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 空を飛ぶ。  かつて全人類の夢だったそれは、現代においても異世界においても夢物語ではなくなっている。前者では技術革新によって。後者では亜人種の飛翔能力や魔法によって。  しかしそれらは綿密な計算や経験によって成し遂げられたものだ。  それらを持たない者が挑戦するという不可思議。そんな無謀にキヨシは挑む。 「カルロッタさんよお。俺の出番まだか?」 「力仕事とソルベリウムが必要になったら呼ぶわよ。今、図面引いてるんだから邪魔するな」  とはいえ、キヨシ個人でできることと言えば、柄にもなく眼鏡をかけて机に向かうカルロッタに、後ろの方で茶々入れることぐらい。  設計思想はキヨシが言った通り、『力学と魔法のハイブリッド』である。  普通の旅客機では、油圧によって方向舵や昇降舵を制御して、機体に対する空気の流れを操り操縦できるようになっている。  しかし、それらは各種センサーや計器、操縦者本人の熟達した操縦能力によって初めて完成する、いわば数多の先人たちによる弛まぬ努力の結晶なのだ。  当然ながら、油圧系統や計器を作る技術など持ち合わせていないし、それらが無ければ航行などできない。  そこのところを魔法でどうにかしようというのがキヨシの計画。  とどのつまり、ハイブリッドと言えば聞こえはいいが、機体の設計を航空力学に則った形状にしたら、制御は魔法に丸投げするというやり方だ。  キヨシは魔法など丸っきり使えないし使えるようになる気もないので、理屈を伝授した後の調整や開発には出る幕無しなのである。 「なあ頼むよ、なんかやらせてくれ。手持無沙汰の上、年末の大掃除で指示だけ出して何もやらん人みたいで肩身が狭いじゃねえか」 「何をワケの分かんないこと言ってんのよ。アンタ肝が据わってるのか小さいのかどっち?」 「そこは他人から受ける評価に委ねられるもんだから、俺からは何とも言えん」 「なんだその面倒クセー価値観。はあ……どーしてもなんかやりたい?」  「やりたい」と声を出すより早く、キヨシは身を乗り出して姿勢を示す。そしてカルロッタもまた、その姿勢に応えた。 「じゃあお茶淹れてきてくんない?」 「俺の故郷じゃ、それ”パシリ”って言うんだけど!」 「カルロ、お茶とお菓子持ってきたから少し休もう? キヨシさんも、よろしければ」 「それすら奪われたしなァーッ! ありがとういただきま熱っづそして渋ッ」 「お、オリーブの葉っぱなんだそうです。落ち着いて飲まないとむせちゃいますよ」  ティナが気を利かせたことで正真正銘何もやることがなくなり、半ばヤケクソで茶を飲み菓子を頬張る。茶の渋さが菓子の甘さを引き立てていて、なかなかどうしていい組み合わせである。ティナの見立てであろうか。  一心不乱のヤケ食いを敢行するキヨシに苦笑したティナは、カルロッタに茶と菓子を渡し、引いている図面を覗き込んでいた。 「キヨシさんの案でも、鳥みたいな見た目になるんだね」 「そりゃあ、異世界の飛行機ってヤツも飛ぶ理屈は鳥と同じみたいだし。必然、似通うんじゃない?」 「……キヨシさんは今何もしていないのを気にしているみたいだけれど、十分役に立ってるよね」 「んー、まあね」  キヨシをそれとなく持ち上げる姉妹の背中を見たキヨシは心中、  ──そりゃあ、ほとんど”一”からのスタートだったからな。  と、ぼやく。  今日でキヨシの宣誓から六日が経過していた。  この六日間で既存の欠陥飛行機にいくつかの改修を施して飛ばした結果、それだけでそれなりの成果を得られたのだ。  その改修というのも機体の無駄な部分を削った後、キヨシの指でソルベリウムを盛ってフォルムを整えるという粘土細工をするような改修だが、空気の流れをある程度利用できるようになり、ソルベリウムに貯めたチャクラのみで飛んでいた頃から比べると、信じられないほどの距離の飛行が可能になった。  それでもアティーズには程遠い、昇降と旋回に大量の風のチャクラを消費してしまう等の課題は残っているものの、キヨシの力添えによって目標に大きく前進したことは確かだった。 「何より普通に着陸できるようになったのが、すンごい大きいのよねぇ。不時着ばっかだったし」 「笑って言ってるけれど、それすっごく危ないことなんだからね。……今引いているのが、次の試作機の図面?」 「ふふーん。試作機どころか、コイツでアティーズに行けるまであるわよ。超画期的な魔法的機構を思いついちゃった、ふふふ」 「えっ、随分早いね。まだ二回目じゃない」 「それだけ、前ので得られた成果は大きいってことよ」  図面を引くカルロッタは心底楽しそうであり、抑えきれない感情を駄々洩れにしている。その微笑ましい様子をティナもまた、口角を上げて見守っていた。  全てを平らげたキヨシも、図面上の文字は読めないまでも何となくでも理解しようと、図面を覗き込む。 「んで、今度のは前とどう違うんだ」 「簡単に言えば、ソルベリウムの体積をできるだけ増やそうって計画。ソルベリウムのチャクラ貯蔵量は、体積に比例して倍々に増えていくからね」 「なんか字面だけで言うとすンごい脳筋計画に聞こえるんだが……図面を見る限り、それだけじゃなさそうだな」 「当然。重要なのは、この”線”よ。この機構を作る辺りでキヨシには活躍してもらうから」  そう言われて図面を詳しく見てみると、機体の至る所に何本もの線が木の枝のように張り巡らされていて、一本一本手繰るようになぞっていくとそれらは全て操縦席の真ん中、つまりソルベリウムが組み込まれる台座へと収束していた。  この図面とカルロッタの言い分。この二つが示すものは── 「……ひょっとして、この線全部ソルベリウム製なの!?」 「賢いティナの推察通り。体積を増やすことさえできれば、形はどうでもいい。さらに言えば、複数のソルベリウムをただ”くっつける”だけでもチャクラ貯蔵量は増えるの。その性質を利用して、ソルベリウムを機体の隅々にまで張り巡らせることによって、チャクラの消費効率を上げようって寸法よ」  そして、その機構の根幹をなす線状のソルベリウムは、キヨシの指の力を利用して生成する、というわけだろう。  魔法絡みの事柄について、てんで素人のキヨシにさえ”イケそう”と思わせられる説得力のある説明だった。なるほど確かにカルロッタの言う通り、画期的なアイディアに思える。  が、別の懸念もある。 「しかし、あんまり過剰にやると機体重量が|嵩《かさ》むわな。調整が難しそうだ」 「そーなのよー! それに、ソルベリウムにチャクラを込める苦労も計り知れないし。既存のやつを弄るだけなのに設計だけで何日もかかりそうでさぁ」 「”何日”で済むと考えてんのは自信過剰なのか、マジの有能なのか……そういえば、ティナちゃんもカルロッタさんも風のチャクラ使えないんだよな? アティーズまで航行できるのか? 既存機のテスト飛行は、自力で空飛んで緊急脱出ができるアレッタさんに任せてたけど」  未だキヨシはその手の技術も無ければ知識もないため、疑問は山積みである。そのままにしておくのも危険な気がするので、積極的に聞いておく。  その問いに答えようとカルロッタが口を開くより前に、 「ソルベリウムを扱うのは、”エーテル体”を持っているなら誰でもできるんです。きっとやろうと思えば、キヨシさんにも──」  ティナはカルロッタを遮ってしまったことに気付き、頬を赤らめ視線を落とし黙ってしまう。  ティナは以前、中央都でキヨシに街灯に使われているソルベリウムのことを教えた時もかなり丁寧に、且つとても楽しそうに教えてくれた。  どうやら控えめな性格に反して話すのは好きらしい。釣り合いが取れていない少女である。 「はいはーい、休憩終わり。そいつの”お勉強”はティナが見てあげて。無知に構ってる暇がねえほど忙しいからァーッ」  それを察してかカルロッタは特段嫌な顔をするでもなく、わざとらしい言い回しで再びペンを取り、図面とにらめっこを始めた。 「それじゃあその、少しだけ」 「ハーイ、先生。カルロッタさんの言い方で僕は酷く傷つきましたー。いけないことだと思いまーす」 「あ、あはは……後で言っておきますので」 「……まあ今日の所はそれで勘弁してやろう」  数日前のプレゼンのお返しとばかりに、キヨシが興味と期待を込めた視線をティナに送ってやると、少し照れ臭そうに咳払いする音で、”ティナ先生”の講義が始まった。
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