぁ”ぁ”ぁ”!!!」  「しまっ、ミキを止めるんだ!」  みんな異常な状況に殆ど動くことが出来ない。  いや、みんな出来れば戦いたくなかったんだ。戦えば、間違いなく負けるから。  しかも動かずにいれば安全は保証されてる。  だから、みんな動くのが一歩遅れた。  エリーの原生魔法を、フレーズの大きな巨人の手をすり抜けてあの奴隷を掴もうと、あぁ、やめておくれ。ミキは殺されるほど…。  ?!  ミキが…浮いて?  浮いて…そのまま…だ。  ミキはそのまま前に進むことも下がることも…。  そうか…これなら傷つけることなく相手を拘束できる。面白い事を考えるもんだ…。  ? 何だ?…シャモーニと勇者が話して…あ、勇者も別のナガルス族が持ち上げて…。  …こりゃ、無理か…。  任務、失敗だ。だが、この状況で生き残れただけでも…。  「そいつは!!絶対に!!連れていかせない!!」    ミ、ミキ。  あ、ポンチョを伸ばして…ヒモみたいにして…なるほど。 勇者に巻き付け…、ミキが空に引っ張られて…。引っ張られて?! 「うわぁぁぁぁあああ!!」 駄目だ。どんどん。どんどん高く…。 「ミ、ミキ!!」 !! そうか!   「ミキ!!ポンチョを!!下まで伸ばせ!!」 「!そうだ!!ミキ!伸ばせ!あたしに巻きつけろ!」 「ししょァグッ!!…………。」 ああ…。気絶させられ…。  「ああ!ミキ!!」 そ、そのま、ま…。 「ミキ!起きるんだよ!起きて、ポンチョを伸ばせ!!こっちだ!早く!!」 どんどん、どんどん高く…。 「起きて!あきらめるな!!起きろ!ミキ!」 もう、あんなに…。 「あ!ぁ!ぁぁぁぁああああっ!!とど!け!ぇぇええええ!!!!」  もう…フレーズが全力でジャンプしても…。  「アガッ!!ゴッ!!ッア…ハァ!!ハッ!ハッ!!」 届かない…。届かなかった…。 「ミキ!ミキィィイイ!手前ぇら!指一本その子に触れてみろ!!ぶっ殺してやる!絶対だ!傷一つつけるんじゃねぇ!!」  あんなに…遠くに…。  「ミキ!必ず助けに行くからね!!待ってるんだよ!!諦めるんじゃない!!」  あぁ…。  …。  やっぱり、やっぱりこんな依頼受けなければよかった。  依頼を受けなければ、あの子の人生なんて知ることはなかった。  ラバの木で笑い合わなければ、みんなが良いやつだと知ることはなかった。  …こんな絶望的な気持ちになることはなかったんだ。  依頼失敗だ。  逃亡奴隷も、勇者も、ミキも。  ナガルスに、シャモーニ・ル・アマーストに攫われてしまった。  我ら至らぬ浮島へ。
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