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 気付いた時には遅かった、なんてことは多々あると思う。それは戦闘面だけでなく、日常生活にも当てはまるだろう。  だからこそ、予測ってのは大事なんだと思う。相手が次にどう出るか。先を考え、手段を選ぶ。それすら相手に読まれてると、それもまた面倒だけど……。しかしそうすれば、少しはマシな状況になる。  だから私は、頭を影で覆った。  そのお陰で、銃弾に襲われずに済んだ。 「こいつッ――――!」  拓夜の声と同時に魔法を解いた。纏っていた影が消え、視界が明るくなる。すぐ目の前では、『蘭李』がたくさんの影の腕に捕まっていた。 「やっぱり蘭李……」 「……ハ…ク……?」 「そうだよ」  大きな黄色い目が揺れている。もしかして、まだ混乱してるのかもしれない。ゆっくりと近付き、蘭李から銃を取り上げた。 「もう襲ったりしないから」 「…………………うん」  目を閉じる蘭李。私は拓夜に頷いた。渋々蘭李を解放する拓夜。蘭李はその場にへたれこみ、自身の肩を抱いた。ひとまず落ち着いてくれたみたいだ。よかった。 「蘭李はなんでここに?」  しゃがみこんで訊いてみたが、気まずそうに目を伏せ顔を逸らされた。  何かあったのかな。いや、何かあったんだろうな。でも、言えないことなのかな………。 「えっ? この子が蘭李?」 「そう。野生動物の華城蘭李」  直人の言葉に、私と蘭李はあいつを見た。特に蘭李は鋭く睨んでいる。一方の直人は、悪びれる様子もない。  そういえば、この前蘭李が直人と会った翌日、蘭李は難しい顔をしていた。その時は「闇軍に勧誘された」としか聞いてなかったけど、まさかこいつ、その時にこんなことも……? 「なんだよ野生動物って」 「野放しにされている危険生物ってことさ」  野放しにされてるって……しかも危険生物ってなんだよ。こいつ蘭李のことそんな風に認識してんのかよ。  まるで、ただ生き物としか見ていないような……。 「直人。そんな風に言うのやめろ」  堪らなくなって、私も直人を鋭く睨んだ。直人は臆することなく、何故かニコニコと笑い始めた。 「じゃあ白夜、オレのこと抱き締めてくれる?」 「死ねば?」  蔑みの視線を送ってやった。蘭李と拓夜もドン引きしている。直人は残念そうに溜め息を吐いた。 「全く。白夜は本当に照れ屋さんだね」 「お前のそのポジティブさには本当に脱帽するよ」 「ありがとう」  そんなことより、今は蘭李の方だ。こんな変態に付き合っている暇はない。  私は手を差し伸べる。蘭李が力強く私の手を握ると、その腕を引いた。同時に蘭李も勢いよく立ち上がる。 「……ハク達はなんでここに?」 「ん、仕事でさ。幽霊とか悪魔とかいるかもってさ」 「幽霊………?」  蘭李の目が見開かれる。ガシッと私の両肩を掴み、緊迫したような顔を近付けてきた。 「ゆ、幽霊いるの⁈」 「え? えっと……今のところいないけど……」 「………そっか……」  さっきの直人なんかよりも残念そうに項垂れる蘭李。  な、なんだ? なんでこいつ、そんなに幽霊に食いついて………。  ――――――だからあたし、死にたくなくて、銃でみんなを……殺したの。  あ…………そうか……こいつ、ここでクラスメイトを………。 「自分が犯人だとチクられるのが不安か?」  ――――――――――は? 「死人は真実を知ってるからな。もしかして、その口封じの為にここに来たんじゃないのか?」  直人の言葉に唖然としてしまった。  何言ってるんだこいつ。蘭李が事件の犯人? ふざけんのも大概にしろよ……! 「いい加減にしろ直人! お前本気でそんなこと言ってんのか⁈」 「状況的に可能性の高いことじゃないか。それに………」  暗い紫色の視線に捉えられる。そこに、冗談やふざけた様子は無かった。 「先入観に囚われていては、真実を見落としてしまう」  沈黙が流れた。  そう。こいつはこういう奴だ。何事も、疑うことからまず入る。証拠が掴めるまで、絶対に信用しない。仲間のことだって平気で疑う、嫌な奴だ。  そりゃその方が正しいと思うよ。先入観は良くないし、根拠も無しに正しいと判断するのは危ないことだって分かってる。分かってるけどね……。  ――――――友達がそんな風に言われると、ムカつくんだよ。 「直人。悪いけど、私仕事抜ける」 「え?」 「蘭李と一緒にいるから」  蘭李の肩をポンと叩く。不安そうな黄色い目が私を見上げた。  蘭李はそんなことしない。いや、もし仮に何かやっていたとしても、何か訳があるはずだ。少なくとも、無駄に命を奪うようなことはしない。 「ハク………」 「行こう、蘭李」 「あの人、魔警察と繋がってる?」 「――――――へ?」  突然のことで、一瞬理解が出来なかった。  魔警察と? 直人が? そんなわけあるかよ。あいつ魔警察のこと毛嫌いしてるんだぞ。繋がってたら私もびっくりするよ。 「繋がってないけど……」 「………ホント?」 「え? な、なんで? あ、そりゃ稀に捜査協力してるらしいけど……」 「――――――――そういえばアンタさぁ」  わざとらしい大きな声で、直人がこちらを見る。真っ直ぐ蘭李を睨み、蘭李もまた睨み返した。  また何か言い出すのか……⁈ これ以上何か言うなら私も……! 「魔具はどこにやった?」  ――――――――――え?  反射的に蘭李を見た。蘭李はいつものように、コノハを背負って――――――………。  違う。  中身の無い鞘を背負っていた。 「―――――ッ⁈」  突然、蘭李の背後から何かが飛び出してきた。瞬間、直人が影に身を隠した。その影に飛び込んだもの。  緑色の短髪で黒い和装の少年―――。 「コノハ⁈」 「コノハ戻れ!」  私と蘭李がほぼ同時に叫んだ。自身の刃が弾かれたコノハは小さく舌打ちをすると、蘭李の隣に跳んで戻ってきた。緑色の鋭い瞳と一瞬目が合う。  間違いなくコノハだ。でも、ずっと隠れていたのか? なんでそんなことを……? 「蘭李、あいつもきっと仲間だよ」  コノハの言葉に、無言で頷く蘭李。  なんだよ仲間って。何の仲間だ? マズイ、状況が全く読めない……。 「なあ蘭李、仲間ってどういう意味?」 「………ハクは違うよね?」  なにが―――そう言おうとして、固まってしまった。  私のことを見据える蘭李は、今にも泣き出しそうな顔をしていたから。 「魔警察の仲間なんかじゃないよね?」  やっと絞り出したような声は震えていた。  魔警察の仲間? そんなわけない。そういえばさっきも魔警察とか言ってたっけ。  まさかこいつ、魔警察に何かされてるのか? 魔警察にちょっかい出されるってことは………一般人に危害を加えたとか? いや、蘭李に限ってそんなこと………あ、でもこの前の球技大会で魔法使っちゃったっけ。  まさかそれ? そんだけのことで? 嘘だろ? 「蘭李―――」 「こいつも信用ならないよ」  手を伸ばそうとした瞬間、コノハが刃を向けてきた。いつもの不機嫌そうな視線ではなく、本気で敵意を向けてきている。  なんでそんなに警戒してるんだ……? そんなにも信用ならないか? 友達なのに………。 「私は大丈夫だよ」 「信用出来ない。偽者かもしれないし」 「なんでそんなこと―――」  刹那、蘭李が吹っ飛んだ。奥の窓へと勢いよく飛んでいく。コノハがすぐに後を追い、窓から飛び降りた。私も駆け出す。  原因は分かっている。直人の影だ。漆黒の拳が蘭李を殴り飛ばしたんだ。 「白夜! 行くな!」  そんなの聞けるわけねぇだろ! ふざけんな!  私は窓の桟からギリギリまで身をのりだし、蘭李へと右手を突き出した。ちょうど真下の地面の影から腕が伸び、蘭李とコノハを掴む。ほっとしたのも束の間、身をのりだしすぎて、バランスを崩してしまった。私の体が真っ逆さまに落ちていく。 「白夜!」  上から直人が叫んでくる。私は、二人を落とさないように影の手を広げ、そのまま持ち上げた。直人を見てなのか、蘭李が険しい顔で立ち上がり、ズボンのポケットに手を入れた。 「スティグミ………」  手の上に着地する。すぐ隣に立つ蘭李を見ると、思わず目を疑った。  ――――――蘭李の髪は、瞳と同じ黄色に染まっていたから。 「蘭李⁈」 「――――――キニマァ!」  私が蘭李の肩を掴んだ瞬間、蘭李の叫び声が辺りに響き渡った。  ―――――――――――――――暗転。
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