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「う……」  目覚めた場所は知らない景色で、空気の質も元の世界とは違っていた。 「……あれ?」  体を起こして、かけられた布に気づく。水色の……マントか何かだろうか。 「……気がついた?」  聞こえた声に振り向くとひとりの青年がユウを見つめていた。年齢は十八か十九。蒼い空と海の色が混ざった瞳に明るい茶色の髪。腰には剣を提げている。  しかしそんなことよりもユウが驚いたのは彼の顔立ちだった。 (……あれ?なんだかとても俺に……似ている?目の色と髪型が少し違うけど――) 「あ、はい。このマントはあなたのものですか?」 「うん」  こくりと頷いて、青年はマントを羽織りなおした。 「とりあえず自己紹介、だよね。うん。グラウ先輩がいつもそう言っていたから。俺はレイ。レイ・フェイレーン。聖剣術士の魂のかけらだよ」 「魂の……かけら?」 「……実体のある幽霊っていうのが一番近いかもね。手に触れてみて」  ユウが触れたレイの手はひんやりと冷たく、体温が感じられなかった。 「なんだか、触れるのは不思議な気分ですけど……確かにあなたには体温はないですね」  レイは少し寂し気に微笑んで、ユウに果物を差し出した。 「これでも食べて。フレッサの実。甘くて美味しいよ?」 「あ、はい」 お腹もすいていたのでユウは素直にそれを口に入れる。甘酸っぱい味と香りが広がった。 ―― 「さて、落ち着いたところで本題に入ろう」 レイはユウに現状を伝える。 「この場所はロクマリア。地下墳墓だ。そして君にはある使命がある」 「使命、ですか?」 ユウは首を傾げる。 「ここの守護者を浄化して、彼らが守ってきた雷の聖石を受け取り、雷の資格者に届けることさ」 「浄化といわれても、俺は……」  ユウにはまだ、力はない。シグレに制御法を習い、実戦でその能力を使ったユキ達とは違いユウの力は目覚めてすらいなかった。剣道部に入っているので少しは剣が使える、その程度で。 「そうか、まだ君の力は目覚めてはいないんだね。じゃあとりあえず剣だけは渡しておこう」  レイはユウに向けて呪文のようなものを唱える。すると空中に魔法陣が浮かび上がり、剣の柄が現れた。 「ユウ。これは君のための剣。聖剣デュランダル。さあ、引き抜いて」 「……はい」  ユウは恐る恐る剣の柄に手をかけ、ゆっくりと引いていく。やがて淡い光を纏いながら、聖剣デュランダルはユウの手に収まった。 「うん、やっぱりこれが引き抜けるということはユウは俺の転生後で間違いないね」 「え」  その言葉に驚くと同時に納得がいった。纏う雰囲気も、姿も鏡写しのように似すぎていたから。 「ユウ、やはり君には俺の時の記憶は受け継がれていないみたいだね」 「そうだと思います。夢で見たこととかも……ないです」 「……今はまだきっと、その方がいい。さて、武器も手にしたんだ。とりあえず守護者を浄化することにしよう。大丈夫、これは俺の約束でもある。サポートするから安心してね」 ――  地下墳墓の最奥。閉ざされた棺。 「……時間はかかりましたけど、約束を果たしに来ました。あなたたちを解き放つという、約束を」 <……レイ……>  棺がひとりでに開き、中からドレスを纏った骸骨が現れる。つづいて彼女を守るように、複数。背の低いものは子供だろうか。 「これはエリスの罪。魂を歪めてしまったから、あなたたちはこうして囚われてしまった。テュシア亡き後、俺は鎖を断ち切ってあなたたちを助けていったのだけど、使命を優先するしかなくて、中途半端になってしまった。そしてその無念が、こうして俺を留めています」 (エリスの罪……?ゆがめられた魂?テュシアって誰だ?) <……私たちは、テュシアもあなたも恨んでなどはいません。エリスの罪を負うのはプラレ・ラケシス・エリス女王……いいえ……滅びの預言などなければ、「涙の海」が起こらなければあの方も狂いはしなかったのでしょう> ドレスを纏った骸骨はふわりとユウのそばに舞い降りる。 <あなたがレイの生まれ変わりですね。さて、形式的なものですが、雷の聖石を渡すには私たちと戦っていただかなくてはなりません> 「……わかりました」 ユウは聖剣デュランダルを構える。レイもそれに続いた。 <参ります……!>  ドレスを纏った骸骨の周囲に青白い炎が生まれる。 <冥府の焔で灰と化せ!コフィン・ウィスプ!> 飛ばされてきた青白い炎弾をユウとレイが斬り払う。 「……はっ!」 その後生まれた隙を見て、ユウが斬り込み、骸骨のドレスが切り裂かれた。 「……約束を、今」 レイが剣の先に光を集めて、骸骨の心臓部に突き立てる。 <……ありがとうございます。あなたの剣は縛鎖を切り裂く。これで私たちはやっと眠りにつけます……> 淡く優しい光となって、骸骨は消えていく。 <レイ。そして彼の生まれ変わりの子に、この雷の聖石を託します。どうか、この世界を――> レイの掌に、トルマリンのピアスだけが遺された。 「……行こう。もうここから出られるはずだ。夜ももうじき、開けそうだから」 ――  地下墳墓を抜けて、丘の上に出たユウとレイが見たものは、上空に輝くオーロラの光だった。 「綺麗……」  そういえば、本で読んだことがある。オーロラは死者の魂だとされていると。  ああ、あの人たちが空からお礼を言っているみたいだとユウは思う。 <君のおかげで解き放たれたんだ。ああ、そうだ。俺が君の魂に溶け合う前、実体があるうちにこれを渡しておくよ> そう言ってレイが差し出したのはトルマリンのピアスだった。 <彼らは、これは雷の聖石だと言っていた。過去に盗まれたものを取り返してここで守っていたのだと> 「なるほど、これが……わかりました。お預かりします」 ユウはそれを大事にポケットにしまう。 <時間だ。大丈夫、君の中に俺はいる。完全に溶け合うまでは、力の使い方やこの旅の助言もできると思う> 「……お願いします。レイさん」 淡い光がユウの心臓へ吸い込まれて、消える。 「……」 ユウはもう一度だけ空を見上げる。暁の空にオーロラは消えかかり、 「……おやすみなさい。そして、ありがとうございます。必ず、届けますから――」 彼はロクマリアを背にして歩き出す。まだ見ぬ、仲間たちを探して。 ―― (そして、この後……俺はどうなったんだろう?)  次に目を覚ました時、俺は囚われていて、シグレ先輩にアートゥルムを注ぎ込まれて、制御不能になったまま ユキ先輩たちと戦って、先輩は傷つくのと引き換えに仮面を砕いて、元に戻してくれて――  朧げだった意識がはっきりとしていく。 「……ここは、なんだ?」  暗闇の中でユウはひとり呟いた。どれほど歩いたかはわからないが闇が晴れる気配はない。それどころか逆に濃さを増していく気がして、ユウは思わず身震いした。 (呑まれてしまいそうだ……) <ユウ> 「え?」 不意に響いた声にユウは足を止める。 <大丈夫かい?> 「は……はい……あれ?でもなんで実体化を?」 <それはここが特殊結界【過去鏡】の中だからだね> 「過去……鏡?」  影鏡なら見たことがある。そもそも彼らが異世界に飛ばされ、時雨が敵に回るきっかけとなったのはその鏡だ。 <影鏡も恐らくはここのレプリカだろうね。過去鏡は見た者に前世を見せる。そういう鏡なんだ> 「でも前世を見せるだけなら特に問題はないんじゃ?」 ユウの言葉に、レイは睫毛を伏せる。 <君たちの前世は普通とは違うんだ……さらに言えば過去鏡の最大の問題は、前世が現世を侵食することにあるんだよ> 「それってどういうことなんですか?」 <時雨さんが敵に回ったのには前世も関係している。何より彼は君を憎んでいるだろう?>  ユウは確信した。ああ、だからあの時の眼は冷たくて、憎悪を感じたのもやはり間違いではなかったのだと。  しかし、前世が現在を侵食するのなら。 「……俺がまた、ユキ先輩達に刃を向ける……そういうことなんですか?」 <それは違う!> ユウの言葉にレイは怒ったように即答する。ユウは驚いて目を丸くした。 <あ……ご、ごめん。ユキさんは……前世でも僕の大切な先輩だったんだ……だからつい、ね> 「え?」 戸惑うユウの足下がぐにゃりと歪んだ。 <鏡が前世を見せる……!大丈夫、ユウならきっと――> 「うわ!?」 次の瞬間辺りは白い光に包まれた―― ―― 「レイ?レイ大丈夫か?」 「あ……え、えっとだ、大丈夫です。」 「良かった。今日は暑いから少し日陰で休んでいいよ。」 「はい……ありがとうございます……」 (これは……僕がレイさんになってる?)  ユウはとりあえず言われた通りに日陰へと向かい、腰を下ろした。綺麗に手入れされた芝生。剪定された木々。花壇に咲き乱れる花。 <……ここがエリスだよ。そしてここはエリス王宮の中庭。宮廷護衛団の訓練場所だったんだ> 「レイさん!」 <どうやら君が僕ってことになってるみたいだね。口にしなくても大丈夫だよ。思うだけで僕との会話はできるから> (わかりました。それにしても宮廷護衛団って……レイさんって凄かったんですね。) ユウの言葉にレイは微苦笑する。 <凄くはないよ。グラウ、エア、レイア、ウィンド、ツキネ……ユキ、リカ、アズサ、ケイ、ここにはいないけどセイラっていう子もね、宮廷護衛団の一員だったんだから> 「え」 「レイ。そろそろ大丈夫?」  遠くからひとりの青年がこちらに向かって近付いてくる。ダークブラウンの髪と瞳。あどけなさの残る顔立ち。身に纏う柔らかなオーラ。 (ユキ先輩にそっくりだ……じゃあこの人が――) 「大丈夫です。グラウ先輩」 「良かった。と言いたい所なんだけどちょっと話し合いが入っちゃって。もうお昼にしていいよ。はいこれ」 そう言うとグラウはレイにサンドウィッチを手渡し、足早に去って行った。 <ユウ、食べてみなよ。本当にグラウ先輩は料理が上手いんだよ> 「では……」 ユウは言われた通りに一口食べてみる。 「文句無しに美味しいです。ユキ先輩って、前世から料理上手だったんですね……」 <でしょ。本当グラウ先輩って明るくて優しくてでも強くて……理想の先輩だったんだ> レイの言葉にユウも頷く。 「わかります。ユキ先輩もまさにそんな感じなんですよ。お菓子がとっても美味しいんです」 <そうなんだ。……だけどねこの翌日だった。急に大量の魔物がエリス王都を襲撃した。それは【降魔の扉】が原因だった……それを封じる為にグラウ先輩達は……禁忌詩を謳って……そしてそのまま人としての生を終えてしまったんだよ――> 「え……」 ぐにゃり、と景色が揺らぐ。 気付くとユウは洞窟の前に立っていた。 「レイ!」 「フィーナ……どうしたんだ?そんなに慌てて」 フィーナは哀しげに睫毛を伏せるとレイに告げた。 「降魔の扉は封じられました。だけど……だけど……グラウさんもエアさんもレイアさんもウィンドさんも!」 その後に続く言葉はすぐに予想がついた。 「そんな……先輩たちが……」  レイの脳裏に浮かぶのはグラウの笑顔。彼は誰よりも笑顔の似合う人だった。レイを部下のひとりではなく、弟のように可愛がってくれた人。何よりフィーナに出会うきっかけを作ったのも彼だった。 (……もう……いないなんて……)  その事実にレイは頭の中が真っ白になりそうだった。しかし悲しんでいられるような状況ではなかった。 邪神オルダークは皇帝ゼノヴィアを器とし、王都へと迫っていたからだ。 (僕は使命を果たさなければいけない――) 「フィーナ。これを。」 レイはそう言って羽根のついた腕輪をフィーナへと手渡した。紅く、燃える様な色をした鳥の羽根。 「これは……比翼連理の羽根……レイ……貴方は!」 「……ごめん。僕は使命を果たす。そしてフィーナやみんなが笑っていられる世界にするから」 レイはそう言うとフィーナにそっと口づけた。 「……わかってる……わかってるの!だから今だけはこうさせて……貴方の体温を刻み付けさせて……」 ―― 再び景色が揺らいだ。 <ユウ。あれがオルダークだよ> 気付くと彼は再びレイになって邪神オルダークの前に立っていた。 「……どうすれば……!」 ユウは戸惑いながらも聖剣を構える。 <大丈夫。君の体が知っているはずだ。……この鏡が見せるのは過去。結末は変えられないけれど――いずれ君たちが邪神と戦う時には大きな力になるはずだ> 「……わかりました。やってみます!」 ユウは深く息を吸い込み、意識を集中する。剣が淡く光り輝き出した。 <レイか。無駄なことを。いくら聖剣術士とて……今の我に敵うと思うか> 「……そんなのやってみなくちゃわからない!」  ユウはそう言うと剣を横に振り抜く。途端に光風が現れてオルダークの体を弾き飛ばす! <ぐう!> 衝撃でオルダークの体が揺らいだ。 「……終わりですか?」 <……たわけっ!> オルダークはそう言うと闇の光線をレイに向けて放った。 「うわあああああああ!」 (苦しいっ……これが……邪神の……ちから……)  体中から力が、生命力が奪われて行く。意識が飛びそうになるのをユウは必死でこらえた。 <どうした?口だけだな?> オルダークが空中からレイを見下ろす。 「こんなところで負けられないんだ……俺は……!」 <何?> レイの体から光が溢れ出し刀身へ流れ込んで行く。 <お前……!> <そうだよユウ……それが君の本当の力だ……解き放ってごらん。大丈夫。これはあくまでも記憶だから> 光の中で彼は聖剣デュランダルを高く掲げる。 <聖なる剣デュランダル……我が命を贄としてお前の力を解き放つ!聖剣はいつの日も人々の希望の光……この剣をもって闇を滅さんっ!> 「究極聖剣術……パージ・サクリファイス!」 白い聖なる浄化の光がオルダークを包み込んでいく。 <ぐああああ!> 光の中でオルダークは消滅した。 「……あ……」 同時にレイの手から剣が滑り落ちる。そして虚しい音を立てた。 「……おれ……は……」 レイがその瞳を閉じたとき、ユウの意識も闇に呑まれた―― ―― 「ここは……俺は生きてる?」 ユウは確かめるように頬をつねってみる。痛かった。 「そうか……あくまで記憶、だもんね。現実には何も影響はないってことか」 ユウはそう言うと体を起こし、ゆっくりと立ち上がる。 「一面の鏡……」 ユウが目を覚ました部屋は天井も壁も床も全て鏡で覆われた空間だった。 「鏡の間、ってとこかな。それよりも出口は――」 ユウが歩き出そうとしたその瞬間だった。 「っ!?」 影が馬の形をとり、ユウ目がけて突進してきたのだ。間一髪で彼はこれを避け、聖剣デュランダルを構えた。 「影の馬……ナイトメアってとこかな。それとも【悪夢】って言った方がいいのか……」 ナイトメアは再び突進の構えをとる。 「俺はここで消える訳にはいかない……来るなら来いっ!」 その声に答えるようにナイトメアは突進してくる。ユウはそれをかわすと壁に激突して動けなくなっているナイトメアに聖剣術を放つ。 (レイさん……少しだけあなたの力を……借ります) 「……光輝なる天空の炎……我が剣に宿りて敵を撃て!光雷波!」 白き雷が闇を貫く光となってナイトメアを直撃した。 「……俺の勝ちだ」 勝負はついた。核を貫かれたナイトメアは灰になって消えた。 パキン。 そのとき足下で鏡が割れる様な音がした。光の壁が消え、ユウは床に膝をつく。 目の前には粉々になった鏡が一枚と、まだ原型をとどめたままの鏡が数枚ほど。 「特殊結界……【過去鏡】……前世が現在を侵食する……」  きっと同じように、他の仲間も鏡に囚われてしまったのだろう。呟いた声は絶海塔の大広間の薄暗い闇の中へただ、溶けていった……
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