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「今日も白夜は可愛いね!」 「今日もお前は気持ち悪いな」  一体このやりとりを何回繰り返しただろうか。ただでさえ車酔いするっていうのに、拍車をかけるように気持ち悪さ増しやがって。こいつ本当は私のこと嫌いなんじゃねぇの? あー絶対そうだわ。ならこっちもとことん嫌ってやる。 「相変わらず直人はブレないな」 「拓夜も相変わらずお一人様か」 「お前もだろ!」  隣に座る『拓夜』が、助手席に座る『直人』を指差す。直人は「チッチッチッ……」などと言いながら、人差し指を立てた。 「オレは白夜と結婚するから違うよ」 「しねぇから。お前も私もお一人様だよ」 「照れちゃって」 「この顔色の悪さを見てそんな風に思うのか?」  ガタンと車が揺れる。ルームミラー越しに運転手と目が合った。運転手に軽く謝られ、少しだけ罪悪感が沸いた。  魔獣退治から一週間。午前だけで特訓を切り上げた私は、真っ直ぐ家へ向かった。親から、「仕事」の依頼をされたからだ。蘭李も「仕事」に呼ばれたみたいだし、今日はワークデーなのか? 子供も労働に駆り出される日なのか? それなら給料をちゃんとくれ。無賃労働なんて嫌だ。  ………なんていう冗談は置いといて。  我が家に着くと駐車場では既に、直人と従兄の拓夜が待っていた。その時、どうやら今回は三人でやるらしいと判明したのだけど……。 「紀本、あんまり揺らすなよ?」 「申し訳ありません。直人様」 「お前まだ付き人雇ってんの? いい加減解放してやれば? 紀本さん可哀想」 「それはどういう意味だ? 拓夜」  ――――――正直、不安かない。  何故か私を気持ち悪い程好いている直人と、感覚人間拓夜。二人とも実力はあるけど、それ以上に性格に問題がありすぎる。まさか母さん、私にこの二人を押し付けたんじゃないだろうな……恨むぞ母さん。  思わずため息が溢れた。拓夜とぎゃんぎゃん言い合う直人を、私は制止した。 「ところでさ、お前この間、蘭李のこと勧誘したらしいじゃん」  直人は不敵な笑みを浮かべて、私を横目で見た。恐ろしく整ったその顔立ちに、若干の苛立ちを覚える。 「そうだよ。それがどうかした?」 「どうかしたじゃねぇよ。何でそんなことした」 「単純に、戦力になるからだよ。それに白夜だって、彼女が入ったら嬉しいだろう?」 「……嬉しくないに決まってるだろ」  隣の拓夜が「蘭李って誰? お前の彼女? お前男勝りだとは思ってたけど、中身まですっかり男だったなんて知らなかったぜ! 応援するぜ!」などと言ってくる。  色々言いたいことはあるがひとまず「友達」とだけ伝え、直人を睨んだ。直人は腕を組んで、前方を向いていた。 「蘭李まで軍のしがらみに囚われる必要なんかない」 「もうとっくに囚われてるじゃないか。彼女も」 「……お前、何が狙いなんだ?」  車が赤信号で止まる。横断歩道を渡る人達を眺めながら、直人は小さく口を開いた。 「………白夜は一緒にいすぎた」 「は?」 「変則的な魔力継承に魔具持ち、幽霊からの余命宣言に「異常魔力者」との繋がり。極めつけは、《事件のあった年の|・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・》《シルマ学園|・ ・ ・ ・ ・》に在籍していた」  こんな魔力者がいると聞いて、普通は「異常だ」と思うはずじゃないか? 「な? 拓夜」  直人に話を振られ、一瞬ポカンとする拓夜。しかしすぐに「……あぁ!」と何かに納得したように、淡紫色の目を光らせた。 「その『蘭李』って奴がそうなのか?」 「ああ。異常だろ?」 「まぁたしかになぁ。詳しくは知らないけど、最後の『事件のあった年のシルマ学園に在籍してた』ってのが特に気になる」  事件のあったシルマ学園―――たしかそれって、校内の人間全員が不審死を遂げたっていう、あの……?  待てよ。その時に蘭李が在籍していただって……? たしかに、短期の学校に通っていた時はあったって言ってたけど……まさかそこだったのか……⁈ 「……ん? でもあの事件って、皆死んだんだよな?」 「それはあくまで推測だ。実際本当にそうだったかは分からない」 「ちょっと待てよ。それどこで手に入れた情報だ?蘭李に確認したのか?」 「証拠も持ってるしその真偽も確認した。彼女は確実にシルマ学園に通っていたよ」  車が発進する。直人はくるりと振り向き、私に小さく笑った。 「少し怖くなった?」 「………別に」  逃げるように顔を逸らした。びゅんびゅんと走り去る車達が車窓から見える。高速道路に入っていたみたいだ。 『シルマ学園』に通っていたと聞いても怖くない―――というのは嘘だ。ぶっちゃけ怖いよ。  あの学園は、夏の間だけ開かれる特別な魔法学校。新設された翌年にはもう、優秀な学校として人気を博していた。  だけど、同時に変な噂も立っていた。  ――――――シルマ学園は、魔法に関する人体実験を行っていると。  どこからそんな噂が立ったのかは分からない。ただの噂だし、嘘の可能性の方がよほど高い。だけど、私はそれが本当だと信じてやまなかった。  何故なら、卒業生を一人も見つけ出すことが出来なかったからだ。  当時小学生だった私にさえ、シルマ学園の評判は耳に入ってきた。だから私はそれに興味が沸き、自分なりに調べてみた。  だけど、何もかもが謎だった。どんなカリキュラムなのか、どんな教員がいるのか……。本当に生徒を募集しているのか疑うくらい、情報が全然得られなかった。  それは、事件が起きてからも同じだった。どうして事件が起きたのか、何が起きていたのか。シルマ学園に通っていたという魔力者も見付からない。  もしかして、噂は本当なんじゃないのか。シルマ学園の生徒達は皆、人体実験に使われてしまったのではないか―――ついさっきまでは、そう思っていた。  だが、蘭李はシルマ学園に通っていたという。  直人は言動こそ気持ち悪いが、嘘を言うような奴じゃない。  でも、もしそうだったら、そうだとしたら……。  蘭李は、一体何者なんだ? 「ちなみに、今オレ達が向かっている所も、シルマ学園だよ」  拓夜と同時に、直人を見据えた。「良くないもの」が溜まっている廃墟での仕事とは聞いていたが、まさかシルマ学園だなんて……。 「今回の仕事が終われば、恐らくシルマ学園は完全に取り壊される。だから……」  直人は薄暗い紫色の瞳を光らせた。 「くれぐれも、油断しないように」
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