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 コツコツと階段を上る足音が聞こえる。  三階建て雑居ビルの二階であるこの探偵事務所は長らく人が来ていない。  だからきっとこの足音の主も三階にある旅行会社にでも用があるのだろう…  そう適当に思いさっきまでと同じようにソファに寝そべり、愛読本の遠野物語を読む。  しかし、ボクの予想に反してノックされたのは僕の事務所の扉だった。  【水無月探偵事務所】そう大きく書かれた看板が旅行代理店と個人経営のカフェに挟まれ、肩身の狭そうに存在している。  噂によれば怪異事件だの妖怪事件だの専門の探偵とうわさされるほどの変人であるという…  なぜ私がこんなところに来なきゃいけないのか!  そう心の底から思っていたが、まともな事件ではなさそうだと興信所をたらいまわしにされるよりはましだと思いなおし階段を上る。  そして探偵事務所の戸をノックする前に深呼吸をし、気持ちを落ち着かせる。  ノックして数秒後にどうぞという低すぎず高すぎずないわゆる中性的な声が中から聞こえてきた。 「し、失礼します」  ガチャリと少し重めなドアノブを下ろして、後ろに引き戸を開ける。 「いらっしゃいませー」  やる気のない声が響く。やっぱり引き返すべきかと思うがどうにか思いとどまる。 「ちなみに聞きますが、カフェに二階はありませんし、旅行代理店は上ですからね?」  この確認からどれほど客足が遠のいているかがわかるが、ここ意外に頼れそうな物もないので間違えていないことを述べた。  そうですかと声の主である黒い長髪の少女?が確認もすんだことですし、とでも言うように面談用と思われる仕切りの向こうに案内する。  目の前にコーヒーが置かれる間に私は観察していく。  見た目はおおよそ16から18ほどで髪色は黒…というよりは黒みがかった焦げ茶というような感じだろうか?つり目で少し鼻が高めなことで少し狐のような感じを受ける。服装は暖かそうなブラウンのセーター、下は膝までしかない黒のスカートと黒のハイソックスといういでたちだった。  もし平日の昼間じゃなかったらこの家にいる娘さんか何かだと勘違いしてしまいそうだった。 「どうぞ」  そう言って出されるコーヒーにお礼を言いながら少女が対面に座るのを待つ。 「…それでここにご用と言うことは依頼ですね?」  目の前に座った少女は単刀直入にそう聞いてくる。その目はギラギラと謎に飢えていると精一杯のアピールをしていた。  私はゴクリとつばを飲み込み、自分の悩みを話す。 「先に名乗らせていただきますが、私は真田 菊といいます。真田幸村の真田に菊のご紋の菊で真田 菊です」  私が少し会釈すると相手の少女もでは私もと自分の名を名乗る。 「ボクは水無月みなづき 時雨しぐれ。水が無い月で水無月、時の雨で時雨さ、よろしく」  そして水無月探偵は握手するように手を前に出し、私もそれに応え握手が成立する。 「…依頼の方は少し不思議に思うでしょうが聞いていただけますか?」  私は五件中二件で笑われた依頼を口にする。 「えぇ、ボクの探偵事務所はそういう怪異みたいなのも請け負っています…いや、そっちの方が目当てです」  水無月探偵は獲物が罠にかかったようなうれしげな口元をつり上げる。その様はまさに狐のようで背筋が震える。 「つい先日二十年来付き合ってきた猫に死なれたんですが、それから近くでホームレス通り魔が起きるようになったり、見慣れない男性に後をつけられるようになったり…猫が死んですぐにこういうことが起こり始めて私はとても不安で不安でたまらないんです…」  そう依頼について私は詳細に話していく。  そして話し終わったと同時に水無月探偵はハァァァ…と大きなため息をつきながら仕切りの向こうにある入り口と反対のスペースへ消えていき数分して帰ってくる。  戻ってきて私の目の前に一冊のファイルを置く、そこには猫又と書かれていた。 「水無月探偵、さすがにこれは冗談が過ぎませんか?もうすぐ西暦も2200に入るこのご時世に妖怪は無いでしょう?」  何の冗談なのか、悪質なドッキリだ、それともこのままお代を寄越せなんて言うのだろうか? 「…このご時世に妖怪なんていない、本当にそうかな?」  水無月探偵は目を光らせる。その目はまさに獲物を狙いすくめるまなざしだった。 「そっそうですとも、この科学が発達した時代でも妖怪なんてもんは究明されずに非科学的と放り投げてある物なんですから」  若干声がうわずるが私のいい訳がうまく口から出る。 「あれ、じゃあ何でこの探偵事務所に来たんでしたっけぇ?」  とすぐにぼろの出る私の言い訳なんてほっぽり出し私のいたいところを刺す。 「さっきの猫がいなくなってからの依頼はどういうことですかぁ?」 「では、なんですか!?うちの猫が猫又なんて物になったと?」  こちらを煽るような台詞選びにカチンときて私もけんか腰の台詞を選ぶ。 「いや、別に君の家の猫が猫又になったとは知らないさ、近くに他に猫を狩ってる家が無いのが前提だがね?」  堂々と妖怪はこの世にいることを大前提として立てられた理論が信じれるものだ。 「では、妖怪がなぜこの世にいると言い切れるのですか!」  大前提である妖怪がいるという理論を説明してもらおう。普通はこんな理論の裏付けなんて存在しないのだから。 「いいよ、証明する。 妖怪がいるというという理論はボクの存在で事足りる」  自信満々にそう言いきる水無月探偵に、私は白々しいという視線を送る。 「信じていないようなら証拠を見せよう」  水無月探偵は立ち上がり、私の近くによって自分の頭を後頭部からおでこの方へ髪の向きと逆方向になでる。  すると二つの髪の毛の束が立ち上がってきた思うといつの間にか狐のような耳に変わっていた。そして人間的にないといけない位置に耳は無い。  他にもゆったりと髪の毛が小麦色がかって行くし、両方黒目だった瞳がいつの間にか左目だけだが森羅万象を見通すかのように爛々と金色に輝いている。 「あわわわ…」  と私は冷静に分析しているが、実際には頭は混乱の渦だった。  当たり前と言えば当たり前ではあるが、目の前のちょっとした非日常が完璧に私の常識と食い違ってきたのだから… 「あふんっ…」  脳処理は悲鳴を上げ私の意識はブラックアウトした。 「ハァ…ファイルのことで納得してくれればいいのに」  気絶して倒れ込んだ依頼人、真田をソファにちゃんと寝かせて探偵事務所の扉を開ける。  そこにいるのは薄汚いホームレス…の文字通り皮を被った猫又だった。 「やぁ、最近は珍しいよ君みたいな妖怪でも」 「あんさんは狐ですかい?」  ゆっくりとこちらに首をもたげてボクと会話する猫又。 「いやこれでも混血の半妖さ、ちょっと母さんが強かっただけの」  どうですかいと興味は失せたとばかりにそっぽを向く猫又。行く年経とうがやはり中身は猫だと実感しながらもボクはホームレスの顔をつかみこちらに無理矢理向かせる。  驚きで白黒させる目をまっすぐ見つめ、強めに言う。 「あの人間から手を引け」 「そっそりゃないぜ!」 「うるさい、まだお前を消す力はボクにあるよ?」  やっぱり言うことは聞かないから脅しをかけ、追い払った。
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