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「それで、女達の様子は?」 「皆、疲れ切っております」 「これから楽しい仕事があるというのに、なんともったいないことよ、のう?」 「そうでございますね」 いかにも楽しそうな男とは正反対に、そう答える武士の声は冷たかった。 「《狂|きょう》《治|じ》《郎|ろう》様」 「なんじゃ?」 「いつまで、かようなことを続けるおつもりですか」 「なんじゃと?」 「《女子|おなご》達を売り、里が三つも崩壊しているのですぞ!」 千砂はその内容に驚くと同時に、この武士の勇気を讃えたくなった。 「だからなんだ?」 「もう十分ではございませんか! これ以上続けても意味がありませぬ!」 「黙れ! お前は、この家を出ろ。ただし、このことは決して他言するな」 「……承知いたしました」 千砂はその様子を見ながら思った。敵が一人減った。 これ以上女達の悲しい顔を見るのが嫌で、そのまま屋敷を後にした。 そのころ霊斬はというと、刀の研磨を終え、ひと休憩していた。 傷が痛み、霊斬は顔をしかめた。 ゆっくりと床に寝転び、依頼のことに頭を巡らす。 すると、戸を叩く音が聞こえてくる。 「開いているぞ」 霊斬が身を起こして応じると、普段通りの格好をした千砂が入ってきた。 「ああ、終わったのか」 霊斬は言いながら、お茶を入れると、急須と茶碗を二人分載せた盆を持って、奥の部屋へいく。それに千砂が続き、彼女が座るとその傍らにお茶を置いた。 ――珍しいこともあるもんだね。 千砂は内心でそう思いながらも、本心とは別のことを口にした。 「良かったら、これどうぞ」 千砂は言いながら、手に持っていた小さな包みを開く。 中には団子が二本、入っていた。 「美味そうだな。いただこう」 霊斬はそう言って座ると、団子を一本手に取る。 「最悪な家だった」 「最悪?」 団子を食べている霊斬が尋ねた。 「女子どもを集めて、どこかに売っているのは確かだよ。ちょうど、女達が屋敷に連れ込まれるのを見た。その中でもいい女を見つけると自分のものにしている」 「それで?」 霊斬は彼女の最悪の意味に気づいて納得し、先を促した。 「敵は式部狂治郎をはじめ、およそ十人。女達の保護は自身番に任せてもいいかい?」 「ああ」 霊斬は言いながら、団子をつまんだ。 二人がお茶を飲み終えると、千砂が店を後にした。 ――今回はなにも聞いてこなかったな。 そんなことを思いつつ、霊斬は痛む身体に鞭打ち、最後の仕上げに取りかかった。 それから数日後の、決行当日。 依頼人の武士が店を訪れた。 「して、首尾はどうなっておる?」 「その前に、これを」 霊斬は言いながら、直した刀を差し出した。 抜刀して出来栄えを確認した武士は笑みを見せた。 「良い出来じゃ」 「ありがとうございます。依頼の件ですが、私の知り合いが、夜な夜な女子どもが屋敷に連れ込まれたのを見たとのことです」 「噂は《真実|まこと》であったか……」 武士は溜息を吐く。 「彼女らをどこに売っているのかまでは分かりませんでしたが、首謀者を突き止めました」 「誰じゃ!」 武士はその言葉に食いついてくる。 「式部狂治郎と申す者です」 その様子に内心で驚きながらも、霊斬は落ち着いた声で告げた。 「あやつか!」 武士はその名を聞くと怒りをあらわにする。 「ご存じなのですか?」 「なにかと後ろ暗いことに手を出しているという輩よ」 「そうでございましたか」 霊斬はとりあえず、うなずいておく。 「刀にしばらく手入れをなさった跡がありませんでしたが、旅にでも出ていたのですか?」 「そうだ」 「偽りにございますね」 「なぜ分かる!」 「刀の状態を見れば分かります。忍びか刺客か、そのどちらかに命を狙われているのではないですか?」 「そうだ。誰の手の者か分からんが、忍びにな」 武士は敵わないといった表情をしてうなずいた。 「では、頼むぞ」 「承知いたしました」 霊斬が頭を下げると、武士は店を出ていった。
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