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「お久しぶりです」 「逞しくなったな」 霊斬の姿を久し振りに見た乳母の父がそう言った。 「元気にしているか?」 「はい」 「旅は続けているのか?」 その問いに霊斬は笑みを浮かべて答えた。 「今は江戸に身を置き、幻鷲霊斬と名乗り、刀鍛冶をしております」 「良い名だな。自分でつけたのか?」 乳母の父はそう言いながら尋ねた。 「いえ、ある人がつけてくれました」 「そうか……。娘にも今の君の姿を、見せたかったよ」 「殺されたのはいつごろなのですか?」 霊斬が尋ねた。 「一週間ほど前だよ。突然、賊がやってきて、家を荒らし、妻と娘が殺された。二人に駆け寄っていったら、声が聞こえてきたんだ」 「そうでしたか」 霊斬はうなずく。その双眸には憎しみが宿っていた。 「ここにいる人間を殺せば大金が手に入るって武家の人が言っていた。それから男を捜せと。多分、君のことだろうね」 「今さら連れ戻しにでもきたのでしょうか。それにしても、殺す必要はなかったはずだ!」 霊斬が激昂する。育ての親であり、幼かった霊斬の味方でいてくれたのは常に彼女だけだった。 「私もそう思う」 霊斬は自分が昔いた武家の名をすっかり忘れてしまっていた。あのころの記憶は消せなくても、その象徴となるものだけでも忘れていたかった。その方が少しでも楽になれる気がしていたから。 霊斬は立ち上がる。 「どこへいくつもりだい?」 「江戸に戻ります。せめて賊だけでも、なんとかします」 「殺しちゃあ、いけないよ?」 「……そうせずに済むよう、動いてみます」 霊斬は頭を下げ、江戸へ向かった。 それから数日の間、賊と武士の情報を集め、ついに、目的の賊を探り当てた。 黒の長着と同色の馬乗り袴を身に纏う。黒の足袋を履き、黒の羽織りを着る。同色の布で鼻と口を隠す。愛用している黒い刀を腰に帯びると、その集団がいるという家に向かった。 霊斬は新人を装って、その集団に潜り込んだ。 「今日からお世話になります、幻と言います」 「堅いのはなし! ゆる~くいこうぜ!」 頭領と思しき男に肩を抱かれ、霊斬は委縮したふりをしてうなずく。 「は、はい」 それから数日のうちに、近くの米問屋に盗みに入り、祝杯を上げていると、下っ端の男が霊斬に話しかけてきた。 「幻よお。前な、利津家からある男を探すのと、男と女二人を殺せって依頼を受けたときにな、結構稼いだんだ。金は、みんな、酒に使っちまったんだけどな」 皆一斉にがははっと嗤い出す。 「あのときはよかった。男は見つからなかったのに、報酬たんまりくれてよお」 「俺達さえ良ければ、他はどうだっていいのさ! いや~、またああいう依頼こないかね?」 「そうだな」 霊斬は途中から会話に参加していなかった。人の命を奪ったことをなんとも思わない屑に出くわした。 霊斬は腰に下げていた刀に手をかけ、周辺に座っていた男達に一太刀浴びせた。 「なにすんだ! てめぇ!」 別の男の怒号が飛ぶ。 霊斬はその男を斬り捨て、次々に男達を血飛沫と肉塊に変えていく。 血に濡れた着物を《翻|ひるがえ》し、返り血を浴びながらも動じない。霊斬は男達を斬り続けた。 数多くの断末魔を聞きながらも、霊斬は冷静だった。 「うるさいんだよ」 霊斬はそれだけ告げると、惨状と化した住処を後にした。
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