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鍛冶屋は貴州と名乗った。歩きながら、貴州が尋ねる。 「名は?」 「忘れた。……だから、ない」 「なら、俺がつけてやろう」 貴州はにやっと笑った。空を見上げるとちょうど鷲が飛んでいた。 「幻鷲霊斬」 霊斬は与えられた名を呟いた。 「いい名だろ?」 霊斬は、ひとつ、うなずいた。 「どうしてその名を?」 霊斬が尋ねた。 「答える前に、ひとついいか?」 霊斬は黙ってうなずく。 「今まで、大勢、斬ってきただろ?」 「そこまで多くはないが、どうして分かる」 霊斬の声には苛立ちも混じっていた。 「だから言っただろ? 〝血の匂いがする〟って」 霊斬は納得するしかない。着物に染みついた血が匂ったのか、この男の勘なのか定かではないが。 「仕事で斬っているのか?」 「ときどき、用心棒を引き受ける」 貴州の問いに霊斬が、静かな声で答えていく。 「そうか。……どうせ斬るのなら、人ではなく、目には見えないものを斬ってほしいんだよ」 「目には見えないもの……?」 霊斬は困惑した。 「いっぺん、稽古でもしてみるか? いいや、《止|や》めておくか」 「どっちだ?」 霊斬が突っ込む。 「止めだ」 「なぜ?」 「お前さんが相当な使い手だからさ」 「なぜ……それを」 霊斬は唖然としつつも、そう尋ねた。 「強いて言うなら、殺気だな。俺といても殺気が消えん」 貴州は顎に手を当てて言った。 「そうか」 「なあ、霊斬よ。刀鍛冶になる気は、ないか?」 「なぜだ?」 霊斬が訝しげな顔をする。 「俺の勘だ。お前はいい刀鍛冶になりそうな気がするんだよ」 「今より稼げるか?」 霊斬は問いかけた。 「店が持てれば、な。それまで金と時間はかかるが」 ――好都合だ。 霊斬は今の生活に嫌気が差していた。刀鍛冶になって、どこか身を落ち着けるのも悪くはない。手に職をつけたいという想いがある。なにより、霊斬の願いが叶うかもしれない。 「分かった」 「そうと決まれば、行先決定だな」 「どこにいくんだ?」 「俺の秘密の鍜治場さ」 貴州はにやりと笑った。 一か月かけて、貴州の言う鍛冶場に到着した。 貴州は休む間もなく、霊斬に技術の基礎を教え込んでいく。霊斬は水を得た魚のように、知識を吸収していった。 それから半年をかけて、基礎を徹底的に学び、実践に入った。貴州の教え方もうまく、霊斬は呑み込みが早かった。二人は良い師弟関係を築いていった。だが、貴州はなぜか自分のことを師匠と呼ばせなかった。 それから三年後、霊斬はめきめきと腕を上げ、ようやく一人前だと貴州に言われるようになった。 「一人で、一本、作ってみろ」 霊斬はそう貴州に言われ、食事は一切摂らず、水だけを飲んで、刀作りに没頭した。 二週間かけて、霊斬が初めて鍛えた刀が完成した。 「いい出来だ」 貴州がそう言うに足る実力を、霊斬は身につけていた。 「ありがとう……ございます」 「敬語は止めろって言ってるだろ。堅苦しいのはごめんだ」 霊斬は呆れた貴州に、うなずいてみせた。 ――良かった。 内心で、霊斬は素直にそう思った。 ――これで、金さえあれば、店を立てられる。 霊斬は師に向かって、頭を下げた。 「俺はお前をここまで育てられたことに満足してんだ。顔、上げな。飯にしよう。腹、減っただろ?」 霊斬は夕餉の手伝いを始めた。
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