フォントをダウンロード中
ページの左右でマウスを左クリックします。
または、 キーボードの左右の矢印キーを入力します。
ページ上で指先を左右になぞると、 前/次ページへ移動します。
メニューはページをタッチすると現れます。
× ヘルプを閉じる
 目が覚めると、ボロボロの天井が見えた。見たことのない天井で、ぼんやりとここがどこだか考える。  たしか、白い空間にいて………。 「白夜! 大丈夫⁈」  突然にゅっと顔が覗き込んできた。直人と拓夜が、心配そうに私を見下ろしている。  なんで二人が……………あ、そうか。戻ってきたのか……蒼祁のおかげで……。  私は自分の手を眺めてから、ゆっくりと起き上がった。 「帰れた……」 「良かった白夜……! 心配したよ……!」 「今回は焦ったなあー」  直人が抱き着こうとしてきたから、瞬時に腹パンを入れた。直人はお腹を押さえてうずくまる。ふん、と息を吐き、辺りをキョロキョロと見回した。その時、先に起きていた蘭李と目が合う。 「……………」  何て言えばいいか分からなかった。蜜柑達のこと、たぶん蘭李にとっては解せないだろうから。  幽霊は例外なくモノノケになる。それは蜜柑達にも当てはまることだ。もし何年も幽霊として存在し続けるなら、いずれモノノケになるだろう。だからいつか、そうなる前に消し去らなければならない。 「何見つめ合ってんだよお前ら」  背後から、蘭李の頭をポンと叩いた蒼祁。くだらなそうに溜め息を吐く蒼祁に、蘭李は少し首を傾げながら問いかけた。 「ねぇ、どうやって帰ってこれたの? さっきの呪文、瞬間移動魔法のじゃ……」 「魂だけになっても、肉体が魔導石を持ってれば魔導石の魔法が使えるらしくてな。だからテレポーテーションで行き来した。魂だけな」  やばい。何言ってるか分からない。これは早めに『魔導石』のこと、訊いておいた方がいいな。 「ったく……やっぱりとんでもないことしてくれるな。野生動物は。まず白夜に言うことあるんじゃないのか?」  復活した直人が、やけ気味に言い放った。瞬時に睨む蘭李。その呼び方やめればいいのに。ていうかやめろ。後で言っておこう。  蘭李は気まずそうに、伏し目がちに小さく呟いた。 「……ごめんね。ハク。巻き込んじゃって」 「いや、こっちこそ。直人のせいでもあるし」 「え? なんでオレ?」 「お前が威嚇しまくったからだろ」  ギロリと睨むと、直人はしゅんと萎縮した。  そう。直人があそこまで敵意剥き出しにしなけりゃ、こんなことにはならなかった。あれ? 真に悪いのは直人じゃね? ああそうだきっと。こいつこそ危険生物じゃねぇかよ。  しかしそれでも何か言いたいことがあるのか、直人がおそるおそる言葉を絞り出す。 「だってそれは―――」 「――――――みーつけた」  唐突に、声が響いた。廊下の先を見ると、女が歩いてきていた。ワインレッドのポニーテールを揺らし、不敵な笑みを浮かべている。  ………誰だ? あれ。見たことないな。 「カヤさん……⁈」 「あら、覚えてたのね」  蘭李とコノハが、驚愕と困惑で固まった。どうやら見知った顔みたいだけど………あんまり良い相手ではなさそうだな。  カヤと呼ばれた女の背後から、さらにもう一人現れた。白衣を着た、黒髪の眼鏡男。 「余計なのもいるな」  それはかの病院の医師・滝川だった。何故彼が? そのことにも疑問はあるが、あのカヤって人は、誰を見て「見付けた」なんて言ったんだ?  まさか――――――蘭李? 「もう逃がしませんよ」  後ろから第三の声。振り向くと、黒と白の修道女の服を着た女が立っていた。蘭李の顔が青ざめる。それで確信した。やっぱり狙いは蘭李なのだと。 「なんだお前ら? 誰に何の用だ?」  蒼祁が三人を順に見る。直人と拓夜が傍に寄ってきた。修道女が、蒼祁に負けないくらい力強い眼差しで、私達を見回した。 「我々は魔警察です。華城さんの魔具が、悪魔の仲間である可能性があるので、預かりに来ました」 「悪魔? コノハが?」 「アタシが見たのよ。この目でちゃあんとね」  カヤが自分の目を指差す。ワインレッドの目が光った。  こいつら魔警察だったのか。しかも、コノハが悪魔の仲間? そんなわけないだろ。  ――――――魔警察の仲間なんかじゃないよね?  だから蘭李はあんなこと言ったのか。コノハが敵意を向けてきた理由も、ようやく分かった。そりゃ警戒するよな。自分は追われてるんだもんな。 「だからそれは悪魔の罠だって言いましたよね⁈」  蘭李が思いっきり叫ぶ。黄色い目は、ギラギラと興奮していた。 「そうだと断定出来るまでは野放しに出来ません」 「だったらまず悪魔の方を捕まえなよ! なんでコノハばっかり狙うわけ⁈」 「勿論悪魔も追ってます。ですが同時進行で貴女の魔具も捕らえなければ……」 「だから魔警察は信用ならねぇんだよな」  蒼祁がぼそりと呟いた。瞬間、修道女と滝川に睨まれる。それでも気にせず、蒼祁は続けた。 「ただ、制御不能な魔具を壊しておきたいだけなんじゃないのか?」 「……変な言いがかりをつけるのはやめて下さい」 「お前らは、その魔具に裏切られて殺されたらどうするんだ?」  滝川の言葉に、蘭李は興奮気味に反論した。 「コノハはそんなことしないって言ってるじゃん!」 「だから、それは先入観です」 「先入観じゃなくて事実! アンタらにコノハの何が分かるの⁈」 「それは貴女も同じでしょう? 他人の全てを理解している者などいませんよ」 「あたしは違う!」 「らちが明かねぇ」  蒼祁が一歩前に出た。青い瞳が、魔警察を鋭く捉える。 「ひとまずその悪魔を捕まえれば満足か?」  すると、カヤがニヤリと笑った。太ももに装備していたポーチに手を突っ込み、そこからゆっくりと手を出す。その手には何かが握られていた。それは、明らかにポーチに収まらない長さであり、銃のような形状をしていた。 「やっとやる気になったかしら?」 「蘭李。冷幻連れて悪魔捕まえてこい」  たしかに、それが手っ取り早いかもしれない。悪魔をこいつらに突き出せば、少しは大人しくなるだろう。 「蒼祁は―――」 「俺達はこいつらを足止めしといてやる」  すると、直人と拓夜が同時に蒼祁を見た。 「待て。なんでオレ達まで数に入れてるんだよ」 「冷幻を助けてやっただろ? その借り返せ」 「元はといえば華城が―――」 「直人。拓夜。頼む」 「勿論だよ白夜」  この変態、即答してきやがった。気持ち悪。自分で言っといてあれだけど。  拓夜が準備運動を始める。直人は、そんな拓夜の背を軽く叩いた。 「なら拓夜。お前は白夜を守ってやれ」 「いいけど……お前ら二人で大丈夫なのかよ」 「こいつはともかく、オレは一人でこいつらを凌げる」 「は? 俺だって凌げるし」  睨み合う直人と蒼祁。頼むから喧嘩してくれるなよ。  拓夜がこっちに来たので、蘭李に頷いた。私達は駆け出す。瞬時に修道女が反応した。 「待ちなさい―――」 「おっと、アンタの相手はオレだ」  修道女に襲いかかる影の腕。その脇を通り抜け、廊下を駆け抜けた。私達はシルマ学園から出る。外はもう真っ暗な夜だった。走りながら、蘭李がこちらを向く。 「どうやって悪魔を探す?」 「うーん………メルに頼んでみるか?」 「メル? 誰だそれ」 「知り合いの天使」  そう言うと、「えっお前天使の知り合いがいるのか⁈ すげぇな! 羽生えてる⁈ 羽生えてる⁈」と拓夜が興奮する。放っておこう。  ――――――あ、そうだ。そういや忘れてた。私は拳銃を取り出し、蘭李に差し出した。 「これ返す。忘れてた」 「あ、ありがとう。ちょっと一回止まっても……」 「待って!」  突然コノハが叫んだ。急停止し、蘭李に拳銃を渡して振り返る。コノハは睨むようにじっと前を見据えていた。蘭李が不思議そうに声をかけた。 「どうしたの?」 「………来る」 「来る?」  コノハと同じ方を見る。ただの道路だ。誰もいない。変わったこともない。  が、暗闇から溶け出るように、あの悪魔が姿を現した。 「よお。こんな所で会えるとはなあ」  黄緑色の目が光った。私達は戦闘体勢に入る。  タイミング良すぎないか? まさか、つけられて……ってことは、話も全部聞かれている可能性がある。 「今日は知らない奴がいるみたいだな。新人か?」 「失礼だな! おれは白夜より年上だ!」  拓夜がぷんすか怒る。それをなだめながら、悪魔を睨み付けた。にやにやと笑う悪魔の右腕が、瞬時に水平に振られる。影から黒い狼が現れ、こっちに駆けてきた。避けるが、さらに別の影から鳥や一角獣のようなものも現れ、襲いかかってきた。  私は太刀を振り下ろした。影の鳥に刃が下ろされるが、裂け目から影が二つに分かれる。それらは再び鳥になり、私に突撃してきた。さっきよりも小さいからか、スピードが上がっていた。 「白夜! 大丈夫か⁈」 「何とか! 鳥に気を付けろ!」 「りょーかい!」  拓夜が一角獣に飛び乗った。暴れる一角獣にしがみつき、首に腕を回す。そのままその腕を引いた。一角獣は悲鳴も上げずに、溶けるように消えていった。その拓夜に、二羽の鳥が飛んでくる。私は影で拓夜の首を掴み、こっちに投げ飛ばした。追ってきた鳥を、私は思いっきり殴る。鳥は地面に叩きつけられ、動かなくなって消えた。着地した拓夜も、残った一羽を足蹴りで消した。 「なあ、気になったことがあんだけど……」  悪魔をじっと見据える拓夜。影が倒されたというのに、悪魔は未だ不敵に笑っていた。辺りを見る限り、蘭李とコノハはいなかった。引き離されたか……。 「何?」 「あいつ、人間臭い」  ――――――人間臭い? 「悪魔のにおいももちろんするけど……人間のにおいもする」 「何それ。普通そんなこと無いよな?」 「ああ。悪魔は悪魔のにおいしかしないよ」  拓夜の凄いところは、色んなにおいがかげることだ。人はもちろん、悪魔とか天使とか……。同種族だとにおいのタイプは同じらしいが、やはりにおい自体は各々で異なっているらしい。だから、悪魔を見付ける時にはすごく役に立つ。  ちなみにこいつ、かくれんぼで見つけられなかったことがないらしい。恐ろしい嗅覚だ。さすが感覚人間。  で、あの悪魔は人間のにおいもするらしい。それがどういう意味なのか、全く検討がつかない。そもそも、そのにおいの感覚が分からないのだから分かりようもないが。 「お前ら、何の話だ?」  さすがに不審に思った悪魔が、目を細めて睨んできた。  果たして正直に、においのことを話してみてもいいものか。訊いたところで教えてくれるとは思えないが。  なら、やっぱりあっちのことだよな―――私も悪魔を睨み返す。 「おい。お前、コノハを陥れようとしてるのか?」 「はあ? 何の話だ?」 「魔警察が、お前とコノハが仲間だって言ってるんだよ」 「ふーん」  なんだその反応。やっぱこいつがコノハを陥れようとして……! 「白夜。捕まえて突き出した方が早いぜ」 「だな」 「突き出すって、魔警察にか?」 「当たり前だろ」 「いいのか? それでも」  悪魔が妖しく笑う。  いいって当たり前だろ。なんで悪いんだよ。お前さえいなければ、蘭李とコノハは………。 「オレがコノハとグルだって証言しちまうけど」  ―――――――――――――は? 「ま、そんなのお前らには関係無いか」  は? いや、ちょっと待て。こいつ何言ったんだ? こいつとコノハがグル? 寝言は寝て言え。そんなわけがなかろうが。 「その顔、信じてねぇな」 「当たり前だろ。なんでお前とコノハがグルになるんだよ」 「そんなのあいつに訊けよ。あいつが自ら来たんだからな」  はあ? そんなわけ、ないだろ? コノハが裏切るようなこと………するわけが……。 「信じられねぇなら、蘭李くんのところに行ってみれば?」  最も、もう手遅れかもしれないがな。  クスりと悪魔が笑った。黄緑色の目は妖しく光っている。  手遅れ? どういうことだよ。何が手遅れなんだ? 一体、何が、起きて――――――。 「白夜。行ってこい」  ポンと拓夜に肩を叩かれ、我に返った。拓夜はにかっと笑っている。だが不安なのか、ちゃんと笑いきれていなかった。  そうだ………とにかく、確かめなければ……! 「………悪い」 「こっちは任せとけ」  拓夜に背を押され、私は駆け出した。蘭李が逃げたであろう方向へと。悪魔は邪魔をしてこなかった。それが余計に不安を増幅させた。ドクンドクンと、心臓が高鳴っていく。走っているからか。それとも、何かも分からぬ不安からか………。  頼む。何も、何も起きてないでいてくれ……! 「―――――――――――え………?」  信じられない、と思ったのは初めてかもしれない。驚きすぎて、言葉を失ってしまった。  立ち尽くすコノハ。その視線の先には、蘭李が力無く倒れていた。  しかも、蘭李も《コノハの腕|・ ・ ・ ・ ・》も、真っ赤な血に染まっていた。 「コノ……ハ………?」  コノハがゆっくりと顔を上げた。緑色の目は、ぼんやりと私を見る。  ――――――だが不意に、その目から涙がこぼれた。 「え…………?」 「…………こうでもしないと……」  そう言い残して、コノハは走り出した。追いかけたかったが、体が動かなかった。  なんで……? コノハが、やったのか……? 嘘だよな……? コノハがそんなことやるわけ――――――。  ――――――違う。落ち着け。それよりも、今は蘭李だ。 「蘭李ッ!」  蘭李に駆け寄った。傍で膝をついて様子を見る。胸を刺され、左肩から足の付け根まで斬られている。左腕も傷だらけだった。かろうじて呼吸はあったが、このままの状態が長く続けば、確実に死んでしまうだろう。 「嘘だろ……! 死ぬなよ! 今助けてやるから!」  影で蘭李をそっと掴み、その影に飛び乗る。そのまま最大速度で影を走らせた。一般人が誰もいなくて、本当によかったと思う。  だから、すぐ連れてってやるから……! 死ぬなよ……! 蘭李……!  そして私は、夜道を駆け抜けていった。 十話 side L  完
1
15
シリーズ一覧
感想を送る
作品を紹介
ブックマーク
しおりを挟む
作品情報
使い方
登録が完了しました!
確認事項
戻る
実行