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店に戻ると霊斬は、血糊を落とした刀にもう一度目を通し、汚れを丁寧に落としていく。すると刀本来の鋼の輝きが戻ってくる。霊斬はその作業を続けた。 日も暮れ夜の帳が下りたころ、千砂は忍び装束に身を包み、宗崎家へ向かった。 屋根から侵入し、目星をつけた部屋の位置で待つ。 すると声が聞こえてきた。 「従六。今日も仕事お疲れさん。呑まないか?」 依頼人と思われる声が聞こえてくる。 「悪いな、田助。少し仕事が残ってるから」 「そうか……。じゃあ、また明日」 そう言って襖の開く音がし、ちょうど千砂の真下から足音がする。 千砂はそうっと天井の板をずらして、様子を見ると書の名で従六の部屋だと分かった。 仕事をしながら、従六の独り言が聞こえてきた。 「田助には困ったもんだ。いつまで俺の周りをうろついているつもりなんだ。うっとうしい。なんとかして離れる方法を考えないとな……」 ――上辺だけの付き合いって感じだねぇ。 千砂は溜息を吐いて、天井の板を戻す。 そのまま依頼人の部屋を探し、様子を見にいくことにした。 「ああ! いらいらする!」 依頼人の怒号で部屋の位置を割り出した千砂はそこへ向かい、天井の板をずらして様子を見た。 依頼人は部屋の中をぐるぐると歩き回っている。 今の生活に嫌気がさしていることは、その態度で分かった。 ――一週間、意地でも我慢してもらわないとね。 千砂はそう思いながら、屋敷を後にした。 翌日、同じ時間、千砂は再び宗崎家に忍び込んだ。 従六の部屋に向かった。 「旦那様」 「なんだ?」 「夕餉の支度が整いましたが、こちらでお召し上がりになりますか?」 「ああ」 「かしこまりました」 襖が閉まる音が聞こえてくる。 「一人の方が落ち着くなぁ」 その独り言を聞いた千砂は、 ――嫁も嫌になったのかね、こいつは。 と思わずにはいられなかった。 千砂は依頼人の部屋へ向かい、天井の板をずらすと、部屋がかなり汚いことに気づいて首をかしげた。 ――昨晩、発狂でもしたのだろうか? そう思わせるに足るほど、部屋は荒れており、あれでは足の踏み場もないだろう。 ぐちゃぐちゃになった部屋の真ん中に依頼人が座っていた。 「疲れた」 それはそうだろう。あれだけのものを引っ張り出したのだから。 千砂はそう思いながら、屋敷を後にした。 霊斬はその間、依頼された刀の修理をしていた。 切れ味を元に戻そうと、粗めの砥石を使って丁寧に研ぐ。それを数時間繰り返し、今度は目の細かい砥石に切り替え、同じように研ぐ。それには二時間をかけて丁寧に仕上げた。 「よし」 霊斬はその出来に納得すると、鞘に納めた。 翌日、隠れ家を訪れると、千砂がお茶を飲んでいた。 「どうしたんだい?」 「調べはついたのか?」 霊斬は静かな声で、聞いた。 「ついたよ」 千砂は言いながら、お茶を飲んでいた。 「ならさっさと」 「まあ、そう焦りなさんな」 千砂は霊斬の言葉を遮り、お茶を出す。 「……それで?」 霊斬はお茶を飲みながら尋ねた。 「依頼人も宗崎従六も最低な男だったよ」 千砂は溜息混じりに言った。 「というと?」 霊斬が先を促す。 「依頼人は、どうにかならないかって部屋のものに当たってる。宗崎の方は、夫婦仲、兄弟仲、ともに冷え切っているようでね」 「想像以上だな」 霊斬は溜息を吐きながら、お茶を飲む。 話の内容とは裏腹に、のほほんとした空気が漂う。 「念のため数日、夜だけ少し様子を見るかい?」 霊斬は考え込む。 「……いや、いい。それでお前が身体を壊してもらっても困る」 「おや? 一応、心配してくれるんだね」 千砂が笑みを見せる。 「そりゃな」 霊斬はそっけなく言って、お茶を飲んだ。
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