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霊斬が刀鍛冶の修行を始めて四年が経ったある日、霊斬は貴州にこう申し出た。 「旅に出る。いつか、俺の店を作るために」 「分かった。準備してろ」 貴州は短く告げて、奥に引っ込んでしまった。 霊斬は不思議に思いながらも、旅支度を始めた。 乳母の父からもらった短刀を撫で、懐に仕舞った。 霊斬が旅支度を終えるころ、貴州に声をかけられた。 「霊斬」 呼ばれていくと、貴州は一振りの刀を霊斬に渡した。 柄や鍔、鞘に至るまで黒一色の刀だった。抜いてみると刀身までもが黒だった。 「前の雑刀じゃ、みすぼらしい。……持っていけ」 貴州はぶっきらぼうに言った。 「ありがたく、使わせてもらう。感謝する」 霊斬は言いながら、頭を下げた。 貴州は手を伸ばし、その頭をがしがしと撫でる。 突然撫でられたことに驚きつつも、されるがままの霊斬は、もう少し優しくやれよ、と思った。けれど、そんな撫で方がこの人らしくもあった。 「いってくる」 「嫌になったら、いつでも戻ってこい」 貴州は笑いながら言った。 「いつのことになるんだか」 霊斬は肩をすくめると、貴州の許を旅立った。 「俺と貴州さんの出会い、今の仕事に就くきっかけは、ざっとこんな感じだ」 霊斬は酒を呑みながら、あっさりと告げた。 「へぇ、やっぱり面白いね。あんたの話」 千砂がくすっと笑って、霊斬の空いた盃に酒を注ぐ。 「霊斬という名に、目に見えないものを斬ってほしいという想いが込められていたとはね。今の霊斬はそれを実行しているじゃないか」 「まあ、そうだな。だが、久しぶりに会ったとき、貴州さんは暗い顔をしていたぞ」 「それはどうして?」 「貴州さんは、俺に裏稼業から足を洗うよう、忠告にきた。俺はそれを突っぱねた。貴州さんに言われるがまま、上着を脱いだ。そうしたら、暗い顔をしていたんだ」 「もしかして、火傷の痕も見せたのかい?」 「そうだが?」 霊斬はなにか悪いことでもしたか? と言わんばかりの、軽い口調で言った。 ――自分が一番苦しんだというのに、それをなんとも思わずに他人に晒すなんて。普通ならそんなこと、隠したがるものなのに。霊斬は下手に隠すより、見せてしまった方が良いと判断したのだろう。火傷の痕なんて惨いもののはずだ。 「そんなの見せられれば、誰だって暗い顔するさ」 千砂は溜息混じりに言った。 「そうか」 霊斬は酒を煽ると、話を再開した。 その後、霊斬は用心棒の傍ら、稼ぎのいい仕事を探し、江戸にきていた。その中でも危険だが羽振りのいい暗殺が稼ぎやすいと噂を聞き、ある武家の屋敷を訪れた。 「そなたが腕の立つ武人か」 「はい」 「この男を殺めてまいれ」 下仕えの者が男の名を告げる。 「かしこまりました」 霊斬は下仕えの者から必要な情報を聞き出し、屋敷を後にした。 この日、霊斬は人斬りとなるにあたり、表向きには幻鷲と名乗ることにした。 幻鷲は男が通るという道の物陰に隠れ、待ち伏せる。 しばらくすると標的の男が通りかかる。鯉口を切りながら駆け出し、下から切り上げた。男は血飛沫とともに、地面に倒れる。その返り血を浴びながら、怒号を聞く。 「なに奴だ!」 幻鷲は邪魔する者は全員斬り捨てろとの《命|めい》に従い、その場にいた五人の命を散らした。 鮮血がべっとりと付いた刀を振って仕舞うと、頬についた返り血は拭わず、その場を後にした。
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